Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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062【免疫チェックポイント阻害剤が効かない訳が解ってきたって?】トール様受容体の大切さ(その1)

 

本ブログ【021】にて、第4のがん療法と目される、がん免疫療法の薬「免疫チェックポイント阻害剤」のお話をしました。

なにしろ、既存の治療法に見放された末期のメラノーマ(悪性黒色腫)患者の何割かが延命するのですから、凄い薬だということでした。

そして、これこそ本来私たちが持つ免疫力の凄さなのだということでした。

takyamamoto.hatenablog.com

 

一方、本ブログ【048】では、免疫チェックポイント阻害剤が効かない患者、効きにくいがん種というのが存在し、そのような人や、そのようなガンに効かない理由が、まだあまり解っていないのだということでした。

takyamamoto.hatenablog.com

 

ところが、極々最近(5月末)に、免疫チェックポイント阻害剤によって、がん細胞が免疫細胞にブレーキをかけているのを解除するだけでは、免疫力本来のパワーを引き出すには不十分なことを示す論文が、北大から発表されました。

http://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(17)30640-X?_returnURL=http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S221112471730640X?showall=true

 

私はしばしば、「免疫チェックポイント阻害剤が、私たちが持つ免疫本来の力を引き出す」と言いましたが、この論文によって、この薬だけでは、本来の免疫力を十分には引き出せていないことが示されたのです。

 

この論文では、がんのマウスに免疫チェックポイント阻害剤を投与すると同時に、自然免疫を賦活化する成分を投与しています。

このような、免疫賦活能を持つものをアジュバントと言います。

 

皆さん、予防接種(ワクチン)を打ったことがありますよね。

多くのワクチン接種の目的は、特定の病原体に対する抗体を作らせることですが、ただ抗原を注射しただけでは抗体なんて簡単にはできないものなのです。

ではどうするかというと、免疫を上げる成分をいっしょに打つことで免疫系を敏感にし、それによって抗体ができやすくすることができます。

古くから、抗原といっしょに結核菌の死菌体や鉱物油を打つことで免疫ができやすくなることが知られており、今では効果の高いアジュバントが開発され、ワクチンに利用されています。

 

さて、今回の論文では、免疫チェックポイント阻害剤といっしょに、免疫を賦活化するアジュバントをいっしょに投与しています。

これは、北大が独自に開発した新しいアジュバントです。

 

さて、このアジュバント。どうやって免疫を賦活化するのかというと、自然免疫の細胞で、異物を食べて、その情報をヘルパーT細胞に教える役割をもつ「樹状細胞」を活性化します。

樹状細胞については【019】でお話しています。

takyamamoto.hatenablog.com

 

樹状細胞が活性化すると、ヘルパーT細胞を活性化し、ヘルパーT細胞が活性化すると、がん細胞を殺傷するキラーT細胞が活性化します。

しかし、多くのがんでは、がん細胞がヘルパーT細胞にブレーキをかけているため、樹状細胞がヘルパーT細胞を活性化しにくい状況になっています。

つまり、がん細胞が自ら、自身にとってパラダイスの環境を作り出し、この世の春を謳歌している訳です。

 

さて、そこに免疫チェックポイント阻害剤に加え、アジュバントを同時に投与すると、パワーアップした樹状細胞により、ヘルパーT細胞の活性化がずっと起こりやすくなります。

こういう訳で、免疫チェックポイント阻害剤とアジュバントのダブル効果で、がん細胞をやっつけるキラーT細胞が最大パワーを発揮できるという理屈ですね。

 

さて、このアジュバントが樹状細胞を活性化する仕組みですが、まず、アジュバントが樹状細胞の中に在る、ある種のタンパク質に結合するところから始まります。

このタンパク質はトール様受容体(Toll-like receptor; TLR)」と呼ばれます。

 

制御性T細胞を発見した坂口志文先生曰く、「現代免疫学の3大本流は『樹状細胞』と『トール様受容体』と『制御性T細胞』である!」

私は、本ブログにて制御性T細胞については、さんざん触れ回ってきました。

樹状細胞についても少しだけ触れました。

ところが、トール様受容体については全く話していませんでしたね。

 

米国のブルース・ボイトラー博士は、2011年にトール様受容体発見の業績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

しかし、トール様受容体の研究に関しては、日本がブッチギリで世界の先頭を走ってきました。

その世界的第一人者が大阪大学教授の審良(「アキラ」と読みます)静男先生です。

 

「審良静男」の画像検索結果

審良静男 大阪大学免疫フロンティア研究センター教授

 

審良先生は、単にトール様受容体研究の第一人者というだけでなく、世界で最も多く論文が引用された研究者(つまり、研究者からもっとも評価された「研究者の中の研究者」)No.1にランクされた、免疫学研究の「世界王者」なのです。

審良静男 - Wikipedia

 

今まで、これだけ免疫の話をしながら、審良先生の話を全くしなかったとは如何なることかっ!!とお叱りを受けても致し方ない(笑)

 

今後、免疫チェックポイント阻害剤の問題の解決にトール様受容体が重要なカギを握っていることが明らかにされるとなると、益々、審良先生の業績が高く評価されることになりそうです。

 

次回以降、トール様受容体発見の物語と、引き続き、トール様受容体が免疫系にとって如何に重要な存在であるのかについてお話します。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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