Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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090【ワーファリン誕生秘話】害獣を殺す「毒」から人を生かす「薬」へ

目次:

  1. 血栓症を予防するワーファリン

  2. 全米屈指の名門、ウィスコンシン大学

  3. 奇病!「スイートクローバー病」

  4. 特定された原因物質

  5. 殺鼠剤「ワーファリン」命名の由来

  6. 殺鼠剤で自殺を試みるも死に切れず!

  7. 殺鼠剤で死なないスーパーラット

  8. 飲み忘れても、決して一度に2回分を飲んではいけない!

  9. その後、スイートクローバー病はどうなったの?

  10. スイートクローバー病の牛には、この食材を食べさせろ!

 

今回は軽~い読み物です。

 

お盆休みにアメリカに行ってきました。娘といっしょにです。

19年前に単身赴任で住んでいた懐かしの場所を再訪。

ウィスコンシン州のマディソンと言う、日本人にはあまり馴染みのない街ですね。(ちなみに、映画「マディソン郡の橋」は何の関係もありません)

日本人はあまりいませんが、いるとすれば、ウィスコンシン大学の留学生など、大学関係者でしょうね。

 

この場所に来てみて、あることを思い出しました。

この大学で生まれた有名な薬のことです。

血液をサラサラにする薬「ワーファリン」(「ワルファリン」とも)

今回は、このワーファリンの誕生秘話です。

 

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1.血栓症を予防するワーファリン

 

心臓に人工弁をつけている人や心房細動(不整脈)のある人は、血液の流れが乱れるので、血管の中で血が固まりやすくなります。

この血の塊、つまり「血栓」が体のあちこちにとんでって血管が詰まるのが血栓症

脳で詰まると「脳梗塞」、心臓で詰まると「心筋梗塞」を起こして命に関わります。

それを防いでくれるのがワーファリンで、60年以上も使われ続けている良い薬です。

でも、飲む量が多すぎると、血が固まりにくくなって、脳出血などのリスクが高まるので、飲み方には気を使う難しい面もあります。

 

2.全米屈指の名門、ウィスコンシン大学

 

アメリカ旅行に話が戻りますが、娘が私に尋ねました。「ウィスコンシンって何が有名?」

何が有名かって、ウィスコンシンの名物とかかい?

う~~ん、牛か? チーズか? それから、それから、ええ~っと、あとはビールくらいか?

そう、ウィスコンシンは農業、特に酪農とビールの州で、あと、これといったものはプロアメフトチームのグリーンベイ・パッカーズMLBミルウォーキー・ブルワーズ、それにウィスコンシン大学くらいのもので、他にはこれと言って何もありません。

 

このウィスコンシン大学は、アメリカの州立大学の中でも屈指の名門で、ノーベル賞受賞者を多数輩出し、スポーツでも全米屈指の強豪!

まさに「文武両道」の名門校なのです。

 

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2018年8月15日 ウィスコンシン大学マディソン校にて

 

3.奇病!「スイートクローバー病」

 

1920年代。北米で牛がバタバタと死ぬ奇病が発生しました。

解剖してみると、体中で内出血を起こしていました。

これは伝染病なのか!?

 

数年後には、どうやら飼料として与えていた腐ったスイートクローバー(シナガワハギ)を食べた牛が死んでいることが分かってきました。

しかし、なぜ死に至るほどの内出血を起こすのか? 詳しい原因は長らく不明でした。

 

この奇病は酪農州であるウィスコンシンの農家には死活問題です。

腐ったスイートクローバーを与えなければ良いわけですが、雪の積もる冬季には、どうしてもサイロで長期保存した牧草を食べさせなければならず、この病気のリスクは完全には避けられません。

 

ここで一人の研究者が立ち上がりました。

ウィスコンシン大学の生化学者、カール・パウル・リンク博士(1901~1972)です。

 

 

4.特定された原因物質

 

「スイート」ってくらいだから、スイートクローバーってのは、バニラに似た甘い芳香がして、家畜が好んで食べるそうです。

この独特の芳香は、クマリンと呼ばれる化学物質によるもので、今では大量に合成され、香料として利用されています。

リンクは、大量の腐ったスイートクローバーから様々な成分を抽出し、ついに動物に内出血を起こさせ、死に至らしめる物質を突き止めたのです。1940年のことでした。

 

その物質とはジクマロール

スイートクローバーを腐らせる微生物の作用で、クマリンからジクマロールが大量に作られていたのでした。

 

血液が固まるにはビタミンKが必要です。

ジクマロールは、このビタミンKの働きをジャマして血液を固まりにくくしていた、言い換えると、出血しやすくしていたことが分かりました。

 

こいつはいい! こいつは使える!

何がいいの? どう使えるの? ねえってば⁇

 

なんと、翌年の1941年には、ジクマロールは殺鼠剤として販売されたのでした。

これを食べたネズミは、目の網膜で内出血を起こし、視力が落ちるので明るいところに出てきて死ぬといいます。

つまり、ネズミ駆除の効果が目に見えるわけですねぇ。

本当にこいつはいい!

 

1948年。リンクは、このジクマロールを改良して、出血作用をさらにパワーアップさせた恐怖のスーパー殺鼠剤を作り出すことに成功しました。

これこそが「ワーファリン」です。

 

5.殺鼠剤「ワーファリン」命名の由来

 

ワーファリンの特許は、リンクが所属していた Wisconsin Alumni Research Foundation(「ウィスコンシン同窓研究基金」とでも訳せるのでしょうか?)が保有していました。

この頭文字「WARF」とクマリン(coumarin)のお尻の「arin」とをつなげてWarfarin(ワーファリン)と名付けられたのでした。

 

最初は害獣を「殺す」ための毒だったのですが、その後、人を「生かす」ための薬として使われるようになります。

薬として使われるようになったキッカケを調べてみると、どうも偶然から生まれたようですね。

 

6.殺鼠剤で自殺を試みるも死に切れず!

 

スーパー殺鼠剤「ワーファリン」

 

1951年。アメリカ陸軍の兵隊さんが、このスーパー殺鼠剤を大量に飲んで自殺を図りました。

でも、死ねませんでした。

ワーファリンは即効的には効きません。飲み始めは、効果が出るまで時間がかかります。

ワーファリンはビタミンKの働きをジャマすることが分かっていました。

この兵隊さんは、医師の機転で大量のビタミンKが投与されて一命を取りとめたようです。

 

この一件から偶然にも、ワーファリンはビタミンKの量とのバランスを取れば、命を落とすような出血を起こすことなく、凝固能をコントロールできることが分かったのです。

そして、早くも1954年には、抗凝固剤としてアメリカで医薬品承認されたのでした。

 

7.殺鼠剤で死なないスーパーラット

 

ずいぶんと昔のことですが、ワーファリンを食べても死なないラットが話題になったようです。

20年以上も前、NHKの特集番組のなかで「スーパーラット」と呼ばれて以来、学者の間ですら「スーパーラット」の呼称が定着したようです。

 

スーパーラットがワーファリン抵抗性をもつ原因は分かっています。

過去ブログで、ミクソーマウイルスに感染しても死なない「スーパーラビット」や、HIVに感染すらしない「スーパーヒューマン」がいることを紹介しましたが、これと同じです。

takyamamoto.hatenablog.com

 

ヒトにも動物にも多様性があります。

ビタミンKの代謝に重要な働きをしている遺伝子「VKORC1」

実のところ、ワーファリンはこの遺伝子の働きをジャマするのです。

そして、ワーファリンの効かないスーパーラットは、特別な型のVKORC1遺伝子を持っていることが分かっています。

この型のVKORC1遺伝子にはワーファリンは効かないのです!

これは人間も同じです。

 

VKORC1以外にも、ワーファリンの効き目に影響する遺伝子がいくつかあって、その遺伝子の型が違うために、ワーファリンの効き目は、人によって結構差があるのです。

たとえば、人並みの量では効き目が弱く、多めに飲まないといけない人もいれば、逆に少なめにしないと、出血のリスクが高まって危険だったりする人もいます。

なので、お医者様は一人ひとりの患者に対して、血液の固まり具合(血液凝固能)を検査しながら、患者ごとに最適なワーファリン量を決めているのです。

 

8.飲み忘れても、決して一度に2回分を飲んではいけない!

 

ワーファリンの投与量は一人ひとり適切に調節されています。

誤って多めに飲んでしまうと、効き目が強すぎて出血しやすくなるので、非常に危険です。

なので、飲み忘れに気づいても、絶対に一度に2回分を飲んではいけません!

1回くらい飲み忘れても、ワーファリンの効果は数日続くので問題ありません。

飲み忘れよりも、飲みすぎのほうが危険だということを憶えておいてください。

まあ、そこんところは、お医者様や薬剤師などのおっしゃることを良く守ってくださいね。

 

9.その後、スイートクローバー病はどうなったの?

 

えっ!? 一体どうなったのでしょうね?

ネットで調べても、その後のスイートクローバー病の顛末を書いている人はいないので、私は知りません。(そんな無責任な)

 

リンク博士は当初、ウィスコンシンの酪農家の助けになりたくて、この病気の原因究明に立ち上がったのでした。

ところがこの話は、病気の原因物質の発見から一転、殺鼠剤への応用、そして医薬品の承認へと展開していき、スイートクローバー病問題がどうなったのかは、ネットを調べてみても分かりませんでした。

 

でも大丈夫! 現代医学は既にこの病気を克服している、、、はずです。

 

10.スイートクローバー病の牛には、この食材を食べさせろ!

 

ワーファリンを服用している人が食べることを固く禁じられている食べ物があります。

何だと思います?

 

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ワーファリンを大量に飲んで自殺しようと思っても、ビタミンKを打たれれば死のうにも死ねません。

そのくらいビタミンKはワーファリンの効果をチャラにする作用が強いのです。

納豆はビタミンKが非常に豊富な食材です。

ですから、納豆を食べるとワーファリンが効かなくなるのです。

ワーファリン服用者が、どうしても納豆を食べたいと言うのなら、自分の命と引き換えにする覚悟がいりますね。

 

スイートクローバー病の原因物質ジクマロールもワーファリンと同じです。

なので、スイートクローバー病の牛には納豆を食べさせればいい!

ってか、ビタミンKを打てばいいのですよ。

たぶんね (^^)

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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