目次:
1.ウイルスの「不連続変異」とは?
2.不連続変異による新型ウイルスの出現
コラム:ポケモンは「進化」しない
3.新型インフルエンザウイルス出現のシナリオ
4.新型インフルエンザのパンデミックの予測は難しい!
本ブログも長い夏休みを頂いておりました。
1回飛びましたが、【066】の続きをお送りします。
066【パンデミックは起きるのか!?】新型インフルエンザ(その1) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】
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1.ウイルスの「不連続変異」とは?
ヒトに感染し、高病原性トリインフルエンザウイルスと同等以上の高い病原性を示し、人類がほとんど免疫を持たないインフルエンザウイルス!
これが新型インフルエンザウイルスです。
最悪の場合、感染者の死亡率は30~50%に上ると予測する専門家もいます。
毎年、型の違うインフルエンザが流行って、ワクチンが効かないとか言いますが、このような連続的に起きるウイルスの変異は比較的小さなものです。
ところが、新型インフルエンザウイルスでは、劇的に違う性質を備えたウイルスが突如現れます。
このような連続的ではない変異を「不連続変異」と言います。
近代で人類が経験した最大のパンデミック、1918年の「スペイン風邪」。
全世界で人類の3割近くが感染し、死者数は5千万人とも1億人とも言われ(正確な数字は分かりません)、第一次世界大戦の終結を早めたとも言われます。
遺伝子解析ができないので確証はありませんが、スペイン風邪ウイルスは「不連続変異」の産物でしょう。
不連続変異による新種ウイルスの流行は、その後も10~40年間隔で発生しています。
2009年にメキシコで発生した新型インフルエンザウイルスは不連続変異の典型です。
このウイルスは、なんと、ヒトとトリとブタのインフルエンザウイルスの遺伝子が混ざりあった「合いの子」だったのです。
なぜこんなウイルスができるのか? これが「不連続変異」の成せる業なのです。
2.不連続変異による新型ウイルスの出現
インフルエンザウイルスは、多くの哺乳類や鳥類に感染しています。
アシカやクジラなどの水生哺乳類に至るまでです。
ブタの呼吸器の細胞表面には、ブタインフルエンザウイルスに加え、ヒトインフルエンザウイルスとトリインフルエンザウイルスに感染可能な受容体を持っています。
ですから、2種のウイルス、3種のウイルスが同時に感染することがあり得ます。
複数のウイルスが同時感染すると何が起きるか?
「不連続変異」による新型ウイルスの発生です。
下の図を見て下さい。
ヒトとトリのインフルエンザウイルスが同時にブタに感染したとします。
ウイルスがブタの上気道細胞に侵入した後、ウイルスの8本のRNA遺伝子が複製されます。
インフルエンザウイルスの不連続変異(交雑)の仕組み
ヒトウイルスRNAとトリウイルスRNAとは区別なく複製され、8本のRNAのセットがウイルスのタンパク質の殻の中に収められて、娘ウイルスとして細胞の外に出ていきます。
この時、ウイルスの遺伝子であるRNAは、8本のセットさえ揃っておればよく、1本1本がヒト由来かトリ由来かは、どうでも構いません。
こうしてブタの細胞の中で、トリウイルスとヒトウイルスの合いの子ウイルスが誕生します。
これが「不連続変異」であり、「交雑」とも呼ばれるウイルスの大変身です。
ブタの中でブタ、ヒト、トリのウイルスが混在した場合、この3つのウイルスの交雑種が発生することも確認されています。
8本のRNA遺伝子の組み合わせは、完全にランダムです。
この組み合わせにより、新型ウイルスの病原性や感染性が変わってきます。
コラム:ポケモンは「進化」しない
高等生物の進化は、通常、人の目には見えないくらい長い時間をかけて起こります。
数万年とか数十万年とか、早くても数千年単位でしょうか。
でも、ウイルスは遺伝子の変異が早く、我々の目にも見えるような大きな変化を示しますね。
ところで、「あっ、ピカチュウからライチュウに進化した」とか言いますが、あれは「進化」ではおまへん。
じゃあ、なんて言うべきか?
正解は「あっ、ピカチュウからライチュウに『変態』した」です。
是非、子供達には正しい言葉の使い方を教えてあげて下さい(笑)
「進化」というのは、遺伝子に偶然起きた変異によって、その生物の性質が変化し、その新しく獲得した性質が環境にうまくマッチした場合に、変異していない前の連中よりも優位に立った結果、変異体が優勢になって、取って代わることで起こります。
よく例えられるのは、首の短いキリンの先祖動物に突然首の長い変異体が現れたという話です。
その首の長いのは、他の連中よりも高いところの葉っぱまで食べられるので優位になり、その結果、変異する前の先祖は絶滅して取って代わられて、キリンという種が生まれたという話です。
これが「ダーウィンの進化論」でいう「進化」です。
ピチュウからピカチュウ、ピカチュウからライチュウに変身することは、あらかじめ分かっています。
でも、「進化」の場合、どの生物種が、いつ、どのように変化するのかは誰にも分かりっこありません。
「進化」はすべて偶然の産物なのですから。
(必然的な進化もありますが、ここでは置いときます)
「ピチュウ⇒ピカチュウ⇒ライチュウ」みたいに、あらかじめ決まった変身パターンをする生物って、実際にいるのでしょうか?
います!! 昆虫です!
「幼虫⇒さなぎ⇒成虫」
遺伝子にプログラムされているため、決まりきった変身をします。
進化と違って「何から何になるのか分からない」のではありません。
このような昆虫などの変身を「変態」と言います。
つまり、ピチュウがウジ虫で、ピカチュウがサナギ、ライチュウがハエという訳ですね。(子供の夢を壊す意地の悪いオッサンだ)
3.新型インフルエンザウイルス出現のシナリオ
201X年初冬、中国内陸部の山村。
人々は、主に農業で生計を立て、豚や鶏を飼い、近くに水場があって、水鳥がいます。
ある日、飼われている鶏が泡を吹いて、次々に死んでいきました。
飼い主と家族は、いったい何が起こったのかと、死んだ鶏を手に取り観察します。
この時、当家が買っている豚にも、この高病原性トリインフルエンザウイルスと、同時に人間からもインフルエンザウイルスが感染していることを、誰も知る由はありませんでした。
春がやってきました、渡り鳥たちがシベリアへ渡っていきます。
ブタからもらった交雑ウイルスを抱えて。
遠くシベリアのある地域で、中国内陸部生まれの交雑ウイルスが、様々な鳥に広まっていきました。
秋が来て、それぞれが別々の地域へ渡っていきます。
そんな中に、日本の北陸地方に渡ってきた渡り鳥の集団がありました。
人家もすぐ近くにあります。
しばらくして、ある養鶏農家の鶏が死に始めました。
主は死んだ鶏を手に取って調べますが、すぐに高病原性トリインフルエンザだと気が付きました。
ウイルスの専門家や保健所の職員がやって来て、死んだ鶏を厳重に袋詰めにして持ち帰り、鳥小屋と周辺を念入りに消毒します。
もちろん、飼っていた鶏は全殺処分です。
この養鶏農家の主は、トリインフルエンザについては知識がありましたが、まさかこれが、ヒト-ヒト感染する新型インフルエンザとは思いもよりませんでした。
彼と接触した何人かの人たち。
ある人は空港から海外に向かうかもしれません。
潜伏期間は2,3日。
ちょうど密室の機内で発症するかもしれません。
風邪のような症状を示した人間がひとり出たくらいで、当局は空港を閉鎖したりするでしょうか?
入国審査の前にサーモグラフィで入国者の体温をチェックしますが、これが強毒性新型インフルエンザであると誰が分るでしょうか?
新型インフルエンザウイルスであるのかどうか、ウイルスの遺伝子解析には、どんなに急いでも数日はかかります。
その間、この人ひとりを隔離することは容易ですが、この人と接触したすべての人を見つけ出し、隔離することなんて不可能です。
こうして、このウイルスは、遠くはなれた別大陸に侵入を果たしたのです。
4.新型インフルエンザのパンデミックの予測は難しい!
近年の遺伝子解析技術の進歩により、新型インフルエンザウイルス出現の仕組みが分かってきました。
上記のように、新型インフルエンザウイルスの出現には、いくつもの条件がそろう必要があります。
ですから、時間もかかりますし、簡単には出現しないとも言えます。
それだけに、いつ、どこで出現するかを予測するのは非常に難しいと言えます。
新型インフルエンザウイルスの出現は、数十年周期で起きています。
その周期には幅があり、予測は難しいのですが、いずれ必ず出現し、パンデミックは起きると専門家は言います。
国の対策はと言うと、下の内閣官房のウェブサイトや、その他、厚生労働省のウェブサイトでも、「国民一人ひとりが『新興感染症』について知識と危機感を持ち、対策に臨むこと」のようなことを言っていますが、じゃあ、実際に私たち一般国民が何をすればよいのかと言うと、そこのところがハッキリしない。
正直言って、当局の関係機関が言っていることは、一般国民が理解するには難しすぎます。
新型インフルエンザ等対策トップページ|内閣官房新型インフルエンザ等対策室
ひとつだけ言えることは、一般国民にも正しい知識は必要で、「(高病原性トリインフルエンザウイルスに感染した)鶏肉や卵を食べたら感染する」などと騒ぎ立てないこと。
国が言うことを正しく理解でき、正しく行動できることが必要です。
そのためには、マスコミの役割は重要で、国民を煽らず、我々が正しい行動をとれるよう、是非、正確な報道をお願いしたいものです。
今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。
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