Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

健康 病気 免疫 遺伝子 腸内細菌 がん 生活習慣病 感染症

093【「CAR-T細胞療法」前編】がん(その13)予備知識編

目次:

1.がん細胞だけを狙い打つ「ミサイル療法」とは?

2.免疫系ががん細胞を見つけ出して攻撃する仕組み

3.がん細胞が免疫監視機構から逃れる仕組み

 

その強力な治療効果のゆえに、今、非常に話題の新規がん治療法が明日(2019年5月22日)、保険適用されます。

薬価はなんと3349万円!(誰が払うの?⇒ほぼ税金!)

 

「CAR-T(カーティー)細胞療法」

 

手の施しようのないB細胞性の白血病の50%以上、なかには80~90%に効果があるとの臨床研究報告すらあります。

この数字は、本庶先生がノーベル賞を受賞された「免疫チェックポイント阻害剤」をはるかに凌ぎます。

一方で、この新療法には克服されるべき問題点もあります。

 

CAR-T療法でもっとも重篤な副作用は「サイトカイン放出症候群」、俗に「サイトカインストーム」とも呼ばれ、その強力な免疫作用が原因で患者自身を死に至らしめるという、いわば「諸刃の剣」です。(本ブログでは、俗称の「サイトカインストーム」を使うことにします)

 

また、効果があるのは一部の白血病だけで、患者の絶対数は多くはありません。

つまり、このCAR-T細胞療法で助かる命の数には限りがあるのです。

 

最新の治療法にもメリットとデメリットがあります。

デメリットを理解することは、治療法を選択する上で非常に重要です。

今回は、話題のCAR-T療法の効果の高さと問題点について、2回にわたってお話します。

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆彡

 

1.がん細胞だけを狙い打つ「ミサイル療法」とは?

 

免疫系というのは、外敵(非自己)を認識して攻撃、排除する能力を持っています。

免疫系が認識する非自己の物質を「抗原」と呼びます。

 

一方、がん細胞は元々は自己の細胞です。

とは言え、がん細胞では多くの遺伝子に異常が起きた結果、正常細胞にはない異常なタンパク質(「新生抗原」または「ネオアンチゲン」とも)を細胞表面に発現することが多いものです。

このネオアンチゲンを標的にすれば、正常細胞に害を及ぼさずに、がん細胞だけを破壊できるのではないかというがんの標的療法の概念は古くからありました。

がん細胞のネオアンチゲンを狙い撃つので、俗に「ミサイル療法」とも呼ばれました。

たとえば、ネオアンチゲンを認識する抗体に抗がん剤を結合させたミサイル療法剤というのがあります。

 

抗がん剤は元来毒です。

多くの抗がん剤が、がん細胞のように増殖の盛んな細胞に高い毒性を示します。

でも、やはり増殖の盛んな毛根や小腸の細胞にも毒性を示すので、毛が抜けたり、激しい下痢や嘔吐などの副作用が現れます。

 

ここで抗がん剤に抗体をくっつけるとどうなるか?

抗体はがん細胞のネオアンチゲンに結合します。

こうすることで、抗がん剤をがん細胞だけに輸送することが可能になります。

従来の抗がん剤の「じゅうたん爆撃」に対して、ネオアンチゲンという標的にロックオンしたミサイル療法が効果的だというのは理解して頂けるでしょうか。

 

takyamamoto.hatenablog.com

がんのミサイル療法については過去ブログご参照

 

2.免疫系ががん細胞を見つけ出して攻撃する仕組み

 

たとえ抗体を利用した抗がん剤治療でも、末期がん患者には効果が期待できないケースが多いです。

これは、化学療法(抗がん剤治療)の本質的な限界とも言えます。

そこで近年は、人間自身の免疫力でがんを駆逐する「免疫療法」にシフトしました。

 

代表的なのは、昨年、本庶佑先生がノーベル賞を受賞した、本ブログで何度もお話している「免疫チェックポイント阻害剤」です。

つまり、我々の体は本来、がん細胞を駆逐できるだけの免疫力を備えているものなのです。

では、なぜこうも多くの人ががんに罹り、命を落とすのか?

 

takyamamoto.hatenablog.com

免疫チェックポイント阻害剤は過去ブログご参照

 

我々の体では日夜、免疫系が私たちの体に起きる異常を常に監視しており、異常があれは、それを修復したり、排除をして体の恒常性を維持しています。

この仕組みを「免疫監視機構」と呼びます。

 

ある細胞に遺伝子異常が起きたとき、免疫系はどのようにして、この異常な細胞を見つけ出すのでしょうか?

がん細胞の表面には異常なタンパク質、すなわちネオアンチゲンが現れます。

これをリンパ球の一種であるT細胞が見つけ出すのです。

 

f:id:takyamamoto:20190521133805p:plain

T細胞は、細胞表面のT細胞受容体(TCR)が抗原と結合することで異常細胞を認識する。

 

上の図を見てください。

左のがん細胞の表面には、自己の身分証明書であるMHCというタンパク質のお皿の上にネオアンチゲンが提示されています。

これをT細胞の受容体が結合することで、「コイツは異常な細胞だ!排除せねば」となる訳です。

でも、本当はこれだけではT細胞の活性化は起こらず、がん細胞を攻撃することはできません。

がん細胞の表面には「CD80/86(B7とも)」というタンパク質があります。

抗原(ネオアンチゲン)とT細胞の受容体が結合した上でさらに、がん細胞のB7とT細胞のCD28というタンパク質とが結合する必要があります。

ネオアンチゲンを認識するだけでは不十分で、免疫系というのは二重、三重のチェックを経て機能するようになっています。

 

つまり、①T細胞受容体ががん細胞のネオアンチゲンと結合して第一のシグナルがT細胞に入る、②がん細胞のB7とT細胞のCD28が結合することで第二のシグナルがT細胞に入る、の二段階を経て初めてT細胞が活性化し、がん細胞を攻撃することができるようになります。(本当は他にも必要なシグナルがありますが、説明の簡略化のため、ここでは省略します)

 

免疫系というのは、やっためたらと活性化しては具合が悪いので、ダブルチェック、トリプルチェックをして、本当に攻撃していい相手かどうかの確認作業をするのです。

非常に用心深いシステムなのですね。

 

3.がん細胞が免疫監視機構から逃れる仕組み

 

しかし、がん細胞は非常にしたたかです。

上述のような免疫の仕組みがあるにも関わらず、多くの人ががんに罹り、命を落とすのは、がん細胞が巧みに免疫監視機構の目をくらましているからです。

 

まず、多くのがん細胞では、事故の身分証明書であるMHCの発現がないか、すごく減っていることがあります。

ネオアンチゲンがT細胞によって異物として認識されるためには、抗原はMHCのお皿の上に乗っかって提示される必要があります。

T細胞はMHCとその上の抗原を同時に認識します。

すなわち、「自己ではあるが、異常なタンパク質を持つ異常な細胞」ということを確認した上で攻撃、排除にかかる訳です。

MHCがなくては、T細胞は活性化しません。

 

次に、細胞表面にB7を発現していないがん細胞もあります。

T細胞の活性化には、T細胞受容体による抗原認識(第一のシグナル)と、B7とCD28の結合(第二のシグナル)が必要でした。

この第二のシグナルが入らないのですから、T細胞はやはり活性化しません。

B7が無くなる現象は、がん細胞が制御性T細胞(Treg)を味方につけていることによります。

 

Tregは過剰な免疫反応を抑えてくれるT細胞です。

私たちの体には誰にでも自分に反応する免疫細胞が存在しています。

にもかかわらず自己免疫疾患にならないのは、Tregがそれらの免疫細胞の活性化を抑えてくれているからです。

Tregが免疫細胞を抑える仕組みにはいくつかありますが、そのひとつが細胞表面のB7の発現を消失させる働きです。

 

takyamamoto.hatenablog.com

Tregの働きについては過去ブログご参照

 

がん細胞は狡猾にも、Tregを味方につけ、自らのB7を消し去っているのでした。

なんて頭がいいのでしょう?

でも、人間だって負けてはいません。

人間は、このがん細胞の狡猾さの裏をかく方法を編み出したのでした。

それがCAR-T細胞療法なのです!

 

今回は、CAR-T細胞療法を理解するための予備知識として、ここまでにしておきましょう。

次回、CAR-T細胞療法がなぜにそれほどまでに強力に効くのか? 問題点は何か? 解決策は用意されているのか? についてお話します。

お楽しみに (^^)

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆彡

 

是非、お読みになったご意見やご感想、お叱りをコメントでお寄せください。

大変励みになります。