Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8)

目次:

①    ラウスの本当の偉大さ

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

③    「逆があった!」

④    がん原遺伝子の発見!

⑤    偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

前回【041】は、お陰様で好評です。

この続編で皆様のご期待に応えられるのか、すっごく不安なんですけど。。。(笑)

 

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①    ラウスの本当の偉大さ

 

半世紀もの時を経て、「道化師」から歴史に名を刻む「偉大な科学者」となったフランシス・ペイトン・ラウス。

 

ラウスが「道化」でないことを証明したのは米国のハワード・マーティン・テミンです。

テミンは、これをきっかけにラウス肉腫ウイルスの研究に没頭していきます。

また、このことが、「絶対」だと信じられていた生物学の「中心教義」を覆すような偉大な発見につながっていきます。

 

前回言い忘れたのですが、1966年のノーベル生理学・医学賞は、ラウスの単独受賞(ひとりだけ)です。

55年もかけてやっと正当に評価され、さらに、その偉業が彼一人の貢献によるものだと認められたのです。

こんな科学者っていないですよね。

 

私は、ラウスのことを「偉大」なんて言葉では、到底十分には言い表せていないと思うのです。

ラウスの業績は、テミンをはじめ、後に多くのノーベル賞受賞者を輩出することとなります。

ラウスが近代生命科学に与えた影響は計り知れません。

 

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

 

20世紀の生物学史上、最大の発見と言われるDNAの二重らせん構造モデル。

1953年に、ワトソンとクリックによってこのモデルが提唱される以前は、まだDNAが遺伝子の本体であるということは明らかではありませんでした。

驚くことに、タンパク質こそが遺伝子だと考える研究者の方が多く、ワトソンとクリックのように、DNAが遺伝子だと見ていた研究者の方がむしろ少数派でした。

 

その後、クリックは、遺伝暗号であるDNAの塩基配列の謎を次々と解明していきました。

それらの研究を重ねる中で、彼にはある確信が芽生えていたのです。

生命現象の中心的な教義とも言える絶対法則です。

 

DNAにはタンパク質のアミノ酸配列の情報が、4種類の塩基の並びの組み合わせで記録されています。

酵素がその配列を読み取り、一旦、DNAの配列をRNA、正確にはメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取ります。

mRNAの配列は、正確にDNAの配列情報を写し取っています。

このmRNAの配列が更に読み取られて、タンパク質が作られます。

 

「DNA ⇒ mRNA ⇒ タンパク質」

1958年、フランシス・クリックは、この流れは絶対的な「中心教義(セントラル・ドグマ)」であると提唱しました。

この逆はあり得ないと!

多くの研究者がこの考えを受け入れました。

まぁ、偉大なクリックの言うことでもあるし。。。彼と面と向かって議論するのはしちめんど臭いし。。。(笑)

 

③    「逆があった!」

 

ラウス肉腫ウイルスはRNAウイルスです。

RNAウイルスが細胞に感染した後、どのように振る舞うのかというと、セントラル・ドグマに従えば、ウイルスのRNAから直接タンパク質が読み取られることになります。

 

RNAはDNAに比べると、細胞内ではずっと不安定です。

そして、がんウイルスが感染したからと言って、細胞がガン化するには、それなりの時間が必要です。

そんな長い間、ウイルスのRNAが細胞内で安定して活動を続けられるというのは、少し不自然なようにも思えます。

 

「ウイルスのRNAからDNAができていると考える方が自然じゃないのか?」

テミンは1964年頃から、そのようなことを考えていたようです。

しかし、そんなこと、うかつに大っぴらには言えません。

今度は自分が「道化師」になってしまいます。

 

1970年、テミンは日本人研究者・水谷哲とともに、ラウス肉腫ウイルスがもつ、常識はずれの酵素を発見します。

DNAからmRNAが写し取られることを「転写」と言いますが、なんと、テミンと水谷はウイルスのRNAから塩基配列を写し取ってDNAに逆に転写する酵素を発見したのです。

 

テミンの洞察力は正しかったのですね。

賢明にも彼は、道化にならずに済みました。

 

こうして「セントラル・ドグマ」は崩れました!

生物学の教科書を書き換えなければなりません。

しかし、偉大な、あの「フランシス・クリックが間違っていた」と書き直さなければならないのですから、教科書の編集者には気の重かったことでしょう(笑)

 

そんな話はいいとして、この「逆転写酵素を利用することにより、不安定で扱いにくいRNAを安定なDNAに転換できるようになりました。

この逆転写の技術によって、その後のRNA研究は飛躍的に進歩することになったのです。

特に、RNAウイルスであるHIVC型肝炎ウイルスの研究に、この逆転写酵素は多大な貢献をしたのです。

私も逆転写酵素さまには大変お世話になりました(笑)

テミン先生、ありがとうございます😊

 

1975年、テミンは「逆転写酵素発見」の業績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞します。

因みに、ほとんどの実験を行ったのは水谷でしたが、彼は受賞を逃しました。

やはり、大事なのは、固定観念にとらわれない着想なのですね。

 

④     がん原遺伝子の発見

 

史上初めて発見されたがん遺伝子、ラウス肉腫ウイルスのsrc遺伝子。

Srcタンパク質の構造

 

1979年、米国のジョン・マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスは、ニワトリのゲノム、すなわち、ニワトリ自身の細胞の中に、このsrc遺伝子の配列に非常によく似たものを見つけました。

なんで、細胞のゲノムにウイルスのがん遺伝子が存在するのか?

 

そうなると当然、「じゃあ、ヒトはどうなのか?」となります。

果たして、我々ヒトの細胞にもsrcによく似た配列の遺伝子が見つかったのです。

 

ウイルスのがん遺伝子に酷似した遺伝子!

なんでこんな危険なもんを我々は持ってなあかんのんや!?

当然の疑問です。

 

じゃあ、他の動物ではどうなのか?

調べてみると、出るわ出るわ!

脊椎動物から無脊椎動物に至るまで、ほとんどの動物が、当たり前のように、元からsrcを持っているじゃぁあ~りませんか!!

 

そして、この遺伝子が変異を起こすと、ラウス肉腫ウイルスのsrcのような発がん性を獲得するのだということが分かりました。

元々は細胞の増殖制御に重要な働きをしているのですが、一旦故障するとがん遺伝子となり、暴走を始める。

がん遺伝子の元になり得る遺伝子ということで、我々の細胞が持つがん遺伝子に似たものは「がん原遺伝子」と呼ばれるようになったのです。

 

こういう訳で、src遺伝子は動物界に広く存在するありふれた遺伝子だったのです。

そして、かつてウイルスが宿主細胞からこの遺伝子を獲得して、独自の進化を果たした結果、がんウイルスになったのだということも分かりました。

 

つまり、がんウイルスなるものを生み出したのは、他ならぬ私たち自身だということです。

 

1989年、「ウイルスのがん遺伝子は細胞由来である」ことの発見で、ビショップとヴァーマスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

 

⑤     偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

ラウス肉腫ウイルスにまつわる、これら偉大な業績の数々。

ラウスの人並み外れた洞察力にその源流があります。

 

近年ではiPS細胞。

誰からも「そんなことできる訳がない」と言われ、研究費の獲得に相当の苦労をされたと言いますが、山中先生の執念が実り、現在、医療への実用化に向けた努力が山中先生ご自身をはじめ、世界中の研究者によって進められています。

 

山中先生の着想を源流としたこの偉大な流れが、どういう成果を生み出すのか?

見守っていきたいと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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