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Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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035【遺伝するガン「家族性腫瘍」】がん(その3)

目次:

① 家族性大腸がん

② コロンボがヤブ睨みなわけ

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について(注:珍しく哲学的に語りますよぉ)

 

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不幸にして、生まれながらにガンになりやすい遺伝子を持っている人がいます。

遺伝するガン、家族性腫瘍で一番多いのは大腸がんです。

全大腸がんの1割近くが「家族性」と考えられていますが、家族性大腸がんにもまた、何種類かがあります。

あと、女性に多い家族性腫瘍では、乳がん卵巣がんが代表的で、女性にとっては深刻な問題です。

乳幼児期の小さなときに眼にできる腫瘍や、全身に多発性の腫瘍ができるものに遺伝性のものがあります。

 

家族性腫瘍は、変異のある遺伝子の種類によって様々であり、予防可能なもの、延命できるものもあれば、一度発症すれば手の付けられない悲惨なものもあります。

身近に家族性腫瘍の人がいない方には馴染みがないかも知れませんが、このような病気もあるということを知って頂く機会があってもいいかもしれません。

 

今回は、アンジェリーナ・ジョリー刑事コロンボ役で有名なピーター・フォークのエピソードなんかも交えて、家族性腫瘍についてお話します。

 

以下に主な家族性腫瘍について、病名とガンができる臓器や時期、症状、原因遺伝子についてまとめておきますので、以下の記事を読まれるときに参照して下さい。

 

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① 家族性大腸がん

 

家族性大腸がんには何種類かありますが、代表的なものは「遺伝性非腺腫性大腸がん」(病名が長くて舌噛んじゃうので、「HNPCC」とか「リンチ症候群」と呼ぶ)と「家族性大腸腺腫症」(同じく「FAP」)でしょう。

 

HNPCCの原因遺伝子は、前回のブログ【034】でお話した「DNA修復遺伝子」です。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

この遺伝子がやられると、DNAの修復ができず、ガンの進行が速いと言いました。

ところが、HNPCCの人は、生まれながらにこのDNA修復遺伝子群(実際はDNA修復遺伝子は複数ある)のいくつかに生まれながらに変異があるのです。

ですから、生まれつき、体中のすべての細胞で遺伝子の変異をうまく修復することができません。

40歳代くらいから発症することが多く、特に大腸がんが多いのですが、全身の細胞でDNA修復ができない訳ですから、多臓器にガンが発症することも多くあります。

中年代くらいまでは生きられることが多いのですが、患者はいつ発症するかしれない恐怖と戦いながら暮らすことを強いられます。

 

FAP(家族性大腸腺腫症)はAPCという遺伝子の変異で起こることが、日本人研究者、シカゴ大学医学部教授(元東大医科学研究所教授)の中村祐輔先生によって突き止められ、中村先生は一躍世界に名を馳せられました。

FAPでは、だいたい成人後に大腸に何百、何千というポリープが発生します。

こんな感じです。

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ポリープがギッシリ!

 

これを放置していると、まず間違いなく、このポリープの中からガン化するものが現れます。

発症予防のために、10代のうちに大腸の全摘出が行われます。

そうすることで、比較的普通に生活できるようになります。

 

② コロンボがヤブ睨みなわけ

 

ご存知刑事コロンボ。この方の目つきっておかしいですよね。どこ見てんだか?って感じ。

私は子供のころから「焦点合ってへんのんとちゃう?」って思ってました。

 

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それもそのはず。実はピーター・フォークさん。3歳の時に右眼に腫瘍ができ、眼球摘出手術を受けたため、右眼は義眼なのです。

 

この病気、網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)と呼ばれる家族性腫瘍で、RB(アールビー)と呼ばれる遺伝子の変異が原因であることが分かっています。

発症すると抗がん剤放射線療法を行いますが、効果が無ければ、小さな子供には気の毒ですが、眼球摘出を行います。

なぜか腫瘍は片眼にしか現れないことが多く、片方を摘出すれば普通に暮らせることが多いです。

 

いや、ちょい待ち!

「普通」って言っても、劇中のコロンボは車を運転してたよねぇ?

普通に愛車のプジョー403カブリオレを! それも片目で!

あんた免許持ってんの? 危なくね!?

 

因みにこのRB遺伝子初めて発見されたがん抑制遺伝子として非常に有名です。

 

③ 「守護者」不在の家族性腫瘍「リ・フラウメニ症候群」とは?

 

前回、我々の細胞を守っている「守護者」、がん抑制遺伝子p53の話をしました。

これがやられると、我々には大変なダメージです。

高率でガンになりやすくなります。

 

なんと、このp53遺伝子に生まれつき変異のある人がいます。

リ・フラウメニ症候群と呼ばれ、守護者が元からいないものですから、中年代以降、ガンが発症しやすくなり、一旦発症すると、次から次へといろんな臓器にガンが発生するようになります。

こうなると手が付けられません。

 

p53遺伝子が、我々の細胞を守る上で、如何に重要な働きをしているのかということがよく分かります。

「守護者」とよばれるゆえんです。

 

④ アンジェリーナ・ジョリーは、なぜ両乳房を切除したのか?

 

先ごろジョニー・デップとの不倫報道、ブラピとの離婚騒動と、マスコミへのゴシップ提供に事欠かないアンジェリーナ。何かとお騒がせです。

でも、アンジーにとって、この程度のゴシップはモノの数ではありません。

 

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彼女は、2013年5月に両方の乳房の全摘出を行ったと発表して、全世界を驚かせました。

女優という職業、それもハリウッドを代表するスーパーセレブリティで、この美貌とボディが最大の売りものにも関わらずです!

そりゃあみんな驚きますよね。よっぽどの事情があったに違いありません。

 

その事情とは、乳がんになるのを予防するためだとのことです。

ではなぜ彼女は、自分が将来乳がんになると分かったのでしょうか?

 

彼女は、ずっと以前から近しい身内に乳がんが異常に多いことを気に病んでいました。

実の母親を含めて近親女性が3人も乳がんで亡くなっているのです。

そして、乳がんには遺伝性のものがあること、その原因遺伝子が突き止められていること、その原因遺伝子の変異の有無を調べる遺伝子検査を受けることができることを知りました。

果たして検査の結果、家族性乳がんの原因遺伝子であるBRCA1遺伝子に変異のあることが分かったのです。

その結果を受けての決断でした。

 

女性の皆さん。遺伝子検査で変異が見つかったら、両方の乳房を切る決心をすることができますか?

将来、100%乳がんになると分かっていれば切りますか? それとも、100%でも躊躇しますか?

 

実は、この遺伝子に変異がある場合、一生涯を通して乳がんになる確率は約80%なのです。

そう、100%ではありません。

ですから、切らなかったとしても乳がんにならないかもしれないのですね。

 

更に、しかも、しかもです。

乳がんは乳腺という組織からガンになります。

ですから、乳房を切るのは、この乳腺を除くのが目的です。

ところが、全摘出を行ったつもりでも、乳腺を完全に切り取れるとは限らないそうです。

摘出し切れずに一部残った乳腺からガン化する可能性もあるというのです。

 

切らなくってもガンにならないかもしれないし、切っても完全には防げないかもしれない。

このような条件下での決断です。

医者は説明するだけです。決断するのは、あくまでも本人です。

 

男の私でも、女性が乳房を切る決断をすることの苦悩や葛藤というのは、理解できるような気がします。

でも、私が分かるのは、ただ「過酷な決断」だろうということだけです。

アンジーのその時の本当の苦悩や葛藤の気持ちが、私などに分かるはずもありません。

 

遺伝子検査と言っても、100%の精度で未来を予測できる訳ではありません。

天気予報の降水確率のような不確かな情報を元に、非常に重大な決断を患者本人に強いる、このような検査について、倫理的な問題点の指摘や、賛否を議論する声もあります。

 

アンジーの話は、これだけでは終わりません。

さらに2015年、彼女の卵巣に腫瘍が見つかり、片方の卵巣と卵管を切除しました。

BRCA1の変異は、遺伝性卵巣がんの原因にもなります。

幸い卵巣の腫瘍は良性でしたが、結果的に彼女は、「女性である部分」をかなり失うこととなったのです。

 

何と言えばいいのか言葉も見つからいほど苛烈な人生ですが、彼女はいま、何人かの恵まれない子供の里親を務め、人道支援活動を積極的に行うほか、イギリスの大学の客員教授に就任するなど、大変にご活躍中です。

 

⑤ 遺伝する病気が存在する意味について

 

たまたま今回取り上げた家族性腫瘍以外にも、遺伝する病気はたくさん存在します。

昔から遺伝する病気というのは広く知られていて、差別の対象になっていたのは、皆さんご存知でしょう?

でも、21世紀の現代になって、それも少しは変わったのでしょうか?

 

そこで皆さんにお尋ねしたいのですが、皆さんは自分が正常だと思いますか?

何をもって正常だと言えるのでしょう?

単に健康だから? 他の大多数の人と同じだから?

本当に他の人と同じですか?

 

もう一つ伺います。遺伝する病気を持つ人は異常だと思いますか?

 

私も、ガンに関するこれまでの一連の記事の中で、遺伝子の「異常」という言葉を頻繁に使いました。

確かに、前回の【034】で、発がん性物質放射線なんかの影響で、後天的に遺伝子が変異した場合などに「異常」という言葉を使いましたが、これは間違いではありません。

例を挙げると「放射線の影響で遺伝子に異常が起こり、異常な細胞が発生した」

こんな使い方ですね。

 

しかし、遺伝する病気の素因を持つ人に対して、生まれながらに遺伝子に「異常がある」と言った場合、それは適切な表現とは言えません。

何故適切でないか、その理由が分るでしょうか?

 

遺伝する病気の存在というのは、人間が遺伝的な多様性を追求する高等生物である限り、必然的なものです。

 

人それぞれ、全て遺伝的に違いがあります。

病気の原因となり得るような遺伝子の違いも含めて、遺伝子の多様性の一部なのです。

ですから、少なくとも遺伝子的には、誰が正常で、誰が異常だなんてことは一概には言えないのです。

 

今回の話で、私がお伝えしたことの真意が皆様に伝われば、誠に幸いです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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