Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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080【そんなに凄いの?「ゲノム編集」(前編)】山中先生も大絶賛「iPS細胞なんか足元にも及ばない!」

目次:

1.そんなに凄いの?「ゲノム編集」

2.何が出来るの?「ゲノム編集」

3.以前は出来なかったの? 生物の「遺伝子改変」

4.「ゲノム編集」の応用例

5.改めて「編集」という言葉から、どんなことをイメージしますか?

次回以降予告:

 

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1.そんなに凄いの?「ゲノム編集」

 

いまや、バイオ/医療の世界では凄い話題です!

「ゲノム編集」

世界を変える!と。。。 人類の未来を変える「神の技術」だ!と。。。

 

私が「ゲノム編集」という言葉を耳にしたのはいつだったか、よく憶えていませんが、2010年頃だったでしょうか。

もう、20年近くも前から購読しているバイオ業界系のメルマガだったと思います。

このメルマガでは、「凄い技術だ!」、「日本もこの流れに乗り遅れるべきではない!」とやたら煽り立ててましたが、わが国では、若干反応は薄かったようです。

かく言う私もご同様。

「原理的には出来るのだろうけれども、汎用(はんよう)性に乏しく、非効率で、一度のゲノム編集をするのに、一体どれだけの手間と時間とカネがかかるんだ?」みたいな感じで、ほとんどシカトしてましたね。(笑)

私には先見の明が無かったのだと思います。

 

でも、2012年から2013年にかけて、第3世代の「ゲノム編集ツール」が開発され、瞬く間に世界中の研究者によって改良が加えられ、その後1~2年の間には、ゲノム編集の実用化に向けた研究が、早くも世界中で始まりました。

こうなると、私もシカトできません。

 

2015年7月に放送されたNHKクローズアップ現代「“いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集最前線~」では、メインコメンテーターの山中伸弥先生が、「基礎研究を始めて25年になるが、これまでの技術の中で一番画期的!凄い技術!」、「iPS細胞など足元にも及ばない!」と大絶賛。

人類の未来をも変えうる「ゲノム編集」のとてつもないポテンシャルを強調されていました。

遺伝子を自在に操ることがきる「ゲノム編集」の可能性と課題/NHK・クローズアップ現代「“いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~」 – @動画

 

2.何が出来るの?「ゲノム編集」

 

なにがそんなに凄いのか? 何が「神ってる」のか?

 

「ゲノム編集」という言葉に、どんな印象を持ちますか?

「編集」というくらいだから、ゲノム(遺伝子、DNA)を自由自在に切ったり、貼ったり、つなげたりして、生物を改造する?あるいは人造生物を造ることが出来る?

まあ、その答えは次回以降に譲るとして、「神の技術」と表現される「ゲノム編集」に何が出来るのかを見ていきましょう。

 

「ゲノム編集技術」で出来ることを、端的に列挙します。

  • どんな生物種でも遺伝子の改変が出来る

  • 生物の個体に対しても遺伝子の改変が出来る

  • ゲノムのどこでも、狙った場所に正確に遺伝子改変ができ、しかもメチャクチャ簡単で安い!

といったところです。

でも、この3つが出来ることがどれだけ凄いのか?ってことですよね。

 

3.以前は出来なかったの? 生物の「遺伝子改変」

 

過去ブログで、特定の遺伝子を破壊した「ノックアウトマウス」のお話をしました。

takyamamoto.hatenablog.com

 

また、それ以前に、まったく別の遺伝子をマウスのゲノムに組み込む「トランスジェニックマウス」を創る技術が、80年代には確立されていました。

遺伝子組換え動物の第1号は、ラットの成長ホルモン遺伝子を組み込まれたトランスジェニックマウスで、通常のマウスの2倍ほどにも大きく育ちます。

俗に「スーパーマウス」と呼ばれ、超一流科学雑誌「サイエンス」の表紙を飾った写真は、当時、大いに話題になりました。

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「サイエンス」誌の表紙を飾ったスーパーマウス(右)と普通のマウス。説明文中に「ラット」とあるが、正しくは「マウス」。正しくは「ラットの成長ホルモン遺伝子を導入したマウス」

 

でも、「トランスジェニック」にも、「ノックアウト」にも、非常に大きな技術的限界がありました。

これまで克服できなかった、上記3つの問題について、ひとつずつ見ていきましょう。

 

まず第一に、動物の遺伝子を操作した「トランスジェニック」も「ノックアウト」も、基本的にマウスでしか出来ませんでした。

学生時代、「トランスジェニック・アルマジロがある」なんて都市伝説を聞いたことがありますが、間違いなくガセでしょう。

ましてや、トランスジェニック・ヒューマンなんて、創りたくっても、到底創れっこなかったのです。

そう、映画「スター・トレック2」で登場した、「20世紀末の遺伝子工学が生み出した優生人類」という設定のカーンなんて、20世紀の科学技術では創り得ない絵空事でした。

 

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知力・身体能力とも人類をはるかに凌駕した遺伝子改変優生人類「カーン・ヌニエン・シン」(「スター・トレック2」から)

 

第二に、トランスジェニックマウスもノックアウトマウスも、作るには受精卵に対して遺伝子操作を行わなければなりませんでした。

受精卵に何かの遺伝子を加えたり(トランスジェニック)、壊したり(ノックアウト)する操作を加えてから、仮母マウスの子宮に移し、生まれてきた仔を何代もかけ合わせて、やっと出来るのが遺伝子改変マウスです。

トランスジェニックもノックアウトも、受精卵を操作しないと作れません。

生まれてしまってからの固体に遺伝子改変は出来なかったのです。

たとえば、遺伝病を治すのに、体の細胞の異常な遺伝子を修復してやる「遺伝子治療」の概念は昔からありました。

いろいろな遺伝子治療の方法が提案されては試されてきましたが、どれも決定的な技術ではありませんでした。

 

第三に、トランスジェニックマウスでは、マウスのゲノムのどの場所に目的の遺伝子が入り込むのか、まったく制御できませんでした。すべては偶然に任せるしかありません。

生存に必須な遺伝子領域に余計な遺伝子が入り込んでしまったら、正常な遺伝子を破壊するのですから、それこそ生まれて来ることすら出来ません。

ノックアウトマウスでは、狙った特定の遺伝子を破壊できたわけですが、実は効率が非常に悪く、作製の手順もメチャクチャ複雑怪奇です。

大学の研究室なら、もう人件費のかからない大学院生を総動員して、力技の人海戦術しかありません。

こうして苦労して、1年以上かけて、やっとの思いで出来上がったノックアウトマウスですが、確かにひとつ遺伝子を破壊したのに、マウスにはなんにも変化が起こらなかった。その遺伝子がどういう機能を持っているのか、なんにも分からなくって、作った人にしちゃ、「ガックシ」なんてこともよくあったのですね。

そして、2年とか3年とか、期限が限られている大学院生にしてみれば、何のデータも得られず、学位論文も書けず、卒業できない、なんてこともあったのです。

 

ところが、2012年に出現した第三世代の「ゲノム編集ツール」によって、上記3つの問題が一気に克服され、非常に効率よく、簡単に、生き物の遺伝子を改変できるようになったのです。

どのくらい簡単かは、上でリンクを貼った「クロ現」の動画を見ていただくと、一目瞭然ですね。

 

4.「ゲノム編集」の応用例

 

実際に生物やヒトに「ゲノム編集」が行われ、実用化に向けた研究が進んでいるのは、例えば、

 

ひとつめについては、歩留まりのいい筋肉ムキムキのマダイや肉牛、腐らないトマト、 気性の大人しいマグロなんかが作出されています。

もちろん、どれも食べるためです。まだ発売されていませんが。。。

 

二番目に関しては、アメリカでHIV感染治療の臨床試験で良好な結果が得られていますし、筋ジストロフィーについては、京都大学のiPS研究所で、細胞の異常な遺伝子を修復するための技術に関して基礎的な検証(ヒトでの試験はまだ)が行われています。

 

5.改めて「編集」という言葉から、どんなことをイメージしますか?

 

「編集」という言葉で連想するのは、ひとつには「動画編集」ではないでしょうか。

近頃の人は、デジタル動画をスマホなんかでサクサク編集作業をするのでしょうけれど、昭和世代の私はというと、連想するのは「フィルム編集」ですね。

 

コマの絵を見ながら、所望の場所でフィルムをそれこそ「切って」、別のフィルムとテープで「貼って」つなげる。

望みの場所で一部のフィルムを削除したり、まったく別のフィルムを挿入したり。。。

これが私のイメージする「編集」です。

 

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では、「ゲノム編集」というと、これと同じようなことがゲノムに対して、つまりDNAの配列に対して、挿入したり削除したり出来るのか?という疑問が、当然のように出てくると思います。

その答えは「Yes」です。ただし、効率を度外視すればという条件付きではありますが、「ゲノム編集」では出来ます!

 

で、フィルムを編集するのに、どんな道具が必要でしょうか?

まず、必須なものといえば、「ハサミ」ですね。

まずは、切りたい場所でフィルムを切る。ハサミがないと、編集は出来っこありません。

編集を行うには、一にも二にも、まずハサミを手にするところから始まります。

そして、2012年に登場した第三世代の「ゲノム編集ツール」。これこそ、第一世代、第二世代の非効率なゲノム編集の効率を飛躍的に向上させた「神のハサミ」なのです。

 

この第三世代のハサミは「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれ、細胞の核の中に入れ込んでやれば、ゲノム上の、こちらが望むどの場所ででも正確に切ってくれる、魔法のハサミなのです。

こんな「神のハサミ」をどうやって作ったかって? う~ん、難しい質問なので、次の機会に譲りましょう。

 

でも、いいハサミを手に入れたからといって、自在に編集するには、切ったフィルムを貼り合わせる「テープ」も必要です。

じゃあ、ゲノムを貼り合わせるのに使える「神のテープ」も存在するのか?

う~むむ、ここのところが、「ゲノム編集」のひとつの大きな課題なのですね。

 

それでも、「ハサミ」で切るだけでも、結構なことは出来るのですよ。

たとえ切りっぱなしで、貼り合わせをしなくってもです。

上述のムッキムキのマダイや肉牛も、HIV感染治療も、ハサミである「クリスパー・キャス9」だけを使って成されたのです。

その辺りのお話は次回。

 

次回以降予告:

■狙い通りの場所で正確にゲノムを切る神のハサミ「クリスパー・キャス9」とは?

■「神のハサミ」の作り方レシピ

■ゲノムを切りっぱなしでも、相当のことができる!

■ヒトの受精卵をゲノム編集することによって、遺伝情報を改変した「優生人間」の作製に近づく国があるって? その国とは!?

 

2回シリーズか? 3回シリーズか?

気まぐれで回数も内容も変わります。ご了承ください。

 

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