Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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053【科学は不老不死を実現できるのか?】「早老症」

目次:

① 老化が急速に進行する「プロジェリア症候群」

② 日本人に多い民族病? 「ウェルナー症候群」

③ ウェルナー症候群と診断されたら

④ 科学は老化の制御を実現出来るのか?

 

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① 老化が急速に進行する「プロジェリア症候群」

 

老化が早く進行する病気があるのをご存じでしょうか?

というと、多くの人が「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群」(単に「プロジェリア症候群」または「プロジェリア」とも)のことを思うのではないでしょうか。

 

病名までは覚えていなくても、テレビなどで、患者の子供のドキュメンタリーやこの病気を抱えながらも明るく前向きに生きたカナダの少女の手記などが紹介されたことで、日本でもたいへん話題になりました。

 

生後間もなくから様々な異常な症状が現れ、発育障害のため身長は低く、平均寿命は13歳。

原因不明で、治療法はありません。

これまでに確認されたプロジェリア患者は、世界で200例にも満たない極めて稀な病気です。

 

知能の発達にはほとんど異常がないために、患者の子供たちは、自分が他の子供たちと違うことを認識し、中には自分がどうなる運命なのかを理解している子もいます。

それだけに、彼らのことを知ると、多くの人が胸を締め付けられる思いをします。

 

私は、この「プロジェリア」という病気だけは、どうにもいけません。

患者の子供の写真を、その容姿を、笑顔を、生き様を、見ているだけでも、たまらなく辛くなる病気です。

なんでこんな病気があるのか? なんでこんな病気がなければならないのか?

これは、人類の進化の過程で必然的に生まれた、いわば、なくてはならなかった必要悪だとでも言うのか!?

 

② 日本人に多い民族病? 「ウェルナー症候群」

 

「早老症」とは、老化が異常に早く進行する病気の総称で、プロジェリアも早老症に含まれます。

 

日本人に多い早老症としては、「ウェルナー症候群」があります。

「ウェルナー症候群」というのは聞きなれない病名かもしれませんが、日本人には比較的、いや、世界的にみて「圧倒的」に多い早老症です。

 

子供の時期には特に目立った異常は出ないため、ほとんどの場合、本人も周囲も気が付きません。

原因は、ある程度分かっているような、ハッキリとは分かっていないような。。。

 

ウェルナー症候群は、古くから遺伝病と考えられていました。

というのも、ウェルナー症候群の家系が存在することが以前から知られており、その原因遺伝子を突きとめるために、そのような家系の人たちの遺伝子が詳細に調べられたのです。

そして、ウェルナー症候群の原因として、WRNという遺伝子の、たったひとつの塩基の突然変異が報告されました。

1996年の事です。

Positional cloning of the Werner's syndrome gene. - PubMed - NCBI

 

WRN遺伝子は、DNAの修復に際して、DNAの二重らせん構造のねじれを巻き戻す働きをする、「DNAヘリカーゼ」という遺伝子であることが分かっています。

しかしながら、この遺伝子の機能について、それ以上のことはあまりよく分かっておらず、この遺伝子の変異が、なぜウェルナー症候群の発症につながるのかは、未だに説明できないでいます。

 

理科で習った「メンデルの法則」を復習しましょう。

 

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我々は普通、ひとつの同じ遺伝子を2個ずつ持っています。

ひとつはお父さんから、もうひとつはお母さんから受け継いだものです。

WRN遺伝子も二つ持っています。

 

図では、正常なWRN遺伝子を大文字の「W」で、変異のあるWRN遺伝子を小文字の「w」で表しています。

青字はお父さんWRN遺伝子、赤字はお母さんWRN遺伝子です。

  

仮に、お父さんとお母さんの二人ともが、変異のあるWRN遺伝子(小文字の「w」)をひとつずつ持っているとします。

この両親のように、二つのWRN遺伝子のうち、ひとつに変異があったとしても、もうひとつが正常であれば、ウェルナー症候群にはなりません。

その子供が、両親からそれぞれ変異のあるWRN遺伝子を引き継ぐ確立は4分の1です。

不幸にして、両親から変異のあるWRN遺伝子を二つとも引き継いでしまった場合(ww)、ウェルナー症候群を発症する可能性があります。

 

昔は、WRN遺伝子に変異を持つ家系内での近親婚(いとこ同士やはとこ同士)で、子供に発症することが多かったのですが、しかし近年では、近親婚でもないウェルナー患者が多く見出されており、このこともあって、WRN遺伝子の変異とウェルナー症候群との因果関係について、100%確実だとは断言できないでいるようです。

 

ウェルナー症候群の患者数は、正確には把握されていません。

ネットなどで調べてみると、多く目にとまる数字は、世界中で1300人、日本国内では800人とも1000人とも言われているようですが、長期間を経た後にゆっくりと症状が出ること、そして、我が国にウェルナー症候群に精通した医師が少ないこともあり、見過ごされているケースも多く、そのため国内の患者は2000人にのぼるという推計もあるようです。

とにかく、世界中の全ウェルナー患者のうち、日本人が8割程度を占めると考えられています。

それが真実なら、これは「民族病」と言えますね。

 

③ ウェルナー症候群と診断されたら

 

かつて、世界的に権威のある科学雑誌「サイエンス」に掲載された有名な写真です。

日系アメリカ人の女性で、左が15歳の時。歳相応の愛らしいお嬢さんです。

一方。。。

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ウェルナー症候群は、1904年にドイツ人医師のオットー・ウェルナーによってはじめて報告されました。

 

ウェルナー症候群では、思春期ごろまではほとんど症状が出ません。

成人する前後くらいから、白髪、脱毛、脂質代謝異常、血糖値の上昇、動脈硬化、両目の白内障などと言った症状が徐々に現れ、歳とともに進行します。

 

糖尿病患者と同様、足の傷は治りが悪く、しばしば難治性の皮膚潰瘍になります。

この難治性皮膚潰瘍というのが、すごく痛いらしいです。

酷くなると、普通の鎮痛剤や麻酔薬、果ては麻薬の類でも抑えられないそうで、日常生活に大きな支障を来たします。

ですから、靴ずれ程度でも甘く見ることが出来ないそうです。

酷くなると、この痛みから解放するために、脚の切断が行われることもあるとのことです。

 

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それから、がんの発症も高率です。

 

ウェルナー症候群の根治的な治療法はなく、症状に応じた対症療法が主な治療になります。

かつては、ウェルナー症候群患者の平均寿命は40歳代くらいでしたが、近年では、がんや、その他のメタボリック症候群の症状に対する治療法が格段に進歩したため、今では60歳代くらいまで延命できるそうです。

 

あっ、それから、これまでクローン病潰瘍性大腸炎などが国により特定疾患の難病に指定されていましたが、2015年になってやっと、このウェルナー症候群も難病指定されました。

これにより、治療費の助成を受けることができるようになりました。

患者や患者家族の悲願が叶ったのです。

 

④ 科学は老化の制御を実現出来るのか?

 

急激に老化が進行する「早老症」。

 

長く生きられない病気の人がいるというのに、こう言うのは複雑な気持ちではありますが、早老症患者は、老化研究の非常に貴重な対象となっています。

 

「老化」は、非常に複雑な仕組みによってプログラムされた生命現象で、そこに生活習慣や生活環境などの外的要因の影響も受けますので、そう一筋縄で解明できるようなものではありません。

老化のメカニズムどころか、我々は、ウェルナーやプロジェリアという一つの病気の原因でさえ、完全には理解できていないのが実情なのです。

 

例えば、長寿遺伝子と言われるサーチュイン遺伝子を活性化することで寿命が延びるとか、サーチュイン遺伝子を活性化する食事の方法とかが取り沙汰されていますが、実はヒトでのエビデンスは余りにも乏しいのです。

だいたい、元々それらの実験が行われたのが、ヒトではなく、生物としてずっと単純な線虫だったり、ショウジョウバエだったりする訳で、そんなのを根拠に、食事でサーチュイン遺伝子がどうのこうのと。。。なんやねん!

 

実際、「ネイチャー」のようなチョー権威のある雑誌から、サーチュイン遺伝子の活性化に寿命延長効果はないとの否定的な論文も発表されていたりもします。

Absence of effects of Sir2 overexpression on lifespan in C. elegans and Drosophila : Nature : Nature Research

この論文でも線虫とショウジョウバエを使っています。

何しろ、寿命が短い生物を使った方が、早く結論が出ますからね。

 

そんな訳で、線虫やハエの実験結果から、人間でも寿命を伸ばせるとかなんとか騒ぎ立てて、煽り立てて、なんやねん!(今回2回目の「なんやねん!」)

サーチュイン遺伝子に関しては、科学的エビデンスは極めて薄弱です。

 

線虫やハエではなく、ヒトの老化を直接研究しようとすると、何十年もかかります。

これでは、被験者よりも、研究者の方が先に死んでしまったりします。(いや、冗談ではなく、ホンマに)

 

これは極めて非現実的です。

ですから、早く老化現象が起こる「早老症」の研究が、ヒトの老化の仕組みを解明するための非常に有効な手段となるのです。

 

例えば、これは早老症の研究に限らないのですが、病気の人の細胞からiPS細胞を樹立し、培養することによって、病気の細胞の中で起こる遺伝子やタンパク質の異常な動きなどを、試験管のなかで観察することが可能になります。

これは、「ビフォー・ヤマナカ」時代には出来なかった画期的な技術革新です。

 

このような科学の進歩により、いずれ人類は、「老化」をも制御することが可能になるのでしょうか?

 

いや、しかし、不老不死や長寿は、夢のある話ではありますが、わたし的には、研究者の皆さんには是非、早老症などの病気の原因の解明や治療法の開発に力を注いで頂きたい、と切に思います。

 

そして、いつも同じ結論に帰結するのですが、できるだけ健康長寿を全うするために、我われ一人ひとりにできることとして、日常の生活習慣(食事と運動)によって、それ(健康長寿)を目指して行きたいものです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

H大のS先生

間違いがありましたら、御指摘をお願いします よ !(^^)!

 

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