Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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051【関節リウマチ(その2)】病気の原因の大元を叩く生物製剤

本ブログ【046】でお話した「関節リウマチ」。

今回「その2」をお送りします。

 

目次:

① 原因の大元を叩く薬があった!

② おさらい ~司令塔が機能しなくなったらどうなる?~

③ アバタセプトは超強力な免疫抑制剤

④ 「関節リウマチに対するアバタセプト使用ガイドライン

 

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① 原因の大元を叩く薬があった!

 

本ブログ【046】にて、「自己免疫疾患(その1)」として、関節リウマチのお話をしました。

その中で、抗体医薬など、タンパク質でできている生物学的製剤が効果を上げているということでした。

046【関節リウマチ】自己免疫疾患(その1) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

【046】でお話したのは主に、リウマチで強い炎症反応を引き起こす原因となっている炎症性サイトカイン、TNF-αまたはIL-6の働きを抑える薬でした。

これで炎症を抑え、病気の進行を止めたり、症状の改善(寛解)が期待できるものです。

しかし、大元の原因である、これらのサイトカインを出す免疫細胞は依然、健在であり、根本的な治療にはなっていないとの指摘をしました。

攻撃してくるミサイルを打ち落としても、ミサイル基地を破壊しない限り、いくらでもミサイルは飛んできます。

これでは消耗戦です。

 

病気の根治のためには、大元を叩かなければなりません!

 

実は、比較的新しい生物学的製剤で、大元の免疫細胞を抑える薬があるのです。

 

「アバタセプト(商品名:オレンシア)」というのがそれで、米国では2005年12月、日本では2010年7月に承認された、比較的新しい薬と言えます。

 

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② おさらい ~司令塔が機能しなくなったらどうなる?~

 

アバタセプトの適用は、生物学的製剤も含む既存のリウマチ治療薬を3ヶ月以上継続的に使用しても症状がコントロールできない、非常に効果の宜しくない患者になります。

つまり、この薬はリウマチ治療薬の「最後の砦」的な存在です。

 

この薬は、病気の大元を叩く訳なので、大きな効果が期待できますが、一方でリスクも大きいのです。

すなわち、「副作用」です。

 

ここで、なぜアバタセプトがリウマチに効くのかを理解するために、もう一度、免疫系全体の復習を致しましょう。

 

過去ブログ【019】のおさらいです。

 

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まず、体内に異物が侵入すると、自然免疫の貪食細胞たちがこれを捕まえて食べます(図の①)。

貪食細胞のうち、特に樹状細胞は、食べた異物(抗原)を細胞内で分解し、分解してできた抗原の破片を自身の細胞の表面に出します。

次に、まだ活性化していないヘルパーT細胞が、この樹状細胞と結合し、樹状細胞の表面に提示された抗原の情報を受け取り、これによってヘルパーT細胞は敵の正体を知るのです(図の②)。

こうして活性化したヘルパーT細胞は、細胞性免疫(図の③、④)と液性免疫(図の⑤~⑦)の両方を臨戦体制にするのです。

 

この薬は、図の①から②の部分、即ち、樹状細胞などの「抗原提示細胞」と呼ばれる細胞が、免疫系の司令塔であるヘルパーT細胞に抗原の情報を伝達して活性化するところをブロックします。

熱心な読者でしたら、もうご存知の通り、司令塔が活性化しなければ、細胞性免疫と液性免疫の両方が機能しませんし、マクロファージやナチュラルキラー細胞などの自然免疫の細胞への刺激もなくなります。

ですから、TNF-αやIL-6を産生する免疫細胞も大人しくなるのです。

そして当然、自己抗体を作るB細胞も活動を停止します。

 

なんだか、いいことだらけのようです。

 

③ アバタセプトは超強力な免疫抑制剤

 

ヘルパーT細胞が機能しないとどうなるかについては、本ブログ【020】でAIDSのお話をしました。

020【免疫力の本来のパワー(その2)】「AIDSが明らかにした免疫系の“アキレス腱”ヘルパーT細胞!」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

HIVはヘルパーT細胞に感染し、これを破壊しながら増えて別のヘルパーT細胞に感染し、また増えて別のT細胞に、、、と言う風に、どんどんヘルパーT細胞が死滅して減っていきます。

その結果が「後天性免疫不全症候群」AIDSです。

アバタセプトは、これと似た状態を引き起こす、非常に強力な免疫抑制剤である訳です。

(そりゃあ、リウマチの症状も良くはなるわな)

 

ですから当然、アバタセプトで最大限注意すべき副作用は感染症です。

特に、風邪を含め、呼吸器感染は致死的です。

致死性の感染症にかかった場合は、リウマチ治療どころではありません。

すぐに投与を中止し、感染症治療に専念すべきです。

 

④ 「関節リウマチに対するアバタセプト使用ガイドライン

 

効果的ではありますが、致死的なリスクのあるこの薬。

2017年3月に日本リウマチ学会などから「関節リウマチに対するアバタセプト使用ガイドライン(改定版)」が出され、注意が促されています。

https://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_abt.pdf

 

ガイドラインの内容は、大体以下のような感じです。

特に感染症やワクチン接種に関する要注意事項です。

 

まず、明らかに活動性の感染症に既にかかっている人には禁忌(「きんき」絶対ダメと言う意味)です。

また、一見健康そうでも、結核菌やB型、C型の肝炎ウイルスを持っている、いわゆるキャリアへの使用は慎重に検討し、ベネフィット(利益)がリスクを十分に上回ると判断される場合にのみ使用されるべきだとのことです。

 

それから、生ワクチン(弱毒化した生きた菌やウイルスを使用したワクチン)の接種も禁忌です。

無害なはずの生ワクチン株に感染するリスクがあるとのことです。

 

それから、それから、このガイドラインを読んで一番驚いたのは、妊娠後期の妊婦にアバタセプトを投与した場合、生まれてきた赤ちゃん(生後6ヶ月まで)に生ワクチンを接種すると、なな、なんとなんと、ワクチン株に「感染」する危険性があるそうです。

アバタセプトを投与されたのはお母さんの方ですよ!?

なんで!?

 

生まれたての赤ちゃんは、ほとんど抗体を作れません。非常に無防備な状態です。

でも、そんな赤ちゃんを外敵から守る仕組みがあります。

それは、妊娠の後期に、お母さんの抗体が胎盤を通して赤ちゃんの血液の中に入っていくのです。

これを「移行抗体」と言い、赤ちゃんにしっかりした免疫ができる生後数ケ月の間、このお母さんからもらった抗体で赤ちゃんを守るのです。

 

理論的には、抗体医薬に近いアバタセプトが、投与を受けたお母さんから、胎盤を通して、胎児の中に移行するということが考えられます。

 

抗体医薬を含むほとんどの生物学的製剤は、血中でかなり安定です。

1回投与すると、数週間から1ヶ月は効果が持続しますので、アバタセプト投与患者が感染症にかかってから慌てて投与を中止しても、すぐには免疫力が回復しない訳です。

これは非常に厄介です。

 

アバタセプトは、既存薬が効果のなかった患者への有効性が高く、実際の副作用発現率はそれほど高くないと言いますが、感染力や病原性の強い感染症のリスクはもちろんのこと、日頃は悪さをしないような病原体の感染でも重篤化する日和見感染の可能性もあります。

 

免疫抑制によって予測されるリスクと言えば、感染症以外では、がんでしょう。

しかし、この薬の発がんリスクへの影響を評価するには、あまりにも長期データがなさすぎます。

ガイドラインでは、がんの既往歴・治療歴のある人や前がん病変を有する人への投与は「避けることが望ましい」とだけ言及しており、がんの危険性については多くを語っていません。

 

このガイドラインは、この薬の日本での承認が遅かったことから、日本人での長期データが不足しており、そのため外国での臨床データを基にして作成されたとのことです。

日本人では何が起こり得るのか? まだまだ分からないことが多いのです。

 

このように、アバタセプトは非常に有効ではありますが、生命にかかわるような非常に危険な面もありますので、投与を受けている人は、感染症にかからないよう、日頃の生活にはくれぐれも注意しましょう。

と、いうくらいのことしか言いようがないのでした。。。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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