Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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079【ピノコは実在するのか!?】16歳少女の卵巣から髪の毛と頭蓋骨、そして脳までも!!

目次:

1.衝撃の事実! 少女の卵巣から人体の一部が!!

2.ピノコは実在するのか!?

3.受精しなくても体はできる!!

4.テラトーマからピノコは生まれない!

5.医学の進歩が子供の夢を壊したのかな?

 

今年初めての記事アップです。

本年もよろしくお願い致します。

 

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皆さんの中にも大好きな方、たくさんいらっしゃるでしょうね。

手塚治虫御大のブラック・ジャック

私は中学生のときに見事にはまってしまい、それで「外科医になりたい!」と強く思ったもんです。

ちょこっとの血を見ても貧血起こして、へたれてしまうクセに。(笑)

でも、あのクールでニヒルでひねくれたBJのキャラクターには、すっかり心酔してしまいましたねぇ。

BJの影響は大きかったですよ。その後の人生を左右したのは間違いない。

医学に興味を持ったのは明らかにBJの影響であり、こうして今、生命科学界の末席を汚すことになったのだと断言できます。

きっと、私の素直じゃないひねくれた性格も、ひとえにBJの影響でしょう。

それは間違いないよ。(笑)

 

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1.衝撃の事実! 少女の卵巣から人体の一部が!!

 

昨年(2017年)4月、下のような論文が、滋賀県立成人病センターの医師たちから発表されました。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

「成熟した卵巣性奇形腫(テラトーマ)に小脳と脳幹みたいな構造が:神経病理学的観察」

 

いや、驚きました!

虫垂炎(いわゆる盲腸)の手術を受けた16歳の少女の卵巣から、偶然にも、ななな、な、なんと、人体の一部が発見されたというのです。

後日、手術で取り出してみると、全体で10cmくらいの大きさで、そこには小脳と脳幹の形をした組織というか、臓器というか、それから頭蓋骨みたいのと、毛髪が含まれていたというのです。

驚くべきことに、この脳モドキの組織は、神経細胞の間で電気信号の伝達が出来ることが確認されたと言います。

つまり、脳としての最も基本的な機能を保持していたということなのです。

 

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少女の卵巣から取り出された、小脳様の組織

 

2.ピノコは実在するのか!?

 

ここで私が言いたいこと。もうお分かりですよね?

誰もが「ブラック・ジャック」のピノコを連想したと思います。

 

ピノコは本来、双子の姉妹となるはずだったのが、片方の体がバラバラの状態でもう一人の姉の体内に収まった状態で生まれ、その姉が18歳になったときにBJによって取り出されたのでした。

この一そろいの臓器がBJによって、人工の皮膚で覆われた骨格に収められ、組み立てられたのがピノコでした。

当然、SFとしてしか受け入れられない設定ですが、今回の滋賀県の少女のケースは、論文発表までされた真実の出来事なのです。

 

ブラック・ジャック」の中で、ピノコの場合は「畸形嚢腫」との診断でした。

調べてみると、医学的に「畸形腫」という診断名はないようですね。

ブラック・ジャック」という漫画世界の中での、架空の病気だと思われます。

 

で、今回の滋賀県の少女の診断名はと言うと、「奇形腫(テラトーマ)」です。

「畸形腫」と「奇形腫」

言葉は非常に似ていますが、滋賀の女の子とピノコとでは、事情は随分違うようですよ。

 

Teratoma(テラトーマ)とは、teras(化け物)とoma(腫瘍)とから作られた言葉で、日本語では「奇形腫」です。腫瘍ですから「がん」ですね。

 

普通の「腫瘍」、つまり臓器にできる「癌」や筋肉や骨にできる「肉腫」というのは、たいていは無秩序に増えた結果、ただ硬くて大きな塊を作ります。

そこに複雑な構造体は見当たりません。

でも、テラトーマは、腫瘍でありながら、普通の臓器に近い複雑で精緻な構造を形成することがあるのです。

信じがたいことですが。。。

なぜなのか??

 

3.受精しなくても体はできる!

 

人に限らず、ほとんどすべての動物は、精子卵子が受精してこそ初めて赤ちゃんが出来ることは、性教育を受けていれば、小学生でもご存知!

有性生殖」という、生命現象の常識中の常識です。

でも、21世紀に入って、この大常識が覆されました!

人類の英知! 恐るべし!!

 

これ、何の話か分かります?

そう、「iPS細胞」です。

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

過去ブログの繰り返しになるので、詳しくは書きませんが、「分化した」、別の言い方をすれば、「成熟した」細胞が、どんなタイプの細胞にでもなり得る受精卵のような状態に戻ることはあり得ない!というのが、生物学の大・大・大常識でした。

この、神が作った「絶対的原則」とも思える生命現象の壁を見事に打ち破ったのが山中伸弥先生です。

基本的には体のどんな細胞でも、わずか数種の遺伝子を適切に働かせれば、受精卵のような初期状態にリセットできるのです。

この初期状態からは、どんな細胞にでも、理論的にはどんな組織・臓器にでもなり得ると考えられます。技術的な困難性は置いといての話ですが。

 

今回の卵巣から見つかったテラトーマは、「卵巣性テラトーマ」といいます。

実は、卵巣の細胞でも、精巣の細胞でも、将来、生殖細胞になる細胞がガン化すると、受精もしていないのに分化を始めて、組織や臓器の形を形成することがあるのです。

生殖細胞の腫瘍が組織形成するメカニズムについては、まだよく分かっていないようですが、恐らくガン化に伴う異常な遺伝子の働きによるものでしょう。

 

生殖細胞というのは、受精をした後、ある特定の遺伝子が働くことによって分裂と分化を開始して、組織や臓器、そして体を形作っていくわけです。

テラトーマは腫瘍ですから、間違いなく異常な遺伝子が発現しているでしょう。

このときに、テラトーマの細胞の中で、様々な細胞種に分化するのに必要な遺伝子が働いたとすれば、組織や臓器のような形を形成していくこともあり得ます。理論的にはです。

 

生殖細胞ですらなくったって、たった3つ、ないし4つの遺伝子の働きで、体のどんな細胞も初期化され、どんな組織・臓器にでもなり得ることは、アフター・ヤマナカの現在では、もはや常識中の常識なのです。

だから、テラトーマが腫瘍であるが故に、そのような遺伝子が異常な状況下で働いたとしたら、がん化した細胞が分化を始めて、何らかの臓器みたいな形を作ったとしても、決しておかしくはないのです。

このように、生殖系の細胞の場合、他の体の細胞と違って、受精しなくても、ガン化によって分化を開始し、組織や臓器のような形を形成する能力を潜在的に持っているのですね。

 

4.テラトーマからピノコは生まれない!

 

ですから、要は、テラトーマは双子の片割れなどではないのです。

単に、自分の生殖細胞がガン化したもの、ということだけなのです。

Xファイル」チックな、とってもミステリアスな滋賀県少女のテラトーマですが、どんな形をしていようと、結局は「腫瘍」です。

ピノコみたいに、あの脳が何かを感じたり、ものを考えたり出来たわけではありません。

単に、電気信号の受け渡しをする機能を備えていたということに過ぎませんから。

 

幸いにも、だいたいの卵巣性奇形腫は良性だそうです。

滋賀県の少女も、その後の経過は良好だと、あるサイトには書かれていました。

 

5.医学の進歩が子供の夢を壊したのかな?

 

私らが子供のころは、医学で解明できない奇病なんかをネタにして、上質のミステリーが作られて、私たち子供をゾクゾクさせてくれたものです。

でも、そんな数々の奇病も、医学と生命科学の進歩によって理解が進んだことで、結構ドライに捉えられるようになったのではないでしょうか。

 

例えば、「エクソシスト」の悪魔憑きも、「実はフツーの病気なんですよ」とドライに説明されると、なんか興冷めしたというか、ファンタジックなフィーリングが失われたというか、あれほど好きだった映画が、一瞬色あせて見えたようにも感じたものです。

子供のころの夢が壊されたような喪失感です。。。

takyamamoto.hatenablog.com

 

他には、「ルパン三世」に出てきたクローン人間の「マモー」。

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とてもミステリアスでファンタジックなキャラクターでしたが、現実にクローン羊「ドリー」なんかが作られて、産業での実用化には、やれ発ガンリスクがどうだとか、クローン人間を作ることの倫理的問題がどうだとか、超現実的な問題点が指摘され、議論されると、ファンタジーなんか吹っ飛んでしまいましたよ。

「クローンなんてできて欲しくなかった。。。 そうしたら、クローン人間は永遠にファンタジックなテーマであり続けたのに」、なんて思ったりもしましたね。

 

そうそう。

思い出すのですが、「ブラック・ジャック」の「人面瘡」ってエピソードはすごく秀逸でした。すごく怖かったですよ。

「ブラックジャック 人面」の画像検索結果

 

子ども心に「こんな病気あるわけない」と思っていても、あのころ感じたゾクゾク感。今でもリアルに思い出すことが出来ます。

 

そうだ今晩、どこかのダンボールに押し込められている「ブラック・ジャック」の単行本(ほとんどが初版本)を引っ張り出して、子供のころのゾクゾクを再度味わってみようか。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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