Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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号外【がん遺伝子発見物語(番外編)】がん原遺伝子くんの言い分「ボクはガンを引き起こす遺伝子じゃない!!」

【041】、【042】と2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」は、大変ご好評を頂き、私も驚いています。

お読み頂いた皆様、本当にありがとう御座います。

 

これに気を良くして、「がん遺伝子発見物語」の「番外編」をお送りします。

今回もよろしくお願いします。

 

目次:

①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

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①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

 

2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」。

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

また、それ以前の記事でも、ガンになる仕組みとして、がん原遺伝子とがん抑制遺伝子の変異・異常が大きく関与していることをお話してきました。

034【どのようにして細胞に遺伝子の変異が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

多くのがん細胞で、「がん原遺伝子」、「がん抑制遺伝子」、「DNA修復遺伝子」に変異があります。

これらの遺伝子の機能異常によりガンが引き起こされることに疑いの余地はありません。

 

それにしても「がん原遺伝子」と言うのはおかしなネーミングです。

元々は細胞増殖の制御に関わる「まともな」遺伝子です。

なのに、本来の機能を表現した名前ではなく、ガンとの関連を強く示唆するような名前になっていることに、私は昔から違和感を覚えてきました。

 

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

 

「がん遺伝子発見物語」をお読み下さった読者の方は、がん遺伝子とがん原遺伝子発見の経緯についてはご存知ですね。

src遺伝子は、まさにガンを引き起こす遺伝子としてラウス肉腫ウイルスから発見されました。

「がん遺伝子」と名付けられて当然です。

 

しかし、がん原遺伝子は、当時はまだどんな働きがあるのかも分からず、ただ単に、がん遺伝子であるsrcに似た遺伝子として発見されただけです。(「だけ」なんて言うと、ビショップ先生とヴァ―マス先生に怒られますが。。。)

で、後になって、やはりビショップとヴァーマスが、これが変異するとがん遺伝子に豹変するのだと解明したのです。

なので、がん遺伝子(oncogene)の原型(プロトタイプ)であるとして、がん原遺伝子(proto-oncogene)と名付けられた、というか、話の流れ的に、発見の経緯的に、そう名付けざるを得なかったのですね。

ちなみに名付け親はビショップです。

 

もっと、遺伝子の機能とかが解ってから名付けていれば、こんなへんちくりんな名前じゃなく、その機能に見合ったふさわしい名前を得たはずです。

可哀そうながん原遺伝子くん。

 

さて、「だけ」なんて無礼なことを言ってしまいましたが、ビショップとヴァーマスの業績は、ガンが遺伝子の異常による病気であることを決定づけ、発がんメカニズムへの深い理解と、それらの知見に基づいた新たな診断方法、新たな治療薬の開発につながりました。

がんの分子標的薬などは、まさにこのような多くの科学的な知見の積み重ねがあってこそ生まれてきたものです。

これらのことは全て、ビショップとヴァーマスの業績があったればこそです。

 

ビショップは、自身の業績についてこう評しています。

「がん解明に向けて、人類はついに確かな手掛かりを得ました。この発見を糸口として、がんという致命的な病気の秘密もいずれ明らかにされるでしょう。(中略)がん征服はもはや夢物語ではありません。生物医学に30年もたずさわって来て、初めてそう信じるに至りました」

 

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

「名は体を表す」と言いますが、「がん原遺伝子」という呼び名は如何にも誤解を生みます。

全然、体を表していません。

 

おかげで私は、がん原遺伝子の説明をするときに、いちいち、「いや、別にこの遺伝子がガンを引き起こすわけではありませんよ。本来の機能は、、、」と、がん原遺伝子くんの弁護から始めるのが常です。

正直、めんどくさいです。

名付けた研究者たちも、きっと同じ思いをしてきたはずです。

「いちいちめんどくさい。別の名前にすりゃあよかった」と(笑)

 

実際、研究者たちも「がん原遺伝子」と言う言葉を使うことはほとんどありません。(少なくとも私はほとんど聞いたことがありありません)

なんと、日本語版ウィキペディアには「がん原遺伝子」という項目はありません。

生物学史上の重大発見にもかかわらずです!

ウィキでは、「がん遺伝子」の項目の中で、がん遺伝子について説明するために、必要に迫られて「がん原遺伝子」について触れているみたいな体(てい)です。

(しかも間違ってるし。。。)

がん遺伝子 - Wikipedia

何たる不当な扱い!

 

実際には、多くの研究者が「細胞増殖調節遺伝子」とか、その他、より本来の機能を表すような呼称を便宜的に使っていることが多いようです。

それはやはり、「がん原遺伝子」と言う名称を使うことで、ひとに誤解を与えることを恐れてのことではないでしょうか。

 

断言します!

もはや「がん原遺伝子」という名称は無意味です!

 

「がん原遺伝子は、がん遺伝子の元になる遺伝子」ではなく、「細胞増殖を制御するある種の遺伝子が変異を起こすことによって、時にがん化の原因になる」という正しい理解を得られるよう、是非、今からでも名前変えちゃって下さい。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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