Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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089【イタ~い帯状疱疹に水ぼうそうワクチン??】ヘルペスウイルス(その1)

目次:

  1. 帯状疱疹水ぼうそうと同じウイルスが原因

  2. ヘルペスウイルスは二度と体から追い出せない!

  3. 最近まで発見されなかった8番目のヘルペスウイルス

  4. 水ぼうそうワクチンを開発したのは私の先生

  5. 水ぼうそうには二度とかからないのに、どうして帯状疱疹になるのか?

  6. 帯状疱疹の予防に水痘ワクチン

  7. 帯状疱疹にかかっても薬がある

 

中年以降の大人がかかる病気、帯状疱疹(たいじょうほうしん)」

五十路を過ぎたら要注意です!

私は経験ありませんが、すっごく痛いらしいですね。

痛くて眠れないほどとか、外出もままならないとか、QOL(生活の質)を著しく損なうようです。

でもあれの予防に水ぼうそうのワクチンが効くって知ってました?

どういうわけ? 水ぼうそうって子供がかかる病気でしょ??

なのに、なんで大人の病気の帯状疱疹に効くわけ??

 

帯状疱疹にならないかと心配な方は、少しお時間を頂いて読んでみてください。

 

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1.帯状疱疹水ぼうそうと同じウイルスが原因

 

中年以降の大人がかかる病気「帯状疱疹」。

実はこの病気、子供がかかる水ぼうそう(水痘)と同じウイルスが原因です。

なのでこのウイルス、「水痘帯状疱疹ウイルス」と呼ばれます。

 

お子さんをお持ちの方ならご存知だと思いますが、はしかと同じで、水ぼうそうは一度かかると免疫ができて、普通は二度とはかかりません。(二度かかることも稀にはありますが。。。)

水ぼうそうにはワクチンが有効です。

ワクチンで免疫を作らせてやると、ほとんどの場合、水ぼうそうにかからずに済みます。

水痘ワクチンは効果が高く、重篤な副作用もほとんどなく、非常に有効なワクチンなのです。

 

水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルスの仲間です。

ヒトに感染するヘルペスウイルスには8種類あり、そのうちのひとつです。

ヘルペス感染症は、口周りに発疹(ほっしん)が出たり、赤くはれ上がったりして痛む「口唇ヘルペス」と、主に性交渉で男性も女性も性器に感染する「性器ヘルペス」が一般にも良く知られていますね。

いずれも、健康状態がよければ、それほど問題にならない感染症なのですが。。。

 

2.ヘルペスウイルスは二度と体から追い出せない!!

 

断言します!(今回の「断言」!)

世の中には全くの「病気知らず」、というか、まったく何の病原体にも感染していない人なんて、まず、たったの一人もいない!、、、はずです。

どんなに健康自慢の人でも、知らず知らずのうちに様々な病原体に侵されているものなのです。

そのような病原体の代表がヘルペスウイルス。

ほとんどの人は、8種類のヘルペスウイルスのうち、複数種類に感染しており、一見健康に見えても、体内にはヘルペスウイルスが確かに存在しているのです。

 

ヘルペスウイルスの最大の特徴は「潜伏感染」することです。

「潜伏」ってくらいだから、体の中で息を潜めてじっとしているのか?

その通りです。普段は隠れるようにして大人しくしています。

ところが、宿主(「しゅくしゅ」、あるいは「やどぬし」と読んでもかまいません)がストレスや体調不良などが原因で免疫力が落ちると、がぜん暴れ出すのです。

宿主の体調の良し悪しを見計らって暴れ出すので、このようなウイルスの再活性化による感染を日和見(ひよりみ)感染」と言います。

 

一部のヘルペスウイルスには良い薬があり、暴れるウイルスの勢いを止めて、症状を沈静化することはできますが、残念ながら体から完全に追い出すことはできません。

勢いを削いで、元通り大人しく「潜伏感染状態」にお戻り頂くだけです。

つまりは、一生ヘルペスウイルスとうまく付き合って、共存して生きていくしかありません。

 

3.最近まで発見されなかった8番目のヘルペスウイルス

 

1980年代初頭に突如現れた20世紀の黒死病「AIDS」!

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

AIDS患者に非常に珍しい種類の皮膚ガンが頻発することが分かりました。

それまでも、悪性腫瘍などで免疫が落ちている患者に稀にみられた「カポジ肉腫」

非常に珍しいガンであったため、研究がそれほど進んでおらず、長らく原因は不明でした。

ところが、AIDS患者で頻発することから注目され、盛んに研究されるようになった結果、新種のウイルスが関連していると分かったのです。

 

当初、この新しく発見された謎のウイルスは、便宜的に「カポジ肉腫関連ウイルス」と呼ばれましたが、その後、遺伝子配列が解明された結果、ヘルペスウイルスの一種であることが分かったのでした。

そこで晴れて、8番目のヒトヘルペスウイルスということで「ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)」という立派なお名前を襲名したのでした。

HHV-8は、有史以前からの永きにわたって、滅多に悪さをすることなく、ひっそりと人間の体内に潜んで来たため、AIDSという病気が流行するまで人間様に見つからずにいたのでした。

 

普段は大人しい(潜伏感染)。でも、免疫が極端に落ちると暴れ出す(再活性化、日和見感染)。

この「潜伏感染」と「日和見感染」がヘルペスウイルスに共通した最大の特徴です。

 

4.水ぼうそうワクチンを開発したのは私の先生

 

繰り返しますが、水ぼうそうワクチン(水痘ワクチン)は効果が高く、その上、重篤な副作用が非常に少ないワクチンの優等生です。

子供の水ぼうそうの予防確率は、なんと、ほぼ100%!

ゆえに、このワクチンはWHOが認めた世界中で使われている唯一の水痘ワクチンなのです!

 

ウイルスのワクチンには、生きているけれども病原性を弱めたものや、弱めただけでは不安とばかりに、完全に殺して感染力をなくしたもの、あるいは、ウイルスの成分の一部を使って作ったものだったりと、様々なタイプがあります。

水痘ワクチンは、生きてはいますが、病原性を弱めた「弱毒化ワクチン」ですね。

この弱毒化ワクチンって、どうやって作ったのでしょう?

 

同じウイルスでも、様々な人に感染しているウイルスは、病原性や感染力など、それぞれ微妙に性質が違うものです。

つまり、水痘やインフルエンザが流行っても、一人ひとりに感染したウイルスの性質は、遺伝子配列のレベルで微妙な差があるものなのです。

このように、同じウイルスでも由来が違うがために、微妙に性質や遺伝情報の異なるウイルスの系統のことを「株(かぶ)」と言います。

 

病原性は低いけれども、免疫をつける力は強い!

こんなウイルス株が弱毒化ワクチンには理想的ですよね。

この、世界で唯一の水痘ワクチンに使われている水痘帯状疱疹ウイルスの株は、まさにそんな理想的なウイルス株なのです。

 

この水痘ワクチンに使われているウイルス株を樹立したのは、元大阪大学名誉教授の故・高橋理明(みちあき)先生。

高橋先生は、あっちで水ぼうそうにかかった子供が出たと聞けば駆けつけ、水ぶくれの内容物を採って研究室に持ち帰っては、それをシャーレ(実験皿)の細胞にふりかけて培養しました。

 

宿主である患者が違えばウイルスの性質も微妙に違う!

つまり、ウイルスの「株」が違うわけです。

高橋先生は、たくさんの水ぼうそう患者の子供から、たくさんのウイルス株を集めてきて、その中からワクチン製造に適した株を捜し求めたのです。

特別な条件でウイルスの培養を繰り返し、そうすることでさらにウイルス株の性質が変化し、そのなかから、病原性が弱まって免疫をつける力の強い理想的な新たなウイルス株が現れる、、、かもしれない。

 

そんなウイルス株が必ず得られる確証などありません。

確率はと言うと、宝くじを当てる様なもので、成果が出るかどうかも分からない、根気のいる気の滅入る仕事です。

そうして高橋先生が見つけたウイルス株が「岡株(おかかぶ)」と呼ばれる、世界で唯一の水痘ウイルスワクチン株なのです。

 

なんで「岡株」と呼ばれるのか?

たぶん、岡さんという方の子供さんから取ったウイルス株だったのでしょう。

病原ウイルスの株の名称は、ウイルスが採られた患者さんの姓がつけられることが多いものです。

おたふくかぜのワクチンに使われた「ウラベ株」

当時、大阪の豊中市の団地に住んでいらした占部(うらべ)さんちのお子さんの耳の下の腫れ物から採られたウイルス株だそうです。

占部株を樹立された私の恩師(山西弘一大阪大学名誉教授)から直接お聞きした話ですので、間違いありません。

 

さて、実はこの高橋先生。私が阪大にいたときの研究室の教授だったのです。

つまり私は、高橋研究室の出身です。

 

高橋先生は、なんか昭和天皇みたいな感じの方で、口数が少なく、私たち研究生や大学院生なんかと屈託なく話をするでもなく、高橋先生と二人っきりなんかになると、さっぱり会話が弾まないので、先生の前でどう振舞えばいいのか?なんて戸惑っていたことなどが思い出されます。(笑)

そんなに偉い先生だと知ったのは、研究室に入って何ヶ月も経ってからだったと思います。

だって、誰も高橋先生の業績の話なんて、してくんなかったんだものなー。

 

現在では、多くのワクチンが世界中に普及し、昔に比べると感染症の脅威が格段に減りました。

特に高橋先生の水痘ワクチンは、その効果と安全性の点から高い評価を受け、世界中で使われています。

このことを記念して2006年、日本ワクチン学会は「高橋賞」を設立し、毎年、感染症予防の分野で優れた業績をあげた人たちに授与されています。

 

5.水ぼうそうには二度とかからないのに、どうして帯状疱疹になるのか?

 

水ぼうそうにかかると、水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫ができて、普通は二度と水ぼうそうにはかかりません。(二度かかることもあります)

二度とはかからないと言っても、免疫によってウイルスを完全に撃退したわけではなく、水痘帯状疱疹ウイルスは一生に渡って、私たちの体の中に潜んでいるのです。

 

子供のとき、はじめて水痘帯状疱疹ウイルスに感染すると、全身でウイルスが増えて、そのせいで体中に水ぶくれができます。

この水ぶくれの中はウイルスでいっぱいです。

やがて、症状が治まるとウイルスも消えていきますが、一部は神経節を隠れ蓑にして潜伏感染するのです。

私たちが元気で、免疫力が強い間はそこ(神経節)で大人しくしています。

しかし、ストレスや病気や加齢で免疫力が落ちると、知覚神経の走りに沿ってウイルスが増殖し始めます。(強い日光に当たるのも要注意!)

なので、神経に沿うように皮膚が帯状に腫れ上がり、直接、知覚神経を刺激するので、ひどく痛むのです。

 

6.帯状疱疹の予防に水痘ワクチン

 

まずは、子供のときに水痘ワクチンを打つべきでしょう。

水ぼうそうをほぼ100%防いでくれ、当然、帯状疱疹になることも、まずありません。

 

中年以降の大人も、帯状疱疹を予防するために水痘ワクチンを打つとよいでしょう。

たとえ、子供のときに水ぼうそうにかかったことがあって、免疫ができているとしてもです。

否、水ぼうそうにかかったことがあるからこそ、帯状疱疹になる可能性があります。

2016年3月、厚生労働省帯状疱疹の予防を目的に、50歳以上の成人に水痘ワクチンを打つよう勧告を出しています。

 

帯状疱疹予防で打つワクチンは、水痘予防を目的に子供に打つワクチンと、まったく同じものです。

子供の水痘予防では普通、二度ワクチンを打ちますが、大人の帯状疱疹予防では一度で十分です。

一度ウイルスに感染しているのですから、元々免疫ができており、加齢と共に落ちてきた免疫を再度増強してやるのが大人の水痘ワクチン接種の目的です。

元からある免疫を増強するのが目的なら、一度の接種で十分なのです。

これで高い確率で帯状疱疹を予防できますし、もし、かかったとしても軽症で済みます。

 

普通、帯状疱疹にかかると、二度かかることは稀です。

これは、免疫が落ちたところでウイルスが暴れ出し(再活性化)、帯状疱疹を発症するわけですが、これによって水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫が再度増強されるからです。

稀に二度かかる人もいますが、たいていの場合、二度目は一度目より軽症で済むことが多いようです。

でも、できれば一度だってかかりたくありませんよね。だって、超イタイそうですからね!

それに、一部の患者さんでは帯状疱疹が治まっても、知覚神経がひどくダメージを受けたせいで、神経痛の重い後遺症に苦しむことになる人もいます。

 

是非、ワクチン接種を考えてみてください。

 

7.帯状疱疹にかかっても薬がある

 

帯状疱疹には比較的良く効く薬があります。

代表的なのが「アシクロビル」という薬で、静脈注射や飲み薬や塗り薬があります。

これは、水痘帯状疱疹ウイルスが増えるのになくてはならない遺伝子(チミジンキナーゼ遺伝子)の働きをジャマします。

一方、私たち人間が生きていくのに、この遺伝子は必要ありません。

なので、薬でこのウイルスの遺伝子をシャットアウトしても人間には影響がなく、ウイルスの増殖だけを阻止することができる優れモノなのです。

こういうタイプの抗ウイルス薬の仕組みについては、過去ブログでお話しています。

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

ただ、どんな薬でもそうですが、万人に効くものではありません。

なかには効きにくい人、あるいは効きにくいタイプのウイルス株もいますので、やはり予防に努めるのに越したことはないですね。

 

どんな人でも潜伏感染しているヘルペスウイルス。

そして、ヘルペスは宿主である貴方の免疫力が落ちるときがチャンスと、虎視眈々と狙っており、そのときが訪れるまで、何十年も我慢強く息を潜めているのです。

 

ですから、ヘルペス日和見感染予防に限りませんが、健康維持のために何よりも重要なのが日頃からの免疫力の維持です。

過去ブログも参考に、日頃から免疫力の維持向上に努めてくださいね。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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