Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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044【「俺は飲まないので大丈夫」な~んて思ってません? ねぇ、そこの貴方!】肥満の人は要注意! 肝炎、肝硬変から肝細胞がんへ!「NASH(ナッシュ)」

目次:

    誰も知らなかった!? 飲まなくっても肝炎になる!

    とっても怖い!「異所性脂肪」

    今回の断言:それはもう「悪」そのものです!!

    デブキャラの芸人さんたちはプロ!

    最後に、肥満の方には厳しいことを言いましたが。。。

 

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私、大好きでした。90年代後半のアメリカの刑事ドラマ「刑事ナッシュ」(NASH BRIDGES)。

今は亡き野沢那智さんと青野武さんの掛け合い、もう最高!(笑)もはや芸術の域です😲

そんでもって、個性的な出演者たちの、とてもデカとは思えないファッション(そんなド派手な服で尾行すんなっ、つうの)と、会話がこれまた最高にオシャレ!!

でも、このシリーズ、日本では受けが悪かったのか、どこのツ○ヤさんにも置いてないんですね~。私やカミさんみたいなヘビーな愛好家がおるっちゅうのに。。。

カミさんは「なんでやッ!?」て怒ってました。

「置いてるとこ探して来い!」って、んな無体な(泣)

でも、最近CSNASH観ることができたので、やっとお怒りを鎮めてくれました(笑)

 

今回はNASHについて語ります。

 

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過去ブログで、具体的な病気としては、ガンと糖尿病を取り上げて来ましたが、別の病気のお話もしましょう。

 

    誰も知らなかった!? 飲まなくっても肝炎になる!

 

1970年代後半に、アルコールの多飲歴が無いにも関わらず、アルコール性肝障害によく似た「非アルコール性脂肪性肝疾患」(non-alcoholic fatty liver disease ; NAFLD)の存在が認められました。

さらにその中から、アルコール性肝炎に似た病態に進展する例のあることも見出されました。

1980年に、アメリカのLudwigらは、これを「非アルコール性脂肪性肝炎」(non-alcoholic steatohepatitis ; NASH)と名付けました。

 

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NASHの肝臓組織の所見 

 

当時、アルコール性肝障害と違って、NAFLDは深刻な病態につながるとは考えられておらず、結構、軽く見られていました。

ところがギッチョン、その後、NAFLDの約2割が10年間のうちにNASHを経て肝硬変になり、更にその一部が肝細胞がんに移行することが分かったじゃあ~りませんか!!(チャーリー浜調)

でも、この重大な事実に気づいていたのはごく一部の人だけで、NAFLDNASHは、「肥満人口の急増」を背景に突如出現した病気であるがために、新しい疾患概念として広く認識されるようになるまでには、なな、なんと20年近くもかかったのです。

 

肝硬変とは。

肝臓組織が肝炎ウイルスや長期の多量飲酒などによってダメージを受けると、これを再生・修復しようと肝細胞が頑張ります。

頑張りすぎて逆効果! コラーゲン繊維を作りすぎた結果、組織が線維化を起こして硬くなります。

線維化した肝組織は機能せず、元には戻りません。

 

わが国のNASHの患者数は、100万~300万人と推定されていますが、この数字にはずい分と幅がありますよねぇ。

つまり、正確には把握できていないということですな。

実は、もっと多いかもしれません。

これはエライこっちゃと、日本肝臓学会は、「NASHNAFLDガイド2010」を発表し、肝がん対策におけるNAFLD及びNASHのケアの重要性を訴えました。

 

    とっても怖い!「異所性脂肪」

 

NASH発症のメカニズムについては、よく解っていませんが、「ツーヒット理論」(two hit theory)ちゅうもんが提唱されています。

 

私、この理論の説明、読んでもよう解らんのですが(何で2つのヒットに明確に分けなあかんのかが解らん!)、一応書いておくと、糖尿病、肥満、高脂血症などのインスリン抵抗性(インスリンは出てはいるのだが、効き目が悪い状態)によって異所性脂肪(皮下脂肪、内臓脂肪とは異なる第3の脂肪)が肝臓に蓄積し、脂肪肝となる(どうやら、これが第一のヒットらしいわ)。

ほんでから、炎症性サイトカイン、脂質過酸化/鉄酸化などの酸化ストレスが加わってNASHを引き起こす(これが第二のヒットやてか?)、というものです。

解ります?

 

脂肪肝から肝炎という「段階」を経るというのは解りますが、多段階的な遺伝子変異が必須なガンなんかと違い、原因となる酸化ストレスやインスリン抵抗性やらを明確に2段階に分けられるとは思えへんのですがねぇ~。

こういった慢性疾患の原因と言うのは、多くの要因が複合的に絡み合っているものですが。。。

まっ、えっか!

 

そんな小難しい説明ではなく、簡単に言えば、NAFLDを引き起こすひとつの重要な原因は「慢性炎症」であり、更には「肥満」が、その「慢性炎症」を引き起こす重要なリスクファクターであるということ。

どうです? 分かりやすいでしょ?

 

脂肪の主な貯蔵場所は脂肪細胞からなる脂肪組織ですが、肥満においては、しばしば脂肪組織以外の組織への脂肪の蓄積が見られます。

これがメチャンコ危険な「異所性脂肪」であり、それが肝臓に蓄積した結果がNAFLDであると言えます。

NAFLDは、肥満の他、2型糖尿病を併発することが多く、とっても危険なのです。

 

    今回の断言:それはもう「悪」そのものです!!

 

脂肪を蓄積させた脂肪細胞はロクなことを致しません。

003【健康に過ごすための”正しい食事7ヶ条”その1 】 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

022【慢性炎症】「ほとんどすべての病気に共通した本当の原因とは?」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインのひとつ「レプチン」は、正常な状態では食欲を抑え、インスリン感受性を高める働きを持つため、肥満や糖尿病の特効薬になるのではないかと期待された時期がありました。(1990年代後半のことだったと思います。記憶が確かなら。。。)

ところがギッチョンチョン、肥満ではこのレプチンの分泌が低下しているだけでなく、何の恨みをかったのか、視床下部におけるレプチンの感受性までが妨げられているようなのです。つまり、レプチンがあっても効かない!と言うことです。

これでは、レプチンを薬として投与する意味がありません。

この「レプチン抵抗性」(レプチンが効かない状態)のために、NASH患者では肝臓の線維化(肝硬変)が促進されるとの論文があります。

そして、肝硬変の行きつく先は? 肝細胞がんです。

 

NASHに対する決定的な治療薬は、残念ながらまだありません。

薬がないから絶望的かと言うとそうではありません。

国と糖尿病学会が「既存の糖尿病治療薬よりも生活習慣の改善の方が有効」と認めたように、まずはNAFLDNASHにならないように、なってからでも、病状の進行を防ぐために、生活習慣を見直すことが重要です。

031【ついに国と糖尿病学会が認めた!「糖尿病治療薬は役に立たない!!」】糖尿病(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

そこで断言します!(今回の断言!)

肥満はあらゆる病気をもたらす病気の中の病気です!

単なる栄養過多の状態では決して御座いません!!

 

何っ!?

肥満で、大飯食らいで、甘いもん好きで、運動嫌いで、大酒飲みやって!?

断言しよう!!(今回の断言2回目!)

それはもう「悪」そのものです!!  暗黒面に堕ちたも同じ!!

アナキンと罵られようが、ダミアン(古っ!)と唾棄されようが、弁解の余地なし!!

(おォッ!奇しくも今日6月6日はダミアンのお誕生日じゃあ~りませんか❤ Happy Birthday, Damian🎶  666 あんなにちっちゃかったけど、いくつになったのかな? キリストはやっつけることができたのかな?(冗談ですよ))

 

    デブキャラの芸人さんたちはプロ!

 

デブキャラの芸人さん達。

彼らは、自らの命を縮めてまでも芸の道を究めんとする求道者です。

でも私たちは、彼らと違って、デブで飯食ってる訳じゃありません。

(実際には、飯食ってデブになっている訳ですが。。。順序逆にすると全然意味違います)(笑)

 

メタボリックシンドロームの予防のためには、過食を控え、適度な運動による肥満防止が何より重要なのです!!

それと、腸内環境を整え、「デブ菌」をのさばらせないことです。それにはやっぱり、食事と運動ですよ~。

 

    最後に

 

今回、肥満の方には厳しい言葉となってしまいましたが、健康寿命の延長と医療費の削減を実現するには、まずは肥満防止からです。

隠れた病気の原因を見つけて予防に努めるのは難しいですが、「万病の元」肥満は誰の目にも見えますから。

隠れ肥満」(痩せの2型糖尿病とか)ってのもあって、これはこれで問題なのですが、まずは見えているところには手を打ちましょう

これが今回、私が申し上げたかったことだとご理解頂ければ幸いです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

043【そもそも健康とは何か? 病気とは? なぜ病気になるのか?】

今回は、とてつもなくデカい人類永遠のテーマについて、改めて考え直してみましょう。

 

目次:

    「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」

    じゃあ、病気って何?

    ホメオスタシス(恒常性の維持)とは

    3つの系のバランスを保つには?

 

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    「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」

 

単純に考えれば、「病気」とは「健康でない状態」なので、病気の定義について考えるのに、まず健康の定義を調べてみました。

 

「健康」の定義のゴールデン・スタンダードとも言うべき、世界保健機関WHO)の有名な定義によると、「健康とは、完全に、身体的、精神的及び社会的に安寧(あんねい)な状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」です。

「身体的」と「精神的」というのは理解できますよ。

でもね、この「社会的」というのが私には馴染まない。

 

「社会的」というのは、職場や家庭の環境に恵まれて良好な人間関係が築けているとか、経済的にも不安なく、物質的にも満たされている状態なんかを含むのだそうです。

私に言わせれば「えェ~!? そんなんあり得んし、無意味!!」と断言します!(今回は早くも出ました「本日の断言!」(笑))

 

このWHOの定義は、世界中の貧困にあえぐ多くの人たちをも救わんと言う崇高な理念に基づいているのでしょうが、あまりに崇高過ぎて現実味を感じませんし、返って「絵に描いた餅」化しているように思います。

それに、経済的、物質的に満たされていることが健康の必須条件でしょうか?

 

私が子供だった昭和の時代に比べると、現在では、あまりにも物質的に満たされ過ぎているがために、社会構造の変化のみならず、我々の価値観までをも変えてしまったような気がします。

私が子供のころは、食べたいもの、欲しいものが簡単に手に入った訳ではなく、それなので、我慢することを覚えさせられました。

それだけに、たまに食べた御馳走がこの上なく美味しく、欲しかったオモチャを買ってもらったときには、世界一の幸せ者のような幸福感を感じたものです(笑)

 

でも、今の時代は物質的に満たされ過ぎており、欲しいものが簡単に手に入る分、忍耐力を身に付ける必要がなく、幸福感や感激を感じることも少なくなったような気がします。

これが果たして本当の「健康」と言えるのか?

 

WHOの「健康」の定義。もはや無意味なので変えちゃって下さい(笑)

 

財の無い私ですが、「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」でありたい。

「ボロは着てても心の錦」とチーターが唄った様に。。。

 

    じゃあ、病気って何?

 

病気とは「健康でない状態」。なので、「健康」とは何かを調べようとしたのですが、上述の通り、結局よく分かりません。

少なくとも、ネット上に溢れている「健康」についての記述の多くが、私の考えに馴染みません。

そうなると、世間一般の「健康」の定義に頼らずに、「病気とは何か」を考えざるを得ません。

 

またもやネットで「病気」について調べると、「体や心に生理的な不具合が生じた状態」、簡単にまとめると、だいたいこんなとこでしょうか?

まぁ、当たり前ですね。

でも、生理的な不具合ってすごく曖昧です。

具体的にはどういうことか?って問いに明快に答えるとすれば、なんと言えばいいでしょうか?

 

    ホメオスタシス(恒常性の維持)とは

 

私たちの体には、状態を常に一定に保とうとする仕組みが備わっています。

例えば、夏でも冬でも、体温を一定に持とうとします。

正常な状態では、血液検査の数値なんかは大体一定です。

一例としては、食事の後、急激に血糖値が上がると具合が悪い(食後に急激に血糖値が上昇する「血糖値スパイク」というのが今問題になっています)ので、必要に応じてインスリンが働き、血糖値をできるだけ一定に保とうとします。

逆にエネルギーが不足がちになると、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを使います。

 

このような体の働きをホメオスタシス(恒常性の維持)」と言います。

「恒」も「常」も、「つね」ですね。

「つね」に「つね」の状態を保つこと、これがホメオスタシスです。

 

では、このホメオスタシスがどのようにして機能するかと言うと、それは私たちの体に備わった、大切な3つの「系」、即ち、「免疫系」、「神経系」、「内分泌系」の働きによります。

 

免疫系については、このブログで何度もお話してきました。

神経系は、交感神経と副交感神経のバランスとリズムによって、体の状態を維持します。

内分泌系とは、言い換えると「ホルモンの系」です。

インスリンもホルモンの一種であり、ホルモンであるインスリンが血糖値の維持に重要なことは、上述した通りです。

 

何らかの原因で、この3つの系のバランスが崩れた時に、「生理的な不具合」が生じます。

 

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この3つの系のバランスが崩れたことによる「生理的な不具合」。これが病気の状態であると私は定義しています。

(注:あくまでもこれは「私の」病気の定義であって、他の人はまた違う定義を持っていることでしょう)

 

このように定義することにより、病気になる理由や原因を理解することができるようになります。

それらが理解できると、今度は、病気を防ぐ工夫や、健康を維持する心がけをすることに役立ちます。

 

    3つの系のバランスを保つには?

 

この3つの系は互いに影響しあって、恒常性を維持しています。

どれかひとつが不調に陥ることで、他の2つの系にも影響が及び、その結果としてホメオスタシスが崩れて「病気」になると言えます。

私は「神経系」と「内分泌系」については詳しくありませんので、免疫系にフォーカスしてお話します。

 

免疫系に影響を及ぼす重要なものに細菌叢があります。

この細菌叢には、腸内細菌叢はもちろん、口腔内細菌叢や皮膚細菌叢なども含みます。

この細菌叢と免疫系も互いに影響し合ってバランスを保っています。

どちらかが不調になると、もう一方にも影響を与えます。

さらに、免疫系や細菌叢の不調は、様々な病気の原因となる慢性炎症を引き起こし、さらに慢性炎症が免疫系と細菌叢のバランスを崩すという悪循環に陥ります。

 

細菌叢の大切さ、慢性炎症の恐ろしさ、そして免疫系の調子を保つ具体的な方法については、過去ブログで何度も繰り返しお話してきましたので、ここでは控えます。

 

神経系のバランスとリズムを保つには、規則正しい生活、質の高い休息、ストレスマネジメントが重要です。

 

内分泌系については、私はよく分かりません。

成書などをご参照ください。

 

この3つの系のバランスの維持に重要で、効果の高いのが「運動」です。

近年、このことを示す科学的根拠が多く得られています。

 

この3つの系のどこからでも身体の不調を来たし、ホメオスタシスが破たんして、病気になり得るのだということを覚えておいて頂ければ、皆さんの健康維持のお役に立つと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

号外【がん遺伝子発見物語(番外編)】がん原遺伝子くんの言い分「ボクはガンを引き起こす遺伝子じゃない!!」

【041】、【042】と2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」は、大変ご好評を頂き、私も驚いています。

お読み頂いた皆様、本当にありがとう御座います。

 

これに気を良くして、「がん遺伝子発見物語」の「番外編」をお送りします。

今回もよろしくお願いします。

 

目次:

①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

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①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

 

2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」。

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

また、それ以前の記事でも、ガンになる仕組みとして、がん原遺伝子とがん抑制遺伝子の変異・異常が大きく関与していることをお話してきました。

034【どのようにして細胞に遺伝子の変異が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

多くのがん細胞で、「がん原遺伝子」、「がん抑制遺伝子」、「DNA修復遺伝子」に変異があります。

これらの遺伝子の機能異常によりガンが引き起こされることに疑いの余地はありません。

 

それにしても「がん原遺伝子」と言うのはおかしなネーミングです。

元々は細胞増殖の制御に関わる「まともな」遺伝子です。

なのに、本来の機能を表現した名前ではなく、ガンとの関連を強く示唆するような名前になっていることに、私は昔から違和感を覚えてきました。

 

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

 

「がん遺伝子発見物語」をお読み下さった読者の方は、がん遺伝子とがん原遺伝子発見の経緯についてはご存知ですね。

src遺伝子は、まさにガンを引き起こす遺伝子としてラウス肉腫ウイルスから発見されました。

「がん遺伝子」と名付けられて当然です。

 

しかし、がん原遺伝子は、当時はまだどんな働きがあるのかも分からず、ただ単に、がん遺伝子であるsrcに似た遺伝子として発見されただけです。(「だけ」なんて言うと、ビショップ先生とヴァ―マス先生に怒られますが。。。)

で、後になって、やはりビショップとヴァーマスが、これが変異するとがん遺伝子に豹変するのだと解明したのです。

なので、がん遺伝子(oncogene)の原型(プロトタイプ)であるとして、がん原遺伝子(proto-oncogene)と名付けられた、というか、話の流れ的に、発見の経緯的に、そう名付けざるを得なかったのですね。

ちなみに名付け親はビショップです。

 

もっと、遺伝子の機能とかが解ってから名付けていれば、こんなへんちくりんな名前じゃなく、その機能に見合ったふさわしい名前を得たはずです。

可哀そうながん原遺伝子くん。

 

さて、「だけ」なんて無礼なことを言ってしまいましたが、ビショップとヴァーマスの業績は、ガンが遺伝子の異常による病気であることを決定づけ、発がんメカニズムへの深い理解と、それらの知見に基づいた新たな診断方法、新たな治療薬の開発につながりました。

がんの分子標的薬などは、まさにこのような多くの科学的な知見の積み重ねがあってこそ生まれてきたものです。

これらのことは全て、ビショップとヴァーマスの業績があったればこそです。

 

ビショップは、自身の業績についてこう評しています。

「がん解明に向けて、人類はついに確かな手掛かりを得ました。この発見を糸口として、がんという致命的な病気の秘密もいずれ明らかにされるでしょう。(中略)がん征服はもはや夢物語ではありません。生物医学に30年もたずさわって来て、初めてそう信じるに至りました」

 

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

「名は体を表す」と言いますが、「がん原遺伝子」という呼び名は如何にも誤解を生みます。

全然、体を表していません。

 

おかげで私は、がん原遺伝子の説明をするときに、いちいち、「いや、別にこの遺伝子がガンを引き起こすわけではありませんよ。本来の機能は、、、」と、がん原遺伝子くんの弁護から始めるのが常です。

正直、めんどくさいです。

名付けた研究者たちも、きっと同じ思いをしてきたはずです。

「いちいちめんどくさい。別の名前にすりゃあよかった」と(笑)

 

実際、研究者たちも「がん原遺伝子」と言う言葉を使うことはほとんどありません。(少なくとも私はほとんど聞いたことがありありません)

なんと、日本語版ウィキペディアには「がん原遺伝子」という項目はありません。

生物学史上の重大発見にもかかわらずです!

ウィキでは、「がん遺伝子」の項目の中で、がん遺伝子について説明するために、必要に迫られて「がん原遺伝子」について触れているみたいな体(てい)です。

(しかも間違ってるし。。。)

がん遺伝子 - Wikipedia

何たる不当な扱い!

 

実際には、多くの研究者が「細胞増殖調節遺伝子」とか、その他、より本来の機能を表すような呼称を便宜的に使っていることが多いようです。

それはやはり、「がん原遺伝子」と言う名称を使うことで、ひとに誤解を与えることを恐れてのことではないでしょうか。

 

断言します!

もはや「がん原遺伝子」という名称は無意味です!

 

「がん原遺伝子は、がん遺伝子の元になる遺伝子」ではなく、「細胞増殖を制御するある種の遺伝子が変異を起こすことによって、時にがん化の原因になる」という正しい理解を得られるよう、是非、今からでも名前変えちゃって下さい。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

号外補足【なぜ白血病は「がん」扱いされないのか?】考えると夜も眠れない(笑)

目次:

1.辞典で用語の定義を調べてみたら・・・

2.白血病をガン扱いしない理由とは!?

3.断言:白血病もリンパ腫もガンだよ~ 当たり前だろ~?

 

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若い方はご存じない? 春日三球・照代師匠。

あなた、地下鉄はどこから入れるか分かります?

考えてごらん。夜も眠れないから(笑)

 

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前回の【号外】で、白血病もリンパ腫もガンなのに、あまり「がん」とは呼ばれないようだと言いました。

そして私は、

「癌」+「肉腫」+(血液のがん)=がん(ガン)=悪性腫瘍

と説明しました。

 

いやぁ、「血液のがん」を括弧つきにしておいて正解でしたね。

 

いろいろ調べても、「ガンには癌腫と肉腫の2つに分類される」と書かれていることが多いです(それもお医者さんとかが書いてるんですよ!)。

私は「えッ? 血液ガンはどうしたの!?」って思うのですがねぇ。

なんでシカトすんのか分からん!

 

どう考えても、白血病もリンパ腫も、病理学的にも発症メカニズムの点からも、立派に「がん」です。

中には、白血病・リンパ腫を「液性ガン」という分類にして、ガンとして扱っている人もいますが、「液性ガン」という言葉はあまり一般的ではありませんね。

 

医学会には、昔からの習慣というか、伝統というのか、適切ではないと分かっていながら、皆使い続けてる、みたいなことがよくあります。

白血病も立派なガンでありながら、あまり「がん」という言葉が使われないのは、その辺の習慣的なものによるのではないかと思うのです。

そこで、、、

 

1.辞典で用語の定義を調べてみたら・・・

 

なぜ「がん」は「癌腫」と「肉腫」の二つであって、血液がんはシカトされるのか?

前回の号外の記事を書いた後、ず~っと考えてました。(夜も眠れないほどじゃないですよ)

 

「がん」はすべての悪性腫瘍の総称であって、そのうち、上皮組織にできるものが「癌(腫)」です。

実は昔は、今で言う「がん」、つまり悪性腫瘍全体のことを「癌」と言っていました。

だから、「日本癌学会」なのです。(歴史と伝統ある学会なので、学会名を変えることはないでしょう)

「がん(ガン)」と「癌」の定義が現在のように変わったのは、ごく近年のことです。

このように病気の定義や分類や用語も、必要に応じて見直され、学会などでの議論を経て変更されることがあります。

 

白血病がガンと呼ばれないのには、医学会の歴史的な事情があるように思います。

そこで、埃をかぶった古い医学事典を引っ張り出してきて、調べてみました。

昔の定義はどうだったのかと。。。(ゲホッ、ゲホッ。スゲー埃)

 

南山堂「医学大辞典」(第16版、1978年初発行)によると、「腫瘍」(tumor)とは、「身体の細胞あるいは組織が自律的に過剰増殖したものと定義される」とあります。

「見ろッ! 白血病も細胞の自律的な過剰増殖じゃないかッ! 立派なガンだろッ!」

 

同じく同辞典から、「白血病」とは、「造血組織の原発腫瘍性疾患で、流血中に病的な幼弱血球(白血病細胞)が出現し・・・(後略)」とある。

「見ろ、見ろ!! 『腫瘍性疾患』って書いてあるし!!」

 

このように、昔の定義では白血病腫瘍であり、それが悪性であれば、まぎれもなく「がん」です。

 

じゃぁ、今の定義ではどうなのか? ズバリ最新版だと思われるウェブの「デジタル大辞林」で調べてみました。

「腫瘍」とは、「身体の一部の組織や細胞が、病的に増殖したもの。ほとんどの場合、増殖した細胞が腫れものをつくるが、白血病のように塊をつくらないものもある。筋腫脂肪腫などの良性腫瘍と、癌腫 肉腫などの悪性腫瘍とがある」です。

 

なんと、これによれば、今でも白血病腫瘍であると、明記されているじゃぁあ~りませんか。

 

でも、この短い文章をよく読むと、いろいろと血液がんがガンとは認められない理由がいくつか書き散りばめられていることに気が付きます。

 

まず、「癌腫 肉腫などの悪性腫瘍とがある」とあります。

血液がんは癌腫でも肉腫でもありません。

そのどちらでもない血液がんは、やはりガンではないと示唆するものです。

 

また、腫瘍の重要な特徴として、「ほとんどの場合」と断りながらも、「腫れもの」という言葉があります。

血液がんでは腫れものはできないことが多いですからねぇ。

(リンパ腫では、リンパ節が腫れることがあります)

 

ただし、「癌腫 (がんしゅ) 肉腫など」の「など」を付けているところがミソですねぇ。

癌腫と肉腫以外にも「血液のガンもありますよ」なんて、暗に言ってるつもりかもしれません。

 

つまり、この辞典の文章は、血液がんはガンであるとも捉えられるし、ガンではないようにも、どちらにでも解釈できるような、ダブル・ミーニングな説明です。

 

「こんな曖昧な定義しか示せなくって、『辞典』だとか言ってんじゃねぇ!!」(怒)

 

つまり、どこを見ても、何を調べても、血液のガンは腫瘍と言えるような、言えないような、そんな歯切れの悪い記述しかないのですよねぇ。

なんでこうなの?

 

2.白血病をガン扱いしない理由とは!?

 

その他、ネットで色々と調べました。

その結果、まとめると以下のような背景があって、それがあまり白血病をガン扱いしない事情ではないかとの結論に至ったのです。

 

Tumorは日本語の「腫瘍」に当たる言葉ですが、元々は、ラテン語「腫れたもの」という意味だそうです。

つまり、腫脹した塊ですね。

 

がん遺伝子は英語でoncogene。

Oncoは「がん」。Geneは「遺伝子」。

このonco、ギリシャ語で「塊」を意味するそうです。

 

また、日本では、江戸時代にはガンのことを「いわ」と言いました。

やはり硬いしこりを岩に例えたのでしょう。

 

つまり、昔からガンについては、硬い「塊」を作ることが大きな特徴でした。

このガンに対する「塊」のイメージが、今でも大きな影響を残しているようです。

 

白血病など、血液のガンの多くでは塊を造りません。

この固まらないところに、「がん」と呼ぶのをためらわせるものがあるのではないか?

そういう風に思うに至ったのです。

 

ちなみに、がん細胞が塊を造るかどうかの違いは、「細胞接着因子」という、細胞同士がくっつくために必要なたんぱく質の違いにあります。

固形ガンと血液ガンの最大の違いのひとつはそこです。

 

3.断言:白血病もリンパ腫もガンだよ~ 当たり前だろ~?

 

「がん」にまつわる用語について、いろいろと調べてきましたが、結局のところ、実際かなりテキトーで、ころころ変わりもするものなのですねぇ~。

反対に、医学的におかしいことが分かっていながら、修正せず、昔の定義を踏襲し続けることも多いのですね~。

 

結局、白血病もリンパ腫もガン。断言できます!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

また、今回の記事は、医師でもない私が素朴に思った疑問について独自に調べた結果です。

お医者様や医療関係者、その他専門家の皆様、もし記述に間違いがありましたら、ご指摘をお願い致します。

また、是非正しい答えをお教え頂きたいと思います。

 

 

 

号外【「がん」と「ガン」と「癌」 違いは??】

プチ知識:

    「がん」と「ガン」と「癌」。違い分かります?

    なんで「蟹」なの?

 

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    「がん」と「ガン」と「癌」。違い分かります?

 

「がん」と「ガン」と「癌」。それから「悪性腫瘍」。

違い分かります?

 

「がん」と「ガン」は同じです。別にどちらを使っても構いません。

私は、ひらがなの方をよく使いますが、「がんががんがん増える」なんて書くと意味分かんないでしょ? そんなときは「ガンがガンガン増える」って書きます。

 

「悪性腫瘍」は? 「がん」と同じと考えて差し支えありません。

「がん(ガン)」は全ての悪性腫瘍の総称です。

なので、良性腫瘍はガンには含まれません。

 

じゃあ「癌」は?

 

「がん」は二つに分けられます。

上皮組織にできる「癌」と骨・神経・筋組織にできる「肉腫」です。

二つ合わせて「がん(ガン)」です。

 

上皮組織にできるガン(癌)とは、内臓にできるガンと考えていいと思います。

肺がん、胃がん、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん、エトセトラ、エトセトラ。みんな「癌」です。

 

サインはV」のジュン・サンダースがかかったことで一躍知名度を上げた「骨肉腫」。

当時、私みたいな小学生でも知らない子はいませんでしたね〜(知らない? それは貴方が若いということです(^^))

肉腫なので、「がん」ではありますが、「癌」ではありませんので、お間違えなきよう。

(ジュンが骨肉腫で死んだ時には泣きましたね〜。范文雀さんだったですよ、多分。違う?)

 

あっ、それから、白血病とかリンパ腫とか、「血液のがん」もありますよね? これはどうなの?

なぜだか知りませんが、血液のがんは、あんまり「がん」とは言わないですね。

でも、ガンですよね。

ガンは全ての悪性腫瘍の総称ですから、血液のガンも「がん」のはずですが。。。

 

こんがらがって来ました?

 

つまり、まとめるとこんな感じかな?

癌+肉腫+(血液のガン)=がん(ガン)=悪性腫瘍

 

あっ、それから「悪性新生物」なんて言葉もありますね。

Malignant neoplasiaまたはMalignant neoplasmの訳語ですが、これもイコールがんです。

生命保険なんかではよく使われますね、この言葉。

それから厚労省の統計データでもこの用語が使われていますが、他ではあんまり見ないですね〜。

実際、言いにくいし、使いにくいですよね。

業界用語のようなものでしょうか?

 

と言うことなので、「国立癌センター」というのはなくって、「国立がんセンター」といいます。

だって、「癌センター」だったら、「ウチは肉腫や白血病はお断り」と門前払いを食わされます(笑)

 

でも、「日本癌学会」は「日本がん学会」ではないのですね。

これには歴史ある当学会の事情があるようです。

あえて変ないことで、歴史の重みと威厳を感じさせます。

「日本がん学会」じゃチャラくないですか?(笑)

 

あと、お医者さんはカルチ(Carcinoma)とかチューモア(Tumor)とか言いますね。

どちらも論文なんかでよく使われます。

どう違うの⁇

ひとつの論文の中で、時にcancerと言ったり、時にtumorと書いたり、Carcinomaを使ったり、一体どう使い分けてるのか分かんないことも多いです。

かく言う私も、「ここはcancerだろ」、「ここは絶対tumorだ」ってな具合に書き分けてましたが、別に確たる根拠も理由も御座いません。

つまり、3つともほとんど同義だと思います。(違う?)

 

まあ、こんな風に、みんな結構テキトーですよ。

 

だいたい、医学用語として、「がん」に関わるこれらの言葉の定義は、そんなに厳密ではありません。

 

とりあえず、「がん(ガン)」と書いておけば、間違いないですね。

 

それから、テレビドラマ「仁」では、乳がんのことを「ちちのいわ」と言ってました。

ネットで調べたら、「乳岩」転じて「乳癌」になったとか。

なるほどねぇ~~。

 

    なんで「蟹」なの?

 

ガンは英語でCancer、ドイツ語でKrebs。どちらもカニです。

なんでカニなのか? 私、知りません。

ネットで調べたら、ガンを最初にカニに例えたのは、古代ギリシャの医学の祖、ヒポクラテスだとか。。。

で、なんでカニなの、ヒポちゃん?

 

以前、日本癌学会のロゴマークには、リアルな蟹の絵があしらわれていました。

たぶん、ワタリガニです。ちがう?

どうも最近、ロゴマーク変わったようです。

新しいロゴマーク、やはりカニのハサミと蟹座をモチーフにしているそうですが、知らなければピンときませんね。

 

日本癌学会 ロゴマーク(サンプル)

日本癌学会のHPから拝借 ニュー・シンボル・ロゴマーク

 

前のロゴマークの方が歴史と伝統と権威が感じられてよかったです(^^)

 

以上、ガンの用語にまつわるプチ知識でした。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

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042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8)

目次:

①    ラウスの本当の偉大さ

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

③    「逆があった!」

④    がん原遺伝子の発見!

⑤    偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

前回【041】は、お陰様で好評です。

この続編で皆様のご期待に応えられるのか、すっごく不安なんですけど。。。(笑)

 

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①    ラウスの本当の偉大さ

 

半世紀もの時を経て、「道化師」から歴史に名を刻む「偉大な科学者」となったフランシス・ペイトン・ラウス。

 

ラウスが「道化」でないことを証明したのは米国のハワード・マーティン・テミンです。

テミンは、これをきっかけにラウス肉腫ウイルスの研究に没頭していきます。

また、このことが、「絶対」だと信じられていた生物学の「中心教義」を覆すような偉大な発見につながっていきます。

 

ラウスの業績は、テミンをはじめ、後に多くのノーベル賞受賞者を芋づる式に輩出することとなります。

つまりラウスは、がん遺伝子研究という大本流の源泉となったのです。彼の方が近代生命科学に与えた影響は計り知れません。

 

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

 

20世紀の生物学史上、最大の発見と言われるDNAの二重らせん構造モデル。

1953年に、ワトソンとクリックによってこのモデルが提唱される以前は、まだDNAが遺伝子の本体であるということは明らかではありませんでした。

驚くことに、タンパク質こそが遺伝子だと考える研究者の方が多く、ワトソンとクリックのように、DNAが遺伝子だと見ていた研究者の方がむしろ少数派でした。

 

その後、クリックは、遺伝暗号であるDNAの塩基配列の謎を次々と解明していきました。

それらの研究を重ねる中で、彼にはある確信が芽生えていたのです。

生命現象の中心的な教義とも言える絶対法則です。

 

DNAにはタンパク質のアミノ酸配列の情報が、4種類の塩基の並びの組み合わせで記録されています。

酵素がその配列を読み取り、一旦、DNAの配列をRNA、正確にはメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取ります。

mRNAの配列は、正確にDNAの配列情報を写し取っています。

このmRNAの配列が更に読み取られて、タンパク質が作られます。

 

「DNA ⇒ mRNA ⇒ タンパク質」

1958年、フランシス・クリックは、この流れは絶対的な「中心教義(セントラル・ドグマ)」であると提唱しました。

この逆はあり得ないと!

多くの研究者がこの考えを受け入れました。

まぁ、偉大なクリックの言うことでもあるし。。。彼と面と向かって議論するのはしちめんど臭いし。。。(笑)

 

③    「逆があった!」

 

ラウス肉腫ウイルスはRNAウイルスです。

RNAウイルスが細胞に感染した後、どのように振る舞うのかというと、セントラル・ドグマに従えば、ウイルスのRNAから直接タンパク質が読み取られることになります。

 

RNAはDNAに比べると、細胞内ではずっと不安定です。

そして、がんウイルスが感染したからと言って、細胞がガン化するには、それなりの時間が必要です。

そんな長い間、ウイルスのRNAが細胞内で安定して活動を続けられるというのは、少し不自然なようにも思えます。

 

「ウイルスのRNAからDNAができていると考える方が自然じゃないのか?」

テミンは1964年頃から、そのようなことを考えていたようです。

しかし、そんなこと、うかつに大っぴらには言えません。

今度は自分が「道化師」になってしまいます。

 

1970年、テミンは日本人研究者・水谷哲とともに、ラウス肉腫ウイルスがもつ、常識はずれの酵素を発見します。

DNAからmRNAが写し取られることを「転写」と言いますが、なんと、テミンと水谷はウイルスのRNAから塩基配列を写し取ってDNAに逆に転写する酵素を発見したのです。

 

Dr. Howard Martin Temin(1934年 12月10日 - 1994年 2月9日)

 

テミンの洞察力は正しかったのですね。

賢明にも彼は、道化にならずに済みました。

 

こうして「セントラル・ドグマ」は崩れました!

生物学の教科書を書き換えなければなりません。

しかし、偉大な、あの「フランシス・クリックが間違っていた」と書き直さなければならないのですから、教科書の編集者には気の重かったことでしょう(笑)

 

そんな話はいいとして、この「逆転写酵素を利用することにより、不安定で扱いにくいRNAを安定なDNAに転換できるようになりました。

この逆転写の技術によって、その後のRNA研究は飛躍的に進歩することになったのです。

特に、RNAウイルスであるHIVC型肝炎ウイルスの研究に、この逆転写酵素は多大な貢献をしたのです。

私も逆転写酵素さまには大変お世話になりました(笑)

テミン先生、ありがとうございます😊

 

1975年、テミンは「逆転写酵素発見」の業績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞します。

因みに、ほとんどの実験を行ったのは水谷でしたが、彼は受賞を逃しました。

やはり、大事なのは、固定観念にとらわれない着想なのですね。

 

④     がん原遺伝子の発見

 

史上初めて発見されたがん遺伝子、ラウス肉腫ウイルスのsrc遺伝子。

Srcタンパク質の構造

 

1979年、前編でも触れた米国のジョン・マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスは、ニワトリのゲノム、すなわち、ニワトリ自身の細胞の中に、このsrc遺伝子の配列に非常によく似たものを見つけました。

なんで、細胞のゲノムにウイルスのがん遺伝子が存在するのか?

 

そうなると当然、「じゃあ、ヒトはどうなのか?」となります。

果たして、我々ヒトの細胞にもsrcによく似た配列の遺伝子が見つかったのです。

 

ウイルスのがん遺伝子に酷似した遺伝子!

なんでこんな危険なもんを我々は持ってなあかんのんや!?

当然の疑問です。

 

じゃあ、他の動物ではどうなのか?

調べてみると、出るわ出るわ!

脊椎動物から無脊椎動物に至るまで、ほとんどの動物が、当たり前のように、元からsrcを持っているじゃぁあ~りませんか!!

 

そして、この遺伝子が変異を起こすと、ラウス肉腫ウイルスのsrcのような発がん性を獲得するのだということが分かりました。

元々は細胞の増殖制御に重要な働きをしているのですが、一旦故障するとがん遺伝子となり、暴走を始める。

がん遺伝子の原型遺伝子ということで、我々の細胞が持つがん遺伝子に似たものは「がん原遺伝子」と呼ばれるようになったのです。

命名したのはビショップでした。

 

こういう訳で、src遺伝子は動物界に広く存在するありふれた遺伝子だったのです。

そして、かつてウイルスが宿主細胞からこの遺伝子を獲得して、独自の進化を果たした結果、がんウイルスになったのだということも分かりました。

これを証明したのは日本人研究者の花房秀三郎です。

 

つまり、がんウイルスなるものを生み出したのは、他ならぬ私たち自身だということです。

 

1989年、「ウイルスのがん遺伝子は細胞由来である」ことの発見で、ビショップとヴァーマスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

花房は受賞を逃しましたが、大きな貢献をしました。

 

⑤     偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

ラウス肉腫ウイルスにまつわる、これら偉大な業績の数々。

ラウスの人並み外れた洞察力にその源流があります。

 

近年ではiPS細胞。

誰からも「そんなことできる訳がない」と言われ、研究費の獲得に相当の苦労をされたと言いますが、山中先生の執念が実り、現在、医療への実用化に向けた努力が山中先生ご自身をはじめ、世界中の研究者によって進められています。

 

山中先生の着想を源流としたこの偉大な流れが、どういう成果を生み出すのか?

見守っていきたいと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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大変励みになります。

 

 

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早すぎた男」】がん(その7)

細胞増殖の制御に重要な働きをする「がん原遺伝子」

私たちが生きる上で無くてはならない重要な遺伝子です。

でも、これは変異を起こすことでガンを引き起こす「がん遺伝子」に豹変します。

がん原遺伝子は、私たちの細胞にとって、いわば、両刃の剣と言えます。

 

このがん遺伝子とがん原遺伝子の発見には、非常にドラマチックなストーリーがあり、私は色々と考えさせてくれるこの真実の物語が大好きなのです。

皆さんにも共感して頂けるかどうかは分からないのですが、今回と次回の2回に分けて、がん遺伝子発見物語語り部をさせて頂きます。

 

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天才的な才能よりも、常人にないような鋭い洞察力と直感力を持った人が偉大な発見・発明をすることが多いようです。

中には、あまりにも洞察力に優れ、あまりにも時代を先取りし過ぎていたがために、人から理解されず、評価されないばかりか、世の中の笑いものになった人すらいます。

 

ドイツ人のヴェーゲナーという気象学者。

ある時、世界地図を見ていて、北アメリカ大陸ヨーロッパ大陸南アメリカ大陸とアフリカ大陸とがジグソーパズルのピースのようにピッタリつながることに気が付きました。

1912年、よせばいいのに、彼はドイツの地質学会で「大陸移動説」を発表します。

これが、時代の先を行き過ぎた彼の悲劇の始まりです。

 

彼の優れた洞察力と直感に基づいたこの説には、ほとんど科学的根拠がありませんでした。

陸地の形が合うという状況証拠だけでは、大陸同士がつながっていたという証明にはなりません。

だいたい、これだけ大陸を移動させた、とてつもなく巨大なエネルギーの源について説明できる人なんて、当時は誰もいませんでした。

 

彼は、自分の説の正しさを証明しようと、残りの人生をかけて調査・研究に打ち込みました。

そんな彼を、人は変人扱いし、笑っていました。

 

1930年、ヴェーゲナーは地質調査先のグリーンランドで、50歳の若さで失意のうちに亡くなりました。

恐らく過労による心臓発作であったろうとウィキには書かれています。

 

当時、人類はまだ、彼の説を証明するだけの知識も科学技術も持ち合わせていませんでした。

しかし今では、この「大陸移動説」を疑う人は誰もいません。

 

何の話でしたっけ??

あぁ、がん遺伝子でしたね。

 

20世紀の中頃まで、ほとんどの人がガンと遺伝子との間に関係があるなんて、思いもしていませんでした。

今では、ガンが遺伝子の変異や異常によって引き起こされる病気であることは明白です。

ウイルスによってもガンになります。

このことに初めて気が付いたのは誰で、いつのことなのでしょう?

 

米国の病理学者のフランシス・ペイトン・ラウスという人。

彼はニワトリのガンについて研究していました。

ニワトリのサルコーマ(肉腫;筋肉や骨にできるガンです)の細胞の抽出液を別のニワトリに接種すると、やはりサルコーマになることを見出したのです。

その細胞の抽出液を素焼きの陶器で濾過してもガンになります。

ということは、ガンを引き起こすのは、陶器を通り抜けることのできる、細菌よりも小さなもの、ということになります。

 

1911年、奇しくもヴェーゲナーの「大陸移動説」発表の前年、ラウスは「ウイルス発がん説」を発表します。

ところがギッチョン、彼もまた世界中の研究者のもの笑いになってしまいました。

「ウイルスでガンやて? おまえはアホか!?」

しかし、ラウス先生は、腐ることなく病理学の分野で研究活動を続け、色々と大きな業績を上げられました。

 

「フランシス ラウス 画像」の画像検索結果

Francis Peyton Rous (1879-1970)

 

時は流れて1958年、米国のハワード・マーティン・テミン(1975年ノーベル生理学・医学賞受賞)という遺伝学者が、このウイルスが試験管内でニワトリの胎児の細胞をガン化することを発見しました。

「発見」というより、ラウスの発見の「再発見」というべきですね。

 

しかし、この時点ではウイルスのどういう働きによって宿主の細胞がガン化するのかまでは解明されていません。

そこで、多くの研究者が、このウイルスの遺伝子の機能解析の研究に殺到しました。

そして遂に、ニワトリの細胞をガン化する働きを持つウイルスの遺伝子が特定されたのです。

これが世界初の「がん遺伝子」の発見です。

ちなみに、初のがん遺伝子を発見したのは、後編で詳しく述べる米国のビショップとヴァーマスです。

 

皆から嘲笑を買い、忘れ去られていた「ウイルス発がん説」ですが、50年もの時を経て、こうして正しいことが証明されたのです。

 

このウイルスのがん遺伝子、ニワトリにサルコーマ(sarcoma)を発生させる遺伝子ということで、src(「サーク」と読みます)遺伝子と名付けられました。

 

また、これまで半世紀もの長きにわたって名無しの権兵衛だったこのウイルス。

生命科学に偉大な進歩をもたらしたウイルスが、このまま権兵衛という訳にはいきません。

このウイルス、50年も先を見通していた偉大な科学者に最大の敬意を表し、晴れて「ラウス肉腫ウイルス」命名されたのです。

 

1966年、ラウスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

87歳での受賞は、当時の最高齢記録です。

受賞対象の研究発表から55年というのは、現在でも最長記録です。

 

ラウスは、ノーベル賞受賞の4年後、1970年に亡くなっています。

ヴェーゲナーと違い、存命中にノーベル賞という科学者にとって最高の栄誉をもって賞賛されたラウス。

 

正しい仕事は必ず評価される。

ラウス先生は、なんか失敗したり、落ち込むことがあっても、己を信じることの大切さ教えてくれているように思えるのです。

 

次回予告:

ラウスの偉大な発見は、多くのノーベル賞受賞者を「芋づる式」に生み出しました。

ラウス肉腫ウイルスがニワトリ細胞をガン化させることを再発見したテミン。後年、彼はさらに、このRNAウイルスが、それまでの生物学の常識では考えられないような遺伝子を持っていることを発見します。

そしていよいよ、私たち自身の細胞の中に在る両刃の剣、「がん原遺伝子」の発見に至ります。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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039【がん細胞特異的に働く「分子標的薬」とは?】「がん(その5)」

目次:

① 抗がん剤は本来「毒」!

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってあるの?

③ 分子標的薬の具体例

④ 分子標的薬の最大の問題点

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

※ 筆者注:一般的に分子標的薬は、がん治療において、がん細胞の分子を標的にしたものを指すことが多いようです。しかし、がん以外の疾患、がん細胞以外の分子を標的にしたものも、分子標的薬に含めることもあります。本ブログ記事では、後者の立場にて書かせていただきます。

 

 

がんシリーズに戻らせて頂きます。第5弾です。

 

大幅に追記いたしました。オレンジ色の部分がそうです(2017.06.05)

 

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① 抗がん剤は本来「毒」!

 

ほとんどの医薬品には副作用があります。

薬に本来期待する作用を「主作用」、期待しない作用を「副作用」と言います。

 

薬については、主作用が現れる濃度が低くて、副作用が現れる濃度がそれよりもずっと高い場合は都合がいいです。

ところが、主作用と副作用の現れる濃度が近いと、これは問題です。

期待する効果を得るには、ある程度の副作用のリスクも覚悟しないといけないことになります。

そのような代表が抗がん剤でしょう。

 

抗がん剤に期待する主作用としては、当然、がん細胞を殺すことでしょう。

でも、多くの抗がん剤が、正常細胞をも殺す副作用が出て、患者さんはつらい思いをするのです。

 

なぜ抗がん剤には副作用の出るものが多いのか?

それは、抗がん剤が「抗がん」と言いながら、正常細胞をも殺す「毒」からです。

多くの抗がん剤は、増殖の盛んな細胞を殺すものであり、がん細胞だけを選んで殺す薬ではないということです。

つまり、「がん細胞特異的」ではありません

抗がん剤は、正常細胞の中でも増殖の盛んな毛根や小腸の上皮細胞、骨髄細胞なども殺します。

それで、脱毛や吐き気・下痢、骨髄抑制(白血球が減ります)などの副作用が現れるのです。

 

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってないの?

 

あります! 「分子標的薬」というのがそれです。

 

がんになる仕組みは、今ではかなり詳しく分かっています。

がん細胞では、色々な遺伝子の変異によって、タンパク質の働きが異常になり、細胞増殖の制御が破たんしています。

ですから、どのような遺伝子、どのようなタンパク質に異常があるのかを調べることによって、そのがん細胞の特徴を見つけ出すことができます

特徴が見つかれば、そこを特異的に攻撃するのです

これが「分子標的薬」の考え方です

 

いわば、従来の抗がん剤が、むやみに爆弾を投下するじゅうたん爆撃であるのに対して、分子標的薬は、ターゲットにロックオンしてピンポイント攻撃する「ミサイル療法」と例えられます。

 

これだと、理論的には正常細胞には影響が出ないはずです。

実際には、まったく副作用がないわけではありませんが、がんの性質や患者の体質によっては、非常に高い効果を上げることができます。

 

「がん 分子標的薬 画像」の画像検索結果

 

③ 分子標的薬の具体例

 

分子標的薬には、特定の分子(ほとんどの場合、タンパク質)に結合することで、その分子の働きを阻害するものが多いです。

分子標的薬には、特定の分子と特異的に結合する能力が必要ですが、「特異的な結合」というと、本ブログを熱心にお読み頂いている読者の方でしたら、何かを思いつくに違いありません。

そう、「抗体」です。

分子標的薬には、抗体を利用した「抗体医薬」が多いですね。

 

我々人類は、遺伝子工学と細胞工学の技術により、望みのタンパク質を大量に作り出す能力を得ました。

抗体というのは、B細胞という免疫細胞が作り出すタンパク質です。

ですから、B細胞から所望の抗体の遺伝子を取り出し、別の細胞に組み込みます。

 

さらに、人為的に遺伝子改変を加えて、自然界には存在しないような、自然の性能をさらに高めたり、性質を修正したタンパク質を作り出すこともできます。

 

でかいタンクで、抗体遺伝子を組み込んだ動物細胞(チャイニーズ・ハムスターというネズミの一種の卵巣細胞が使われることが多いです)を高密度で培養します。

細胞は、培養液中にたくさんの抗体を放出するので、その培養液から抗体を高純度に精製して抗体医薬は作られます。

 

Chinese Hamster.jpg

チャイニーズ・ハムスター 

 

例えば、「上皮成長因子受容体」(EGFR)というタンパク質は、細胞の増殖を盛んにする働きがありますが、大腸がんや非小細胞肺がんなど、様々ながんの細胞で、このタンパク質が過剰に作られています。

これは、本ブログ【034】でお話した、細胞増殖を調節する「アクセル」が目いっぱい踏み込まれた状態ですね。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

これでは細胞が過剰に増殖するのも頷けますね。

では、この過剰なEGFRの働きを抑えてやれば、がん細胞の増殖を止められるのではないか?

こんな発想から、EGFRに結合して、その働きを阻害する抗体医薬品が開発されました。

(特定の製薬会社の製品を宣伝したくはないのですが)具体的な例を挙げると、アービタックスとかがあります。

 

他には、ある種の白血病でよくみられる染色体の異常により、Bcr-Ablという完全に異常な遺伝子が出現することがあります。

Bcr-Ablは細胞増殖のアクセルを加速させます。

抗体医薬ではありませんが、この遺伝子の働きを阻害することでがん細胞を殺すグリベックというのがあります。

Bcr-Ablは正常細胞には存在しないので、がん細胞特異的な作用が期待できます。

 

他にもたくさんのがんに対する分子標的薬が実用化されていますが、あまりに多すぎて、正直、私も覚えきれません(笑)

 

④ 分子標的薬の最大の問題点

 

分子標的薬の最大の問題点は、一部の特定のガンにしか効果がないということです。

アービタックスは、EGFRが過剰に発現している種類のガンにしか効果が期待できませんし(あらかじめ、がん細胞におけるEGFRの発現量を検査します)、グリベックは、フィラデルフィア染色体をもつ白血病にしか効きません(他の一部のがん種にも適用になっていますが、限定的です)。

 

理想的には、全てのガンに共通した特徴を見つけ出し、そこをピンポイント攻撃するような抗体医薬ができればいいのですが、残念ながら、それは実現されていませんし、今後も、非常にハードルの高い課題であると思われます。

 

やはり抗体医薬品であり、免疫細胞のブレーキペダルである「PD-1」を標的とした「免疫チェックポイント阻害剤」は、人間本来の免疫力を引き出すことでガンをやっつけるものです。(以下の過去ブログご参照)

021【免疫力の本来のパワー(その3)】「免疫力だけで末期ガンから生還できる!!」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫力を増強すれば、どんな人にでも、どんな種類のガンにでも効果が期待できそうに思います。

しかし、実際には、同じような病態のがん患者に見えても、効く人と効かない人がいますし、効きやすい癌種(メラノーマ、肺がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫など)もあれば、効きにくい癌種(すい臓がん、前立腺がん、大腸がんなど)もあります。

このような分子標的薬の効きやすさ、効きにくさを事前に見分けることが、今後の重要な課題であり、現在、それに向けた研究が精力的に行われています。

 

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

抗体医薬などの分子標的薬は、がん以外でも、関節リウマチなどの自己免疫疾患で効果を上げています。。

リウマチの強い炎症反応の原因である炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の働きを抑える抗体医薬品が多く実用化されています。

 

分子標的薬は、病気発症の分子レベルでのメカニズムの理解が進んだことから実現した、新しい概念に基づく治療薬であり、今後、より病気に特異的で効果の高いものが次々と開発されるでしょう。

 

画期的ながん免疫療法薬、「免疫チェックポイント阻害剤」も抗体医薬ですが、この薬、な、なんと、一人分で2000万円とも3000万ともかかると言われています。

高額療養費制度(私は法律や制度には詳しくありませんので、詳しくは触れません)が改正されたとは言え、国民医療費高騰への影響はどうなるのでしょうか?

 

今後、抗体医薬をはじめ、タンパク質でできた新規な生物製剤が次々に登場することでしょう。

それによって多くの患者さんが救われるようになるのでしょうけれども、それが本当に良いことなのか?

「高度高齢化による高齢患者の増加⇒高額な先端医療技術の登場⇒国民医療費の継続的な増加⇒医療経済の破たんという悪い流れを加速させるのではないかと懸念されます。

 

そう考えると、ここでやはり同じ結論に立ち返るのです。

出来ることなら、「病気にならずに歳を重ねたい」と。。。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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038【自己免疫疾患のなぞ】「なぜ自分を攻撃する免疫細胞が存在するのか?(その2)」

胸腺学校の過酷な卒業試験と落第者の運命!

 

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前回【037】の続きです。

 

卒業候補生の前駆T細胞たちが、ストローマ細胞上のMHCと、その上に提示された自己抗原に対してどのような反応を示すか?

これが、胸腺学校の卒業試験です。

 

ストローマ細胞のMHCの上には、様々な種類の自己抗原が提示されています。

自己抗原なのですから、これに反応してはいけない訳ですが、卒業候補生の中には自己に反応してしまう「不良」もいる訳です。

図を見ながら、説明していきましょう。

 

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超難関! 胸腺学校の卒業試験!!

 

まず、MHCにも、その上の自己抗原にも、まったく反応しない前駆T細胞があります(図の③)。

MHCに反応しないということは、「自分の顔」すら認識できない落ちこぼれです。

このようなものは、卒業させても何の役に立ちません。

という訳で、不合格!です。

 

そして問題なのは、自己抗原に強く反応する前駆T細胞です(図の④)。

これは非常に危険な存在です。

排除しなければ大変なことになります。

自己抗原に反応したことで、好ましくない細胞を排除する仕組み、これを「負の選択」と言います。

この「負の選択」が、自己反応性T細胞を除去する基本的かつ非常に重要な仕組みなのです。

 

という訳で、自分の顔すら分からない出来そこないと、自分を攻撃する不良は、こうしてめでたく排除されるのです。

ところで、この排除はどうやって行われるのかというと、「アポトーシス」によってです。

アポトーシスというのは細胞の「自殺」です。

不合格を言い渡された前駆T細胞は、自ら死なねばなりません。

時代劇大好きな私に言わせれば、「その方たち、不届きに付き、切腹仰せつける」という訳ですねぇ。

酷ですよねぇ。

 

そして、MHCに反応し、自己抗原に反応しないか、弱い反応を示すものが選択されて生き残ります

これを「正の選択」と言います。

 

合格者は、晴れて胸腺学校を卒業して、それぞれ社会に出ていき、活躍が期待されるわけですが、試験合格後に様々な刺激を受けて、どのような刺激を受けたかによって、それぞれどのようなT細胞になるのか、進路が変わってくるという訳です。

 ヘルパーTとか、キラーTとか、Tregとかありますが、ヘルパーにも、キラーにも、Tregにも、それぞれ様々なタイプに細分化されていて、それぞれに役割が細かく分かれているのですねぇ。

社会にも同じような役割の人がいながらも、それぞれに個性が違い、得意・不得意があるのと同じです。

 

さて、この卒業試験の合格率はどのくらいなのか?

合格できるのは、わずか2%スーパーエリートたちだけです。

実に98%もの生徒が、この試験によって、出来そこないか不良というレッテルを張られるのです。

 

私たちの体は、未知のあらゆる異物に対応するために、実に多くの個性をもった前駆T細胞を教育して育てます。

しかし、その大半が役に立たないのです。

なんという壮大な無駄!!

なんたる非効率!!

 

しかし、このわずか2%のスーパーエリートたちによって、何百億という未知の異物に対して戦う能力が獲得されるのです。

 

生命というのは実に効率的かつ合理的に出来ているのかと思うと、とんでもない!

でも40億年もの長い時を経て獲得した超高度で超複雑な防御システム「免疫系」。

こう見えて、これが最も合理的な方法なのかもしれません。

 

この「負の選択」の仕組みによって自己に反応する前駆T細胞が排除されるので、かつては、健康な人には自己反応性T細胞はないはずだと考えられていましたが、現在では、この負の選択のシステムは完全ではないことが明らかになっています。

つまり、自分に反応する一部の「不良」も卒業させてしまっているのです。

でも大丈夫。安心して下さい! 健康な人の免疫系には、この不良をも黙らせる怖いおじさんがいます。

制御性T細胞ですねぇ。

 

制御性T細胞については、本ブログ【017】をお読み下さい。

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

037【自己免疫疾患のなぞ】「なぜ自分を攻撃する免疫細胞が存在するのか?(その1)」

目次:

① T細胞の養成学校「胸腺」

② ご入学おめでとうございます

③ 自分であることの目印「MHC」

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

「俺はガンについて語らせたら何時間でもしゃべれる! 10回はやって見せるぜっ!!」と豪語しておいてなんでは御座いますが、またまた自己免疫疾患の話をさせて下さい(ゴメンなさい)

私の悪い癖なのですが、気まぐれで飽きっぽい性格なのです。。。

 

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「自己」と「非自己」を識別するのが免疫の基本中の基本です。

なのになぜ、自己免疫疾患の患者では自己反応性免疫細胞が存在するのか?

1995年に坂口志文先生が制御性T細胞を発見されるまでは謎でした。

この発見により、健康な人でも誰でも、自己反応性免疫細胞を持っているのが当たり前、ということが明らかになったのでした。

017【自己免疫疾患と制御性T細胞】 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

でも、それ以前は、人間の体には自己反応性免疫細胞を取り除く仕組みが備わっていることが知られていて、そのために、健康な人には自己反応性免疫細胞はないんだという考え方が普通でした。

自己免疫疾患の人は、きっとこの自己反応性免疫細胞を取り除く機能が異常なんだということですね。

 

これまでにもお話した自己免疫疾患ですが、この病気の理解を更に深めるために、我々の体が、自己に反応する免疫細胞をどのようにして取り除いているのかについてお話ししましょう。

 

① T細胞の養成学校「胸腺」

 

全ての血液の細胞は、骨の髄、すなわち骨髄で造られます。

ここに「造血幹細胞」というのが詰まっており、将来、赤血球や白血球、血小板など全ての血液細胞へと成熟していくのです。

でも、どの幹細胞がどの血液細胞になるのかということは、この時点では全く決まっていません。

逆に言えば、ひとつの幹細胞は、どの血液細胞にでもなる可能性があります。

 

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図 免疫細胞の赤ちゃんは胸腺へ 

 

さて、免疫細胞も、すべてこの血液幹細胞が成熟してできます。

免疫細胞の赤ちゃんである幹細胞は、少しずつ成長しながら「胸腺」という組織に入ります(図の①)。

 

胸腺というのは、胸骨と心臓の間辺りにあるリンパ組織です。

胸腺は、いわば免疫細胞の「学校」です。

学校であるからには何か教えてくれるのでしょうか?

ズバリ、自己と非自己の見分け方です。

 

補足ですが、胸腺で教育される免疫細胞はT細胞です。

B細胞の教育の仕組みは、T細胞とはまた違うのですが、B細胞の方はまだ分かっていないことも多く、ですので、ここではT細胞と胸腺のお話を致します。

 

② ご入学おめでとうございます

 

さて、よちよち歩きの免疫細胞の卵たち、胸腺学校に入学した後に待ち受けているのは、彼らのあまりにも過酷な運命なのです。

 

入学した時点では、彼らはどのような免疫細胞になるとも決まっていません。

でも胸腺学校に入学したということは、「T細胞になることを義務付けられた」ということです。

胸腺学校の入学生たちに他の進路はありません。T細胞だけです。

なぜなら、胸腺は「T細胞養成専門学校」だからです。

そのスパルタ振りは、悪役レスラーを専門に養成する、タイガーマスクの「虎の穴」さながらなのですよ。

 

一口にT細胞と言っても、ヘルパーTとか、キラーTとか、Tregとか色々な「職種」がありますが、この時点ではまだ、どれになるのかは決まっていません。

入学した時点では、理系とも文系とも決まっていないようなものですね。

 

③ 自分であることの目印「MHC」

 

胸腺の中にはストローマ細胞という上皮細胞があります。

ストローマ細胞の表面には、色々な種類のタンパク質がくっついています。

その一つが「MHC」というタンパク質です。

MHCは、いわば「自分の顔」です。あるいは、自分であることを証明する「ID」と言ってもいいでしょうか?

MHCとは、実は本ブログ【025】でお話した「免疫の型」HLAのことです。

HLAは人それぞれ皆違うと言いました。即ち、MHCは皆違うわけです。

025【人類はウイルスなんかで絶滅なんてしない】「免疫は人それぞれ万差億別」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫細胞は、その細胞が自分の細胞か別人の細胞かを見分けることができます。

なぜなら、全ての細胞にはこのMHCが表面にあるからです。

MHCは自分の顔ですから、見れば分かる訳ですね。

他人の臓器を移植しても拒絶されるのは、その細胞の顔(MHC)が違うのを免疫細胞が認識するからです。

「お前、俺と違うやんけ!なんでここにおんねん!?」という訳で、その臓器を攻撃します。

 

骨髄移植では、他人では決して完全に一致するはずのないHLA(MHC)ができる限り似た人を骨髄バンクの登録者から探し出して、その人にドナー(提供者)になってもらいます。

患者(レシピエント)に移植されたドナーの骨髄細胞にもMHCはあります。

でも、このドナーの骨髄細胞のMHCは、患者のMHCととてもよく似ている訳です。

まさしく「他人のそら似」ってやつですね。

で、免疫細胞としては、「なんか自分のような、ちょっと違うような。。。まっ、ええかっ!?」てな具合に攻撃を控える訳です。

それで骨髄移植が上手くいくという訳なのですねぇ。

 

登録バンクのある骨髄移植はまだいいです。

登録者の中から、できるだけHLA(MHC)の合うドナーを見つけることができますから。

生体肝移植なんかでは、他人よりはHLA(MHC)が近い近親者から肝臓の提供を受けます。

 

脳死した他人からの臓器移植に至っては、HLAが適合する待機患者を探している暇はありません。

HLAが合おうが合うまいが、無理やり強引に移植することもあります。

そのような場合には、拒絶反応を抑えるために、強力な免疫抑制剤の使用が必要です。それも一生。

 

とまあ、免疫細胞がどうやって自分の細胞と他人の細胞とを見分けるのか、骨髄移植や臓器移植を例にとって説明しましたが、お分かり頂けたでしょうか?

 

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

成熟T細胞というのは抗原特異的に働きます。

つまり、特定のT細胞は特定の抗原しか認識できないし、攻撃できません。

 

「抗原」、すなわち私たちの体にとっての「異物」とは、それこそ無数にあります。

私たちの体としては、この無数とも言える異物に対して対抗できる策を講じておきたいところです。

つまり、無数のすべての抗原に反応できるT細胞を装備しておくことが理想です。

実際には「無数」というわけにはいきませんが、私たちの体には数百億種類、数千億種類の抗原に対応できるT細胞が「あらかじめ」備えられています。

 

胸腺の話に戻りましょう。

 

T細胞の卵たちは、胸腺学校に入学後、遺伝子にランダムな組換えや変異が起こり、それぞれに違う個性を獲得していきます。

そうすることによって、様々な抗原に対応できるように、それぞれが異なる個性を持ったたくさんの「前駆T細胞」へと成長します。

 

ところが、この様々な個性を持った前駆T細胞たちの中には、自分の抗原、すなわち自己抗原に反応するものが、どうしても育ってしまうのです。

そのような前駆T細胞が胸腺を出て、体中を駆け巡るとまずいことになります。

すなわち、自己免疫疾患になる可能性があるわけです。

 

そこで、胸腺学校を出て、一人前の成熟T細胞として世に出る前に、厳しい卒業試験を受けなければなりません。

自分を攻撃するような「不良」を社会に出すわけにはいきませんからねぇ。

 

一体、どんな試験なのか?

胸腺のストローマ細胞の話に戻りましょう。

 

ストローマ細胞の表面にもMHC(自分の顔)がたくさんあり、「自分の細胞ですよ~」とアピールしています(図の②)。

MHCはお皿のような形をしています。

なんでお皿のような形をしているのかというと、実際、このお皿の上に何かを載せるためです。

何を載せるかというと、「抗原」です。しかも自分の抗原、「自己抗原」です。

卒業候補生の前駆T細胞たちが、このMHCのお皿の上にのっかった自己抗原にどのような反応を示すか? これが卒業試験の内容です。

では、どうやって合否を決めるのか? 合格率は? 試験に落第したらどうなるのか?

 

落第者には過酷な運命が待ち受けています!

長くなりましたので、続きは次回! ごきげんよう!さようならッ!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

次回の続編もよろしくお願いします。

 

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036【第5のがん療法!? 「ウイルス療法」】がん(その4)

人類がヘルペスウイルスを改良して創り出したスーパーウイルス!

その名をG47Δ(デルタ)!!

 

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以前は、がんの治療法と言えば、外科手術療法、化学療法、放射線療法が3大がん療法と言われていましたが、第4の療法として免疫療法が登場し、そして、近年はウイルス療法という新しい第5番目のがんの治療概念に期待が集まっています。

 

がんに対するウイルス療法の原理はいくつかありますが、そのうちの一つに「腫瘍溶解性ウイルス」というものがあります。

ある種のウイルスには、元から感染した細胞を次々と破壊(溶解)して、他の細胞に感染していく性質があります。

また、以前から、がん細胞はウイルス感染には弱いということが知られていました。

このウイルスとがん細胞の性質を利用して、ウイルスにがん細胞をやっつけさせようというアイデアです。

 

ただし、最大の問題は、正常な細胞まで破壊させてはいけないということであることは言うまでもありません。

では、どうすればそれを可能に出来るのか?

最新の遺伝子工学技術を駆使してウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけを破壊して、正常な細胞には影響しないようなウイルスを作り出す必要があります。

そのようなことが人類にできるのか?

 

1970年代初めに遺伝子組換えの技術が確立してから間もないころ、このような概念は早くも生まれていました。

現在の遺伝子工学の技術では、ウイルスの遺伝子を改変して、自然界に存在しないウイルスを創り出すくらい造作もありません。

難しいのは、別のところにあります。

 

話が横道に逸れますが、小説や映画などのフィクションで、人類を絶滅させるような恐怖のウイルス兵器をマッドサイエンティストが創り出すような話、いっぱいありますよねぇ。

古くは、私が敬愛する小松左京大先生の「復活の日」。近年では「20世紀少年」とか、最近では、私もほとんど原作を読んでいるダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ(ダビンチ・コード・シリーズ)の「インフェルノ」。

あんな恐るべきウイルス兵器を、果たして本当に人間が造れるのでしょうか?

それに対する私の答えは、技術的には「Yes」です。あくまでも技術的にはYesです。

つまり、強毒性を持つ別のなんかの遺伝子を既存のウイルスに組み込むとか、感染力を高める別のなんかの遺伝子を組み込むとか、そのようなことは、技術的には本当に造作もないことなのです。

 

しかし、私は断言できます。そのような恐怖のウイルス兵器を作り出すことは、がんを治すウイルスを造ることよりも難しと!

何故なのか?

まずは、ウイルスで人類を絶滅させるにせよ、がん患者を救うにせよ、本質的な課題は同じだということがあります。

そんでもって、本当に難しいのは、創り出したものが、本当に思惑通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価するのが難しいということです。

ポイントは創ったものの評価なのです。

創っては試し、改良してはテストし。

でも、全く期待するような結果が得られない。

何故なのか理由が分からない。

来る日も来る日もその繰り返し。。。

で、やっとこさ、動物実験かなんかで好ましい結果が出たなら、最終的な評価をするためには、実際に人間に感染させなくてはなりませんよねぇ? つまり人体実験です。

動物実験で得られた結果が、ヒトでは全く再現できないということはままありますから。

しかし、「20世紀少年」でも、「インフェルノ」でも、ヒトでの大規模試験をしてませんよね?

 

私が正しい評価方法のやり方をお教えしますので、マッドサイエンティストの皆さま、耳ほってよく聞きくされ!

まず、広告を出します。

「健康に自信のある方急募! 人類を絶滅させる恐怖の殺人ウイルスの試験をします。謝礼弾みます。先着1000名様限定! 只今オペレーター増員中! 今すぐお電話を‼️」

まあ、こんなもんかな?

 

そんなんで、うまいこといくと思ってるんやったら、その能力を病気の治療法開発に使てくれっ!ていうねんっ(笑)

 

いや、長い寄り道になりました。誠に申し訳御座いません。

話を元に戻しましょう(笑)

 

そんなフィクションの話はどうでもええですわい。

がん治療用の改変ウイルスも、思惑通りに創るだけなら簡単です。

でも本当に難しいのは、作製した改変ウイルスが、意図した通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価することです。

評価の結果、ほとんどが開発者を落胆させる結果が出るのが常です。

そうして、とめどもない試行錯誤の連続。それも先の見えない単純作業の連続。

このように人間である研究者が己の忍耐力と戦いつ続けた結果、このような先端的テクノロジーに基づいた新しい医療が世に出るのです。

ハイテクとか先端テクノロジーとか言われる華やかさの裏には、このような地道で泥臭い努力が必ずあるのです。

 

さて、様々な理論に基づく様々なタイプのがん治療用のウイルスが開発されていますが、せっかくですので今回は、日本人研究者が世界に先駆けて実用化に向けて研究を進めているがん治療用ウイルスを紹介しましょう。

 

1型の単純ヘルペスウイルス(HSV-1)は、口唇ヘルペスとして知られている、ありふれたウイルスです。

ほとんどの人に感染しており、普段は悪さをしません。

このウイルスを元にして、がん細胞で増殖し、がん細胞のみを破壊する腫瘍溶解性ウイルスの作製に米国の研究グループが成功したのは1991年のことです。

 

その後、このウイルスは東大医科学研究所の藤堂具紀(ともき)教授らのグループによって更に改良が加えられ、現在ではHSV-1の3つの遺伝子に変異を導入して作製されたG47Δ(デルタ)という第3世代の腫瘍溶解性HSVが登場しました。

これら3つの遺伝子の改変により、G47Δは分裂していない細胞ではタンパク質合成ができず、更に正常細胞でのDNA合成がブロックされるため、感染はしても増殖できません。

G47Δは正常細胞で増殖できないため、たとえがん細胞のように増殖が盛んな骨髄細胞(血液の細胞を作っています)でも、影響はないそうです。

 

更にG47Δでは、第二世代のウイルスに比べて、盛んに分裂するがん細胞でのみ増殖する能力が高められました。

益々、正常細胞への影響が減り、安全性が高まったという訳ですね。

 

更に更に(なんか今回は「更に」ばっかですね)、G47Δは、感染によってがん細胞を破壊するだけでなく、免疫細胞の抗原を提示する力を増強することでリンパ球を活性化して、その結果なんと、免疫による抗腫瘍効果を高める働きをもゲットしたのです。

つまり、このウイルス自体のがん細胞を破壊する能力にプラスして、ウイルス感染の刺激によって免疫力を高めるという「ウイルス+免疫ダブル療法」を同時にやってのけるスーパーウイルスなのです。

こいつは驚きだいッ!

 

このウイルスについては、とても分かりやすい動画があります。

藤堂先生ご自身が、ウイルスががん細胞をやっつける動画を見せながら、分かりやすく説明して下さっています。

www.ampo.jp

 

病気の治療にウイルスを利用する際に最も考慮しなければならないことは、正常細胞に対するウイルス自体の病原性を如何に抑えるかです。

G47Δは正常細胞は殺さないとは言っても、元になっているHSV-1は、元々「口唇ヘルペス」といって、病気を起こすウイルスですからね。

でも、安心して下さい! G47Δでは上述の通り、遺伝子操作により正常細胞での増殖を抑えることに、既に成功しています。

 

とは言っても、ウイルスは増殖を重ねるうちに変異する可能性があります。

万が一、変異によって正常細胞での増殖能が回復したり、その他、予測しなかった性質を獲得して、患者に悪影響を及ぼすことがないとは言い切れません。

しかし、安心して下さい! そのような状況に陥った場合でも、HSVには昔からいい薬があるのです。

チミジン・キナーゼ阻害剤という薬ですが、この薬は、ヘルペスウイルスがチミジン・キナーゼという酵素の働きがないと自分のDNAを合成できないことを利用しものです。

ヒトの細胞はチミジン・キナーゼを使いませんので、この薬でチミジン・キナーゼの働きが抑えられても人間はヘッチャラ、ウイルスには災難、という結果になるのです。

安心して下さい! G47Δにもこの薬、ちゃんと効きますよ。

 

このお薬、読者の中にはお世話になったことがある人がいらっしゃるかもしれません。

帯状疱疹(たいじょうほうしん)ご存知ですか? 私は経験ありませんが、痛いそうですね?

あれはHSV-1とは違いますが、ヘルペスウイルスの一種(実は子供のころに感染した水疱瘡のウイルス)が原因なため、この薬がよく効きます。

こんなヘルペスウイルスの特効薬が既にあったおかげで、何かまずいことがあっても、G47Δの活動を抑制することが可能なのです。

至れり尽くせりですよ~。

 

このようにG47Δは、従来の腫瘍溶解性ウイルスよりも抗腫瘍効果と安全性が高められており、治療の選択肢の少ない、より進行したがんでの有効性が期待されています。

現在、東京大学医科学研究所附属病院にて、人での効果と安全性を検証する臨床研究が行われています。

進行中の臨床試験|東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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035【遺伝するガン「家族性腫瘍」】がん(その3)

目次:

① 家族性大腸がん

② コロンボがヤブ睨みなわけ

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について(注:珍しく哲学的に語りますよぉ)

 

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不幸にして、生まれながらにガンになりやすい遺伝子を持っている人がいます。

遺伝するガン、家族性腫瘍で一番多いのは大腸がんです。

全大腸がんの1割近くが「家族性」と考えられていますが、家族性大腸がんにもまた、何種類かがあります。

あと、女性に多い家族性腫瘍では、乳がん卵巣がんが代表的で、女性にとっては深刻な問題です。

乳幼児期の小さなときに眼にできる腫瘍や、全身に多発性の腫瘍ができるものに遺伝性のものがあります。

 

家族性腫瘍は、変異のある遺伝子の種類によって様々であり、予防可能なもの、延命できるものもあれば、一度発症すれば手の付けられない悲惨なものもあります。

身近に家族性腫瘍の人がいない方には馴染みがないかも知れませんが、このような病気もあるということを知って頂く機会があってもいいかもしれません。

 

今回は、アンジェリーナ・ジョリー刑事コロンボ役で有名なピーター・フォークのエピソードなんかも交えて、家族性腫瘍についてお話します。

 

以下に主な家族性腫瘍について、病名とガンができる臓器や時期、症状、原因遺伝子についてまとめておきますので、以下の記事を読まれるときに参照して下さい。

 

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① 家族性大腸がん

 

家族性大腸がんには何種類かありますが、代表的なものは「遺伝性非腺腫性大腸がん」(病名が長くて舌噛んじゃうので、「HNPCC」とか「リンチ症候群」と呼ぶ)と「家族性大腸腺腫症」(同じく「FAP」)でしょう。

 

HNPCCの原因遺伝子は、前回のブログ【034】でお話した「DNA修復遺伝子」です。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

この遺伝子がやられると、DNAの修復ができず、ガンの進行が速いと言いました。

ところが、HNPCCの人は、生まれながらにこのDNA修復遺伝子群(実際はDNA修復遺伝子は複数ある)のいくつかに生まれながらに変異があるのです。

ですから、生まれつき、体中のすべての細胞で遺伝子の変異をうまく修復することができません。

40歳代くらいから発症することが多く、特に大腸がんが多いのですが、全身の細胞でDNA修復ができない訳ですから、多臓器にガンが発症することも多くあります。

中年代くらいまでは生きられることが多いのですが、患者はいつ発症するかしれない恐怖と戦いながら暮らすことを強いられます。

 

FAP(家族性大腸腺腫症)はAPCという遺伝子の変異で起こることが、日本人研究者、シカゴ大学医学部教授(元東大医科学研究所教授)の中村祐輔先生によって突き止められ、中村先生は一躍世界に名を馳せられました。

FAPでは、だいたい成人後に大腸に何百、何千というポリープが発生します。

こんな感じです。

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ポリープがギッシリ!

 

これを放置していると、まず間違いなく、このポリープの中からガン化するものが現れます。

発症予防のために、10代のうちに大腸の全摘出が行われます。

そうすることで、比較的普通に生活できるようになります。

 

② コロンボがヤブ睨みなわけ

 

ご存知刑事コロンボ。この方の目つきっておかしいですよね。どこ見てんだか?って感じ。

私は子供のころから「焦点合ってへんのんとちゃう?」って思ってました。

 

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それもそのはず。実はピーター・フォークさん。3歳の時に右眼に腫瘍ができ、眼球摘出手術を受けたため、右眼は義眼なのです。

 

この病気、網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)と呼ばれる家族性腫瘍で、RB(アールビー)と呼ばれる遺伝子の変異が原因であることが分かっています。

発症すると抗がん剤放射線療法を行いますが、効果が無ければ、小さな子供には気の毒ですが、眼球摘出を行います。

なぜか腫瘍は片眼にしか現れないことが多く、片方を摘出すれば普通に暮らせることが多いです。

 

いや、ちょい待ち!

「普通」って言っても、劇中のコロンボは車を運転してたよねぇ?

普通に愛車のプジョー403カブリオレを! それも片目で!

あんた免許持ってんの? 危なくね!?

 

因みにこのRB遺伝子初めて発見されたがん抑制遺伝子として非常に有名です。

 

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

 

前回、我々の細胞を守っている「守護者」、がん抑制遺伝子p53の話をしました。

これがやられると、我々には大変なダメージです。

高率でガンになりやすくなります。

 

なんと、このp53遺伝子に生まれつき変異のある人がいます。

リ・フラウメニ症候群と呼ばれ、守護者が元からいないものですから、中年代以降、ガンが発症しやすくなり、一旦発症すると、次から次へといろんな臓器にガンが発生するようになります。

こうなると手が付けられません。

 

p53遺伝子が、我々の細胞を守る上で、如何に重要な働きをしているのかということがよく分かります。

「守護者」とよばれるゆえんです。

 

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

 

先ごろジョニー・デップとの不倫報道、ブラピとの離婚騒動と、マスコミへのゴシップ提供に事欠かないアンジェリーナ。何かとお騒がせです。

でも、アンジーにとって、この程度のゴシップはモノの数ではありません。

 

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彼女は、2013年5月に両方の乳房の全摘出を行ったと発表して、全世界を驚かせました。

女優という職業、それもハリウッドを代表するスーパーセレブリティで、この美貌とボディが最大の売りものにも関わらずです!

そりゃあみんな驚きますよね。よっぽどの事情があったに違いありません。

 

その事情とは、乳がんになるのを予防するためだとのことです。

ではなぜ彼女は、自分が将来乳がんになると分かったのでしょうか?

 

彼女は、ずっと以前から近しい身内に乳がんが異常に多いことを気に病んでいました。

実の母親を含めて近親女性が3人も乳がんで亡くなっているのです。

そして、乳がんには遺伝性のものがあること、その原因遺伝子が突き止められていること、その原因遺伝子の変異の有無を調べる遺伝子検査を受けることができることを知りました。

果たして検査の結果、家族性乳がんの原因遺伝子であるBRCA1遺伝子に変異のあることが分かったのです。

その結果を受けての決断でした。

 

女性の皆さん。遺伝子検査で変異が見つかったら、両方の乳房を切る決心をすることができますか?

将来、100%乳がんになると分かっていれば切りますか? それとも、100%でも躊躇しますか?

 

実は、この遺伝子に変異がある場合、一生涯を通して乳がんになる確率は約80%なのです。

そう、100%ではありません。

ですから、切らなかったとしても乳がんにならないかもしれないのですね。

 

更に、しかも、しかもです。

乳がんは乳腺という組織からガンになります。

ですから、乳房を切るのは、この乳腺を除くのが目的です。

ところが、全摘出を行ったつもりでも、乳腺を完全に切り取れるとは限らないそうです。

摘出し切れずに一部残った乳腺からガン化する可能性もあるというのです。

 

切らなくってもガンにならないかもしれないし、切っても完全には防げないかもしれない。

このような条件下での決断です。

医者は説明するだけです。決断するのは、あくまでも本人です。

 

男の私でも、女性が乳房を切る決断をすることの苦悩や葛藤というのは、理解できるような気がします。

でも、私が分かるのは、ただ「過酷な決断」だろうということだけです。

アンジーのその時の本当の苦悩や葛藤の気持ちが、私などに分かるはずもありません。

 

遺伝子検査と言っても、100%の精度で未来を予測できる訳ではありません。

天気予報の降水確率のような不確かな情報を元に、非常に重大な決断を患者本人に強いる、このような検査について、倫理的な問題点の指摘や、賛否を議論する声もあります。

 

アンジーの話は、これだけでは終わりません。

さらに2015年、彼女の卵巣に腫瘍が見つかり、片方の卵巣と卵管を切除しました。

BRCA1の変異は、遺伝性卵巣がんの原因にもなります。

幸い卵巣の腫瘍は良性でしたが、結果的に彼女は、「女性である部分」をかなり失うこととなったのです。

 

何と言えばいいのか言葉も見つからいほど苛烈な人生ですが、彼女はいま、何人かの恵まれない子供の里親を務め、人道支援活動を積極的に行うほか、イギリスの大学の客員教授に就任するなど、大変にご活躍中です。

 

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について

 

たまたま今回取り上げた家族性腫瘍以外にも、遺伝する病気はたくさん存在します。

昔から遺伝する病気というのは広く知られていて、差別の対象になっていたのは、皆さんご存知でしょう?

でも、21世紀の現代になって、それも少しは変わったのでしょうか?

 

そこで皆さんにお尋ねしたいのですが、皆さんは自分が正常だと思いますか?

何をもって正常だと言えるのでしょう?

単に健康だから? 他の大多数の人と同じだから?

本当に他の人と同じですか?

 

もう一つ伺います。遺伝する病気を持つ人は異常だと思いますか?

 

私も、ガンに関するこれまでの一連の記事の中で、遺伝子の「異常」という言葉を頻繁に使いました。

確かに、前回の【034】で、発がん性物質放射線なんかの影響で、後天的に遺伝子が変異した場合などに「異常」という言葉を使いましたが、これは間違いではありません。

例を挙げると「放射線の影響で遺伝子に異常が起こり、異常な細胞が発生した」

こんな使い方ですね。

 

しかし、遺伝する病気の素因を持つ人に対して、生まれながらに遺伝子に「異常がある」と言った場合、それは適切な表現とは言えません。

何故適切でないか、その理由が分るでしょうか?

 

遺伝する病気の存在というのは、人間が遺伝的な多様性を追求する高等生物である限り、必然的なものです。

 

人それぞれ、全て遺伝的に違いがあります。

病気の原因となり得るような遺伝子の違いも含めて、遺伝子の多様性の一部なのです。

ですから、少なくとも遺伝子的には、誰が正常で、誰が異常だなんてことは一概には言えないのです。

 

今回の話で、私がお伝えしたことの真意が皆様に伝われば、誠に幸いです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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