Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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061【免疫についての最大の誤解】「異物の排除だけが免疫ではない!」

目次:

1.人類が「免疫現象」に初めて気が付いたのは?

2.抗体の種類とIgA抗体の働き

3.菌を取り込むIgA抗体

4.「免疫」って名称、変えちゃって下さい(笑)

 

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本ブログでも、しばしば、「自己と非自己を認識し、非自己(異物)を排除するのが免疫の基本」と書いてきたと思います。

今さら白状するのですが、実は、この説明は正確ではありません。

「自己と非自己を認識する」というのが「基本」であることは間違いありませんが、「異物を排除するのが免疫」というのが、必ずしも正しくないのです。

 

1.人類が「免疫現象」に初めて気が付いたのは?

 

日本語で「免疫」とは、「疫を免れる」と書きます。「疫」とは疫病、すなわち感染症のことです。

感染症に対抗する仕組み、それが古い免疫の概念でした。

 

人類が免疫現象の存在について認識したことについて記録に残っている最古のものと言えば、紀元前5世紀のギリシアカルタゴ戦争についての戦記だそうです。

詳しくは、以下のサイトをご参照ください。

http://home.hiroshima-u.ac.jp/forum/30-3/hirakareta.html

 

ある疫病に一度かかれば二度とかからない「二度なし現象」、これが免疫の最初の概念です。

よく「免疫ができた」とか「抗体ができた」と言います。

抗体というと、病原体などと闘う「武器」のイメージですね。

ところがこの抗体、異物を排除するばかりでなく、むしろ、積極的に異物を取り込み、攻撃するどころか守る働きのあることが分かってきました。

 

2.抗体の種類とIgA抗体の働き

 

一口に抗体と言っても、何種類かあります。

いわゆる病原体と闘い、排除する抗体は「IgG(アイジージー)」という種類の抗体です。

予防接種の多くは、このIgGを作らせるのが目的です。

他にIgEという種類の抗体があり、本来は寄生虫の感染防御に働く抗体ですが、寄生虫のいなくなった現代の環境では、このIgEの異常な産生が原因となって、アレルギー性疾患を引き起こします。

それから、粘膜の生体防御に関わっているIgAという抗体があります。

 

私たちの体が外部の環境と接する部分というと、皮膚か粘膜です。

皮膚組織というのは、何層もの構造からなり、物理的に異物をシャットアウトする強い「バリア機能」を有しています。

それに対して、粘膜は非常に脆弱で、免疫系の働きがなければ異物の侵入を防ぎきれません。

因みに、口の中とか胃や腸の消化管の中、鼻や気管支や肺の中とかが粘膜です。

 

意外かもしれませんが、消化管の中というのは「体の内部」ではなく、「体外」なのです。

消化管の中には食物といっしょに、たくさんの種類の異物が入ってきます。

この異物を取捨選択し、体に必要な栄養素は吸収し、有害なものは取り込まず、排泄しなければなりません。

その取捨選択に一役買っているのが免疫であり、IgA抗体なのです。

 

このように、「IgA抗体は粘膜の生体防御に重要な働きをする」というのが、私たちが若い頃に習った常識でした。

しかし、このIgA抗体。異物を排除するのとは全く逆の働きを同時に持っていることが分かってきました。

 

3.菌を取り込むIgA抗体

 

私たちの大切な腸内細菌叢というのは、子供のころに決まってしまい、大人になってからこれを変えようとしても変わるものではありません。

腸内環境を整えるために、乳酸菌飲料やヨーグルトを摂るのは、確かに効果はありますが、それは一時的なものであり、良い菌が貴方の腸内に定着して、腸内フローラが変わるというものではありません。

これは、免疫の働きによるものです。

子供の間に出来上がった貴方の免疫系は、一度要らないものと決めたのならば、いくら体にいい菌でも絶対に取り入れてくれません。

それが免疫というものです。

この腸内における菌の取捨選択に重要な働きをしているのがIgA抗体です。

 

2014年、理化学研究所のグループは、腸内における菌の取捨選択にIgA抗体が重要な役割を担っていることを発表しました。

腸内細菌叢と免疫系との間に新たな双方向制御機構を発見 | 60秒でわかるプレスリリース | 理化学研究所

 

なんとIgAは、抗体らしく、要らない菌を排除に働く一方で、必要な菌に結合することで、その菌を守り、腸管表面の粘膜層に定着させる働きのあることが分かったのです。

腸管内壁の粘膜層というのは、ネバネバした粘液で覆われており、これによって余計な菌の侵入を防いでいます。

この粘液層に菌を取り込むのに働くのがIgA抗体です。

 

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2015年2月NHK放送「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」より

 

上の写真で青く光っているのが菌表面にくっついたIgA抗体です。

IgA抗体がくっついた菌は、積極的に腸管内壁の粘液層に取り込まれ、庇護されることが分かったのです。

 

4.「免疫」って名称、変えちゃって下さい(笑)

 

免疫系は異物を排除するだけでなく、好ましい菌を取り込んで定着させます。

その他にも免疫系は、怪我の修復に中心的な役割を果たし、今この瞬間にも体中の様々な場所で行われている組織の「破壊と再生」にも働いています。

つまり、免疫系は、ただ単に外敵から身を守るだけの「生体防御システム」ではなく、本ブログ【043】でお話したように、私たちが健康を保つために重要な「恒常性」を維持するために、神経系と内分泌系と連携して、非常にダイナミックな働きをしているのです。

takyamamoto.hatenablog.com

 

2017年5月29日の本ブログで、「本来、細胞増殖の制御に重要な働きをしている遺伝子に、『がん原遺伝子』という、がん化を強く示唆する名前が付けられたことはおかしい」と言いました。

takyamamoto.hatenablog.com

 

それと同じように、免疫系が「疫を免れる」という意味の名称で呼び続けられていることは、21世紀の現在になって考えてみると、適切だとは思われません。

私は、多くの人に誤解を与える、この「免疫」という名称は変えた方がいいと思うくらいなのですが、でも、長年使われてきて浸透した名称を、今さら変えることは出来ないのですね。

 

このように、「免疫」というのは、多くの人が考えている以上に、私たちの体にとって、この上なく重要な存在であるということを覚えておいて頂きたいのです。

そして、この免疫系をベストな状態に保つことを強く意識して、日々の生活に留意して頂きたいと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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