目次:
1.「長いテロメア症候群」見た目は若いが、細胞はズタボロ
2.テロメアの長さを抑える遺伝子があった
3.がん細胞――無限に増殖する老化細胞
4.長いテロメアがもたらす恐怖の結果
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1. 「長いテロメア症候群」見た目は若いが、細胞はズタボロ
テロメアを伸ばすことができれば細胞は若返り、寿命すら延ばすことができるのか?
前回の記事、103【テロメアと老化】で、もし、皮膚の細胞のテロメアを伸ばして寿命を延ばすことができればどうなるか?についてお話ししました。
テロメアを長くしたおかげで皮膚細胞が若返って、死ぬべき細胞が死ぬことなく生き続ける。皮膚では細胞であふれかえる奇病になるんじゃないかと。。。
この話はもちろん仮説で、というより、可能性として考えられるひとつのシナリオであって、私の作り話ともいえるものです。本当にこうなるのかどうかは、分かりません。
ところが最近(といっても昨年の話ですが)、通常より長いテロメアをもった細胞がどうなるのか?そのような人がどういう運命をたどるのか?を観察、研究した結果が報告されました。
米国の名門、ジョンズ・ホプキンス大学のチームが、世界的に権威の高い臨床医学誌「The New England Journal of Medicine」2023年6月29日号に掲載した論文がそれです。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2300503
NEJM原著論文「長いテロメア症候群」
先天的な遺伝子異常によって、普通の人よりテロメアが格段に長い人がいるらしいです。
結論を言うと、このテロメアが長い人たちは、歳とってても見た目は若いのですが、実は細胞はズタボロだというのです。
そして、種々の悪性腫瘍の発症リスクが顕著に高いことが判りました。
論文の著者たちは、この症状を「long telomea syndrome(長いテロメア症候群)」と呼んでいます。
2.テロメアの長さを抑える遺伝子があった
普通の細胞には寿命があります。
細胞が分裂するたびにテロメアが短くなり、ついに一定の長さにまで短くなると、予めプログラムされていたとおりに細胞の増殖は停止し、細胞死に至ります。
しかし、造血系の細胞など、一生増殖し続けないといけない細胞は、それでは困るので、分裂の都度、短くなったテロメアの長さを回復させるテロメラーゼが働いています。
一方、普通の細胞では、テロメアが順当に短くならないといけないので、テロメアが長くなるのを抑える遺伝子があるのだそうな。
それがPOT1だそうです。
つまりPOT1は、テロメアを延ばすテロメラーゼとは逆の働きをしているわけで、細胞の種類によってテロメア長を適切に制御し、その結果として我々は健康に生きることができているのでしょう。
過去ブログで、早老症「ウェルナー症候群」のお話をしました。
その原因遺伝子はWRNでした。
WRNの機能は、二本鎖DNAのらせん構造を巻き戻すヘリカーゼと呼ばれる酵素です。
WRNの欠損が、具体的にどのように老化を促進するのか、これもまた、具体的なことはわかっていません。
でも、WRNもPOT1も、染色体末端のテロメア配列に結合することはわかっており、どちらもテロメア長の制御に深く関わっていることは確かなようです。
このように、テロメア長の制御にはいくつもの遺伝子が関与しており、こういう微妙なバランスをとっているものを人間がいじくって、思いのままに細胞を若返らせたり、個体としての人間の健康寿命を延ばせるものでしょうか?
3.がん細胞――無限に増殖する老化細胞
テロメアが一定長以下に短くなると細胞は死滅する。
これを止めるには、死なないガン細胞に倣うのがいいでしょう。
がん細胞ではテロメラーゼが働いており、分裂のたびにテロメア長が修復されるので、無限に増殖できます。
さぞかし、がん細胞のテロメアって、チョー長いんでしょうね?
いえいえ、実はそれが、そうでもないんです。
がん細胞は多種多様で、それぞれに特徴は違うのですが、テロメアの長さは概して長くはないのです。
増殖停止に追い込まれるほど短くはないのですが、普通の細胞と比較しても、それほど長いわけではありません。
最低限の長さが維持できれば十分なのでしょう。
前回のブログでも述べたとおり、一般的にテロメアの短い細胞は老化状態にあると言われます。
そうすると、テロメアの短いがん細胞は、老化状態を維持したまま、チョー元気に無限に増殖を続けているということになるのでしょうか。
つまり、老化細胞のテロメア長を回復させて、分裂停止を回避しても、それだけでは若くて健康な細胞に戻れるとは限らないということではないでしょうか。
老化しているけれども、死ねないし、増殖を止められないという、なんとも不健全な細胞。これがガン細胞の姿なのかもしれません。
4.長いテロメアがもたらす恐怖の結果
では、がん細胞みたいに中途半端な長さではなく、もっと一気にテロメアを長くできればどうなのでしょうか?
ジョンズ・ホプキンスの論文に戻りましょう。
POT1遺伝子に変異のある5つの家系17人を対象に、いろいろと調べました。対象者の年齢は7歳から83歳。
変異保有者の血液細胞のテロメアは、普通に比べて2倍近い長さだったそうです。
そして、高齢でも白髪が少なく、見た目の若い人が多かったということです。(羨ましいですか?)
しか~~しッ、観察開始から2年の間に、甲状腺腫、黒色腫、リンパ腫、子宮筋腫など、様々な腫瘍が発生したと言います。中には、一人で複数の腫瘍を持つ人もいたとか。
どうしてこんなことになるのか?
クローン性造血というがん細胞の遺伝子を解析した結果、ひとつの細胞につき、数百から千個以上もの変異があったといいます。
これは異常な数です。これだけ細胞が、DNAがズタボロになりながら生き永らえているなんて。。。
私の知ってる常識では考えづらい。
なぜなら、私たちの体は、細胞がここまで異常になるのを見過ごし、許すことはないからです。ふつうは。。。(リンチ症候群とか、リ・フラウメニ症候群とか、一部の家族性腫瘍を除いては)
通常なら、DNAに変異が起こると、これを修復する遺伝子が働きます。
もし、修復しきれない場合は、「ゲノムの守護神」と呼ばれるp53遺伝子が発動し、異常細胞を自死(アポトーシス)に追い込みます。
しかし、テロメアの長いPOT1変異保有者のガン細胞は、DNA修復遺伝子や守護神の介入を許すことなく、異常な数の変異を蓄積させながら生き永らえたということになります。
ジョンズ・ホプキンスのアルマニオス教授は、以下のように述べています。
「長いテロメアは、老化を防ぐというよりはむしろ、老化によって生じた変異細胞を守り、その耐久性を強化しているのではないか」
遺伝子変異は、早ければ4歳ころから始まると推測されるようです。
本来なら修復され、あるいは排除されるべき異常な細胞がテロメアの長さゆえに修復と排除に抗い、耐え抜き、生き残り、長年にわたって変異を蓄積して増殖し、幅を利かせ、様々な悪性腫瘍を発症するのだと。
テロメアが短いのは細胞が老化している証拠。だから、テロメアを伸ばせば老化は治せる。寿命が延ばせる。
無理にテロメアを伸ばせば、何が起きるかも知らずに、あまりにも安直な発想です。
私たちはまだ、生命についてなんにも知っちゃいないってことを、肝に銘じなければなりません。
皆さま、くれぐれも怪しい輩のいうことに引っかからないよう、くれぐれもご注意くださいね。
そして、何より大事なのは、食事・運動・睡眠です。
今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。
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