Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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019【免疫力の本来のパワー(その1)】「免疫系の仕組み」

目次

  1. 免疫系の仕組みを知る大切さ

  2. ふたつの免疫 ―自然免疫と獲得免疫―

  3. 免疫系の全体の仕組み

  4. 2種類の獲得免疫

  5. 免疫系の司令塔

 

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最近、珍しく忙しくて、前回の記事から日が空いてしまいました。

 

今回から、具体的に免疫の仕組みについてみていき、なぜ免疫が私たちの体にとって大切かということの理解を深めていきたいと思います。

 

1.免疫系の仕組みを知る大切さ

 

前回、腸内フローラの大切さについてお話しました。

また、腸内フローラをいい状態にキープすることで、免疫系もいい状態になる、つまり、両者は互いに影響し合っているのだということでした。

ですから、免疫系を整えるには、腸内フローラを整える「腸活」が重要という結論です。

 

私たちの免疫系は、がんや病原体から身を守ってくれる一方で、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こす、いわば諸刃の剣であり、非常に絶妙な制御の上に成り立つシステムです。

本当に繊細なシステムですから、そのことを理解すれば、なぜ免疫系を崩すようなことをしてはいけないかが分ります。

 

今回から少し難しくなりますが、免疫系の基本的な仕組みを見ていきましょう。

免疫系は「異物を認識して排除する」のが基本だと言いました。

ですので、免疫系を理解する第一歩として、異物を認識して排除する免疫系の仕組みを見てみましょう。

 

2.ふたつの免疫 ―自然免疫と獲得免疫―

 

麻疹(はしか)にかかったら二度とかからない「二度なし現象」については、皆さんよくご存じでしょう?

この時に、よく「抗体ができた」などといいます。

 

予防接種のお陰で、その病気にならずに済んだら、「抗体ができたからだ」という風に言われます。

 

この抗体という物質(タンパク質ですが)は、免疫系の非常に強力な武器で、特定の異物をロックオンして狙い撃ちするミサイルのようなもので、私たちの体を守る上で非常に重要な存在です。

 

でも、初めての感染の時は、この抗体を作るのに時間がかかります。何日もかかります。

ですから、病原体を撃退するのに時間がかかって、それが麻疹ウイルスだったなら「はしか」という病気になるのです。

 

ところが、一度はしかになって抗体ができたら、その敵の正体を憶えていて、二度目の感染の時は迅速に抗体を作り、病気になる前にウイルスを撃退します。

これが「二度なし現象」です。

 

この、一度異物と遭遇して敵の正体を憶えることによって獲得する免疫を、「獲得免疫」と言います。

 

逆に言うと、初めての感染の時には、獲得免疫を頼ることはできないわけです。

その場合には元から備わっている免疫というのがあって、これで対抗します。

この元から自然に備わった免疫「自然免疫」といいます。

 

我々の免疫系は、「自然免疫」と「獲得免疫」の二段構えになっています。

 

3.免疫系の全体の仕組み

 

下のイラストに免疫系の大体の仕組みを図式化しました。全体像を見ていきましょう。

 

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異物(免疫系によって認識される異物を「抗原」と呼びます)が体内に侵入したとします。①

まずは、自然免疫の出番です。

 

自然免疫の細胞には、マクロファージや樹状細胞、好中球などの「貪食(どんしょく)細胞」と呼ばれる、文字通り、異物を食べる細胞があります。②

 

特にマクロファージは大喰らいで、異物なら何でも手当たり次第に食べてしまう食いしん坊(バンザイ)です。

 

下の写真は、培養しているマクロファージにポリスチレンの小さな玉(ビーズ)を入れてみたところです。

 

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なんと、長~い触手を伸ばしてビーズを捕まえ、食べてしまいます。

こんな、細胞内で消化できないようなものまで見境なく食べてしまうほど、マクロファージは食いしん坊です(笑)。

異物侵入の初期では、このマクロファージが大活躍です。

 

また、樹状細胞という細胞も異物を食べます。

この細胞は、食べた異物を細胞の中で分解して、分解してできた異物の破片を細胞の表面に出します。

そして、ヘルパーT細胞という獲得免疫の細胞にくっつきます。

 

くっついて何をするかというと、異物(抗原)の破片を、ヘルパーT細胞という獲得免疫の細胞に示して、敵の特徴を伝えます(これを「抗原提示」といいます)。

抗原提示を受けたヘルパーT細胞は、敵の情報を知り、免疫系でどのように敵と戦えばいいのかを判断します。

 

たとえてみれば、ヘルパーT細胞というのは、免疫系の「コールセンター」みたいなものですね。

 

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異物を食べて活性化した樹状細胞はたくさんの突起を出す

ヘルパーT細胞にくっついて抗原提示をしているの図

 

例えば皆さん、何か事故があったとき119番に電話しますね。

そしたら、救急のコールセンターのオペレーターが言います。「火事ですか? 救急車ですか?」

オペレーターは、通報の内容から何が起こったのかを知り、どのように対処すればいいかを判断して、怪我人がいるなら、現場に近い消防署から救急車を出動させるよう要請します。

 

このたとえの様に、ヘルパーT細胞は、樹状細胞から侵入者の情報を得て状況を知り、獲得免疫でどのように戦えばいいのかを判断し、異物と戦う獲得免疫の細胞に出撃要請を出すわけです。③から④または⑥

 

4.2種類の獲得免疫

 

ヘルパーT細胞の指令によって出動する獲得免疫には2種類あります。

それは細胞性免疫と液性免疫です。

 

細胞性免疫は、リンパ球の一種であり、攻撃力を持つキラーT細胞という細胞が主に働くため、「細胞性免疫」と呼ばれます。

 

液性免疫では、B細胞というリンパ球が、ミサイルタンパクである「抗体」をたくさん作り出して、この抗体ミサイルが異物にロックオンして攻撃を行います。

この抗体というのはタンパク質であり、血液中や体液中に溶けて存在しており、液体の状態で働く免疫ですので、「液性免疫」と呼ばれます。

 

この2つの獲得免疫、分担はどうなっているかというと、大雑把に言えば、がん細胞やウイルス感染細胞のように問題を抱えた細胞を攻撃するのが細胞性免疫で、細菌や(細胞に感染していない)ウイルスなどの病原体や毒素など、外からやってきた異物に対応するのが抗体です。

(あくまで、大雑把な役割分担です)

 

コールセンターのオペレーターであるヘルパーT細胞は、単なるオペレーターではありません。

敵の種類から、細胞性免疫と液性免疫をどのような割合で出動させるのかを判断しているのです。

賢いですよね~!

ですから、ヘルパーT細胞はよく、「免疫系の司令塔」と呼ばれます。

 

5.免疫系の司令塔

 

ここまで免疫系の仕組みを見てみると、免疫の司令塔であるヘルパーT細胞が非常に重要な働きを担っていることが分かるでしょう。

 

この司令塔に何かトラブルがあると、細胞性免疫と液性免疫の両方の獲得免疫が正常に働かなくなることがお分かり頂けますよね。

 

ヘルパーT細胞は、がん細胞やウイルス感染細胞に対する攻撃にも、細菌やその他の異物の排除にも、自己免疫疾患やアレルギーの抑制にも、AIDS発症にも深く関わっている非常に重要な細胞なのです。

前にお話した制御性T細胞(Treg)の働きも、このヘルパーT細胞と大いに関連があります。

 

今回の話では是非、免疫系におけるヘルパーT細胞の重要性について憶えておいて頂ければと思います。

その上で次回は、ヘルパーT細胞を中心に、免疫と病気の関係についてお話していきます。

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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