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034【どのようにして細胞に遺伝子の変異が蓄積するのか?】がん(その2)

歩くと、昨日肉離れした左太ももの前が多少痛いです!

頑張れ!俺の免疫細胞! 早く修復してくれよ!!

 

目次:

① 遺伝子異常を引き起こす原因!「赤い稲妻」の正体

② どのような遺伝子に異常が起きればガンになるのか?

③ 遺伝子の変異を修復する遺伝子の変異だって???

 

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前回の本ブログ【033】では、細胞のガン化につながるような自然のレベルを超えた遺伝子異常が、どのような原因で、どういう遺伝子に起きるのか?について疑問を投げかけたところで話を終えました。

033【そもそもガンってどういう病気?】がん(その1) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

今回は、そこから始めます。

 

① 遺伝子異常を引き起こす原因!「赤い稲妻」の正体

 

前回の話で、「がん化の多段階仮説」の図の中で示された「赤い稲妻」が細胞に遺伝子異常を引き起こす原因のようだと示唆しました。

この赤い稲妻の正体とは何でしょうか?

 

細胞に遺伝子異常を引き起こす原因は、我々の日常生活の中に溢れています。

しかし、それが何かを知れば、それらを可能な限り遠ざけることができます。

 

赤い稲妻は、大きく3つに分けられます。

ひとつずつお話します。

 

・物理的要因

細胞に遺伝子異常を引き起こす原因、皆さんもある程度ご存じだと思います。

物理的な原因としては、放射線や紫外線が挙げられます。

ヒロシマナガサキチェルノブイリ、フクシマなどは不幸な出来事ではありましたが、放射線が人間に及ぼす影響についての知見を与えました。

強い紫外線は皮膚がんの原因となることが知られています。

これら放射線や紫外線は高いエネルギーを持った電磁波です。

細胞のDNAがこれらの高エネルギーを受けることで塩基の構造が変化し、その結果、塩基配列が変異することが分かっています。

特に、4つの塩基のうちのシトシン(C)は化学的に不安定で、高エネルギーを受けることで、チミン(T)に変化しやすいことが知られています。

ですから、がん細胞においてCからTへの突然変異というのは、比較的多く見られます。

 

・化学的要因

化学物質の影響によって誘導される遺伝子の異常です。

発がん性物質」と言えば、どなたでも分かりますね。

アスベストやタバコのタールに含まれる何十種類のも発がん性物質は、いずれも肺に吸入するものですね。

わが国で承認されている食品添加物にも、「変異原性」といって、強い遺伝子変異誘導性を持っていることが細胞の実験や動物実験によって示されている例が少なくありません。

 

・生物学的要因

細菌やウイルスなどの感染により、細菌やウイルスの遺伝子の働きを細胞が受けて、増殖制御が破綻し、がん化につながることがあります。

細菌では胃がんの原因となるピロリ菌、ウイルスであれば、肝臓がんを引き起こすB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルス、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスなど、他にもたくさんあります。

これらの感染症の多くは検査で分かります。検査で感染していることが分かれば、色々と対策が可能です。

99%以上の胃がんの原因となっているピロリ菌は除菌が可能です。

肝炎ウイルスの感染が分かった場合は、予防対策を行ったり、発症後には(高価ですが)治療薬があります。最新の治療法により、場合によりますが、肝炎ウイルスを排除して完治も可能となってきました。

 

以上の3つが「赤い稲妻」の正体ですが、これらは全て外部要因です。

内部要因、つまり自分の体の中に原因があり、「老化」(免疫力を維持して若さを保ちましょう)と親から受け継いだ「先天的遺伝子異常」(これは致し方ないですが、遺伝子検査で分かる場合もあります)とがそれです。

 

② どのような遺伝子に異常が起きればガンになるのか?

 

がんの原因となる遺伝子の異常というのは、非常にたくさんあります。

しかしながら、その多くは、細胞の増殖の制御に関わるもので、「がん原遺伝子」「がん抑制遺伝子」とがあります。

それから、遺伝子に異常が起きた際にこれを修復する、「DNA修復遺伝子」というのがあります。

 

がん原遺伝子とがん抑制遺伝子のお話から。

簡単に言えば、がん原遺伝子とは、細胞を増殖させる方向に働く遺伝子です。

そして、がん抑制遺伝子というのは、細胞増殖を抑制する働きがあります。

こう言えば感のいい読者の方はもうお気づきでしょう。

がん原遺伝子は、細胞増殖の「アクセル」役であり、がん抑制遺伝子は「ブレーキ」役であると例えられます。

免疫にもアクセルとブレークがありました。

細胞増殖もアクセルとブレーキとで制御している訳です。

 

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細胞増殖を制御するアクセルとブレーキ

 

更に感の鋭い方は、このアクセルとブレーキが異常を起こすことで、細胞がガン化するのだということに気付かれるでしょう。

 

通常は、細胞ではアクセルであるがん原遺伝子とブレーキであるがん抑制遺伝子とが絶妙に制御されています。

車の運転では、普通アクセルとブレーキを同時に踏むことはないと思いますが、細胞の増殖制御では、同時に両方のペダルの踏み込み具合を調節しています。

それで、増殖すべき時には増殖し、増殖を止めるべきときには止めることができます。

 

しかし、アクセルであるがん原遺伝子にある種の異常が起きると、アクセルを目いっぱい踏み込んだ状態になります。つまり、エンジンはレッドゾーン!フル回転です。

同時にブレーキであるがん抑制遺伝子に異常が起きると、ブレーキが働かなくなります。

皆さん、ご自分が車を運転しているところを想像してみて下さい。

アクセルが踏み込まれた状態で戻らなくなり、ブレーキも全く効かなくなったら、どれほど恐ろしいか?

 

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これが細胞のがん化状態で、全く制御できていない暴走状態です。

 

 

③ 遺伝子の変異を修復する遺伝子の変異だって???

 

実際にガン患者さんから切り取ってきたガン細胞の遺伝子を調べてみると、多くのがん原遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が見つかります。

加えて変異の多いのが「DNA修復遺伝子」です。

その名の通り、DNA修復遺伝子は、細胞のガン化を防ぐために遺伝子の変異を修復する働きを持つ遺伝子です。

がん原遺伝子が自動車のアクセルで、がん抑制遺伝子がブレーキなら、DNA修復遺伝子は「修理工」というところです。

アクセルやブレークが壊れても、修理工が治してくれるので、暴走しなくて済んでいます。

ところが、進んだガン細胞では、この修理工が壊れてしまっていることが結構あるのです。

 

壊れた遺伝子を修復する遺伝子が壊れたら、だれがそれを修復するのか??

DNA修復遺伝子に変異が起きると、様々な遺伝子にさらに多くの変異が入りやすくなり、ガン化のスピードは早まります。

 

がん抑制遺伝子の話に戻りましょう。

もっとも有名ながん抑制遺伝子にp53遺伝子」というのがあります。

p53は常に細胞のDNAに異常が無いかパトロールして見張っており、異常を見つけた場合、すぐさま先述のDNA修復遺伝子に修復命令を出すのが、このp53の役目です。

また、DNAの異常を修復しきれなかった場合には、遺伝子異常を持った細胞は死なねばなりません。

つまり、「アポトーシス」という細胞の自殺を実行するのですが、そのアポトーシスの実行命令を出すのもp53です。

ですから、p53は細胞のガン化防衛において非常に重要な役割を担っており、そのため「ゲノム(全遺伝子)の守護者」と呼ばれます。

 

ところがなんと、多くのガン患者のガン細胞で、この守護者に異常をきたしていることが分かっています。

守護者が倒されては、誰が細胞をガン化から守るのか!?

p53は細胞のガン化防衛の「アキレス腱」と言えます。

 

このように、ガン細胞では様々な遺伝子に異常が起きている訳ですが、どのような遺伝子にどのような異常が起きているのかを調べることによって、ガンの性質を調べたり、効果的な薬の選定や、薬の副作用の出やすさの予測、再発率の予測、予後(どれだけ延命できるか)の予測などを可能にしようという研究が活発に行われています。

 

まだまだ実用化には至っていませんが、「ガンが遺伝子の異常によって起こる病気なら、その遺伝子の異常を調べてガンを治す!」という時代がいずれ来るかもしれません。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

 

次回予告:

前回と今回お話したのは、後天的な原因によるガンです。

ガンは遺伝子の異常によって起こる病気なのですから、遺伝性のガン、つまり先天的なガンというのがあります。

次回は遺伝するガン、「家族性腫瘍」について、先ごろブラピと離婚成立したアンジェリーナ・ジョリーの逸話などを交えてお話しようと思います。

例によって、気まぐれで内容が変わることがありますが、ご了承下さい。

 

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