Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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037【自己免疫疾患のなぞ】「なぜ自分を攻撃する免疫細胞が存在するのか?(その1)」

目次:

① T細胞の養成学校「胸腺」

② ご入学おめでとうございます

③ 自分であることの目印「MHC」

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

「俺はガンについて語らせたら何時間でもしゃべれる! 10回はやって見せるぜっ!!」と豪語しておいてなんでは御座いますが、またまた自己免疫疾患の話をさせて下さい(ゴメンなさい)

私の悪い癖なのですが、気まぐれで飽きっぽい性格なのです。。。

 

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「自己」と「非自己」を識別するのが免疫の基本中の基本です。

なのになぜ、自己免疫疾患の患者では自己反応性免疫細胞が存在するのか?

1995年に坂口志文先生が制御性T細胞を発見されるまでは謎でした。

この発見により、健康な人でも誰でも、自己反応性免疫細胞を持っているのが当たり前、ということが明らかになったのでした。

017【自己免疫疾患と制御性T細胞】 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

でも、それ以前は、人間の体には自己反応性免疫細胞を取り除く仕組みが備わっていることが知られていて、そのために、健康な人には自己反応性免疫細胞はないんだという考え方が普通でした。

自己免疫疾患の人は、きっとこの自己反応性免疫細胞を取り除く機能が異常なんだということですね。

 

これまでにもお話した自己免疫疾患ですが、この病気の理解を更に深めるために、我々の体が、自己に反応する免疫細胞をどのようにして取り除いているのかについてお話ししましょう。

 

① T細胞の養成学校「胸腺」

 

全ての血液の細胞は、骨の髄、すなわち骨髄で造られます。

ここに「造血幹細胞」というのが詰まっており、将来、赤血球や白血球、血小板など全ての血液細胞へと成熟していくのです。

でも、どの幹細胞がどの血液細胞になるのかということは、この時点では全く決まっていません。

逆に言えば、ひとつの幹細胞は、どの血液細胞にでもなる可能性があります。

 

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図 免疫細胞の赤ちゃんは胸腺へ 

 

さて、免疫細胞も、すべてこの血液幹細胞が成熟してできます。

免疫細胞の赤ちゃんである幹細胞は、少しずつ成長しながら「胸腺」という組織に入ります(図の①)。

 

胸腺というのは、胸骨と心臓の間辺りにあるリンパ組織です。

胸腺は、いわば免疫細胞の「学校」です。

学校であるからには何か教えてくれるのでしょうか?

ズバリ、自己と非自己の見分け方です。

 

補足ですが、胸腺で教育される免疫細胞はT細胞です。

B細胞の教育の仕組みは、T細胞とはまた違うのですが、B細胞の方はまだ分かっていないことも多く、ですので、ここではT細胞と胸腺のお話を致します。

 

② ご入学おめでとうございます

 

さて、よちよち歩きの免疫細胞の卵たち、胸腺学校に入学した後に待ち受けているのは、彼らのあまりにも過酷な運命なのです。

 

入学した時点では、彼らはどのような免疫細胞になるとも決まっていません。

でも胸腺学校に入学したということは、「T細胞になることを義務付けられた」ということです。

胸腺学校の入学生たちに他の進路はありません。T細胞だけです。

なぜなら、胸腺は「T細胞養成専門学校」だからです。

そのスパルタ振りは、悪役レスラーを専門に養成する、タイガーマスクの「虎の穴」さながらなのですよ。

 

一口にT細胞と言っても、ヘルパーTとか、キラーTとか、Tregとか色々な「職種」がありますが、この時点ではまだ、どれになるのかは決まっていません。

入学した時点では、理系とも文系とも決まっていないようなものですね。

 

③ 自分であることの目印「MHC」

 

胸腺の中にはストローマ細胞という上皮細胞があります。

ストローマ細胞の表面には、色々な種類のタンパク質がくっついています。

その一つが「MHC」というタンパク質です。

MHCは、いわば「自分の顔」です。あるいは、自分であることを証明する「ID」と言ってもいいでしょうか?

MHCとは、実は本ブログ【025】でお話した「免疫の型」HLAのことです。

HLAは人それぞれ皆違うと言いました。即ち、MHCは皆違うわけです。

025【人類はウイルスなんかで絶滅なんてしない】「免疫は人それぞれ万差億別」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫細胞は、その細胞が自分の細胞か別人の細胞かを見分けることができます。

なぜなら、全ての細胞にはこのMHCが表面にあるからです。

MHCは自分の顔ですから、見れば分かる訳ですね。

他人の臓器を移植しても拒絶されるのは、その細胞の顔(MHC)が違うのを免疫細胞が認識するからです。

「お前、俺と違うやんけ!なんでここにおんねん!?」という訳で、その臓器を攻撃します。

 

骨髄移植では、他人では決して完全に一致するはずのないHLA(MHC)ができる限り似た人を骨髄バンクの登録者から探し出して、その人にドナー(提供者)になってもらいます。

患者(レシピエント)に移植されたドナーの骨髄細胞にもMHCはあります。

でも、このドナーの骨髄細胞のMHCは、患者のMHCととてもよく似ている訳です。

まさしく「他人のそら似」ってやつですね。

で、免疫細胞としては、「なんか自分のような、ちょっと違うような。。。まっ、ええかっ!?」てな具合に攻撃を控える訳です。

それで骨髄移植が上手くいくという訳なのですねぇ。

 

登録バンクのある骨髄移植はまだいいです。

登録者の中から、できるだけHLA(MHC)の合うドナーを見つけることができますから。

生体肝移植なんかでは、他人よりはHLA(MHC)が近い近親者から肝臓の提供を受けます。

 

脳死した他人からの臓器移植に至っては、HLAが適合する待機患者を探している暇はありません。

HLAが合おうが合うまいが、無理やり強引に移植することもあります。

そのような場合には、拒絶反応を抑えるために、強力な免疫抑制剤の使用が必要です。それも一生。

 

とまあ、免疫細胞がどうやって自分の細胞と他人の細胞とを見分けるのか、骨髄移植や臓器移植を例にとって説明しましたが、お分かり頂けたでしょうか?

 

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

成熟T細胞というのは抗原特異的に働きます。

つまり、特定のT細胞は特定の抗原しか認識できないし、攻撃できません。

 

「抗原」、すなわち私たちの体にとっての「異物」とは、それこそ無数にあります。

私たちの体としては、この無数とも言える異物に対して対抗できる策を講じておきたいところです。

つまり、無数のすべての抗原に反応できるT細胞を装備しておくことが理想です。

実際には「無数」というわけにはいきませんが、私たちの体には数百億種類、数千億種類の抗原に対応できるT細胞が「あらかじめ」備えられています。

 

胸腺の話に戻りましょう。

 

T細胞の卵たちは、胸腺学校に入学後、遺伝子にランダムな組換えや変異が起こり、それぞれに違う個性を獲得していきます。

そうすることによって、様々な抗原に対応できるように、それぞれが異なる個性を持ったたくさんの「前駆T細胞」へと成長します。

 

ところが、この様々な個性を持った前駆T細胞たちの中には、自分の抗原、すなわち自己抗原に反応するものが、どうしても育ってしまうのです。

そのような前駆T細胞が胸腺を出て、体中を駆け巡るとまずいことになります。

すなわち、自己免疫疾患になる可能性があるわけです。

 

そこで、胸腺学校を出て、一人前の成熟T細胞として世に出る前に、厳しい卒業試験を受けなければなりません。

自分を攻撃するような「不良」を社会に出すわけにはいきませんからねぇ。

 

一体、どんな試験なのか?

胸腺のストローマ細胞の話に戻りましょう。

 

ストローマ細胞の表面にもMHC(自分の顔)がたくさんあり、「自分の細胞ですよ~」とアピールしています(図の②)。

MHCはお皿のような形をしています。

なんでお皿のような形をしているのかというと、実際、このお皿の上に何かを載せるためです。

何を載せるかというと、「抗原」です。しかも自分の抗原、「自己抗原」です。

卒業候補生の前駆T細胞たちが、このMHCのお皿の上にのっかった自己抗原にどのような反応を示すか? これが卒業試験の内容です。

では、どうやって合否を決めるのか? 合格率は? 試験に落第したらどうなるのか?

 

落第者には過酷な運命が待ち受けています!

長くなりましたので、続きは次回! ごきげんよう!さようならッ!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

次回の続編もよろしくお願いします。

 

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