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072【「エクソシスト」のリーガンは悪魔憑きではなかった!?】「抗NMDAグルタミン酸受容体抗体脳炎」とは?

目次:

1.アメリカで本当にあった「憑依(ひょうい)事件」?

2.メリーランドの憑依少年は病気だった!

3.「抗NMDA受容体抗体脳炎」の実態

4.悪魔憑きも、実は「免疫」が関わっていた!

 

最近は古い東映の時代劇とか観ますが、若い時は無類の洋画好きでした。

で、これまで観た何百本もの映画の中で、「お前のベストは何か?」と問われれば、何度考えてみても、エクソシスト(1973年)と答えるしかないです。

 

ゲテモノのオカルト映画と思われる節も多いかと思いますが、原作者であるウィリアム・ピーター・ブラッティ自らによる脚本はアカデミー脚色賞を受賞。

刑事映画の金字塔「フレンチ・コネクション」でアカデミー監督賞を受賞した奇才、ウィリアム・フリードキンによる映像(光と影)のこの上ない美しさ。 そして、BGMを極力抑え、音を際立たせた手法はアカデミー音響賞を受賞しました。

そしてなによりも、憑依(ひょうい)された少女を演じた、当時12歳(14歳だったかな?)の愛くるしい女の子、リンダ・ブレアの「鬼気迫る」という表現を超越した演技に世界が驚きました。

 

関連画像

リンダ・ブレア

 

その他、緊迫感に溢れたフリードキンの演出、視覚効果、特殊メイク、編集の妙など、すべてが最高水準の、極めてクオリティの高い芸術的な映画でした。

この記事を書くにあたって昨晩、久しぶりにディレクターズカット版を観てしまいました。(間違いなく100回は観てるよなぁ)

 

さてと、映画評はこのくらいにしておきましょう。

 

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1.アメリカで本当にあった「憑依(ひょうい)事件」?

 

原作者のブラッティは学生の時、1949年にアメリカのメリーランド州で実際に10代の少年に起きたという憑依事件のことを知りました。

このことが、後の「エクソシスト」の創作につながっていったわけですが、「エクソシスト」はもちろん完全な作り話です。

このメリーランドの憑依事件については、ネットを見ればいろいろな記述がありますし、このブログの本来の目的とはかけ離れていますので、ここで詳細に書くことは避けます。

しかし、人々は「悪魔憑き」と信じて、実際に神父を頼み、悪魔払いを執り行ったそうです。

 

大昔なら、迷信を信じて呪術師に頼るのも分かりますが、1949年と言えば「戦後」ですよ。本当に悪魔払いの儀式をしたとは驚きです。

信心深いキリスト教徒の多いアメリカということもあるのでしょうか?

 

でも、近年になって、はっきりと分かったことがあります。

それは、「悪魔憑きは神父には治せない」ということです(笑)

 

2.メリーランドの憑依少年は病気だった!

 

まずは、下のサイトの映像を是非ご覧ください。結構ショッキングです。

https://mainichi.jp/articles/20161207/k00/00e/040/223000d

 

「抗NMDA受容体抗体脳炎という自己免疫疾患です。

そして、メリーランドの憑依少年は、臨床的にはこの病気の症状に非常によく合致すると言います。

 

この病気は、ごく最近、2007年になって新しい疾患としての概念が提唱されました。

すなわち、それ以前は、このような症状(奇行、痙攣、幻覚、興奮、妄想など)を示す患者が出ても、医師にも原因が分からないため、患者の家族に説明できず、対症療法的な投薬治療を行っても効果なく、その結果、絶望の淵に落とされた家族が神様の力にすがろうと思ったのも無理からぬことかもしれません。

 

私は神経生理学には詳しくないので、調べたところをさらりとしか書けませんが、NMDA受容体とは脳の神経と神経のつなぎ目で信号を伝達している部分(シナプス)にある、グルタミン酸を受け取る受容体だそうです。

これに対して自己抗体ができて攻撃するのですから、当然、神経の信号伝達に障害が出ることは容易に想像できます。

 

3.「抗NMDA受容体抗体脳炎」の実態

 

日本で、この病気の第一人者と言えるのが、日本大学医学部教授の亀井聡先生です。

以下、この病気に関する亀井先生のインタビュー記事です。

https://mainichi.jp/articles/20161222/k00/00e/040/204000d

 

比較的新しい疾患概念のため、十分な知識を持った医師もまだ少なく、ほとんどの病院で治療実績がなく、一般にも病気としての認識が浅いため、適切に診断・治療されない問題や、やはり病気とは思えないほどの異常な症状から、「悪魔憑き」などと考え、家族も不適切な対応をしてしまうケースが多いようです。

患者の家族の会は、この病気の理解を広めることの重要性を訴えています。

 

でもこの病気、実は奇病でもなんでもなくって、結構、患者は多いようなのです。

そして、幸いなことにある種の薬が良く効き、高い確率で治るそうです。

 

2008年のLancet Neurologyの報告によると、調査対象の100名の患者のうち91名が女性で、患者の平均年齢は23歳と比較的若く、半数以上に何らかの腫瘍が見つかり、女性の場合、多くに卵巣奇形腫があったそうです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

腫瘍は、自己抗体反応を高める原因となる可能性が高いため、まず切除を行います。

それから、リツキシマブという抗がん剤(抗体医薬品)が良く効くそうです。

リツキシマブは、抗がん作用の他にも、関節リウマチや全身性エリトマトーデスなどの自己免疫疾患にも良く効き、この効果が抗NMDA抗体の産生抑制に働くと思われます。

 

死亡率ですが、2013年のLancet Neurologyの別の報告では、調査した577人の患者のうち、死亡したのは30人(6%)だそうです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

577人とかって大人数を対象に調査ができるのですから、本当に珍しい病気でもなんでもないのですね。

日本では、若い女性を中心に年間1000人程度が発症しているのではと推定されているようです。

https://mainichi.jp/articles/20170501/k00/00e/040/162000c

 

このような症状を見た場合、まずは神経内科を受診しましょう。

 

 4.悪魔憑きも、実は「免疫」が関わっていた!

 

驚くべきことに近代、実に20世紀中ごろまで「悪魔憑き」とされてきたものも、今世紀に入って、ようやく疾患としての概念が確立し、原因の理解も進み、有効な薬も用意されています。

 

なんとこの病気も自己免疫疾患と言うことで、「免疫」が関わっているのですね。

ここでも大事になってくるのが、制御性T細胞と言うことです。

takyamamoto.hatenablog.com

 

本ブログの熱心な読者の方はもうご存知。

制御性T細胞を正常に機能させるには、適切な食事内容と適度な運動によって腸内環境を整えること。そして、口腔ケアも大事です。

 

そして、子供には過度に清潔にしてはいけません。

キレイにしてると、制御性T細胞が育たないので、悪魔に取り憑かれちゃうぞ(笑)

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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