目次
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復習:なぜ、私たちの体には自己に反応する免疫細胞が存在するのか?
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告白します! 過去ブログの図は間違っています!
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自己反応性免疫細胞ができることは織り込み済み!
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獲得免疫は抗原特異的
残念ながら、今年の日本人のノーベル生理学・医学賞受賞はなりませんでしたね。
やはり、期間を置かないと、同じ分野からの受賞は難しいようです。
そりゃそうです。多くの分野で輝かし業績を出している人が沢山いるのですから。
「体内時計」ですか!
こりゃまた渋いところを突きましたな。
流石カロリンスカ研究所! 素晴らしい選考だと思いますよ。
しかし、「断言」しよう。
来年こそ、制御性T細胞の坂口志文先生と免疫チェックポイント阻害剤の本庶佑先生のダブル受賞間違いなしです!!
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1.復習:なぜ、私たちの体には自己に反応する免疫細胞が存在するのか?
さて、超久しぶりに制御性T細胞(Treg;ティーレグ)のお話を致しましょう。
それも、Tregを深~~~く、掘り下げたお話です。
まずは、これまでのお話の復習を致します。
1995年に志文先生がTregを発見する以前は、なぜ我々の体に自己反応性の免疫細胞が存在し、自己免疫疾患に罹るのかが大きな謎でした。
なぜなら、例えばT細胞の場合、全てのT細胞に胸腺で自己と非自己とを見分ける教育を受けさせて、自己に反応する不良細胞を排除する「負の選択」の仕組みが備わっていることが知られていたからです。
自己免疫疾患を引き起こす不良細胞は、この負の選択を逃れて胸腺から出てきたに違いありません。
つまり、自己免疫疾患になる人は、この負の選択のシステムに何らかの不具合があり、その結果、不良たちを始末しきれないに違いないという考え方がありました。
では、そのシステム不良の原因は何か?
それを突き止めようとした研究者もいたようです。
ところが、今だからこそ分るのですが、彼らは見当違いを探していたという訳です。
志文先生によってTregが見つけられてみると、健康な人にでも誰にでも、自己反応性の免疫細胞があるのが当たり前だということが分かったのです。
そのTregが、自己反応性の免疫細胞が悪さをするのを抑えてくれるので、ほとんどの人が自己免疫疾患にならずに済んでいるのですね。
そう考えると、自己免疫疾患の人は、Tregの機能に異常があるということになります。
現在、機能異常のTregを正常化させることによって、自己免疫疾患やアレルギー性疾患、さらには、臓器移植における拒絶反応をも抑える方法が盛んに研究されています。
2. 告白します! 過去ブログの図は間違っています!
過去ブログ【038】で掲載した図を、もう一度お見せします。
実はこの図、正確ではありません。
話を複雑にしないために、あえて若干ですが、事実とは異なる図にしたのです。
問題なのは、下の図の④と⑤ですね。
この図では、MHCに載った自己抗原に強く反応する細胞は、害をもたらすため抹殺されます。
これが「負の選択」です。
そして、MHCと自己抗原にほどほどに反応するわずか2%の細胞がスーパーエリートとして生き残って、その後、ヘルパーTやキラーT、Tregに変化(分化)していくのです。
そして、生き残った「スーパーエリートからTregが生まれる」というところが、白状すると、事実とは違うのです。
3.自己反応性免疫細胞ができることは織り込み済み!
より正確な図を下に示します。
実はTregは、自己抗原に強く反応した不良細胞から生まれるのです! ええッ!?
図の米印※の部分です。
自己抗原に強く反応する前駆T細胞は、ほとんどがアポトーシス(細胞の自殺)を起こして死滅します。
ところが、ごく一部の不良細胞は生き残るのです。
どうしてか?
知りません!
胸腺学校の「負の選択」のシステムが元々不完全なのか、あえてごく一部が生き残るようになっているのか、私には解りません。
しかし、私たちの免疫系にすれば、一部の自己反応性免疫細胞が生き残ることは「先刻承知」、つまり「織り込み済み」なのです。
負の選択をすり抜けた不良細胞。
これは私たちの体に害をなす危険な存在です。
しかし、そのような不良細胞を完全には除き切れないのが、実は私たちの体というものです。
では、どうすれば、この不良たちから私たちの体を守ることができるのか!?
理にかなった効率的なシステムがなければ、私たちは誰も健康に生きることは出来ません!!
この問いに対する答えが、「負の選択」をすり抜けた不良細胞の中からTregを生み出すという仕組みなのです。
「自己反応性免疫細胞が存在するのは異常」から、「自己反応性免疫細胞が存在するのは当たり前」へ。
真理は実は真逆だったのです。
4.獲得免疫は抗原特異的
T細胞や抗体を作るB細胞などが活躍する獲得免疫は「抗原特異的」です。
これまで何度もお話してきた「抗原特異性」ですが、もう一度説明しておきますね。(初めての方にも解るように)
B細胞が作る抗体にせよ、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃するキラーT細胞にせよ、ひとつの獲得免疫細胞は、ある特定の抗原にしか反応できません。
はしかのウイルスに反応する獲得免疫細胞は、おたふく風邪のウイルスには全くの無力なのです。
また、逆も然りで、おたふく風邪ウイルスを攻撃する獲得免疫細胞は、はしかにも、水疱瘡にも、HIVにも全くの無力です。
特定の抗原にしか反応しない。これが「抗原特異的」と言うことです。
Tregも獲得免疫細胞ですから、基本的に「抗原特異的」に働きます。(例外もありますが、ここでは触れません)
例えば、1型糖尿病の患者さん。
すい臓のランゲルハンス島β細胞を攻撃するキラーT細胞が存在しています。
恐らく、多くの人が普通にβ細胞を攻撃するT細胞を持っているのだと思います。
それでも1型糖尿病にならないのは、β細胞に反応するT細胞を抑えるTregが存在するからなのです。
基本的にβ細胞に反応するT細胞を抑えるTregは、他の抗原に反応するT細胞を抑えることは出来ません。(例外はありますが、ここでは触れません)
つまり「抗原特異的」です。
このβ細胞に特異的なTregがどこから生まれるのかというと、もともと胸腺で「負の選択」から逃れた、β細胞を攻撃する前駆T細胞なのです。
元が自己のβ細胞に反応する前駆T細胞から生まれたのですから、そのTregが抗原特異的にβ細胞を攻撃するT細胞を抑えられるのも当然と言えば当然なのです。
スッゴク合理的なシステムじゃありませんか?
つまり、私たちの体は、最初から自己反応性の免疫細胞ができることを承知していて、それを抑えるTregができる仕組みを備えているのです。
なんて賢い! 人間なんかよりはるかに賢い!
生物の進化には無駄もあるが、極めて合理的で賢い!
しかし、それを解明した人類もなかなか賢いぞッ!
来年こそ、志文先生(笑)
結局、そこに落とし込むのかよ(笑)
今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。
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