Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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052【関節リウマチ(その3)】制御性T細胞研究から生まれた薬「アバタセプト」がリウマチに効く訳

本ブログを始めた当初は、週に1回のペースで最低でも1年間、つまり52回を目標に始めました。

それが今回でその52回目を迎えることができました。号外を含めれば60回以上になります。

1年の予定が、わずか3ヶ月余りでのこれだけの記事を掲載できたのも、多くの皆様が私の記事を読んで下さったおかげです。

そう、最初は1年のつもりでしたが、書き始めてみると楽しくてしようがなく、次々と筆が進んでいくのでした。

皆さま、本当にありがとう御座います。

 

正直なところ、とっくにもちネタが尽きた状況の中で、毎日ネタ探ししながら書いている状況に陥っていますが、それでも100回を目指して頑張ります。

今後ともご支援のほど、よろしくお願い致します。

 

前回に引き続き「関節リウマチ(その3)」をお送りします。

 

目次:

① 制御性T細胞が自己免疫反応を抑える仕組み

② ハイテク人工タンパク質製剤「アバタセプト」

③ 生物学的製剤はなぜ高額なのか?

④ 生物学的製剤の功罪

 

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① 制御性T細胞が自己免疫反応を抑える仕組み

 

リウマチ治療の最期の砦、「アバタセプト」。

タンパク質からできた生物学的製剤であり、ヘルパーT細胞の活性化を抑える、強力な免疫抑制剤です。

 

このアバタセプトが、どうしてこれほど強力に免疫を抑えることができるのか?

それは、制御性T細胞(Treg)が免疫を抑える仕組みを巧みに利用しているからです。

Treg研究の成果から生み出された最先端医薬と言えます。

 

Tregが免疫を抑えるメカニズム(仕組み)はいくつかあって、そのすべてが解明された訳ではありませんが、最も理解が進んでいるのが、Tregが細胞の表面に発現するCTLA-4というタンパク質を介したメカニズムです。

 

アバタセプトが免疫を抑える仕組みを理解するために、まずは、抗原を貪食した樹状細胞などが、どのようにしてヘルパーT細胞を活性化するのか、そして、Tregはどのようにして、ヘルパーT細胞の活性化を抑制するのか、を知らなければなりません。

その仕組みを見ていきましょう。

 

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樹状細胞が異物を食べると、細胞内でそれを分解して、その破片を抗原として細胞表面に提示します。こうして活性化した樹状細胞は「抗原提示細胞」になります。

この細胞表面に提示された抗原をヘルパーT細胞が認識するのですが、それは、ヘルパーT細胞の表面にある「T細胞受容体」と言うタンパク質で認識します。

この抗原提示細胞表面の抗原の形と、ヘルパーT細胞の表面のT細胞受容体の形とが、あたかも鍵と鍵穴のようにピッタリと合わさったとき、抗原提示細胞からヘルパーT細胞に「活性化シグナル」が入って(図の①)ヘルパーT細胞が活性化し、獲得免疫が働き始めます。

 

実は、正確に言うと、抗原提示細胞表面の抗原とヘルパーT細胞表面のT細胞受容体が結合するだけでは十分ではありません。

異物を食べて活性化し、抗原提示細胞となった樹状細胞の表面には「CD80/86」(こんな名前、覚えなくてもいいです)というタンパク質が発現します。

このタンパク質が細胞表面にあるということは、「自分は活性化した抗原提示細胞ですよ」という身分証明書を示しているようなものなのです。

一方、ヘルパーT細胞の表面にはCD28(これも覚えなくていいです、笑)というタンパク質があって、これがCD80/86と結合します(図の②)。

ヘルパーT細胞のCD28が、「確かに」と身分証明書を確認するわけですね。

これで初めて、抗原情報を得たヘルパーT細胞の活性化が起こります。

 

免疫とは非常に用心深いシステムです。

ヘルパーT細胞は、抗原を確認しただけでは活性化せず、相手が本当に活性化した抗原提示細胞であることまでダブルチェックしない限り、簡単には活性化しないようになっているのです。

 

さて、抗原提示細胞が細胞表面に提示している抗原は、何も異物だけとは限りません。

なんと自分の抗原、「自己抗原」まで提示しています。

なんで自己の抗原を提示する必要があるのか分かりませんが、どうやら抗原提示細胞は、自己と非自己を区別せずに細胞表面に提示しているようです。

そして、本ブログ【017】でお話ししたように、健康な人でも、誰でも、自己に反応する免疫細胞を持っています。

takyamamoto.hatenablog.com

 

抗原提示細胞上に提示された自己抗原を自己反応性のヘルパーT細胞が認識し、抗原提示細胞の身分証明書であるCD80/86を確認してしまったならば、提示抗原が自己だろうと異物だろうとお構いなく、ヘルパーT細胞は活性化します。

これが自己免疫疾患の大元の原因です。

 

でも、たいていの人が自己免疫疾患にならないのは、Tregが働いているからです。

もう一度、先ほどの図を見て下さい。

活性化したTregは、細胞表面にCTLA-4(こいつだけは覚えておいて下さい)と言うタンパク質が発現しています。

このタンパク質は抗原提示細胞の身分証明書CD80/86に結合します(図の③)。

CTLA-4がCD80/86に結合すると、抗原提示細胞に「抑制的シグナル」が入る(図の④)とともに、CD80/86がどんどん消えていくのです。

そして、身分証明書を失った抗原提示細胞は、ヘルパーT細胞を活性化できなくなります。

こんな仕組みでTregは自己に反応する免疫細胞の活性化を抑えているのですね。

 

② ハイテク人工タンパク質製剤「アバタセプト」

 

アバタセプトは、Tregがもつタンパク質CTLA-4の一部と、抗体の一部を遺伝子工学技術を駆使してつなげ合わせた「融合タンパク質」です。

患者に投与されると、CTLA-4の部分は抗原提示細胞の身分証明書CD80/86に結合します。

そうすると、TregのCTLA-4が結合した時と同じように、抗原提示細胞に抑制シグナルが入り、かつCD80/86は消えていきます。

このCTLA-4のCD80/86に対する結合力は、ヘルパーT細胞のCD26の20倍も強力なのです。

ですから、否応なし! 強制的!

ヘルパーT細胞は手出しする暇もなく、抗原提示細胞は身分証をどんどん失っていきます。

これによってヘルパーT細胞は活性化されなくなります。

これが、アバタセプトが免疫系全体を強力に抑制するメカニズムです。

 

それから、アバタセプトでは、CTLA-4の一部に抗体の一部を融合させていますが、抗体部分をくっつけることによって体内での安定性が格段に増し、それによって、1回の投与で数週間から1ヶ月以上も効果が持続するのです。

 

③ 生物学的製剤はなぜ高額なのか?

 

従来の医薬品の多くは、人工的に合成された低分子化合物です。

低分子化合物とは、すなわち化学物質であり、ほとんどの場合、安い原料から工場で大量に生産されます。

ところが、タンパク質である生物学的製剤は、現在の技術では、生き物の細胞を使わない限り大量生産は不可能です。

 

CTLA-4の遺伝子(DNA)と抗体の遺伝子(DNA)を結合して、動物の細胞(よく使われるのは、チャイニーズハムスターの卵巣細胞)に組み込みます。

それを巨大なタンクで培養し、増殖した細胞から培養液中に大量に産生された目的のタンパク質が放出されます。

これを高純度に精製して薬にします。

 

ところが、この培養液が実に高い。

「無血清培地」という、タンパク質をほとんど含まない特殊な培養液を使うのですが、これがメチャンコ高いのです。

研究者も実験で使いますが(使わざるを得ないときのみですが)、500mLが数万円ですよ!

貧乏研究室では、とても買えない代物です。

工場で生物学的製剤を作るときには、これを何トンも使うのですから。。。

 

それから、培養液中には、目的のタンパク質以外にも、細胞が作り出した様々なタンパク質が含まれます。

薬にするときには、不純物を取り除き、限りなく100%に近い高純度に精製しなければなりません。

もし、他のタンパク質が少量でも含まれていると、投与された人にアレルギー反応を引き起こす可能性があります。

一番怖いのはアナフィラキシーショックです。これは死に至りますからね。

 

そんなわけで、何段階もの精製工程を経て純度を上げるのですが、当然、精製するたびにロスが生じます。

精製工程を何度も繰り返すほどロスが多くなるので、収率が悪くなります。

ですから、製造効率が悪いのですね。

収率を上げるような効率のいい精製方法の工夫や改善が重要です。

 

④ 生物学的製剤の功罪

 

生物学的製剤は、確かに効果の高いものがたくさんあります。

もちろん、何の問題もないものなんてありません。

それなりの問題を抱えつつも、ベネフィットとリスクを考慮しつつ、適切に使用されるべきものです。

 

ただ、医療費の高騰に警鐘を鳴らす立場としては、高額な生物学的製剤を声高に奨励する気にはなれません。

使わずに済めば、それに越したことはないのです。

 

生物学的製剤のメリットとデメリット。

末期ガンからの生還をも可能にする「免疫チェックポイント阻害剤」。しかし、効く患者と効かない患者の見極めがまだできない。

高い効果を示すガンの「分子標的薬」。でも、一部の適合した患者にしか効果がない。

既存薬で効果のないリウマチ患者に高い効果が期待できる「アバタセプト」。致死的な感染症のリスクがある。

 

う~ん、効果は期待できるが問題もリスクあるし、なんちゅっても金もかかる。

生物学的製剤の事を考えると、いつもブルーな気分になるのです(笑)

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

お薬を作っていらっしゃる側の方のご意見も伺えればうれしく思います。

 

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