Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8)

目次:

①    ラウスの本当の偉大さ

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

③    「逆があった!」

④    がん原遺伝子の発見!

⑤    偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

前回【041】は、お陰様で好評です。

この続編で皆様のご期待に応えられるのか、すっごく不安なんですけど。。。(笑)

 

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①    ラウスの本当の偉大さ

 

半世紀もの時を経て、「道化師」から歴史に名を刻む「偉大な科学者」となったフランシス・ペイトン・ラウス。

 

ラウスが「道化」でないことを証明したのは米国のハワード・マーティン・テミンです。

テミンは、これをきっかけにラウス肉腫ウイルスの研究に没頭していきます。

また、このことが、「絶対」だと信じられていた生物学の「中心教義」を覆すような偉大な発見につながっていきます。

 

ラウスの業績は、テミンをはじめ、後に多くのノーベル賞受賞者を芋づる式に輩出することとなります。

つまりラウスは、がん遺伝子研究という大本流の源泉となったのです。彼の方が近代生命科学に与えた影響は計り知れません。

 

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

 

20世紀の生物学史上、最大の発見と言われるDNAの二重らせん構造モデル。

1953年に、ワトソンとクリックによってこのモデルが提唱される以前は、まだDNAが遺伝子の本体であるということは明らかではありませんでした。

驚くことに、タンパク質こそが遺伝子だと考える研究者の方が多く、ワトソンとクリックのように、DNAが遺伝子だと見ていた研究者の方がむしろ少数派でした。

 

その後、クリックは、遺伝暗号であるDNAの塩基配列の謎を次々と解明していきました。

それらの研究を重ねる中で、彼にはある確信が芽生えていたのです。

生命現象の中心的な教義とも言える絶対法則です。

 

DNAにはタンパク質のアミノ酸配列の情報が、4種類の塩基の並びの組み合わせで記録されています。

酵素がその配列を読み取り、一旦、DNAの配列をRNA、正確にはメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取ります。

mRNAの配列は、正確にDNAの配列情報を写し取っています。

このmRNAの配列が更に読み取られて、タンパク質が作られます。

 

「DNA ⇒ mRNA ⇒ タンパク質」

1958年、フランシス・クリックは、この流れは絶対的な「中心教義(セントラル・ドグマ)」であると提唱しました。

この逆はあり得ないと!

多くの研究者がこの考えを受け入れました。

まぁ、偉大なクリックの言うことでもあるし。。。彼と面と向かって議論するのはしちめんど臭いし。。。(笑)

 

③    「逆があった!」

 

ラウス肉腫ウイルスはRNAウイルスです。

RNAウイルスが細胞に感染した後、どのように振る舞うのかというと、セントラル・ドグマに従えば、ウイルスのRNAから直接タンパク質が読み取られることになります。

 

RNAはDNAに比べると、細胞内ではずっと不安定です。

そして、がんウイルスが感染したからと言って、細胞がガン化するには、それなりの時間が必要です。

そんな長い間、ウイルスのRNAが細胞内で安定して活動を続けられるというのは、少し不自然なようにも思えます。

 

「ウイルスのRNAからDNAができていると考える方が自然じゃないのか?」

テミンは1964年頃から、そのようなことを考えていたようです。

しかし、そんなこと、うかつに大っぴらには言えません。

今度は自分が「道化師」になってしまいます。

 

1970年、テミンは日本人研究者・水谷哲とともに、ラウス肉腫ウイルスがもつ、常識はずれの酵素を発見します。

DNAからmRNAが写し取られることを「転写」と言いますが、なんと、テミンと水谷はウイルスのRNAから塩基配列を写し取ってDNAに逆に転写する酵素を発見したのです。

 

Dr. Howard Martin Temin(1934年 12月10日 - 1994年 2月9日)

 

テミンの洞察力は正しかったのですね。

賢明にも彼は、道化にならずに済みました。

 

こうして「セントラル・ドグマ」は崩れました!

生物学の教科書を書き換えなければなりません。

しかし、偉大な、あの「フランシス・クリックが間違っていた」と書き直さなければならないのですから、教科書の編集者には気の重かったことでしょう(笑)

 

そんな話はいいとして、この「逆転写酵素を利用することにより、不安定で扱いにくいRNAを安定なDNAに転換できるようになりました。

この逆転写の技術によって、その後のRNA研究は飛躍的に進歩することになったのです。

特に、RNAウイルスであるHIVC型肝炎ウイルスの研究に、この逆転写酵素は多大な貢献をしたのです。

私も逆転写酵素さまには大変お世話になりました(笑)

テミン先生、ありがとうございます😊

 

1975年、テミンは「逆転写酵素発見」の業績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞します。

因みに、ほとんどの実験を行ったのは水谷でしたが、彼は受賞を逃しました。

やはり、大事なのは、固定観念にとらわれない着想なのですね。

 

④     がん原遺伝子の発見

 

史上初めて発見されたがん遺伝子、ラウス肉腫ウイルスのsrc遺伝子。

Srcタンパク質の構造

 

1979年、前編でも触れた米国のジョン・マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスは、ニワトリのゲノム、すなわち、ニワトリ自身の細胞の中に、このsrc遺伝子の配列に非常によく似たものを見つけました。

なんで、細胞のゲノムにウイルスのがん遺伝子が存在するのか?

 

そうなると当然、「じゃあ、ヒトはどうなのか?」となります。

果たして、我々ヒトの細胞にもsrcによく似た配列の遺伝子が見つかったのです。

 

ウイルスのがん遺伝子に酷似した遺伝子!

なんでこんな危険なもんを我々は持ってなあかんのんや!?

当然の疑問です。

 

じゃあ、他の動物ではどうなのか?

調べてみると、出るわ出るわ!

脊椎動物から無脊椎動物に至るまで、ほとんどの動物が、当たり前のように、元からsrcを持っているじゃぁあ~りませんか!!

 

そして、この遺伝子が変異を起こすと、ラウス肉腫ウイルスのsrcのような発がん性を獲得するのだということが分かりました。

元々は細胞の増殖制御に重要な働きをしているのですが、一旦故障するとがん遺伝子となり、暴走を始める。

がん遺伝子の原型遺伝子ということで、我々の細胞が持つがん遺伝子に似たものは「がん原遺伝子」と呼ばれるようになったのです。

命名したのはビショップでした。

 

こういう訳で、src遺伝子は動物界に広く存在するありふれた遺伝子だったのです。

そして、かつてウイルスが宿主細胞からこの遺伝子を獲得して、独自の進化を果たした結果、がんウイルスになったのだということも分かりました。

これを証明したのは日本人研究者の花房秀三郎です。

 

つまり、がんウイルスなるものを生み出したのは、他ならぬ私たち自身だということです。

 

1989年、「ウイルスのがん遺伝子は細胞由来である」ことの発見で、ビショップとヴァーマスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

花房は受賞を逃しましたが、大きな貢献をしました。

 

⑤     偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

ラウス肉腫ウイルスにまつわる、これら偉大な業績の数々。

ラウスの人並み外れた洞察力にその源流があります。

 

近年ではiPS細胞。

誰からも「そんなことできる訳がない」と言われ、研究費の獲得に相当の苦労をされたと言いますが、山中先生の執念が実り、現在、医療への実用化に向けた努力が山中先生ご自身をはじめ、世界中の研究者によって進められています。

 

山中先生の着想を源流としたこの偉大な流れが、どういう成果を生み出すのか?

見守っていきたいと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早すぎた男」】がん(その7)

細胞増殖の制御に重要な働きをする「がん原遺伝子」

私たちが生きる上で無くてはならない重要な遺伝子です。

でも、これは変異を起こすことでガンを引き起こす「がん遺伝子」に豹変します。

がん原遺伝子は、私たちの細胞にとって、いわば、両刃の剣と言えます。

 

このがん遺伝子とがん原遺伝子の発見には、非常にドラマチックなストーリーがあり、私は色々と考えさせてくれるこの真実の物語が大好きなのです。

皆さんにも共感して頂けるかどうかは分からないのですが、今回と次回の2回に分けて、がん遺伝子発見物語語り部をさせて頂きます。

 

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天才的な才能よりも、常人にないような鋭い洞察力と直感力を持った人が偉大な発見・発明をすることが多いようです。

中には、あまりにも洞察力に優れ、あまりにも時代を先取りし過ぎていたがために、人から理解されず、評価されないばかりか、世の中の笑いものになった人すらいます。

 

ドイツ人のヴェーゲナーという気象学者。

ある時、世界地図を見ていて、北アメリカ大陸ヨーロッパ大陸南アメリカ大陸とアフリカ大陸とがジグソーパズルのピースのようにピッタリつながることに気が付きました。

1912年、よせばいいのに、彼はドイツの地質学会で「大陸移動説」を発表します。

これが、時代の先を行き過ぎた彼の悲劇の始まりです。

 

彼の優れた洞察力と直感に基づいたこの説には、ほとんど科学的根拠がありませんでした。

陸地の形が合うという状況証拠だけでは、大陸同士がつながっていたという証明にはなりません。

だいたい、これだけ大陸を移動させた、とてつもなく巨大なエネルギーの源について説明できる人なんて、当時は誰もいませんでした。

 

彼は、自分の説の正しさを証明しようと、残りの人生をかけて調査・研究に打ち込みました。

そんな彼を、人は変人扱いし、笑っていました。

 

1930年、ヴェーゲナーは地質調査先のグリーンランドで、50歳の若さで失意のうちに亡くなりました。

恐らく過労による心臓発作であったろうとウィキには書かれています。

 

当時、人類はまだ、彼の説を証明するだけの知識も科学技術も持ち合わせていませんでした。

しかし今では、この「大陸移動説」を疑う人は誰もいません。

 

何の話でしたっけ??

あぁ、がん遺伝子でしたね。

 

20世紀の中頃まで、ほとんどの人がガンと遺伝子との間に関係があるなんて、思いもしていませんでした。

今では、ガンが遺伝子の変異や異常によって引き起こされる病気であることは明白です。

ウイルスによってもガンになります。

このことに初めて気が付いたのは誰で、いつのことなのでしょう?

 

米国の病理学者のフランシス・ペイトン・ラウスという人。

彼はニワトリのガンについて研究していました。

ニワトリのサルコーマ(肉腫;筋肉や骨にできるガンです)の細胞の抽出液を別のニワトリに接種すると、やはりサルコーマになることを見出したのです。

その細胞の抽出液を素焼きの陶器で濾過してもガンになります。

ということは、ガンを引き起こすのは、陶器を通り抜けることのできる、細菌よりも小さなもの、ということになります。

 

1911年、奇しくもヴェーゲナーの「大陸移動説」発表の前年、ラウスは「ウイルス発がん説」を発表します。

ところがギッチョン、彼もまた世界中の研究者のもの笑いになってしまいました。

「ウイルスでガンやて? おまえはアホか!?」

しかし、ラウス先生は、腐ることなく病理学の分野で研究活動を続け、色々と大きな業績を上げられました。

 

「フランシス ラウス 画像」の画像検索結果

Francis Peyton Rous (1879-1970)

 

時は流れて1958年、米国のハワード・マーティン・テミン(1975年ノーベル生理学・医学賞受賞)という遺伝学者が、このウイルスが試験管内でニワトリの胎児の細胞をガン化することを発見しました。

「発見」というより、ラウスの発見の「再発見」というべきですね。

 

しかし、この時点ではウイルスのどういう働きによって宿主の細胞がガン化するのかまでは解明されていません。

そこで、多くの研究者が、このウイルスの遺伝子の機能解析の研究に殺到しました。

そして遂に、ニワトリの細胞をガン化する働きを持つウイルスの遺伝子が特定されたのです。

これが世界初の「がん遺伝子」の発見です。

ちなみに、初のがん遺伝子を発見したのは、後編で詳しく述べる米国のビショップとヴァーマスです。

 

皆から嘲笑を買い、忘れ去られていた「ウイルス発がん説」ですが、50年もの時を経て、こうして正しいことが証明されたのです。

 

このウイルスのがん遺伝子、ニワトリにサルコーマ(sarcoma)を発生させる遺伝子ということで、src(「サーク」と読みます)遺伝子と名付けられました。

 

また、これまで半世紀もの長きにわたって名無しの権兵衛だったこのウイルス。

生命科学に偉大な進歩をもたらしたウイルスが、このまま権兵衛という訳にはいきません。

このウイルス、50年も先を見通していた偉大な科学者に最大の敬意を表し、晴れて「ラウス肉腫ウイルス」命名されたのです。

 

1966年、ラウスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

87歳での受賞は、当時の最高齢記録です。

受賞対象の研究発表から55年というのは、現在でも最長記録です。

 

ラウスは、ノーベル賞受賞の4年後、1970年に亡くなっています。

ヴェーゲナーと違い、存命中にノーベル賞という科学者にとって最高の栄誉をもって賞賛されたラウス。

 

正しい仕事は必ず評価される。

ラウス先生は、なんか失敗したり、落ち込むことがあっても、己を信じることの大切さ教えてくれているように思えるのです。

 

次回予告:

ラウスの偉大な発見は、多くのノーベル賞受賞者を「芋づる式」に生み出しました。

ラウス肉腫ウイルスがニワトリ細胞をガン化させることを再発見したテミン。後年、彼はさらに、このRNAウイルスが、それまでの生物学の常識では考えられないような遺伝子を持っていることを発見します。

そしていよいよ、私たち自身の細胞の中に在る両刃の剣、「がん原遺伝子」の発見に至ります。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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039【がん細胞特異的に働く「分子標的薬」とは?】「がん(その5)」

目次:

① 抗がん剤は本来「毒」!

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってあるの?

③ 分子標的薬の具体例

④ 分子標的薬の最大の問題点

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

※ 筆者注:一般的に分子標的薬は、がん治療において、がん細胞の分子を標的にしたものを指すことが多いようです。しかし、がん以外の疾患、がん細胞以外の分子を標的にしたものも、分子標的薬に含めることもあります。本ブログ記事では、後者の立場にて書かせていただきます。

 

 

がんシリーズに戻らせて頂きます。第5弾です。

 

大幅に追記いたしました。オレンジ色の部分がそうです(2017.06.05)

 

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① 抗がん剤は本来「毒」!

 

ほとんどの医薬品には副作用があります。

薬に本来期待する作用を「主作用」、期待しない作用を「副作用」と言います。

 

薬については、主作用が現れる濃度が低くて、副作用が現れる濃度がそれよりもずっと高い場合は都合がいいです。

ところが、主作用と副作用の現れる濃度が近いと、これは問題です。

期待する効果を得るには、ある程度の副作用のリスクも覚悟しないといけないことになります。

そのような代表が抗がん剤でしょう。

 

抗がん剤に期待する主作用としては、当然、がん細胞を殺すことでしょう。

でも、多くの抗がん剤が、正常細胞をも殺す副作用が出て、患者さんはつらい思いをするのです。

 

なぜ抗がん剤には副作用の出るものが多いのか?

それは、抗がん剤が「抗がん」と言いながら、正常細胞をも殺す「毒」からです。

多くの抗がん剤は、増殖の盛んな細胞を殺すものであり、がん細胞だけを選んで殺す薬ではないということです。

つまり、「がん細胞特異的」ではありません

抗がん剤は、正常細胞の中でも増殖の盛んな毛根や小腸の上皮細胞、骨髄細胞なども殺します。

それで、脱毛や吐き気・下痢、骨髄抑制(白血球が減ります)などの副作用が現れるのです。

 

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってないの?

 

あります! 「分子標的薬」というのがそれです。

 

がんになる仕組みは、今ではかなり詳しく分かっています。

がん細胞では、色々な遺伝子の変異によって、タンパク質の働きが異常になり、細胞増殖の制御が破たんしています。

ですから、どのような遺伝子、どのようなタンパク質に異常があるのかを調べることによって、そのがん細胞の特徴を見つけ出すことができます

特徴が見つかれば、そこを特異的に攻撃するのです

これが「分子標的薬」の考え方です

 

いわば、従来の抗がん剤が、むやみに爆弾を投下するじゅうたん爆撃であるのに対して、分子標的薬は、ターゲットにロックオンしてピンポイント攻撃する「ミサイル療法」と例えられます。

 

これだと、理論的には正常細胞には影響が出ないはずです。

実際には、まったく副作用がないわけではありませんが、がんの性質や患者の体質によっては、非常に高い効果を上げることができます。

 

「がん 分子標的薬 画像」の画像検索結果

 

③ 分子標的薬の具体例

 

分子標的薬には、特定の分子(ほとんどの場合、タンパク質)に結合することで、その分子の働きを阻害するものが多いです。

分子標的薬には、特定の分子と特異的に結合する能力が必要ですが、「特異的な結合」というと、本ブログを熱心にお読み頂いている読者の方でしたら、何かを思いつくに違いありません。

そう、「抗体」です。

分子標的薬には、抗体を利用した「抗体医薬」が多いですね。

 

我々人類は、遺伝子工学と細胞工学の技術により、望みのタンパク質を大量に作り出す能力を得ました。

抗体というのは、B細胞という免疫細胞が作り出すタンパク質です。

ですから、B細胞から所望の抗体の遺伝子を取り出し、別の細胞に組み込みます。

 

さらに、人為的に遺伝子改変を加えて、自然界には存在しないような、自然の性能をさらに高めたり、性質を修正したタンパク質を作り出すこともできます。

 

でかいタンクで、抗体遺伝子を組み込んだ動物細胞(チャイニーズ・ハムスターというネズミの一種の卵巣細胞が使われることが多いです)を高密度で培養します。

細胞は、培養液中にたくさんの抗体を放出するので、その培養液から抗体を高純度に精製して抗体医薬は作られます。

 

Chinese Hamster.jpg

チャイニーズ・ハムスター 

 

例えば、「上皮成長因子受容体」(EGFR)というタンパク質は、細胞の増殖を盛んにする働きがありますが、大腸がんや非小細胞肺がんなど、様々ながんの細胞で、このタンパク質が過剰に作られています。

これは、本ブログ【034】でお話した、細胞増殖を調節する「アクセル」が目いっぱい踏み込まれた状態ですね。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

これでは細胞が過剰に増殖するのも頷けますね。

では、この過剰なEGFRの働きを抑えてやれば、がん細胞の増殖を止められるのではないか?

こんな発想から、EGFRに結合して、その働きを阻害する抗体医薬品が開発されました。

(特定の製薬会社の製品を宣伝したくはないのですが)具体的な例を挙げると、アービタックスとかがあります。

 

他には、ある種の白血病でよくみられる染色体の異常により、Bcr-Ablという完全に異常な遺伝子が出現することがあります。

Bcr-Ablは細胞増殖のアクセルを加速させます。

抗体医薬ではありませんが、この遺伝子の働きを阻害することでがん細胞を殺すグリベックというのがあります。

Bcr-Ablは正常細胞には存在しないので、がん細胞特異的な作用が期待できます。

 

他にもたくさんのがんに対する分子標的薬が実用化されていますが、あまりに多すぎて、正直、私も覚えきれません(笑)

 

④ 分子標的薬の最大の問題点

 

分子標的薬の最大の問題点は、一部の特定のガンにしか効果がないということです。

アービタックスは、EGFRが過剰に発現している種類のガンにしか効果が期待できませんし(あらかじめ、がん細胞におけるEGFRの発現量を検査します)、グリベックは、フィラデルフィア染色体をもつ白血病にしか効きません(他の一部のがん種にも適用になっていますが、限定的です)。

 

理想的には、全てのガンに共通した特徴を見つけ出し、そこをピンポイント攻撃するような抗体医薬ができればいいのですが、残念ながら、それは実現されていませんし、今後も、非常にハードルの高い課題であると思われます。

 

やはり抗体医薬品であり、免疫細胞のブレーキペダルである「PD-1」を標的とした「免疫チェックポイント阻害剤」は、人間本来の免疫力を引き出すことでガンをやっつけるものです。(以下の過去ブログご参照)

021【免疫力の本来のパワー(その3)】「免疫力だけで末期ガンから生還できる!!」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫力を増強すれば、どんな人にでも、どんな種類のガンにでも効果が期待できそうに思います。

しかし、実際には、同じような病態のがん患者に見えても、効く人と効かない人がいますし、効きやすい癌種(メラノーマ、肺がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫など)もあれば、効きにくい癌種(すい臓がん、前立腺がん、大腸がんなど)もあります。

このような分子標的薬の効きやすさ、効きにくさを事前に見分けることが、今後の重要な課題であり、現在、それに向けた研究が精力的に行われています。

 

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

抗体医薬などの分子標的薬は、がん以外でも、関節リウマチなどの自己免疫疾患で効果を上げています。。

リウマチの強い炎症反応の原因である炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の働きを抑える抗体医薬品が多く実用化されています。

 

分子標的薬は、病気発症の分子レベルでのメカニズムの理解が進んだことから実現した、新しい概念に基づく治療薬であり、今後、より病気に特異的で効果の高いものが次々と開発されるでしょう。

 

画期的ながん免疫療法薬、「免疫チェックポイント阻害剤」も抗体医薬ですが、この薬、な、なんと、一人分で2000万円とも3000万ともかかると言われています。

高額療養費制度(私は法律や制度には詳しくありませんので、詳しくは触れません)が改正されたとは言え、国民医療費高騰への影響はどうなるのでしょうか?

 

今後、抗体医薬をはじめ、タンパク質でできた新規な生物製剤が次々に登場することでしょう。

それによって多くの患者さんが救われるようになるのでしょうけれども、それが本当に良いことなのか?

「高度高齢化による高齢患者の増加⇒高額な先端医療技術の登場⇒国民医療費の継続的な増加⇒医療経済の破たんという悪い流れを加速させるのではないかと懸念されます。

 

そう考えると、ここでやはり同じ結論に立ち返るのです。

出来ることなら、「病気にならずに歳を重ねたい」と。。。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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038【自己免疫疾患のなぞ】「なぜ自分を攻撃する免疫細胞が存在するのか?(その2)」

胸腺学校の過酷な卒業試験と落第者の運命!

 

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前回【037】の続きです。

 

卒業候補生の前駆T細胞たちが、ストローマ細胞上のMHCと、その上に提示された自己抗原に対してどのような反応を示すか?

これが、胸腺学校の卒業試験です。

 

ストローマ細胞のMHCの上には、様々な種類の自己抗原が提示されています。

自己抗原なのですから、これに反応してはいけない訳ですが、卒業候補生の中には自己に反応してしまう「不良」もいる訳です。

図を見ながら、説明していきましょう。

 

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超難関! 胸腺学校の卒業試験!!

 

まず、MHCにも、その上の自己抗原にも、まったく反応しない前駆T細胞があります(図の③)。

MHCに反応しないということは、「自分の顔」すら認識できない落ちこぼれです。

このようなものは、卒業させても何の役に立ちません。

という訳で、不合格!です。

 

そして問題なのは、自己抗原に強く反応する前駆T細胞です(図の④)。

これは非常に危険な存在です。

排除しなければ大変なことになります。

自己抗原に反応したことで、好ましくない細胞を排除する仕組み、これを「負の選択」と言います。

この「負の選択」が、自己反応性T細胞を除去する基本的かつ非常に重要な仕組みなのです。

 

という訳で、自分の顔すら分からない出来そこないと、自分を攻撃する不良は、こうしてめでたく排除されるのです。

ところで、この排除はどうやって行われるのかというと、「アポトーシス」によってです。

アポトーシスというのは細胞の「自殺」です。

不合格を言い渡された前駆T細胞は、自ら死なねばなりません。

時代劇大好きな私に言わせれば、「その方たち、不届きに付き、切腹仰せつける」という訳ですねぇ。

酷ですよねぇ。

 

そして、MHCに反応し、自己抗原に反応しないか、弱い反応を示すものが選択されて生き残ります

これを「正の選択」と言います。

 

合格者は、晴れて胸腺学校を卒業して、それぞれ社会に出ていき、活躍が期待されるわけですが、試験合格後に様々な刺激を受けて、どのような刺激を受けたかによって、それぞれどのようなT細胞になるのか、進路が変わってくるという訳です。

 ヘルパーTとか、キラーTとか、Tregとかありますが、ヘルパーにも、キラーにも、Tregにも、それぞれ様々なタイプに細分化されていて、それぞれに役割が細かく分かれているのですねぇ。

社会にも同じような役割の人がいながらも、それぞれに個性が違い、得意・不得意があるのと同じです。

 

さて、この卒業試験の合格率はどのくらいなのか?

合格できるのは、わずか2%スーパーエリートたちだけです。

実に98%もの生徒が、この試験によって、出来そこないか不良というレッテルを張られるのです。

 

私たちの体は、未知のあらゆる異物に対応するために、実に多くの個性をもった前駆T細胞を教育して育てます。

しかし、その大半が役に立たないのです。

なんという壮大な無駄!!

なんたる非効率!!

 

しかし、このわずか2%のスーパーエリートたちによって、何百億という未知の異物に対して戦う能力が獲得されるのです。

 

生命というのは実に効率的かつ合理的に出来ているのかと思うと、とんでもない!

でも40億年もの長い時を経て獲得した超高度で超複雑な防御システム「免疫系」。

こう見えて、これが最も合理的な方法なのかもしれません。

 

この「負の選択」の仕組みによって自己に反応する前駆T細胞が排除されるので、かつては、健康な人には自己反応性T細胞はないはずだと考えられていましたが、現在では、この負の選択のシステムは完全ではないことが明らかになっています。

つまり、自分に反応する一部の「不良」も卒業させてしまっているのです。

でも大丈夫。安心して下さい! 健康な人の免疫系には、この不良をも黙らせる怖いおじさんがいます。

制御性T細胞ですねぇ。

 

制御性T細胞については、本ブログ【017】をお読み下さい。

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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037【自己免疫疾患のなぞ】「なぜ自分を攻撃する免疫細胞が存在するのか?(その1)」

目次:

① T細胞の養成学校「胸腺」

② ご入学おめでとうございます

③ 自分であることの目印「MHC」

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

「俺はガンについて語らせたら何時間でもしゃべれる! 10回はやって見せるぜっ!!」と豪語しておいてなんでは御座いますが、またまた自己免疫疾患の話をさせて下さい(ゴメンなさい)

私の悪い癖なのですが、気まぐれで飽きっぽい性格なのです。。。

 

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「自己」と「非自己」を識別するのが免疫の基本中の基本です。

なのになぜ、自己免疫疾患の患者では自己反応性免疫細胞が存在するのか?

1995年に坂口志文先生が制御性T細胞を発見されるまでは謎でした。

この発見により、健康な人でも誰でも、自己反応性免疫細胞を持っているのが当たり前、ということが明らかになったのでした。

017【自己免疫疾患と制御性T細胞】 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

でも、それ以前は、人間の体には自己反応性免疫細胞を取り除く仕組みが備わっていることが知られていて、そのために、健康な人には自己反応性免疫細胞はないんだという考え方が普通でした。

自己免疫疾患の人は、きっとこの自己反応性免疫細胞を取り除く機能が異常なんだということですね。

 

これまでにもお話した自己免疫疾患ですが、この病気の理解を更に深めるために、我々の体が、自己に反応する免疫細胞をどのようにして取り除いているのかについてお話ししましょう。

 

① T細胞の養成学校「胸腺」

 

全ての血液の細胞は、骨の髄、すなわち骨髄で造られます。

ここに「造血幹細胞」というのが詰まっており、将来、赤血球や白血球、血小板など全ての血液細胞へと成熟していくのです。

でも、どの幹細胞がどの血液細胞になるのかということは、この時点では全く決まっていません。

逆に言えば、ひとつの幹細胞は、どの血液細胞にでもなる可能性があります。

 

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図 免疫細胞の赤ちゃんは胸腺へ 

 

さて、免疫細胞も、すべてこの血液幹細胞が成熟してできます。

免疫細胞の赤ちゃんである幹細胞は、少しずつ成長しながら「胸腺」という組織に入ります(図の①)。

 

胸腺というのは、胸骨と心臓の間辺りにあるリンパ組織です。

胸腺は、いわば免疫細胞の「学校」です。

学校であるからには何か教えてくれるのでしょうか?

ズバリ、自己と非自己の見分け方です。

 

補足ですが、胸腺で教育される免疫細胞はT細胞です。

B細胞の教育の仕組みは、T細胞とはまた違うのですが、B細胞の方はまだ分かっていないことも多く、ですので、ここではT細胞と胸腺のお話を致します。

 

② ご入学おめでとうございます

 

さて、よちよち歩きの免疫細胞の卵たち、胸腺学校に入学した後に待ち受けているのは、彼らのあまりにも過酷な運命なのです。

 

入学した時点では、彼らはどのような免疫細胞になるとも決まっていません。

でも胸腺学校に入学したということは、「T細胞になることを義務付けられた」ということです。

胸腺学校の入学生たちに他の進路はありません。T細胞だけです。

なぜなら、胸腺は「T細胞養成専門学校」だからです。

そのスパルタ振りは、悪役レスラーを専門に養成する、タイガーマスクの「虎の穴」さながらなのですよ。

 

一口にT細胞と言っても、ヘルパーTとか、キラーTとか、Tregとか色々な「職種」がありますが、この時点ではまだ、どれになるのかは決まっていません。

入学した時点では、理系とも文系とも決まっていないようなものですね。

 

③ 自分であることの目印「MHC」

 

胸腺の中にはストローマ細胞という上皮細胞があります。

ストローマ細胞の表面には、色々な種類のタンパク質がくっついています。

その一つが「MHC」というタンパク質です。

MHCは、いわば「自分の顔」です。あるいは、自分であることを証明する「ID」と言ってもいいでしょうか?

MHCとは、実は本ブログ【025】でお話した「免疫の型」HLAのことです。

HLAは人それぞれ皆違うと言いました。即ち、MHCは皆違うわけです。

025【人類はウイルスなんかで絶滅なんてしない】「免疫は人それぞれ万差億別」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫細胞は、その細胞が自分の細胞か別人の細胞かを見分けることができます。

なぜなら、全ての細胞にはこのMHCが表面にあるからです。

MHCは自分の顔ですから、見れば分かる訳ですね。

他人の臓器を移植しても拒絶されるのは、その細胞の顔(MHC)が違うのを免疫細胞が認識するからです。

「お前、俺と違うやんけ!なんでここにおんねん!?」という訳で、その臓器を攻撃します。

 

骨髄移植では、他人では決して完全に一致するはずのないHLA(MHC)ができる限り似た人を骨髄バンクの登録者から探し出して、その人にドナー(提供者)になってもらいます。

患者(レシピエント)に移植されたドナーの骨髄細胞にもMHCはあります。

でも、このドナーの骨髄細胞のMHCは、患者のMHCととてもよく似ている訳です。

まさしく「他人のそら似」ってやつですね。

で、免疫細胞としては、「なんか自分のような、ちょっと違うような。。。まっ、ええかっ!?」てな具合に攻撃を控える訳です。

それで骨髄移植が上手くいくという訳なのですねぇ。

 

登録バンクのある骨髄移植はまだいいです。

登録者の中から、できるだけHLA(MHC)の合うドナーを見つけることができますから。

生体肝移植なんかでは、他人よりはHLA(MHC)が近い近親者から肝臓の提供を受けます。

 

脳死した他人からの臓器移植に至っては、HLAが適合する待機患者を探している暇はありません。

HLAが合おうが合うまいが、無理やり強引に移植することもあります。

そのような場合には、拒絶反応を抑えるために、強力な免疫抑制剤の使用が必要です。それも一生。

 

とまあ、免疫細胞がどうやって自分の細胞と他人の細胞とを見分けるのか、骨髄移植や臓器移植を例にとって説明しましたが、お分かり頂けたでしょうか?

 

④ 胸腺学校でのスパルタ教育

 

成熟T細胞というのは抗原特異的に働きます。

つまり、特定のT細胞は特定の抗原しか認識できないし、攻撃できません。

 

「抗原」、すなわち私たちの体にとっての「異物」とは、それこそ無数にあります。

私たちの体としては、この無数とも言える異物に対して対抗できる策を講じておきたいところです。

つまり、無数のすべての抗原に反応できるT細胞を装備しておくことが理想です。

実際には「無数」というわけにはいきませんが、私たちの体には数百億種類、数千億種類の抗原に対応できるT細胞が「あらかじめ」備えられています。

 

胸腺の話に戻りましょう。

 

T細胞の卵たちは、胸腺学校に入学後、遺伝子にランダムな組換えや変異が起こり、それぞれに違う個性を獲得していきます。

そうすることによって、様々な抗原に対応できるように、それぞれが異なる個性を持ったたくさんの「前駆T細胞」へと成長します。

 

ところが、この様々な個性を持った前駆T細胞たちの中には、自分の抗原、すなわち自己抗原に反応するものが、どうしても育ってしまうのです。

そのような前駆T細胞が胸腺を出て、体中を駆け巡るとまずいことになります。

すなわち、自己免疫疾患になる可能性があるわけです。

 

そこで、胸腺学校を出て、一人前の成熟T細胞として世に出る前に、厳しい卒業試験を受けなければなりません。

自分を攻撃するような「不良」を社会に出すわけにはいきませんからねぇ。

 

一体、どんな試験なのか?

胸腺のストローマ細胞の話に戻りましょう。

 

ストローマ細胞の表面にもMHC(自分の顔)がたくさんあり、「自分の細胞ですよ~」とアピールしています(図の②)。

MHCはお皿のような形をしています。

なんでお皿のような形をしているのかというと、実際、このお皿の上に何かを載せるためです。

何を載せるかというと、「抗原」です。しかも自分の抗原、「自己抗原」です。

卒業候補生の前駆T細胞たちが、このMHCのお皿の上にのっかった自己抗原にどのような反応を示すか? これが卒業試験の内容です。

では、どうやって合否を決めるのか? 合格率は? 試験に落第したらどうなるのか?

 

落第者には過酷な運命が待ち受けています!

長くなりましたので、続きは次回! ごきげんよう!さようならッ!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

次回の続編もよろしくお願いします。

 

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036【第5のがん療法!? 「ウイルス療法」】がん(その4)

人類がヘルペスウイルスを改良して創り出したスーパーウイルス!

その名をG47Δ(デルタ)!!

 

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以前は、がんの治療法と言えば、外科手術療法、化学療法、放射線療法が3大がん療法と言われていましたが、第4の療法として免疫療法が登場し、そして、近年はウイルス療法という新しい第5番目のがんの治療概念に期待が集まっています。

 

がんに対するウイルス療法の原理はいくつかありますが、そのうちの一つに「腫瘍溶解性ウイルス」というものがあります。

ある種のウイルスには、元から感染した細胞を次々と破壊(溶解)して、他の細胞に感染していく性質があります。

また、以前から、がん細胞はウイルス感染には弱いということが知られていました。

このウイルスとがん細胞の性質を利用して、ウイルスにがん細胞をやっつけさせようというアイデアです。

 

ただし、最大の問題は、正常な細胞まで破壊させてはいけないということであることは言うまでもありません。

では、どうすればそれを可能に出来るのか?

最新の遺伝子工学技術を駆使してウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけを破壊して、正常な細胞には影響しないようなウイルスを作り出す必要があります。

そのようなことが人類にできるのか?

 

1970年代初めに遺伝子組換えの技術が確立してから間もないころ、このような概念は早くも生まれていました。

現在の遺伝子工学の技術では、ウイルスの遺伝子を改変して、自然界に存在しないウイルスを創り出すくらい造作もありません。

難しいのは、別のところにあります。

 

話が横道に逸れますが、小説や映画などのフィクションで、人類を絶滅させるような恐怖のウイルス兵器をマッドサイエンティストが創り出すような話、いっぱいありますよねぇ。

古くは、私が敬愛する小松左京大先生の「復活の日」。近年では「20世紀少年」とか、最近では、私もほとんど原作を読んでいるダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ(ダビンチ・コード・シリーズ)の「インフェルノ」。

あんな恐るべきウイルス兵器を、果たして本当に人間が造れるのでしょうか?

それに対する私の答えは、技術的には「Yes」です。あくまでも技術的にはYesです。

つまり、強毒性を持つ別のなんかの遺伝子を既存のウイルスに組み込むとか、感染力を高める別のなんかの遺伝子を組み込むとか、そのようなことは、技術的には本当に造作もないことなのです。

 

しかし、私は断言できます。そのような恐怖のウイルス兵器を作り出すことは、がんを治すウイルスを造ることよりも難しと!

何故なのか?

まずは、ウイルスで人類を絶滅させるにせよ、がん患者を救うにせよ、本質的な課題は同じだということがあります。

そんでもって、本当に難しいのは、創り出したものが、本当に思惑通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価するのが難しいということです。

ポイントは創ったものの評価なのです。

創っては試し、改良してはテストし。

でも、全く期待するような結果が得られない。

何故なのか理由が分からない。

来る日も来る日もその繰り返し。。。

で、やっとこさ、動物実験かなんかで好ましい結果が出たなら、最終的な評価をするためには、実際に人間に感染させなくてはなりませんよねぇ? つまり人体実験です。

動物実験で得られた結果が、ヒトでは全く再現できないということはままありますから。

しかし、「20世紀少年」でも、「インフェルノ」でも、ヒトでの大規模試験をしてませんよね?

 

私が正しい評価方法のやり方をお教えしますので、マッドサイエンティストの皆さま、耳ほってよく聞きくされ!

まず、広告を出します。

「健康に自信のある方急募! 人類を絶滅させる恐怖の殺人ウイルスの試験をします。謝礼弾みます。先着1000名様限定! 只今オペレーター増員中! 今すぐお電話を‼️」

まあ、こんなもんかな?

 

そんなんで、うまいこといくと思ってるんやったら、その能力を病気の治療法開発に使てくれっ!ていうねんっ(笑)

 

いや、長い寄り道になりました。誠に申し訳御座いません。

話を元に戻しましょう(笑)

 

そんなフィクションの話はどうでもええですわい。

がん治療用の改変ウイルスも、思惑通りに創るだけなら簡単です。

でも本当に難しいのは、作製した改変ウイルスが、意図した通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価することです。

評価の結果、ほとんどが開発者を落胆させる結果が出るのが常です。

そうして、とめどもない試行錯誤の連続。それも先の見えない単純作業の連続。

このように人間である研究者が己の忍耐力と戦いつ続けた結果、このような先端的テクノロジーに基づいた新しい医療が世に出るのです。

ハイテクとか先端テクノロジーとか言われる華やかさの裏には、このような地道で泥臭い努力が必ずあるのです。

 

さて、様々な理論に基づく様々なタイプのがん治療用のウイルスが開発されていますが、せっかくですので今回は、日本人研究者が世界に先駆けて実用化に向けて研究を進めているがん治療用ウイルスを紹介しましょう。

 

1型の単純ヘルペスウイルス(HSV-1)は、口唇ヘルペスとして知られている、ありふれたウイルスです。

ほとんどの人に感染しており、普段は悪さをしません。

このウイルスを元にして、がん細胞で増殖し、がん細胞のみを破壊する腫瘍溶解性ウイルスの作製に米国の研究グループが成功したのは1991年のことです。

 

その後、このウイルスは東大医科学研究所の藤堂具紀(ともき)教授らのグループによって更に改良が加えられ、現在ではHSV-1の3つの遺伝子に変異を導入して作製されたG47Δ(デルタ)という第3世代の腫瘍溶解性HSVが登場しました。

これら3つの遺伝子の改変により、G47Δは分裂していない細胞ではタンパク質合成ができず、更に正常細胞でのDNA合成がブロックされるため、感染はしても増殖できません。

G47Δは正常細胞で増殖できないため、たとえがん細胞のように増殖が盛んな骨髄細胞(血液の細胞を作っています)でも、影響はないそうです。

 

更にG47Δでは、第二世代のウイルスに比べて、盛んに分裂するがん細胞でのみ増殖する能力が高められました。

益々、正常細胞への影響が減り、安全性が高まったという訳ですね。

 

更に更に(なんか今回は「更に」ばっかですね)、G47Δは、感染によってがん細胞を破壊するだけでなく、免疫細胞の抗原を提示する力を増強することでリンパ球を活性化して、その結果なんと、免疫による抗腫瘍効果を高める働きをもゲットしたのです。

つまり、このウイルス自体のがん細胞を破壊する能力にプラスして、ウイルス感染の刺激によって免疫力を高めるという「ウイルス+免疫ダブル療法」を同時にやってのけるスーパーウイルスなのです。

こいつは驚きだいッ!

 

このウイルスについては、とても分かりやすい動画があります。

藤堂先生ご自身が、ウイルスががん細胞をやっつける動画を見せながら、分かりやすく説明して下さっています。

www.ampo.jp

 

病気の治療にウイルスを利用する際に最も考慮しなければならないことは、正常細胞に対するウイルス自体の病原性を如何に抑えるかです。

G47Δは正常細胞は殺さないとは言っても、元になっているHSV-1は、元々「口唇ヘルペス」といって、病気を起こすウイルスですからね。

でも、安心して下さい! G47Δでは上述の通り、遺伝子操作により正常細胞での増殖を抑えることに、既に成功しています。

 

とは言っても、ウイルスは増殖を重ねるうちに変異する可能性があります。

万が一、変異によって正常細胞での増殖能が回復したり、その他、予測しなかった性質を獲得して、患者に悪影響を及ぼすことがないとは言い切れません。

しかし、安心して下さい! そのような状況に陥った場合でも、HSVには昔からいい薬があるのです。

チミジン・キナーゼ阻害剤という薬ですが、この薬は、ヘルペスウイルスがチミジン・キナーゼという酵素の働きがないと自分のDNAを合成できないことを利用しものです。

ヒトの細胞はチミジン・キナーゼを使いませんので、この薬でチミジン・キナーゼの働きが抑えられても人間はヘッチャラ、ウイルスには災難、という結果になるのです。

安心して下さい! G47Δにもこの薬、ちゃんと効きますよ。

 

このお薬、読者の中にはお世話になったことがある人がいらっしゃるかもしれません。

帯状疱疹(たいじょうほうしん)ご存知ですか? 私は経験ありませんが、痛いそうですね?

あれはHSV-1とは違いますが、ヘルペスウイルスの一種(実は子供のころに感染した水疱瘡のウイルス)が原因なため、この薬がよく効きます。

こんなヘルペスウイルスの特効薬が既にあったおかげで、何かまずいことがあっても、G47Δの活動を抑制することが可能なのです。

至れり尽くせりですよ~。

 

このようにG47Δは、従来の腫瘍溶解性ウイルスよりも抗腫瘍効果と安全性が高められており、治療の選択肢の少ない、より進行したがんでの有効性が期待されています。

現在、東京大学医科学研究所附属病院にて、人での効果と安全性を検証する臨床研究が行われています。

進行中の臨床試験|東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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035【遺伝するガン「家族性腫瘍」】がん(その3)

目次:

① 家族性大腸がん

② コロンボがヤブ睨みなわけ

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について(注:珍しく哲学的に語りますよぉ)

 

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不幸にして、生まれながらにガンになりやすい遺伝子を持っている人がいます。

遺伝するガン、家族性腫瘍で一番多いのは大腸がんです。

全大腸がんの1割近くが「家族性」と考えられていますが、家族性大腸がんにもまた、何種類かがあります。

あと、女性に多い家族性腫瘍では、乳がん卵巣がんが代表的で、女性にとっては深刻な問題です。

乳幼児期の小さなときに眼にできる腫瘍や、全身に多発性の腫瘍ができるものに遺伝性のものがあります。

 

家族性腫瘍は、変異のある遺伝子の種類によって様々であり、予防可能なもの、延命できるものもあれば、一度発症すれば手の付けられない悲惨なものもあります。

身近に家族性腫瘍の人がいない方には馴染みがないかも知れませんが、このような病気もあるということを知って頂く機会があってもいいかもしれません。

 

今回は、アンジェリーナ・ジョリー刑事コロンボ役で有名なピーター・フォークのエピソードなんかも交えて、家族性腫瘍についてお話します。

 

以下に主な家族性腫瘍について、病名とガンができる臓器や時期、症状、原因遺伝子についてまとめておきますので、以下の記事を読まれるときに参照して下さい。

 

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① 家族性大腸がん

 

家族性大腸がんには何種類かありますが、代表的なものは「遺伝性非腺腫性大腸がん」(病名が長くて舌噛んじゃうので、「HNPCC」とか「リンチ症候群」と呼ぶ)と「家族性大腸腺腫症」(同じく「FAP」)でしょう。

 

HNPCCの原因遺伝子は、前回のブログ【034】でお話した「DNA修復遺伝子」です。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

この遺伝子がやられると、DNAの修復ができず、ガンの進行が速いと言いました。

ところが、HNPCCの人は、生まれながらにこのDNA修復遺伝子群(実際はDNA修復遺伝子は複数ある)のいくつかに生まれながらに変異があるのです。

ですから、生まれつき、体中のすべての細胞で遺伝子の変異をうまく修復することができません。

40歳代くらいから発症することが多く、特に大腸がんが多いのですが、全身の細胞でDNA修復ができない訳ですから、多臓器にガンが発症することも多くあります。

中年代くらいまでは生きられることが多いのですが、患者はいつ発症するかしれない恐怖と戦いながら暮らすことを強いられます。

 

FAP(家族性大腸腺腫症)はAPCという遺伝子の変異で起こることが、日本人研究者、シカゴ大学医学部教授(元東大医科学研究所教授)の中村祐輔先生によって突き止められ、中村先生は一躍世界に名を馳せられました。

FAPでは、だいたい成人後に大腸に何百、何千というポリープが発生します。

こんな感じです。

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ポリープがギッシリ!

 

これを放置していると、まず間違いなく、このポリープの中からガン化するものが現れます。

発症予防のために、10代のうちに大腸の全摘出が行われます。

そうすることで、比較的普通に生活できるようになります。

 

② コロンボがヤブ睨みなわけ

 

ご存知刑事コロンボ。この方の目つきっておかしいですよね。どこ見てんだか?って感じ。

私は子供のころから「焦点合ってへんのんとちゃう?」って思ってました。

 

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それもそのはず。実はピーター・フォークさん。3歳の時に右眼に腫瘍ができ、眼球摘出手術を受けたため、右眼は義眼なのです。

 

この病気、網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)と呼ばれる家族性腫瘍で、RB(アールビー)と呼ばれる遺伝子の変異が原因であることが分かっています。

発症すると抗がん剤放射線療法を行いますが、効果が無ければ、小さな子供には気の毒ですが、眼球摘出を行います。

なぜか腫瘍は片眼にしか現れないことが多く、片方を摘出すれば普通に暮らせることが多いです。

 

いや、ちょい待ち!

「普通」って言っても、劇中のコロンボは車を運転してたよねぇ?

普通に愛車のプジョー403カブリオレを! それも片目で!

あんた免許持ってんの? 危なくね!?

 

因みにこのRB遺伝子初めて発見されたがん抑制遺伝子として非常に有名です。

 

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

 

前回、我々の細胞を守っている「守護者」、がん抑制遺伝子p53の話をしました。

これがやられると、我々には大変なダメージです。

高率でガンになりやすくなります。

 

なんと、このp53遺伝子に生まれつき変異のある人がいます。

リ・フラウメニ症候群と呼ばれ、守護者が元からいないものですから、中年代以降、ガンが発症しやすくなり、一旦発症すると、次から次へといろんな臓器にガンが発生するようになります。

こうなると手が付けられません。

 

p53遺伝子が、我々の細胞を守る上で、如何に重要な働きをしているのかということがよく分かります。

「守護者」とよばれるゆえんです。

 

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

 

先ごろジョニー・デップとの不倫報道、ブラピとの離婚騒動と、マスコミへのゴシップ提供に事欠かないアンジェリーナ。何かとお騒がせです。

でも、アンジーにとって、この程度のゴシップはモノの数ではありません。

 

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彼女は、2013年5月に両方の乳房の全摘出を行ったと発表して、全世界を驚かせました。

女優という職業、それもハリウッドを代表するスーパーセレブリティで、この美貌とボディが最大の売りものにも関わらずです!

そりゃあみんな驚きますよね。よっぽどの事情があったに違いありません。

 

その事情とは、乳がんになるのを予防するためだとのことです。

ではなぜ彼女は、自分が将来乳がんになると分かったのでしょうか?

 

彼女は、ずっと以前から近しい身内に乳がんが異常に多いことを気に病んでいました。

実の母親を含めて近親女性が3人も乳がんで亡くなっているのです。

そして、乳がんには遺伝性のものがあること、その原因遺伝子が突き止められていること、その原因遺伝子の変異の有無を調べる遺伝子検査を受けることができることを知りました。

果たして検査の結果、家族性乳がんの原因遺伝子であるBRCA1遺伝子に変異のあることが分かったのです。

その結果を受けての決断でした。

 

女性の皆さん。遺伝子検査で変異が見つかったら、両方の乳房を切る決心をすることができますか?

将来、100%乳がんになると分かっていれば切りますか? それとも、100%でも躊躇しますか?

 

実は、この遺伝子に変異がある場合、一生涯を通して乳がんになる確率は約80%なのです。

そう、100%ではありません。

ですから、切らなかったとしても乳がんにならないかもしれないのですね。

 

更に、しかも、しかもです。

乳がんは乳腺という組織からガンになります。

ですから、乳房を切るのは、この乳腺を除くのが目的です。

ところが、全摘出を行ったつもりでも、乳腺を完全に切り取れるとは限らないそうです。

摘出し切れずに一部残った乳腺からガン化する可能性もあるというのです。

 

切らなくってもガンにならないかもしれないし、切っても完全には防げないかもしれない。

このような条件下での決断です。

医者は説明するだけです。決断するのは、あくまでも本人です。

 

男の私でも、女性が乳房を切る決断をすることの苦悩や葛藤というのは、理解できるような気がします。

でも、私が分かるのは、ただ「過酷な決断」だろうということだけです。

アンジーのその時の本当の苦悩や葛藤の気持ちが、私などに分かるはずもありません。

 

遺伝子検査と言っても、100%の精度で未来を予測できる訳ではありません。

天気予報の降水確率のような不確かな情報を元に、非常に重大な決断を患者本人に強いる、このような検査について、倫理的な問題点の指摘や、賛否を議論する声もあります。

 

アンジーの話は、これだけでは終わりません。

さらに2015年、彼女の卵巣に腫瘍が見つかり、片方の卵巣と卵管を切除しました。

BRCA1の変異は、遺伝性卵巣がんの原因にもなります。

幸い卵巣の腫瘍は良性でしたが、結果的に彼女は、「女性である部分」をかなり失うこととなったのです。

 

何と言えばいいのか言葉も見つからいほど苛烈な人生ですが、彼女はいま、何人かの恵まれない子供の里親を務め、人道支援活動を積極的に行うほか、イギリスの大学の客員教授に就任するなど、大変にご活躍中です。

 

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について

 

たまたま今回取り上げた家族性腫瘍以外にも、遺伝する病気はたくさん存在します。

昔から遺伝する病気というのは広く知られていて、差別の対象になっていたのは、皆さんご存知でしょう?

でも、21世紀の現代になって、それも少しは変わったのでしょうか?

 

そこで皆さんにお尋ねしたいのですが、皆さんは自分が正常だと思いますか?

何をもって正常だと言えるのでしょう?

単に健康だから? 他の大多数の人と同じだから?

本当に他の人と同じですか?

 

もう一つ伺います。遺伝する病気を持つ人は異常だと思いますか?

 

私も、ガンに関するこれまでの一連の記事の中で、遺伝子の「異常」という言葉を頻繁に使いました。

確かに、前回の【034】で、発がん性物質放射線なんかの影響で、後天的に遺伝子が変異した場合などに「異常」という言葉を使いましたが、これは間違いではありません。

例を挙げると「放射線の影響で遺伝子に異常が起こり、異常な細胞が発生した」

こんな使い方ですね。

 

しかし、遺伝する病気の素因を持つ人に対して、生まれながらに遺伝子に「異常がある」と言った場合、それは適切な表現とは言えません。

何故適切でないか、その理由が分るでしょうか?

 

遺伝する病気の存在というのは、人間が遺伝的な多様性を追求する高等生物である限り、必然的なものです。

 

人それぞれ、全て遺伝的に違いがあります。

病気の原因となり得るような遺伝子の違いも含めて、遺伝子の多様性の一部なのです。

ですから、少なくとも遺伝子的には、誰が正常で、誰が異常だなんてことは一概には言えないのです。

 

今回の話で、私がお伝えしたことの真意が皆様に伝われば、誠に幸いです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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034【どのようにして細胞に遺伝子の変異が蓄積するのか?】がん(その2)

歩くと、昨日肉離れした左太ももの前が多少痛いです!

頑張れ!俺の免疫細胞! 早く修復してくれよ!!

 

目次:

① 遺伝子異常を引き起こす原因!「赤い稲妻」の正体

② どのような遺伝子に異常が起きればガンになるのか?

③ 遺伝子の変異を修復する遺伝子の変異だって???

 

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前回の本ブログ【033】では、細胞のガン化につながるような自然のレベルを超えた遺伝子異常が、どのような原因で、どういう遺伝子に起きるのか?について疑問を投げかけたところで話を終えました。

033【そもそもガンってどういう病気?】がん(その1) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

今回は、そこから始めます。

 

① 遺伝子異常を引き起こす原因!「赤い稲妻」の正体

 

前回の話で、「がん化の多段階仮説」の図の中で示された「赤い稲妻」が細胞に遺伝子異常を引き起こす原因のようだと示唆しました。

この赤い稲妻の正体とは何でしょうか?

 

細胞に遺伝子異常を引き起こす原因は、我々の日常生活の中に溢れています。

しかし、それが何かを知れば、それらを可能な限り遠ざけることができます。

 

赤い稲妻は、大きく3つに分けられます。

ひとつずつお話します。

 

・物理的要因

細胞に遺伝子異常を引き起こす原因、皆さんもある程度ご存じだと思います。

物理的な原因としては、放射線や紫外線が挙げられます。

ヒロシマナガサキチェルノブイリ、フクシマなどは不幸な出来事ではありましたが、放射線が人間に及ぼす影響についての知見を与えました。

強い紫外線は皮膚がんの原因となることが知られています。

これら放射線や紫外線は高いエネルギーを持った電磁波です。

細胞のDNAがこれらの高エネルギーを受けることで塩基の構造が変化し、その結果、塩基配列が変異することが分かっています。

特に、4つの塩基のうちのシトシン(C)は化学的に不安定で、高エネルギーを受けることで、チミン(T)に変化しやすいことが知られています。

ですから、がん細胞においてCからTへの突然変異というのは、比較的多く見られます。

 

・化学的要因

化学物質の影響によって誘導される遺伝子の異常です。

発がん性物質」と言えば、どなたでも分かりますね。

アスベストやタバコのタールに含まれる何十種類のも発がん性物質は、いずれも肺に吸入するものですね。

わが国で承認されている食品添加物にも、「変異原性」といって、強い遺伝子変異誘導性を持っていることが細胞の実験や動物実験によって示されている例が少なくありません。

 

・生物学的要因

細菌やウイルスなどの感染により、細菌やウイルスの遺伝子の働きを細胞が受けて、増殖制御が破綻し、がん化につながることがあります。

細菌では胃がんの原因となるピロリ菌、ウイルスであれば、肝臓がんを引き起こすB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルス、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスなど、他にもたくさんあります。

これらの感染症の多くは検査で分かります。検査で感染していることが分かれば、色々と対策が可能です。

99%以上の胃がんの原因となっているピロリ菌は除菌が可能です。

肝炎ウイルスの感染が分かった場合は、予防対策を行ったり、発症後には(高価ですが)治療薬があります。最新の治療法により、場合によりますが、肝炎ウイルスを排除して完治も可能となってきました。

 

以上の3つが「赤い稲妻」の正体ですが、これらは全て外部要因です。

内部要因、つまり自分の体の中に原因があり、「老化」(免疫力を維持して若さを保ちましょう)と親から受け継いだ「先天的遺伝子異常」(これは致し方ないですが、遺伝子検査で分かる場合もあります)とがそれです。

 

② どのような遺伝子に異常が起きればガンになるのか?

 

がんの原因となる遺伝子の異常というのは、非常にたくさんあります。

しかしながら、その多くは、細胞の増殖の制御に関わるもので、「がん原遺伝子」「がん抑制遺伝子」とがあります。

それから、遺伝子に異常が起きた際にこれを修復する、「DNA修復遺伝子」というのがあります。

 

がん原遺伝子とがん抑制遺伝子のお話から。

簡単に言えば、がん原遺伝子とは、細胞を増殖させる方向に働く遺伝子です。

そして、がん抑制遺伝子というのは、細胞増殖を抑制する働きがあります。

こう言えば感のいい読者の方はもうお気づきでしょう。

がん原遺伝子は、細胞増殖の「アクセル」役であり、がん抑制遺伝子は「ブレーキ」役であると例えられます。

免疫にもアクセルとブレークがありました。

細胞増殖もアクセルとブレーキとで制御している訳です。

 

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細胞増殖を制御するアクセルとブレーキ

 

更に感の鋭い方は、このアクセルとブレーキが異常を起こすことで、細胞がガン化するのだということに気付かれるでしょう。

 

通常は、細胞ではアクセルであるがん原遺伝子とブレーキであるがん抑制遺伝子とが絶妙に制御されています。

車の運転では、普通アクセルとブレーキを同時に踏むことはないと思いますが、細胞の増殖制御では、同時に両方のペダルの踏み込み具合を調節しています。

それで、増殖すべき時には増殖し、増殖を止めるべきときには止めることができます。

 

しかし、アクセルであるがん原遺伝子にある種の異常が起きると、アクセルを目いっぱい踏み込んだ状態になります。つまり、エンジンはレッドゾーン!フル回転です。

同時にブレーキであるがん抑制遺伝子に異常が起きると、ブレーキが働かなくなります。

皆さん、ご自分が車を運転しているところを想像してみて下さい。

アクセルが踏み込まれた状態で戻らなくなり、ブレーキも全く効かなくなったら、どれほど恐ろしいか?

 

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これが細胞のがん化状態で、全く制御できていない暴走状態です。

 

 

③ 遺伝子の変異を修復する遺伝子の変異だって???

 

実際にガン患者さんから切り取ってきたガン細胞の遺伝子を調べてみると、多くのがん原遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が見つかります。

加えて変異の多いのが「DNA修復遺伝子」です。

その名の通り、DNA修復遺伝子は、細胞のガン化を防ぐために遺伝子の変異を修復する働きを持つ遺伝子です。

がん原遺伝子が自動車のアクセルで、がん抑制遺伝子がブレーキなら、DNA修復遺伝子は「修理工」というところです。

アクセルやブレークが壊れても、修理工が治してくれるので、暴走しなくて済んでいます。

ところが、進んだガン細胞では、この修理工が壊れてしまっていることが結構あるのです。

 

壊れた遺伝子を修復する遺伝子が壊れたら、だれがそれを修復するのか??

DNA修復遺伝子に変異が起きると、様々な遺伝子にさらに多くの変異が入りやすくなり、ガン化のスピードは早まります。

 

がん抑制遺伝子の話に戻りましょう。

もっとも有名ながん抑制遺伝子にp53遺伝子」というのがあります。

p53は常に細胞のDNAに異常が無いかパトロールして見張っており、異常を見つけた場合、すぐさま先述のDNA修復遺伝子に修復命令を出すのが、このp53の役目です。

また、DNAの異常を修復しきれなかった場合には、遺伝子異常を持った細胞は死なねばなりません。

つまり、「アポトーシス」という細胞の自殺を実行するのですが、そのアポトーシスの実行命令を出すのもp53です。

ですから、p53は細胞のガン化防衛において非常に重要な役割を担っており、そのため「ゲノム(全遺伝子)の守護者」と呼ばれます。

 

ところがなんと、多くのガン患者のガン細胞で、この守護者に異常をきたしていることが分かっています。

守護者が倒されては、誰が細胞をガン化から守るのか!?

p53は細胞のガン化防衛の「アキレス腱」と言えます。

 

このように、ガン細胞では様々な遺伝子に異常が起きている訳ですが、どのような遺伝子にどのような異常が起きているのかを調べることによって、ガンの性質を調べたり、効果的な薬の選定や、薬の副作用の出やすさの予測、再発率の予測、予後(どれだけ延命できるか)の予測などを可能にしようという研究が活発に行われています。

 

まだまだ実用化には至っていませんが、「ガンが遺伝子の異常によって起こる病気なら、その遺伝子の異常を調べてガンを治す!」という時代がいずれ来るかもしれません。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

 

次回予告:

前回と今回お話したのは、後天的な原因によるガンです。

ガンは遺伝子の異常によって起こる病気なのですから、遺伝性のガン、つまり先天的なガンというのがあります。

次回は遺伝するガン、「家族性腫瘍」について、先ごろブラピと離婚成立したアンジェリーナ・ジョリーの逸話などを交えてお話しようと思います。

例によって、気まぐれで内容が変わることがありますが、ご了承下さい。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

033【そもそもガンってどういう病気?】がん(その1)

目次:

① そもそもガンってどういう病気なの?

② 【ガン化の多段階仮説】ガンは遺伝子の異常の積み重ねによって起きる病気

③ 遺伝子に異常を引き起こす原因とは?

 

今日は日曜日。

少年野球の練習に参加して、子どもたちと一緒にノックを受けました。

老体にムチ打って、浅い打球に猛チャージしたところ、左の太ももで「ピチッ」って感覚が!!

アッ、これは間違いなく(軽度の)肉離れダッ!

まぁ幸い、歩くには大した支障はありませんが。。。

皆さん、運動に無理は禁物。年齢と体力を考えて。ムチャは禁物です(笑)

 

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今や2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで死ぬ時代。

ガンは我々にとって、風邪と同じくらい身近な病気と言えるかもしれません。

(別に親近感は覚えませんがね。。。)

 

自分はガンにならなくても、いつ近しい人がガンにならないとも限りません。

とにかく、誰もがガンについて無関心でいられるはずがありません。

少しでもガンのことについて知っておくことは、決して損にはなりません。

 

というわけで、私はガンについて語らせたら何時間でも話せるので、何回シリーズになるのやら自分でも分からないくらいですが。。。

読書の皆様の反応がよろしければ10回くらいは続けます。

ですので、何卒応援、よろしくお願いします。

頑張りますよォ(笑)

 

① そもそもガンってどういう病気なの?

 

本来、絶妙に増殖・分裂が制御されているはずの私たちの体の細胞。

それが暴走し、無秩序・無制限に増殖して止まらないのがガンです。

なんでこんなことが起きるのでしょうか?

とにかく、細胞に何らかの異常が起こらない限り、このようなことは起こるはずもありませんよね。

では、具体的にはどのような異常なんでしょうか?

 

答えは、ガンは、遺伝子の異常が積み重なったことで引き起こされる、細胞の増殖が制御を失った状態の病気です。

そう、ガンとは遺伝子の異常によって引き起こされる病気です。

 

下の図を見て下さい。

「がん化の多段階仮設」というのがあって、ガンというのは、ある日突然発病するものではなくって、10年とか15年とか、長い年月をかけて、徐々に細胞の遺伝子に異常が積み重なっていき、徐々に成長し、診断で見つかったとき、あたかも突然にガン細胞が出現したかのように見えるだけです。

 

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図.ガン化の多段階仮説

 

② ガンは遺伝子の異常の積み重ねによって起きる病気

 

ガンとは、遺伝子の異常による病気です。

それもいくつもの遺伝子の異常が積み重なった結果です。

 

本ブログ【012】で、誰でも(健康な人でも)1日に5000個ものガン細胞ができていると言いました。

takyamamoto.hatenablog.com

 

なのにガンにならないのは、免疫系がこれらの異常な細胞をすべて摘み取ってくれているからです。

ところが、免疫系が不調で、このような細胞を一つでも見逃してしまうと、この1個の異常な細胞が「ガン」の芽になるのです。

この細胞に、二つ目、三つ目という風に遺伝子の異常が積み重なっていくことで、だんだんと立派な、名実ともに「ガン」に成長していくのです。

もしかしたら今、あなたの体にも、このようなガンの芽がないと誰が言えるでしょうか?

あっ、もちろん私の体にも、です。

ですから、日頃から免疫力を高めておくことが重要なのです。

 

ガンの芽が発生してから、名実ともに立派なガンに成長していく過程を説明すると、

1.免疫回避(免疫系からの攻撃を逃れるようになる)

2.不死化(細胞が死ななくなる)

3.無秩序・無制限の増殖能の獲得(細胞が死なないだけでなく、増え続け、止められなくなる)

4.組織への浸潤能力の獲得(細胞が本来いるべき組織からはみ出し、入ってはいけない組織に侵入する)

5.さらに異常が加わることで、転移能を獲得する(その場を離れ、血流やリンパの流れに乗って、遠くの場所にたどり着き、そこに定着して増え続ける)

となります。

 

上の1から3の過程に、10年とか15年もの時間を要します。

そして、大体4の段階で自覚症状がないまま検診で見つかったり、自覚症状が出て、受診して診断されたりするのですね。

なかには5の段階、すなわち転移した状態で発見される人もいるのです。

 

③ 遺伝子に異常を引き起こす原因とは?

 

では、なぜ遺伝子に異常が起きるのでしょうか?

本ブログ【012】では、毎秒毎秒、何百万個もの細胞が分裂を繰り返しており、そのために猛烈なスピードでDNAがコピーされているため、どうしても遺伝子のコピーミスが起きるのだと言いました。

しかし、このような自然なコピーミスによる遺伝子の異常を修復する機能を私たちの体は備えています

この自然なレベルのコピーミスを超えた遺伝子の異常が起きたとき、私たちの体の防御機能の限界を超えるのです。

このような時が危険なのです。

 

では、「自然なレベルを超えた遺伝子の異常」とは、どのような原因でどのように起きるのでしょうか?

その原因は、結構、日常生活の中に溢れているのですね。

 

上の「がん化の多段階仮説」の図を再度見て下さい。

なんか、細胞が赤い稲妻に打たれてますね?

つまり、この稲妻に打たれることで、遺伝子に異常が起きるような。。。そんな感じがします。

では、この「赤い稲妻」の正体とは何なのか?

巨人の松本 匡史?

いや、それは「青い」稲妻っしょッ!

 

もとゑッ! 

「遺伝子の異常の積み重なりでガンになる」ということですが、では実際、どういう遺伝子に、どういう異常が起きると、どういう訳でガンになるというのでしょうか?

 

遺伝子に自然な状態を超えた異常を起こす原因、そしてどういう遺伝子にどういう異常が起きるとがんになるのか?

 

この続きは次回。

たぶん明日お届けかな?。

こうご期待!!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆彡

 

是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

号外【「慢性炎症」がNHK「ガッテン!」で特集されました】

本ブログで「あらゆる病気の原因」として何度も強調している「慢性炎症」

私は見そびれましたが、一昨日(5月10日)、NHKの「ガッテン!」で取り上げられました。

ご覧になった方がいらっしゃったら、感想をコメントして頂けますと幸いです。

 

www9.nhk.or.jp

 

「慢性炎症」の重要性が一般に広く知られるようになるのは喜ばしいことです。

 

不適切な生活習慣⇒肥満⇒免疫系の破たん⇒慢性炎症⇒あらゆる生活習慣病⇒闘病生活⇒死

 

この構図への認識が定着するようになれば、医療費削減の端緒になるように思います。

もっともっと喧伝して頂きたいですね。

 

 

032【がんより悲惨!】糖尿病(その3)

目次:

① 実体験!がんかも知れないと医者から言われた

② どんなふうにして糖尿病になっていくのか

③ 本当に恐ろしい糖尿病の合併症

④ 人間の尊厳すら奪う糖尿病患者の生活

⑤ 糖尿病になったら

 

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単に「糖尿病」といいますが、ここでいう「糖尿病」とは「2型糖尿病」のことです。

1型糖尿病は自己免疫反応が原因の一つとしてあり、生活習慣とは関係がありません。

いわゆる生活習慣病としての糖尿病とは、2型糖尿病のことです。

以下は全て2型糖尿病のお話です。

 

① 実体験!がんかも知れないと医者から言われた

 

かつて、がんは不治の病であり、がんの宣告は死の宣告、医者も本人には告知しないことが当たり前でした。

今では、患者本人が医師と相談しながら、どのようにがんを治療していくのかを決めます。

時代は変わったものです。

 

今では決して不治の病ではなくなりましたが、それでも「がんです」と言われると、誰でも不安にさいなまれるのではないでしょうか?

 

私も経験がありますので、よく分かります。

細胞検査で「未分化の異形細胞が観られる」と言われた時には、死を覚悟しました。白血病の疑いですね。

ゴールデンウィーク直前のことで、確認のための再検査の結果はGWが明けるまで出ません。検査会社もお休みですからねぇ。

それまでの2週間近くもの間、何をしても気が晴れず、いや何かしようという気力も出ず、世の不幸を全て一人でしょい込んだような、何と表現していいのか分からない気持ちを味わいました。

その時、一人目の子供が家内のお腹にいるときで、3、4か月後に出産予定でした。

この子は父親の顔も知らず、テテなし子になるのかと思うと不びんでしたね。

(あっ、ちなみに彼女は今二十歳で、ドイツに留学中です)

結局、がんではなかったのですが、死と生について考える非常に貴重な経験でした。

 

話を戻します。

私は「かも知れない」と言われただけでも、がんに恐怖しました。

ところがどうも、「糖尿病です」と言われても、かなり多くの人がそんなに危機感を持たないというか、死の恐怖を身近に感じていないようです。

どんな過酷な病苦が自分に訪れることになるのかも知らずに。。。

知らないというのは恐ろしいことです。

 

② どんなふうにして糖尿病になっていくのか

 

糖尿病のもっとも大きな原因は「過食」や「運動不足」が引き起こす「慢性炎症」です。

過食で肥満の人の脂肪細胞や免疫細胞からは、悪い物質がたくさん放出され、それが慢性炎症の原因になります。

慢性炎症の状態では、インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性になり、血糖値が下がりにくくなります。

血糖値の高い状態が長期に続くと、色々なタンパク質に糖が結合する「糖化反応」が起こります。

この糖化タンパク質が、糖尿病の本当の恐ろしいところである様々な合併症を引き起こすのです。

糖尿病診断の重要な指標であるヘモグロビンA1c。これも糖化タンパク質です。

 

③ 本当に恐ろしい糖尿病の合併症

 

糖尿病はある意味、がんよりも悲惨な病気です。

なぜなら、楽には死なせてくれないからです。

 

糖尿病の3大合併症と呼ばれるのが、「糖尿病神経障害」、「糖尿病網膜症」、「糖尿病腎症」です。

 

■糖尿病神経障害

全身をめぐる糖化タンパクが、全身の血管と神経をボロボロにし、全身に様々な障害を生じさせます。

大体、一番早く出るのが脚の障害です。

神経がマヒし、血の巡りが悪いため、ちょっとの傷でも治りが悪く、慢性の潰瘍になります。

重度になると、足の先の方から腐り始めます。壊疽(えそ)ですね。

敗血症になると生命に危険が及びます。それを防ぐために、脚の切断ということになります。

 

■糖尿病網膜症

目の網膜の血管がボロボロになって生じる合併症です。

血管にこぶが出来たり、出血したり、血流が悪くなったりしますが、自覚症状がほとんどなく、本人は危機が迫っていることに気づきません。

で、突然、視力低下や視野狭窄、ひどい時には失明します。

ここまでくると、元に戻すことは困難です。

 

■糖尿病腎症

腎臓で血液中の老廃物を濾過している糸球体の毛細血管の障害によります。

重度になると人工透析が必要になりますが、一旦、人工透析を始めると、まず回復は望めません。

週3回、1回4時間の透析を、死ぬまで続けることになります。

 

その他にも、歯周病は糖尿病の原因となり、糖尿病は歯周病を悪化させ、歯が抜けることになり、流動食のようなものしか食べられなくなります。

 

④ 人間の尊厳すら奪う糖尿病患者の生活

 

脚を失い、視力を失い、歯を失い、自分一人では人工透析に通うことも、食事も、排せつもままなりません。

こうなると、未来に希望はないばかりか、人間としての尊厳まで奪われます。

生き地獄です。

自分もつらいでしょうが、家族も不幸です。

 

ネット上では、身内が糖尿病になった人の悲痛な叫びがたくさん見受けられます。

見も知らない誰かに、ネット上で救いを求める声です。

本当に壮絶です。

糖尿病という病気が、どんな不幸をもたらすのか、ほんの一例に過ぎませんが、是非お読みになることをお勧めします。

oshiete.goo.ne.jp

 

⑤ 糖尿病になったら

 

糖尿病と診断されたら、自覚症状の出る前が勝負です。

食事と運動の改善で、完治とはいかなくとも、ちょっとした美味しい食事やお酒、旅行を楽しんだり、従来通り仕事を続けたり、生活の質を落とすことなく人生を楽しむことはできます

 

私の近しい人に、「薬を飲んでいるから大丈夫」と思っているのか、意思が弱いのか(恐らくその両方)、甘いもの、炭水化物、清涼飲料水、喫煙を全然改善しない人がいました。

奥さんや娘さんが何を言っても、逆切れして全く話を聞いてくれない始末で、奥さんも「何度泣いたか分からない」と言います。

私が説得して、食事療法と運動療法に取り組ませ、βグルカンを飲ませたところ、わずか1ヶ月半でヘモグロビンA1cが7.7%から7.0%に下がったのです。

これは目覚ましい改善です。

私は、「これで油断することなく、検査数値が下がるのを励みにして続けるように。そのうち、次の検査が楽しみになるから」と励ましましたが、ダメでした。

その後すぐに、元の木阿弥です。

あれから約半年、その人がどうなったのか、気が引けて奥さんや娘さんにも聞けないでいます。

 

一方、失明を覚悟したほど進んだ糖尿病から回復した人が言っていましたが、努力した結果が検査数値として目に見えて現れるので、モチベーションが高まるそうです。

もちろん好きなものを我慢しないといけないというストレスはありますが、良くなっていくにつれ、家族の表情も明るくなり、達成感や充実感のようなものも感じるそうです。

そして、何よりも健康の大切さ、ありがたみが身に染みて分かったし、もうあの生活には戻りたくないと言います。

 

実際に回復した人の話には重みがあります。

 

次回予告?:

大人になってからの不適切な生活習慣が原因で、何年もかけて徐々に進行する2型糖尿病に対して、10代とかの若さで、ある日突然発症するのが1型糖尿病です。

次回は1型糖尿病の話をしようかなっ?て思ってますけど、気まぐれで変わるかもしれません。

予告になってませんね(笑)

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

私は医師ではありませんので、医学的な誤りがありましたら、是非ご指摘下さい。

勉強させて頂きます。

 

 

031【ついに国と糖尿病学会が認めた!「糖尿病治療薬は役に立たない!!」】糖尿病(その2)

本当の原因にフォーカスしていない薬では、症状は改善しているように見えても、根本的な治療にはなりません。

 

やっと、そのような視点での薬の有効性の見直しが、国の主導で(ここが大事)始まりました。

 

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ちょっと古いですが、2017年3月2日の日本経済新聞に、「生活習慣指導に規格 糖尿病学会・政府」という見出しの記事が載りました。

www.nikkei.com

 

軽度の糖尿病患者181人を2つのグループに分け、

糖尿病治療薬は服用するけど、生活習慣は改善しないグループ vs 糖尿病治療薬は服用しないけど、生活習慣を改善するグループ

で、半年後にどちらに軍配が上がるか、という試みが行われました。

結果は、薬を飲まなくても、生活習慣の改善を行った方が、ヘモグロビンA1cの改善が高かったのです。

 

今後、経済産業省日本糖尿病学会は、調査対象者を2000人規模に拡大し、データ収集と分析を強化。

さらに来年度からは、生活習慣病の予防指導の「規格」作りに着手し、「データに基づいた」生活習慣病の改善を普及させることで医療費の削減につなげるとのこと。

 

ついつい見逃してしまいそうな、どうってことの無い記事に見えますが、結構、明るいニュースではないかと思うのです。

 

この調査によると、軽度の糖尿病患者に限ってのことですが、糖尿病治療薬は有効ではないことを、なんと糖尿病学会と国が認めたのです。

 

「なんで厚労省じゃなくって、経産省なの?」と思いましたが、確かに厚労省ではこれはやりづらいですね。

 

治療薬について「効果あり」として承認するのは厚労省です。

自分で承認した薬について、後から「やっぱ効果なし」とは、これは言えないでしょうね。

 

経産省には是非、今後もこのような取り組みを進めて頂きたいです。

また、「糖尿病予防には、データに基づいた生活習慣の改善指導が効果がある」という結論も素晴らしいです。

エビデンスベースで医薬品の承認をしているはずの厚労省ではなく、経産省科学的根拠に基づいた客観性を重視する姿勢を打ち出しているところが素晴らしい。

 

しかし、厚労省も頑張ってます。

同じような動きは、抗がん剤についても始まっており、厚生労働省国立がん研究センターは、高齢のがん患者における抗がん剤治療の有効性について改めて調査しています。

体への負担の大きい抗がん剤が、果たして高齢者に有効かどうか?

実はまだ、こんなことすらハッキリ分かっていなくって、そんでもって長年、高齢者に抗がん剤を使ってきたなんて、オドロキません?

 

まだ、調査対象が少なく、結論には至っていませんが、高齢者には抗がん剤治療に延命効果がない」可能性もあるそうです。

今後の調査結果によって、高齢のがん患者治療の在り方を検討し、新たにガイドラインを作成するそうです。

mainichi.jp

 

多くの人から「正しい」と支持されてきたものに対して、最初に「オカシイんじゃない?」と発言するのは勇気がいります。

また、「オカシイ」と言われた方も、それを認めるには勇気がいります。

だから、国が既成事実を変えるのは難しい、と思っていました。

 

国の主導によるこのような取り組みによって、病気を治療する上で本当に大事なことは何なのかということを、広く国民に知らしめることは、国の医療経済の立て直しに対してのみならず、国民の健康寿命の延長に貢献することです。

 

そして、糖尿病をはじめ、多くの生活習慣病が、薬に頼るよりも、自身の意志で治すことができるのだという考え方が広まって欲しいものです。

 

何気ない記事のようでしたが、私には久しぶりにいいニュースでした。

 

今回のお話、糖尿病の話というより、薬と行政についての話になってしまいました。

次回、糖尿病(その3)では、糖尿病が如何に恐ろしく過酷な病気かについてお話します。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

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