Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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098【新型コロナウイルスの検査法「PCR検査」ってなに??】

今日のニュースで、来週から新型コロナウイルスの検査が保険適用になるとか。。。

風邪症状で具合の悪い人は、全員新型コロナウイルスの検査を受けることになるのでしょうか?

いや、そうなると検査会社はてんやわんやの大忙しですね。

 

ところで、新型コロナウイルスの検査って、どういうものなのでしょう?

ニュースでもやってますよね、「PCR検査」

いったいPCRってなに???って感じですよね。

 

全ての生物は遺伝子を持っています。

そんでもって、生物か無生物かよく分からないウイルスも、やはり遺伝子を持っています。

遺伝子(DNAやRNA)というのはコピーして増やすことができるのですね。

ひとつの細胞が増殖して、ふたつの細胞に分裂する時には、一組の遺伝子が二組にコピーされるのですが、その原理を応用して、試験管の中で遺伝子のコピーを重ねて数百万倍、数千万倍にも増やせるのがPCR法です。

つまり、原理的には、検体の中に1匹のウイルスがいれば、そのウイルスの遺伝子のコピーを繰り返して無限に増やすことができるのです。

ひとつがふたつ、ふたつがよっつ、よっつがやっつ、やっつが、、、、という具合に倍々に増えていくのですね、遺伝子が。。。

 

新型コロナウイルスは呼吸器官(肺、気管支、咽頭)で増えます。

ですから、綿棒で咽頭(喉の奥)をぬぐって、そのぬぐい液がPCR検査の検体になります。

その検体の中に、数十匹のウイルスがいれば、PCR法によって確実にウイルスの遺伝子を増やして、専用装置でウイルス遺伝子の存在を検出することが可能になるのですね。

 

実はPCR法というのは、20世紀の生命科学史上最大の発明と言われる超画期的な技術なのです。

世紀の大発明ですから、当然ノーベル賞受賞してます。

PCR法がなかったら、輸血によるエイズウイルスや肝炎ウイルスの感染も防げなかったし、ジュラシックパークもなかった、と言えましょう?

ん?何のこっちゃ?と思われる方は、是非、以下の過去ブログをお読みください。

PCR法の誕生秘話からPCR法が実現した技術革新までについて語っています。

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになった感想やご批判をコメントで下さい。大変励みになります。

 

 

097【ついに登場!アレルギー性疾患の特効薬】デュピクセント

目次:

1.私はアトピーもち

2.どうしてアレルギーになるの?

3.免疫バランスについて、もう少し詳しく

4.デュピクセントはTh2サイトカインの作用を邪魔する

5.で、おいくら万円くらいかかるの?

 

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1.私はアトピーもち

 

私にはアトピー性皮膚炎の持病があります。

子供のころからひどいアレルギー体質です。

小さいときは小児喘息に卵アレルギーがありましたが、これらは大きくなるにつれ治癒しました。

でも、アレルギー性鼻炎は子供のころから今も続いています。

そして、大人になってから、30歳くらいのころにアトピーを発症し、それ以来25年以上、この病気と付き合い続けています。

 

「最近、症状がひどい」と主治医に告げると、先生は「デュピクセントって薬知っていますか?」と言います。

「知らない」と言うと、サノフィ株式会社(製薬メーカー)の「デュピクセントを使用される患者さんへ」という小冊子を渡されました。

 

「デュピクセントとは」の画像検索結果

 

2.どうしてアレルギーになるの?

 

私のブログの読者なら、もうご存じかもしれませんが、アレルギー反応とは私たちの体を守るための生体防御反応、すなわち免疫反応です。

免疫系は絶妙な制御によりバランスが保たれており、攻撃するべき相手と、攻撃してはいけないものとを見分けています。

しかし、その人の体質(遺伝的要因)と近年の生活環境の変化(衛生環境や食生活の欧米化など)によって、本来攻撃してはけないものに免疫が過剰に反応する。これがアレルギー性疾患です。

 

過去ブログでもお話ししましたが、免疫系にはバランスを保つためのブレーキとアクセルとハンドルがあります。

 

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過去ブログもご参照

takyamamoto.hatenablog.com

 

アレルギー反応とは、この免疫のアクセルが踏まれて過剰に強くなり、ハンドルが右側の液性免疫(2型ヘルパーT/Th2)の方へきられた状態であると言えます。

Th2側にシフトすることによって抗体、抗体の中でもアレルギー反応を引き起こすIgE(アイジーイー)という種類の抗体を大量に産生する状態になっているのです。

 

3.免疫バランスについて、もう少し詳しく

 

もう少し詳しくお話ししましょう。(少し小難しくなるので、ここは読み飛ばして、4に進んで下さって構いません)

 

免疫のブレーキとアクセルはどうやって踏むのか? ハンドルはどうやってきるのか?

それにはサイトカインという免疫物質が大きく関わっています。

サイトカインは百種類以上もあって、その全部の役割が分かっている訳ではなく、また全部を覚えきれるものではないのですが、主要なサイトカインがどういう働きをするのかを下の図にまとめました。

 

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幼弱なT細胞(ナイーブT細胞)は、細胞性免疫をつかさどるTh1細胞や液性免疫(抗体)をつかさどるTh2細胞に分化します。

図の右側のTh2細胞はある種のサイトカインを出しています。

IL-4, 5, 6, 10, 13と呼ばれるものです。

これらのサイトカインが、抗体産生B細胞に作用して、アレルギーの原因になるIgE抗体の産生を強力に促すわけです。

ですから、アレルギーを防ぐためには、Th2の方にハンドルが切れないようにしてやればいいことが分かります。

口で言うのは簡単ですが、そのような薬ができるものなのでしょうか?

 

4.デュピクセントはTh2サイトカインの作用を邪魔する

 

さて、デュピクセントですが、これは抗体医薬、すなわち生物学的製剤です。

 

生物学的製剤については、過去ブログご参照

takyamamoto.hatenablog.com

 

抗体医薬品には、特定の物質に特異的に結合して、その働きを妨害するタイプのものがあります。

過去ブログでご紹介した、昨年の本庶先生のノーベル賞受賞で脚光を浴びたオプジーボも抗体医薬です。

 

オプジーボについては過去ブログご参照

takyamamoto.hatenablog.com

 

デュピクセントは、Th2サイトカインであるIL-4とIL-13の働きを妨害することで、皮膚の炎症を沈め、皮膚のバリア機能を回復させる効果・効能があるのです。

 

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デュピクセントの作用メカニズム

 

5.で、おいくら万円くらいかかるの?

 

生物学的製剤というと、すぐに思い浮かぶのが高い薬価です。

オプジーボなんかは、一人分で1000万円以上かかります。

デュピクセントも数百万円かかるようです。

でも、高額医療制度があるので、申請すれば一部は戻ってきますので、自己負担額は年収によって異なるのですが、実質一人、数十万円のようですね。

主治医は「劇的に効く」といいますが、それでも私には手が出ない金額ですので、「今回はとりあえず見送ります」と答えました。

 

この治療が受けられるのは、従来の治療法、例えばステロイド剤でも症状をコントロールできない患者です。

町医者ではこの治療は行っていないので、かかりつけ医に紹介状を書いてもらい、大病院に数カ月にわたって数回通うことになります。

ただ、自己投与、つまりインスリンみたいに自分でも注射できるので、忙しくて頻繁に通院できない人でも大丈夫なようですね。

 

デュピクセントは、喘息の患者さんも投与の対象になっています。

ひどいアレルギーで長年悩んでおられるのなら、一度、かかりつけ医に相談してみてはいかがでしょうか。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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096【細胞間の対話をする体内の小さな袋】エクソソーム(1)

最近話題です。

「エクソソーム」

 

NHKでも特集番組が放送されました。

www.youtube.com

 

エクソソームとは何か?

細胞間で「対話」を行う小さな小さな袋

その袋には、情報を伝達する様々な物質が含まれています。

私がここで多くを語るより、まずはNHKの番組をご覧ください。

そして、エクソソーム(2)、(3)と記事を続けていきます。

 

今回も最後までお読みくださり、ありがとう御座います。

 

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号外【ノーベル生理学・医学賞受賞者 本日発表!】満屋裕明先生か!?

いよいよ今夕です。

ノーベル生理学・医学賞の受賞者発表!

 

前回のブログで「ゲノム編集技術」と予想しましたが、やっぱ時期尚早でしょうね。

それで予想変更しま~~す(^^)

ずばり、日本人研究者「満屋裕明」先生で決まりで~~す。

 

巷の予想では、日本人候補者の先鋒として京都大学の森和俊先生のお名前が挙がることが多いですね。

森先生も十分にありです。

でも、私は満屋先生を推します。

なぜかって?

それは、私のブログで満屋先生を取り上げさせて頂いたことがあるからです。

 

いえ、ただそれだけの理由ではありません。

AIDSの原因ウイルスHIVの発見者たちは、2008年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

ウイルスの発見が、その後の検査法や治療法の開発につながったことが評価されたからです。

そして、実際に次々と新しい薬が開発され、現在ではほぼほぼAIDSはコントロール可能になったのです。

その最初のAIDS治療薬を開発したのは満屋先生その人でした。

 

いったんHIVに感染すると、ウイルスを体から完全に排除することはできません。

でも、今ではウイルスを制御し、患者がウイルスとうまく付き合いながら生きていくことができるようになったのです。

 

(満屋先生の業績について、詳しくは過去ブログご参照)

takyamamoto.hatenablog.com

 

20世紀の黒死病エイズ」の治療に道を切り開いた満屋裕明先生。

十分にノーベル賞に値する業績だと思うのです。

 

発表が楽しみです。

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

号外【2019年ノーベル賞大予想!】

目次:

1.化学賞は「次世代シーケンサー」か?

2.生理学・医学賞は「ゲノム編集」?

 

またまたこの季節がやってまいりました。

本庶先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されてから、もう1年も経つのですねぇ。

takyamamoto.hatenablog.com

 

そこで、今年2019年のノーベル化学賞(10月9日発表)と生理学・医学賞(10月7日発表)を独断と偏見で予想してみます。

(わたしゃ、物理はわからん。なので物理学賞は予想できましぇ~ん)

 

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1.化学賞は「次世代シーケンサー」か?

 

生物学や遺伝学を著しく発展させた技術に、タンパク質やペプチド(タンパク質の短いやつ、との理解でいいでしょう)のアミノ酸配列の決定法と、遺伝子(DNA)の塩基配列の決定法があります。

この二つの技術を開発したのは同一人物。フレデリック・サンガーさんという方でした。

この二つの偉大な発明で、サンガー先生はノーベル化学賞を二度受賞された唯一の人として知られます。

 

 

さて、サンガーさんの偉業に続くであろう技術があります。

それが「次世代シーケンス技術」

 

ヒトゲノムプロジェクトでは、全ゲノム30億の塩基配列を解読するのに13年かかりました。

費用は30億ドルとも、それ以上とも言われています。

この時に使われたゲノム解読方法はサンガー先生の方法です。

しかし、サンガー法では、どうしても膨大な時間と費用がかかってしまうのでした。

 

その解読スピードとコストを飛躍的に改善したのが「次世代シーケンサー」です。

ヒト一人のゲノム解析に要する時間は、わずかに数日!

費用も1000ドル程度!

 

この技術は生命科学に飛躍的な進歩をもたらしました。

まさにパラダイム・シフトです。

そのインパクトを書き連ねると長くなるので、過去ブログをご参照くださいね。

takyamamoto.hatenablog.com

 

今年のノーベル化学賞は「次世代シーケンス技術の開発」で決まりでしょう!(まったくの独断偏見!)

 

2.生理学・医学賞は「ゲノム編集」?

 

iPS細胞がもたらしたインパクトは、非常に大きいものがありました。

山中先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したのが2012年。

マウスのiPS細胞の開発から6年、ヒトのiPS細胞からわずかに5年という、自然科学分野のノーベル賞としては異例の速さでの受賞でした。

takyamamoto.hatenablog.com

takyamamoto.hatenablog.com

 

その山中先生をして、「ものすごい技術! iPS細胞など足元にも及ばない!」と言わしめたのが「ゲノム編集技術」です。

takyamamoto.hatenablog.com

 

ヒトを含めたあらゆる生物種で、思いのままにゲノムを改変できる恐るべき「神の御業」!

農産物の生産性を上げたり、病気に強い品種を作ったり、というのは屁のカッパ。

マラリアを媒介しない蚊を作ってマラリアの根絶を目指すプロジェクトや、AIDSの治療への応用が進められています。

takyamamoto.hatenablog.com

 

その可能性は、アイデア次第でほぼ無限!

ノーベル賞に値するインパクトがあるでしょう。

 

でも、正直言うと、今年のノーベル賞受賞は時期尚早ではないかとも思うのです。

というのも、開発者たちが特許の所有権を巡って争っていたりして、法的に誰が本当の開発者か決着がついていなかったりするのです。

開発当時、「数年以内のノーベル賞受賞確実」と言われていた青色LEDの開発者、中村修二さんが受賞に20年以上もかかったのは、会社との特許訴訟の悶着に決着がつくのに時間がかかったことが一因とも言われいます。

 

さらに、ゲノム編集には倫理的な問題が。。。

ゲノム編集のヒトへの応用に関する倫理問題について世界規模で議論が展開されている中で、中国の研究者がHIVに感染しない赤ちゃん(デザイナー・ベビー)を誕生させて、大変な批判を受けた事件は記憶に新しいところです。

 

さらに、オリンピック・イヤーを前年に迎えて、「遺伝子ドーピング」の問題が最近話題になっていますね。

ゲノム編集技術を使えば、遺伝子改変の痕跡を残さずに筋肉量を増強させることも可能です。

これをやられると、不正を調べようがない。ばれっこないのです。

完全に人間の倫理観が問われているのです!

takyamamoto.hatenablog.com

 

このような大きな問題・課題があるために、そのインパクトの大きさに反して、今年の受賞はまだ早い?とも思うのです。

さて、どうなるでしょう?

とても楽しみです。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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大変励みになります。

 

 

Drやまけんの「病気と免疫の話」エピソード4

実に久しぶりに「病気と免疫の話」の動画エピソード4をYouTubeにアップしました。
なぜ体を冷やしてはいけないのか? なぜ低体温はよくないのか?
その本当の理由についてお話しています。

 

10分ちょっとの動画です。よければご視聴下さい。

 

www.youtube.com

095【史上最高額!2億4千万円の治療薬!!】ブラック・ジャックもかわいく見える?命は税金で買う時代なのか!?

日経バイオテクオンライン Vol.3168によると、2019年5月24日に米食品医薬品局(FDA)はスイスのノバルティス社の遺伝子治療薬Zolgensmaを承認しました。

その薬価は、な、な、な、なんと212万5000米ドル(1米ドル=110円で2億3375万円)!!

いやぁ、ブラック・ジャックもびっくらこですよ、ホントに!

 

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この薬、脊髄性筋萎縮症(SMA)という小児の希少疾患に対して、1回の治療で高い効果があるというものです。

 

SMAは生まれつきある遺伝子に変異があるために起きる遺伝病で、我が国では出生10万人当たり1~2人、推定患者数約1000人という比較的稀な病気です。

 出生後まもなくから6ヶ月くらいまでに発症することが多く、歩くことはおろか、座ることもできず、人工呼吸器無しでは2歳まで生きられないという、かなり悲惨な病気です。

 

私が遺伝病について考えるとき、生まれつきそういう重い障害をもった子を生んでしまった親の苦悩はいかばかりかと思うのです。

もし、それが治るというのなら、ブラック・ジャックにだって、悪魔にだって魂を売ってもいいとすら、親なら思うのではないでしょうか。

 

SMAでは、既存の治療薬では長年にわたって投与を受けなければならず、10年間治療を続けたとすると、治療費は400万ドル以上かかるとされていました。

ノバルティス社幹部によると、「Zolgensmaは、その半分の費用で済む。効果が高いので費用対効果は十分にある!」と言います。

 

最終の臨床試験である第III相試験では、21人の患者のうち19人で副作用も無く、効果があった(生存し続けた)といいます。

また、中には立って歩行できるまで回復した子もいたとか。

 

希少疾患の治療薬というのは、臨床試験をしようにも患者の数が少ないため、精度の高い評価をするのが難しく、また、めでたく承認されたとしても数が売れないわけです。

ですから、単価を高くしないと製薬メーカーの開発モチベーションは上がらないわけなんですね。

今回の米国での薬価決定は、その点にも十分配慮がなされたものと思われます。

 

我が国においては、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が高額の薬価(平均約3800万円/年)で話題になりましたが、その後3回にわたって薬価が見直され、現在では当初の3割以下の約1090万円まで引き下げられました。

このような我が国の行政の対応に対して、製薬メーカーの開発モチベーションの低下を懸念する声も多く聞かれました。

 

それにしても、米国で人一人の命として2億4千万円の高値がついた薬。我が国ではどうなるのか?

誰が、この治療費を払うのか?

 

我が国の健康保険と言うと3割負担が一般的ですね。

だったら、この治療を受けるには7200万円を個人で支払わないといけないのか!?

いえ、我が国には高額医療制度があるので(私は制度には詳しくありませんが)、せいぜい数十万円程度でしょう。

むしろ、入院費とか、その他の保険の効かない費用の方が高いくらいだと思いますよ。(間違っていたら、ご指摘お願いします)

 

Zolgensmaは日本でも承認申請されていますが、まだ承認には至っていません。

承認すると、国は90日以内に薬価を決めなければいけません。

高すぎると国民から驚きと不安の声が上がる、安すぎると製薬メーカーが不満を言う。

一度、薬価が決められると、今後出てくる新薬の薬価決定のひとつの基準になるので、厚労省の審査部会も非常に心を砕くところです。

 

とにもかくにも、医療の目覚しい進歩のおかげで、助からなかった人が多く助かるようになりました。

今後、その命はほとんどが税金で支えられていくことになるでしょう。

 

私もアラシク(around sixty)。

遠からず高齢者の仲間入りする身を思えば、若い人に過度の負担をかけないように心がけたいと思うのです。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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094【「CAR-T細胞療法」後編】がん(その13)「キメラ抗原受容体」とは何か?

昨日(2019年5月22日)保険適用された最強のがん治療法「CAR-T細胞療法」!

薬価は、な、な、なんと3,349万円!

後編では、その仕組みについてお話します。

 

www.nikkei.com

 

目次:

4.前編のおさらい

5.上手い手があった!

6.見つかったがん細胞の目印

7.第二のシグナルをどうやって入れる?

8.「キメラ」って何?

9.種明かし

10.具体的な手順

11.進化したキメラ抗原受容体

12.CAR-T細胞療法の限界!

13.敗血症は病原菌の毒が原因ではないって!?

14.サイトカインの嵐から命を守れ!

 

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4.前編のおさらい

 

T細胞ががん細胞を見つけ出して攻撃できるようになるためには、最低2つの条件が必要でした。

条件1:自己の身分証であるMHC分子の上に提示されたがん抗原(ネオアンチゲン)をT細胞受容体が認識する(第一のシグナル)

条件2:がん細胞表面のB7分子とT細胞表面のCD28分子が結合する(第二のシグナル)

 

そして、多くのがん細胞は狡猾にも、MHCやB7を消し去っているのでした。

2つのシグナルのうち、ひとつでも欠けていればT細胞は活性化せず、免疫系はがん細胞に手も足も出ません。

人間は狡猾ながん細胞になす術もなく軍門に下るのか?

何か打つ手は無いものか?

 

5.上手い手があった!

 

がん細胞は2つのシグナルのうちいずれか一方、あるいはその両方を入れさせないような戦略をとっています。

では、これらの2つのシグナルを人為的に強制的に入れ込んでやればいいではないか?

でも、どうやって? MHCもB7も無いんだよね?

これではシグナルの入れようが無いじゃない?

 

いやいや、上手い手がありました。

いやぁ、こんなことを思いつくなんて、頭のいい人はいるもんですね。

最初に考え付いた人は偉い! 多分、将来ノーベル賞間違い無しだと思う。どこの誰かは知らんけど。。。

 

6. 見つかったがん細胞の目印

 

一口に「白血病」と言っても、いろんな種類があります。

急性骨髄性なんちゃらとか、慢性リンパ性なんちゃらとか、成人T細胞なんちゃらとか、、、もう、訳が分かりません!

とにかく、白血病にはいろんな種類があって、それらががん化した場合、それぞれに特徴が異なるので、治療法も異なる訳です。

で、そのなかでCAR-T細胞療法の適用となるのが「B細胞性白血病」というもの。

 

以前のブログで、細胞の分類をするのに、細胞表面に発現するタンパク質の種類を調べると述べました。

 

takyamamoto.hatenablog.com

免疫細胞の分類には、細胞表面のマーカー分子を調べる

 

B細胞という種類のリンパ球は、細胞表面にCD19というタンパク質を多量に発現しています。

一方で、他の正常細胞にCD19はほとんどありません。

 

これはいい! これは使える!

つまり、CD19を標的としたミサイル療法を行えばいいじゃないか!と誰でも考えますよね。

でも、そこまでなら凡人の考えることです。

抗体に抗がん剤をくっ付けたミサイル療法剤も、末期がん患者では、もはや効果は期待できません。

頭のいい人は、その先を行きました!

 

7.第二のシグナルをどうやって入れる?

 

CD19それ自体は異常なタンパク質ではありません。つまりCD19は「自己」です。

ですから、自然の状態では、私たちの体のなかでCD19を標的とした免疫細胞は存在しないか、あったとしても活性化して攻撃することはないのです。

じゃあ、どうするのかって?

CD19を標的とするような抗体分子を遺伝子工学の技術で作り出す必要があります。

「抗CD19抗体」ですね。

これを作るのは大して造作もありません。多くの抗体医薬品を作るのと同じで、遺伝子工学技術で簡単に作れます。

 

B細胞性白血病細胞の抗原であるCD19を認識する抗体ができれば、「第一のシグナル」は何とかなりそうですよね。

残された問題は「第二のシグナル」をどうするかです。

B細胞のがん細胞がB7を発現していないとしたら、第二のシグナルをどうやって入れるのか?

ここが頭の使いどころです!

 

8.「キメラ」って何?

 

「CAR-T」とはどういう意味か、これまであえて触れませんでした。

多分、なんかの英語の略じゃないかって?

アンタは鋭い! その通りです。

「Chimeric Antigen Receptor – T細胞療法」、すなわち「キメラ抗原受容体T細胞療法」の略なのです。

「キメラ抗原受容体(CAR)」とは何なのか?ってことですよね。

 

「キメラ」とは、体がヤギ、頭がライオン、尾が毒蛇という、ギリシア神話に登場する想像上の動物「キマイラ」に由来する言葉です。

 

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キマイラ

 

すなわち生物学で言う「キメラ」とは、別の分子と分子を遺伝子工学的に合体させて作製したもの」という感じで理解して頂ければいいかと思います。

もちろん、自然界には存在しない、人工的に作られたものです。

 

T細胞表面にある、がん細胞の抗原を認識するタンパク質を「T細胞受容体」と言います。

「キメラ抗原受容体」とはすなわち、キマイラのように、複数の異なるタンパク質分子を合体させて作った、自然界には存在しない抗原を認識する受容体のことです。

 

9.種明かし

 

さあ、いよいよタネ明かししましょう。

問題はB7とCD28の結合によって生じる第二のシグナルをどうやって入れるか?ってことでした。

抜群に頭のいい人は、こう考えたのです。

がん細胞表面のCD19を認識する抗体分子の一部とT細胞表面に発現しているCD28分子の一部をつなげたキメラ受容体をT細胞の表面に植えつければいいと。。。

 

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「キメラ抗原受容体」の構造と強制的シグナル導入

 

抗体の部分は細胞の外に突き出ており、がん細胞表面のCD19に結合することができます。

抗体は、T細胞受容体(TCR)と違い、HMCが無くても結合できます。

つまり、がん細胞がT細胞の目を晦まそうとMHCを消しても、抗体をだますことはできないのです。

そして、抗体の根元はT細胞の膜を突き抜けており、細胞内にはCD28の一部があります。

抗体ががん細胞表面のCD19と結合すると、この細胞内のCD28の部分からは、まるでB7と結合したときのように第二のシグナルが発生し、このT細胞を活性化することができるのです。

 

この抗体とCD28が合体した抗原受容体が、すなわち「キメラ抗原受容体」(Chimeric Antigen Receptor;CAR)なのです。

 

10.具体的な手順

 

まずは患者さんから採血して、血液中のT細胞を分離します。

これは、そんなに難しい操作ではありませんね。

 

次に、培養皿のなかのT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子を入れ込んでやらなければならない訳ですが、それにはウイルスベクターを使います。

ベクター」とは「運び屋」の意味で、細胞内に遺伝子を運ぶ役目を担うので、そう呼びます。

なかでもレトロウイルスというウイルスは、自身の遺伝子を細胞のゲノムの中に滑り込ませ、その細胞が死ぬまで居座り、自身の遺伝子を発現し続ける性質があります。

レトロウイルスのゲノム(正確には「プロウイルスDNA」と言います)にCAR遺伝子を組み込んだものを、培養皿の中のT細胞にふりかけてやると、CAR遺伝子が組み込まれたレトロウイルスのDNAは細胞に取り込まれ、ゲノムの中に組み込まれます。

これで、この細胞は死ぬまでCAR遺伝子、すなわちCD19に対する抗体にCD28の一部がつながったキメラ抗原受容体を発現し続け、細胞表面に出すようになるのです。

それを患者の体内に戻すだけで1回の治療は完了です。

 

上図をもう一度ご覧下さい。

CAR遺伝子を組み込まれたT細胞のキメラ受容体の抗体部分(細胞外側部分)ががん細胞のCD19と結合すると、細胞内部分のCD28から強制的に第二のシグナルが発せられます。

こうしてT細胞は強力な細胞殺傷能力を獲得するのです。

しかも、CD19を発現しない正常細胞には何の害も与えません。

 

注:がん化していない正常なB細胞もCD19をもっており、そのため正常B細胞も一部破壊され、抗体産生能力が低下するという副作用もあります。

 

レトロウイルスには、AIDSやがんの原因になるものが多いのですが、安心してください。

ベクターとして使用されるレトロウイルスDNAでは、そのような病気を起こす遺伝子は破壊されているので、病気になる心配はありません。(100%無いとは言い切れないのですが、可能性は無視できるほど小さいです)

 

11.進化したキメラ抗原受容体

 

初期のキメラ抗原受容体は、がん細胞のCD19と結合することによって第二のシグナルを生じさせ、そのT細胞の殺傷能力を強力にアップさせるだけでした。

しかし、その後改良が加えられ、現在では、CD19との結合で活性化したT細胞の分裂を促して数を増やすシグナルと、さらにそのT細胞が長生きするシグナルも同時発生させる遺伝子が合体されたキメラ抗原受容体がCAR-T細胞療法に使用されています。

これにより、1回の治療で効果が長続きするわけですね。

 

12.CAR-T細胞療法の限界!

 

CAR-T細胞療法には決定的な欠点があります。

それは、現在のところ、CD19を発現する一部の白血病にしか効かないという事です。

つまり、CAR-T細胞療法で救える命の数には限りがあるということです。

ここが、自然免疫から獲得免疫まで、免疫系全体をアップさせる免疫チェックポイント阻害剤とは決定的に違うところです。

免疫チェックポイント阻害剤にも、効きにくいがん種というのがありますが、それでも次々と色々ながんに適用が拡大しています。

CAR-T細胞療法では、CD19を発現していないがんには、どう逆立ちしたって適用拡大することはできません!

 

CAR-T療法で全てのがんを治療しようとすると、全てのがん細胞で共通して発現しているネオアンチゲンを見つけなければなりません。

しかし、残念ながら、そのような都合のいいがん抗原は見つかりそうもありません。

せめて、既存の標的医薬に使われているがん抗原、たとえば乳がんの抗体医薬品「ハーセプチン」の標的になっている「Her2(ハーツー)」とか使えないのかな?と思うのですが、、、

今後の研究で色々ながんに効くようになってもらいたいものです。

 

13.敗血症は病原菌の毒が原因ではないって!?

 

ちょっと話が逸れますが、お付き合い下さい。

 

皆さん、敗血症はご存知でしょうね。

本来、無菌であるはずの血液中で大量に病原菌が増え、菌が出す毒素で死に至るのです。

おっと、「毒素で死に至る」というのは正確な表現ではありませんね。

実は、敗血症で死ぬ原因は、毒素で死ぬというよりも、私たち自身の細胞が出す免疫物質が本当の原因です。

 

細菌感染すると、免疫系はこれを排除しようと様々なサイトカイン(免疫系の情報伝達物質)を大量に放出します。

このサイトカインを受け取った別の免疫細胞も活性化し、さらに大量のサイトカインを放出します。

この連鎖反応により免疫系はフルスロットル状態まで活性化し、病原体と戦うわけです。

この状態を何と呼ぶか? 「急性炎症」ですね。

感染症で発熱するのは、免疫系が頑張っている証拠なのですね。

「炎症」と聞くと、何か「良くないもの」「好ましくないもの」と思われるかもしれませんが、炎症とは免疫系が病気や怪我を治そうとしている状態であって、私たちが生き延びるために無くてはならない大事なものなのです。

 

ところが、行き過ぎた炎症は、私たちの体にとっては大きな負担です。

過剰な免疫物質の影響を受けて内分泌系と神経系のバランスも崩れ、恒常性が破綻して、様々な臓器に障害が現れ、呼吸不全や血圧低下、血栓、意識混濁などの症状から死に至ることもあります。

これは「サイトカイン放出症候群」(俗に「サイトカインストーム」とも)と呼ばれる状態で、敗血症によって引き起こされます。

 

takyamamoto.hatenablog.com

恒常性が破綻した状態――それが「病気」

 

実は、炎症性物質の中でも、インターロイキン6(IL-6)と言う物質が敗血症性ショックの主要な原因となっています。

 

14.サイトカインの嵐から命を守れ!

 

CAR-T細胞療法では、T細胞の免疫力を強制的に強力にアップさせますので、IL-6やTNFという炎症性サイトカインを大量に放出します。

すなわち、サイトカインストームです。

これにより、敗血症性ショックに似た症状を呈し、稀に死に至る危険性すらあります。

 

しかし、安心してください。

CAR-T細胞療法の副作用であるサイトカインストームには、IL-6阻害剤である抗体医薬品「アクテムラ」がかなり効果があり、症状の軽減が可能です。

 

ただし、これがまた高い!

CAR-T療法が3349万円もするのに、さらに副作用の治療に抗体医薬品を使うと、また何百万円単位でお金が飛んで行きます。

 

画期的な治療法の登場で、これまで死ぬしかなかった人たちが助かるのは喜ばしい一方で、決まって高額な治療費のことを思うと、「日本の将来はどうなるのだろう?」と不安に駆られるのです。。。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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093【「CAR-T細胞療法」前編】がん(その13)予備知識編

目次:

1.がん細胞だけを狙い打つ「ミサイル療法」とは?

2.免疫系ががん細胞を見つけ出して攻撃する仕組み

3.がん細胞が免疫監視機構から逃れる仕組み

 

その強力な治療効果のゆえに、今、非常に話題の新規がん治療法が明日(2019年5月22日)、保険適用されます。

薬価はなんと3349万円!(誰が払うの?⇒ほぼ税金!)

 

「CAR-T(カーティー)細胞療法」

 

手の施しようのないB細胞性の白血病の50%以上、なかには80~90%に効果があるとの臨床研究報告すらあります。

この数字は、本庶先生がノーベル賞を受賞された「免疫チェックポイント阻害剤」をはるかに凌ぎます。

一方で、この新療法には克服されるべき問題点もあります。

 

CAR-T療法でもっとも重篤な副作用は「サイトカイン放出症候群」、俗に「サイトカインストーム」とも呼ばれ、その強力な免疫作用が原因で患者自身を死に至らしめるという、いわば「諸刃の剣」です。(本ブログでは、俗称の「サイトカインストーム」を使うことにします)

 

また、効果があるのは一部の白血病だけで、患者の絶対数は多くはありません。

つまり、このCAR-T細胞療法で助かる命の数には限りがあるのです。

 

最新の治療法にもメリットとデメリットがあります。

デメリットを理解することは、治療法を選択する上で非常に重要です。

今回は、話題のCAR-T療法の効果の高さと問題点について、2回にわたってお話します。

 

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1.がん細胞だけを狙い打つ「ミサイル療法」とは?

 

免疫系というのは、外敵(非自己)を認識して攻撃、排除する能力を持っています。

免疫系が認識する非自己の物質を「抗原」と呼びます。

 

一方、がん細胞は元々は自己の細胞です。

とは言え、がん細胞では多くの遺伝子に異常が起きた結果、正常細胞にはない異常なタンパク質(「新生抗原」または「ネオアンチゲン」とも)を細胞表面に発現することが多いものです。

このネオアンチゲンを標的にすれば、正常細胞に害を及ぼさずに、がん細胞だけを破壊できるのではないかというがんの標的療法の概念は古くからありました。

がん細胞のネオアンチゲンを狙い撃つので、俗に「ミサイル療法」とも呼ばれました。

たとえば、ネオアンチゲンを認識する抗体に抗がん剤を結合させたミサイル療法剤というのがあります。

 

抗がん剤は元来毒です。

多くの抗がん剤が、がん細胞のように増殖の盛んな細胞に高い毒性を示します。

でも、やはり増殖の盛んな毛根や小腸の細胞にも毒性を示すので、毛が抜けたり、激しい下痢や嘔吐などの副作用が現れます。

 

ここで抗がん剤に抗体をくっつけるとどうなるか?

抗体はがん細胞のネオアンチゲンに結合します。

こうすることで、抗がん剤をがん細胞だけに輸送することが可能になります。

従来の抗がん剤の「じゅうたん爆撃」に対して、ネオアンチゲンという標的にロックオンしたミサイル療法が効果的だというのは理解して頂けるでしょうか。

 

takyamamoto.hatenablog.com

がんのミサイル療法については過去ブログご参照

 

2.免疫系ががん細胞を見つけ出して攻撃する仕組み

 

たとえ抗体を利用した抗がん剤治療でも、末期がん患者には効果が期待できないケースが多いです。

これは、化学療法(抗がん剤治療)の本質的な限界とも言えます。

そこで近年は、人間自身の免疫力でがんを駆逐する「免疫療法」にシフトしました。

 

代表的なのは、昨年、本庶佑先生がノーベル賞を受賞した、本ブログで何度もお話している「免疫チェックポイント阻害剤」です。

つまり、我々の体は本来、がん細胞を駆逐できるだけの免疫力を備えているものなのです。

では、なぜこうも多くの人ががんに罹り、命を落とすのか?

 

takyamamoto.hatenablog.com

免疫チェックポイント阻害剤は過去ブログご参照

 

我々の体では日夜、免疫系が私たちの体に起きる異常を常に監視しており、異常があれは、それを修復したり、排除をして体の恒常性を維持しています。

この仕組みを「免疫監視機構」と呼びます。

 

ある細胞に遺伝子異常が起きたとき、免疫系はどのようにして、この異常な細胞を見つけ出すのでしょうか?

がん細胞の表面には異常なタンパク質、すなわちネオアンチゲンが現れます。

これをリンパ球の一種であるT細胞が見つけ出すのです。

 

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T細胞は、細胞表面のT細胞受容体(TCR)が抗原と結合することで異常細胞を認識する。

 

上の図を見てください。

左のがん細胞の表面には、自己の身分証明書であるMHCというタンパク質のお皿の上にネオアンチゲンが提示されています。

これをT細胞の受容体が結合することで、「コイツは異常な細胞だ!排除せねば」となる訳です。

でも、本当はこれだけではT細胞の活性化は起こらず、がん細胞を攻撃することはできません。

がん細胞の表面には「CD80/86(B7とも)」というタンパク質があります。

抗原(ネオアンチゲン)とT細胞の受容体が結合した上でさらに、がん細胞のB7とT細胞のCD28というタンパク質とが結合する必要があります。

ネオアンチゲンを認識するだけでは不十分で、免疫系というのは二重、三重のチェックを経て機能するようになっています。

 

つまり、①T細胞受容体ががん細胞のネオアンチゲンと結合して第一のシグナルがT細胞に入る、②がん細胞のB7とT細胞のCD28が結合することで第二のシグナルがT細胞に入る、の二段階を経て初めてT細胞が活性化し、がん細胞を攻撃することができるようになります。(本当は他にも必要なシグナルがありますが、説明の簡略化のため、ここでは省略します)

 

免疫系というのは、やっためたらと活性化しては具合が悪いので、ダブルチェック、トリプルチェックをして、本当に攻撃していい相手かどうかの確認作業をするのです。

非常に用心深いシステムなのですね。

 

3.がん細胞が免疫監視機構から逃れる仕組み

 

しかし、がん細胞は非常にしたたかです。

上述のような免疫の仕組みがあるにも関わらず、多くの人ががんに罹り、命を落とすのは、がん細胞が巧みに免疫監視機構の目をくらましているからです。

 

まず、多くのがん細胞では、事故の身分証明書であるMHCの発現がないか、すごく減っていることがあります。

ネオアンチゲンがT細胞によって異物として認識されるためには、抗原はMHCのお皿の上に乗っかって提示される必要があります。

T細胞はMHCとその上の抗原を同時に認識します。

すなわち、「自己ではあるが、異常なタンパク質を持つ異常な細胞」ということを確認した上で攻撃、排除にかかる訳です。

MHCがなくては、T細胞は活性化しません。

 

次に、細胞表面にB7を発現していないがん細胞もあります。

T細胞の活性化には、T細胞受容体による抗原認識(第一のシグナル)と、B7とCD28の結合(第二のシグナル)が必要でした。

この第二のシグナルが入らないのですから、T細胞はやはり活性化しません。

B7が無くなる現象は、がん細胞が制御性T細胞(Treg)を味方につけていることによります。

 

Tregは過剰な免疫反応を抑えてくれるT細胞です。

私たちの体には誰にでも自分に反応する免疫細胞が存在しています。

にもかかわらず自己免疫疾患にならないのは、Tregがそれらの免疫細胞の活性化を抑えてくれているからです。

Tregが免疫細胞を抑える仕組みにはいくつかありますが、そのひとつが細胞表面のB7の発現を消失させる働きです。

 

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Tregの働きについては過去ブログご参照

 

がん細胞は狡猾にも、Tregを味方につけ、自らのB7を消し去っているのでした。

なんて頭がいいのでしょう?

でも、人間だって負けてはいません。

人間は、このがん細胞の狡猾さの裏をかく方法を編み出したのでした。

それがCAR-T細胞療法なのです!

 

今回は、CAR-T細胞療法を理解するための予備知識として、ここまでにしておきましょう。

次回、CAR-T細胞療法がなぜにそれほどまでに強力に効くのか? 問題点は何か? 解決策は用意されているのか? についてお話します。

お楽しみに (^^)

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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号外【縄文人の全遺伝子配列解読!】「酒に強い」「湿った耳垢」が意味するところは?

昨日(2019年5月13日)のNHKニュースです。

 

www3.nhk.or.jp

 

北海道の礼文島で発掘された、約3800年前の女性の縄文人のほぼほぼ完全な状態の骨格。なかでも臼歯のDNAの保存状態が極めて良好で、そこから全遺伝子情報、すなわち30億個ものDNAの塩基配列の解読に成功したというのです!

 

死んだ歯の細胞のわずかな量のDNAから全ゲノム配列の解析が可能なのも、1994年ノーベル化学賞受賞の遺伝子増幅技術「PCR法」があったればこそです。

 

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PCR法については過去ブログご参照

 

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今回の解析の結果から、縄文人は東南アジア系の人と遺伝子レベルでの類似性が高く、現代日本人は縄文人の遺伝子を約10%引き継いでいることが分かりました。

 

北海道のアイヌ人や九州、四国、沖縄諸島など南方の日本人には、肌が浅黒く、彫りが深い、縄文人の特徴を色濃く示す人が多いですよね。

縄文人の祖先は約1万年前頃から、ミクロネシアなどの南方の東アジア地域から数千年をかけて木彫りの船で、それこそ命がけで台湾~沖縄諸島を経由して日本列島に到達したと考えられています。

彼らは農耕を知らず、狩猟採集の生活をしていました。

その後、朝鮮半島対馬列島のルートから農耕技術をもった、いわゆる弥生人が渡来し、一部は先住の縄文人と混血して現在の日本人に至っています。

 

現代日本人には飲酒に弱い人が他人種に比べて圧倒的に多いですね。

その理由は、アルコール代謝に関わる遺伝子の一部に変異のある人が多く、そのような人たちは肝臓でうまくアルコールを無毒化できないからです。

 

そして、先住日本人である縄文人は、遺伝子解析の結果から飲酒に強く、耳垢は湿っていたといいます。

このことは一体何を意味するのでしょうか?

 

takyamamoto.hatenablog.com

アルコール代謝に関わる遺伝子の変異については過去ブログをご参照

 

アルコール代謝に関わる遺伝子「ALDH2

これに変異のある人は日本人のほか、朝鮮半島やモンゴル人にも多くいます。

1999年ころの研究により、この遺伝子変異は数千年前に内モンゴルの一部の人に発生し、集団の中で広がっていき、その人たちの一部が朝鮮半島を経て日本に渡来したため、朝鮮や日本にお酒の飲めない人が多いことが分かりました。

いわゆる弥生人には酒に弱いタイプのALDH2遺伝子が多いわけですね。

 

ところで、貴方の耳垢は湿ってますか? 乾いてますか?

 

耳垢が湿っているか乾いているかにどんな意味があるのでしょうか?

調べてみましたがよく分かりません。

ただ、どうやら耳垢が湿っているのが人間としてのプロトタイプのようです。(以下のサイトご参照)

 

www.jst.go.jp

耳垢が湿っているか、乾いているか、はたったひとつの遺伝子の変異による

 

一部の動物種を除いて、哺乳動物の耳垢は湿っているのが普通。

人も古代人の耳垢は皆湿っていて、数万年前にたったひとつの遺伝子の変異によって耳垢の乾いた人が出現したというのです。

その場所はバイカル湖の辺り。

ALDH2遺伝子変異が発生した場所と非常に近いですね。

 

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乾燥型耳垢は一部アジア地域に多い

 

お酒に弱く、耳垢の乾いた人間というのは、ごく最近に発生した新人類。

すなわち、「最も進化した人類」と言えるのかもしれません。

下戸で耳垢が乾いているそこの貴方。喜びましょう(笑)

 

白人至上主義者なんか、白人が最も進化した人種なんて思い込んでるみたいですが、ヨーロッパ人やアフリカ人よりも、私たち日本人を含む一部のアジア人の方が酒に弱く、耳垢が乾いている人が圧倒的に多いのだよ!と声を大にして言いたい!(笑)

 

お前はどうなんだって?

私の耳垢は乾いていますが、残念ながら大の酒好きですよ(笑)

 

 

今回もお読み頂きありがとうございます。

 

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【祝・イップス克服記念】過去ブログ再リンク!

皆さま、ご無沙汰しております。

 

今日、中学校の野球大会で球審をしてきました。

どうやら2年半を経て、ようやくイップスが克服できたようです。

まだ、力むとピッチャーに届かない低い球になったりしますが、たぶん大丈夫。

嬉しいので、イップスについて書いた過去ブログを再リンクします。

 

1995年

阪神淡路大震災の時、私は神戸の会社に勤めていました。

壊滅的な街の状況のなか毎日通勤し、日常生活を取り戻すのに心の支えとなったものがありました。

当時、オリックス・ブルーウェーブイチローの活躍が、どれほど市民に勇気を与えたか!

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夢をありがとう

当時の私の体験を交えながら書いています。

 

えっ? イップスと震災に何の関係があるのかって?

それは読んで頂ければ分かります。

興味深く読んで頂けると思います。

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

 

Drやまけんの「病気と免疫の話」エピソード3

新しい動画をYouTubeにアップしました。

自然免疫の重要性について、ノーベール賞受賞者のお仕事と、ある著名な日本人研究者の業績についてお話しています。

 

www.youtube.com

 

再生リストも作成しました。

YouTubeで「drやまけん 病気と免疫」で検索してみてください。

 

本ブログともどもよろしくお願い致します(^^)