目次:
- 「陽性判定」でも、必ずしもがんが見つかる訳ではない
- どこにがんがあるのか分からない検査が人の役に立つのか?
- がんが見つからなかった方が、損失が大きいって話
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1. 「陽性判定」でも、必ずしもがんが見つかる訳ではない
「1滴の尿で、全身の23種類のがんのリスクが一度で分かる」と謳う「線虫がんリスク検査サービスX」。
この検査サービスに関心のある人でも、「本当に当たるのだろうか?」「この検査を定期的に受けていれば、安心できるのだろうか?」との疑念を抱くに違いない。
あるいは、「この検査を受けていれば、従来のがん検診を受ける必要はないのでは?」と考える人もいるかもしれない。
本当にそうなのだろうか?
この線虫検査の結果が陽性(がんのリスクあり)の判定だった場合に、多くの人が思うのは、「本当にがんに罹っているのだろうか?」ということだろう。
とても心配で、不安でたまらないに違いない。
検査の結果が陽性(がんのリスクあり)だった場合に、本当にがんが見つかる確率を「陽性的中率」という。
たとえば、がん検診の検査が陽性だった人が100人いたとして、そのうちの90人にがんが見つかった場合、陽性的中率は90%となる。
残りの10人はというと、陽性判定でありながら精密検査を行っても、がんが見つからないということだ。
このように、病気ではないのに陽性という誤った検査結果が出てしまうことは、がんの検査に限らず、多くの臨床検査で普通にあることで、これを「偽陽性(ぎようせい)」という。
陽性的中率が低い、つまり擬陽性が多いということは、病気でない人に余剰な検査を行うことになり、大変な無駄と損失が生じるのである。
一方で、検査結果が陰性(がんのリスクなし)の人たちで、本当にがんではないと確認される人の確率を「陰性的中率」という。
がん検診の結果が陰性だった人が100人いて、そのうちの90人が本当にがんではないと確認された場合、陰性的中率は90%になる。
残りの10人は、検査の判定結果が陰性でありながら、よくよく調べてみたら、がんが見つかったということだ。
これは「偽陰性(ぎいんせい)」と呼ばれ、その検査で病気を見逃してしまう確率が10%もあることを示している。
特に無症状期間が長く続く場合、この偽陰性の人たちは病気の発見が遅れる可能性が高いのである。
陰性的中率が低い、つまり偽陰性が多いということは、病気の人を漏れなく見つけ出すことを目的としているスクリーニング検査法※としては非常に問題があるため、検査法の改良・改善が求められることになるのだ。
※ スクリーニング検査:集団を対象に、病気の可能性のある人を見つけ出す「ふるい分け」の検査。病気の疑いのある者をあぶり出し、詳しく調べて病気を確定することで、早期発見・早期治療につなげるのが目的。
もうお分かりだと思うが、偽陽性や偽陰性が多いことは好ましくないことである。
陽性的中率/陰性的中率ともに100%であることが理想ではあるが、多くの臨床検査法において、高い陽性的中率と高い陰性的中率とを両立させることは、非常に難しいのである。
以上の「陽性的中率」と「陰性的中率」、そして「偽陽性」と「偽陰性」という言葉と、その意味するところについては、是非とも覚えておいていただきたい。
これらを覚えておくと、あなたが受ける、あるいは受けようとしている検査の目的や診断精度についての理解が格段に深まり、正しい判断を行うのに非常に役に立つことだろう。
2.どこにがんがあるのか分からない検査が人の役に立つのか?
陽性的中率が低い(偽陽性が多い)と、がんがないのに不要な追加検査を受けねばならず、本人には身体的・精神的なストレスがかかり、不要な医療費を浪費することにもなる。
一方で、陰性的中率が低い(偽陰性が多い)と、その検査で多くのがんの人を見逃してしまい、本来の目的である早期発見の役に立たないのだ。
「線虫がんリスク検査サービスX」は、がんを見つけることを目的とした検査法として国の認可を得ていない。
この線虫検査サービスXの最大の問題点としては、「陽性的中率と陰性的中率の実証がまったく不十分」だと多くの専門家から指摘されていることだ。
実際、関連の学会においては、「我々の医療機関で検証した結果では、臨床での有用性を示唆するエビデンスは得られなかった」と報告する医師や医学研究者は多い。
こんな状況だから、この検査は当然、国からの認可を得られるはずもないのだ。
そして、もう一つの問題点は、この検査で陽性判定が出たとして、体のどこにがんがあるのか、まったく分からないということだ。
これは、まことに大問題なのである!
患者「先生、体のどこかにがんがあるに違いありません。がんが見つかるまで徹底的に調べてください」
医師「調べろたって、どこにがんがあるのか分からないんじゃねぇ・・・・」
患者「お金はいくらかかっても構いません。それで早期発見できれば安いものです」
医師「安いつったって、保険利きませんよ。自治体の検診で陽性だったのとは違うので、全額実費になりますけど・・・・」
患者「えっ、実費? 保険利かないって? なんで?」
一般のがん検診でも、陽性判定にも関わらず、がんが見つからないこと、つまり偽陽性はよくあることだ。
だが、大腸がん検診で陽性判定だったなら大腸を詳しく調べ、肺がん検診で陽性だったなら肺を詳しく調べればよい。それでシロクロをハッキリさせられる。
ところが、どこにがんがあるのかがサッパリ分からないのなら、一体どこから手を付ければいいというのか?
それでも、線虫検査Xで陽性判定となったからには、「あらゆる検査をし尽くしてでもがんを見つけて欲しい」、あるいは「がんでないことを確定して、安心したい」と思う人は多いだろう。
CTやMRI、PETなどの高額な画像診断法による検査を、全額実費を払ってでも受けることを望む人もいることだろう。
どこにあるのか、本当にあるのかも分からないがんを探すことの問題は、カネと時間を要することだけではない。
あるのかどうかすらも分からないがんを見つけるための検査を受けるとなると、短期間にかなりの量の放射線被ばくを受けることになる可能性があるのだ。
これは被験者にとって、非常にリスクが高いことである。将来の発がんリスクを高める行為であると言えるぐらいだ。
だとすれば、この人のやっていること(がんを見つけるために、進んでCTやPET検査で被ばくすることをいとわないこと)は本末転倒なようにも思える。
肺がん検診(胸部X線検査)で被ばくする線量など、何ほどのこともない。
毎年一回、繰り返し検査を受けても、健康には何の問題もないと証明されている。
だが、CTやPET、PETとCTを組み合わせたPET-CT検査による被ばく線量は、通常のX線検査と比べると桁違いに大きいのだ(下表)。

比較的被曝線量の高い、これらの画像診断検査は、必要以上に頻繁に行うものではない。
被爆によってもたらされるリスクよりも、検査によって得られるベネフィットの方が大きいと判断されるときに実施されるべきである。
そして、その判断を行うのは、もちろん医師だ。
訳の分からん民間の検査サービスで陽性判定が出たからということで、「実費を支払いますから、CTでもPETでもなんでもやって、必ずがんを見つけてください」と言われても、「はい、分かりました。なんぼでもやりましょう」という訳にはいかないのだ。
これは、カネを支払えば解決するという問題ではない。
あるのかどうかも分からない病気を調べるために、被験者に無視できない健康上の不利益をもたらす可能性があるという、より深刻な問題なのだ。
そもそも、「X線検査は被ばくが怖いから、検診は受けたくない。尿検査ですべて分かるなら、そっちがいい」と、肺がん検診を忌避した人が、「がんがあるに違いないから、CTでもPETでも、何でも検査してください」と医師に泣きつくとすれば、これはもう、笑える話ではないか。
3.がんが見つからなかった方が、損失が大きいって話
そして一体全体、どこまで検査し尽くしたら、「がんがなくて良かった」と確信し、安心できるのだろう?
そう確信するに至るまで、モヤモヤした不安な気持ちで日々を過ごさなければならない。
さらに、本人にもたらす不利益としては、種々の辛い検査に耐え、膨大な時間を費やした挙句に、莫大な検査費用を支払わされることだ。
取り越し苦労代としては、あまりに高すぎる。
こんなのが本当に人の役に立つ検査だと言えるのだろうか?
まあ、その判断は人それぞれだろう。
金持ちはいいよ。
だが、暇もカネもない庶民には無理だ!
様々な検査をやり尽くした結果、無事にがんが見つかればいいだろう(がんが見つかって、「無事」というのも変な話だが)。
「早く見つかって良かった」と喜べばいい。
その後は治療に専念すればいいのだから。
だが、時間を奪われ、辛い検査に耐え、不安に苛まれ、高い検査代を支払わされた挙句にがんが見つからなかったら、
① 「がんじゃなくて良かった」と喜ぶ
② 「時間とカネを返せ!」と怒る
あなたはどっちだ?
病気の診断や病状把握を目的に実施される臨床検査というのは、「陽性判定出た。何の症状もないけど、どこかが悪いはずだ。どこかは知らんけど」では役に立たないのだ。
特に、多くの一般大衆に対して行う検査、すなわち集団で行う健診や検診※では役に立たないどころか、弊害が多いだろう。
もし、多くの偽陽性者が病院に押しかけたらどうなる? 病院はパニックだ。
非効率である以上に、非現実的だ。
※ 体全体の健康状態を把握して病気のリスクを総合的にチェックするのが「健診(健康診断/健康診査)」。がんなどの特定の病気を早期発見・早期治療することを目的として検査を行うのが「検診」。
線虫検査サービスXで陽性判定が出た場合、どこにあるのか分からないがんを見つけるために、あまりにも多くの追加検査を行わなければならず、そして、ついにがんを見つけることができず、「がんではない」との結論に至ったなら、それまでに行ったすべての検査が、本来は無用であったということになる。
これもまた、極めて非効率であり、非現実的だ。
医療現場では、人にも設備にも限りがある。つまり、医療施設の受け入れキャパには限りがあるのだ。
線虫検査の偽陽性者が病院に殺到し、医療施設において無用で非効率な検査が行われるということは、直ちに適切な医療を必要としている人たちから、重要な医療のリソースを奪い去ることにもなるのである。
線虫検査サービスXで陽性判定が出た場合、がんが見つかった時のメリットよりもむしろ、がんが見つからなかった時の損失があまりに大きいという話だ。
今回の振り返り:
・線虫がんリスク検査サービスXをはじめ、民間企業が一般消費者を対象にして実施している検査サービスのほとんどが国の認可を受けておらず、その診断性能(信頼性・再現性)の実証は十分とは言えない可能性がある。
・検査法の診断性能が低いということは、その検査には下表のような問題点があるということを知っておこう。

・「どうやら病気があるらしいが、どのような病気が、どこにあるのかは分からない」というような検査は、臨床(医療現場)においては役に立たないことを覚えておこう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次回もどうぞお楽しみに。
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