Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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074【制御性T細胞が流産を防いでいるのか?】

目次

1.ヒトのTrge研究は難しい!

2.不妊の原因のひとつはTregの機能異常なのか?

3.ついに見つけた! 妊婦ではTregが増えているという論文!!

4.Treg研究は、21世紀の医療のメインストリームとなるだろう!

 

前回の【073】に続き、制御性T細胞のお話です。

 

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1.ヒトのTrge研究は難しい!

 

以前、制御性T細胞(Treg)の不調が、ある種の不妊の原因になっているのかもしれないというお話をしました。

045【原因不明の不妊はTregの不調が原因か?】驚異のグルカンベイビー! - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

DNAの半分が他人の男性のものである受精卵や胎児は、母体にとっては異物です。

受精した瞬間(正確には、「受精後、様々な遺伝子が動き始めた瞬間」)から、免疫系が受精卵を異物として認識して、排除に動き出しても、ちっともおかしくありません。

その結果、不妊につながり得るのです。

 

「受精卵 画像」の画像検索結果

受精卵 こいつは異物だわ!

 

マウスなどの妊娠動物では、制御性T細胞(Treg)が子宮に多く集まっていることが確かめられていました。

近年、動物の命を犠牲にする動物実験への批判が強まりを見せていますが、それはともかくとして、マウスなどでは、と殺して臓器を取り出し、遺伝子やタンパク質や細胞などをいろいろと調べたりできます。

ところが人間ではそうはいきません。

ヒトで調べられるものと言えば、血液とか尿、唾液、痰、髪の毛とかせいぜいそのくらいですね。

髄液(脳脊髄液)とかを使うこともありますが、危険だし、麻酔してても痛いらしいし、それ相応の目的がないと、おいそれと採取できるものではありません。

 

以前、そう5~6年くらい前までは、ヒトの血液中のTregの測定には様々な問題があり、正しく分析することができませんでした。

つまり、免疫反応を抑制する機能を保持したTregのみを正しく測れているのかどうかが、いまいちよく分からなかったのです。

ここ数年、ようやくヒトのTregをかなり精度よく測定する方法が確立され、ヒトの血液中のTregについての研究結果が多く発表されるようになってきています。

 

2.不妊の原因のひとつはTregの機能異常なのか?

 

過去ブログ【045】で、長年不妊に悩んだ女性が、βグルカンを飲み始めてまもなく妊娠したという話をしました。

それも、一人だけではありませんでした。

βグルカンに効果があるとすれば、考えられる不妊のメカニズムは、Tregの不調です。

Tregが何らかの原因でうまく働かないため、免疫系が受精卵または胎児を攻撃するのを抑えられず、その結果、本人も知らないうちに流産していたということです。

いくら検査しても、精子にも卵子にも異常が認められない。なのになぜ妊娠できないのか?

いや、このようなケースでは受精はしていたと考えられるのです。

そして、βグルカンの免疫調整能力がTregの機能を正常化して受精卵/胎児への攻撃を抑えている、と考えられないでもないのです。(あくまでも仮説です)

しかし、妊婦(もちろん人間)でTregが増えているとかという研究報告は、これまでほとんどありませんでした。

ましてや、βグルカンが不妊に効くなんて証拠は皆無です!

 

3.ついに見つけた! 妊婦ではTregが増えているという論文!!

 

最近、Tregに関する情報収集を怠っていたのですが、久しぶりに別の目的のために論文検索をしました。

そして、偶然、妊婦の血液中のTregの動きを調べた論文を、ついに発見したのです!

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

この論文の研究では、43人の健康な妊婦と、35人の妊娠していない健康な女性について調べています。

妊婦の方は、妊娠後期(妊娠10か月目)と出産した日、出産後に採血して、Tregの数を調べています。

結論を簡潔に述べると、妊娠後期では、非妊娠女性に比べて確かに血中のTregは増えており、出産日(おそらく出産直後だと思います)には、既にTregの数は減り、出産数日後には通常レベルに戻るということです。

これまでにも、妊婦では甲状腺炎などの自己免疫疾患の症状が良くなることが知られていました。

これは、妊娠して増えたTregが、一時的に自己反応性免疫細胞を抑えているからだと推測されました。が、いかんせん、直接的な証拠はなかった。

この論文の著者らは、「我々の研究結果は、妊娠が自己免疫疾患の症状に及ぼす影響について、ひとつの説明を提案するものだ」と結論付けています。

 

4.Treg研究は、21世紀の医療のメインストリームとなるだろう!

 

自己免疫疾患やアレルギー性疾患は言うに及ばず、移植臓器の拒絶反応の抑制方法などの研究が盛んにおこなわれています。

また、逆にTregを抑制することで、がんやウイルスに対する防御反応を増強することも可能です。

本庶佑先生が生み出した免疫チェックポイント阻害剤などは、まさにその代表ですね。

takyamamoto.hatenablog.com

 

Tregが医療の進歩にもたらし得る大きな可能性を考えると、坂口志文先生と本庶佑先生のノーベル賞受賞も時間の問題と思えてならないのです。

(やっぱりそこに落ち着くのか?)(笑)

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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