Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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086【凶悪犯罪者は病気なのか!?】明らかにされつつある「犯罪遺伝子」の存在!

目次:

1.バイオレンス系のビデオゲームが、青少年の凶悪犯罪を誘発するひとつの原因となっているのか?

2.凶悪犯罪は心の病気か?

3.神経伝達物質のシュレッダー

4.シュレッダーは「戦士の遺伝子」

5.「戦士の遺伝子」は「犯罪遺伝子」なのか!?

ちょっと寄り道:ダーティ・ハリーは遺伝子変異を持つ暴力嗜好癖者か??

6.なぜ男に暴力嗜好癖が多いのか?

7.人を犯罪に走らせる遺伝子以外の要因

8.MAOA遺伝子異常! 遺伝子の病気による犯罪として減刑される国アメリ

9.凶悪犯罪は「心の病気」で片付けられないのだよ、トランプ君!

 

アメリカでは、毎年のように無差別な銃乱射事件でたくさんの人が死ぬ事件が起きていますね。

特に、学校が犯行現場になることが多く、子供たちが犠牲になっていることは痛ましい限りです。

 

最近では、2018年2月14日のバレンタインデーの日(現地時間)に、フロリダ州パークランドの高校で17人の生徒と学校関係者が亡くなり、負傷して病院搬送された人は40人に上りました。

拘束された容疑者は、素行不良が原因で同校を退学処分になった19歳の少年。

この少年は、以前から暴力や銃器に対する嗜好性があったといいます。

 

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1.バイオレンス系のビデオゲームが、青少年の凶悪犯罪を誘発するひとつの原因となっているのか?

 

米国では、近年多くの10代の青少年(特に男子)がコンバット系やシューティング系などのビデオゲームに熱中し、その悪影響を指摘する人が多くいます。

ただ、これらのゲームと暴力への嗜好性、そして犯罪誘発との因果関係については、明確な研究結果はないようです。

例えばですが、凶悪事件を起こした若者の90%がバイオレンス系のゲームを日常的にやっていたとします。

このことから、このゲームの影響で、若者達が凶悪事件を起こしたと結論付けられるでしょうか?

Yes? それともNo?

 

でも同時に、これらの犯罪を犯した若者の90%がスーパーマリオブラザーズも好んでやっていたとしたらどうです?

誰も「スーパーマリオが凶悪犯罪の原因だ」とは思わないでしょう?

このように、ゲームを嗜好することと、犯罪誘発の因果関係を証明することは容易ではありません。

 

例えば、以前観たテレビ番組で、街行く人たちに次のような質問をしていました。

「日本の凶悪犯罪者の実に97%が毎日食べている食材がある! このような食材は厳しく禁止すべきではないか? 貴方はどう思うか?」

この質問に対し、かなり多くの人が「禁止すべき」と答えていましたね。

97%もの犯罪者が食べているんだから、犯罪を引き起こす原因になっているに違いないと。

いや、そんなことはありません。

なぜなら、その食材とは「白米」だからです(笑)

 

2.凶悪犯罪は心の病気か?

 

このように、銃器による凶悪犯罪が後を絶たない米国においては、銃規制の必要性を訴える国民や、一部の議員の間でも声が高まっています。

しかしながら、パークランドの事件の直後、トランプ大統領は銃規制の問題には一切触れず、「(このような悲劇を繰り返さないために)我々は精神疾患という難しい問題に取り組まなければならない」とコメントしたのです。

事件の原因は「心の病気の問題」であり、「そこに銃があるからではない」という意図と受け止められ、多くの米国民からの批判を浴びました。

(相変わらず、そんな批判はへっちゃらですけどね。あの人は)

 

それはともかく、私は本ブログで政治の話をするつもりはありませんので、いみじくもトランプさんが言及したように、凶悪犯罪者は本当に精神疾患なのか?

近年の研究で分かってきた、犯罪と遺伝子の関係性について書きたいと思います。

 

3.神経伝達物質のシュレッダー

 

モノアミン酸化酵素(MAOA)神経伝達物質を酸化することで、神経伝達物質の機能を無効にする酵素です。

資料を読んだ後、不要になったものをシュレッダーにかけて処理するように、MAOAは過剰な神経伝達物質、特にノルアドレナリンセロトニンを失活させ、そのバランス調節を行っているのです。

 

ある種の精神疾患患者では、ノルアドレナリンセロトニンが少なく、これがうつ病や不安障害などの原因のひとつになっていると考えられており、うつや不安障害では、ノルアドレナリンセロトニンを増やしたり効き目を増強したりする薬が使われます。

ということは、逆にノルアドレナリンセロトニンが過剰になると、うつや不安障害とは逆の症状がでるのではないか?

つまり、過剰に積極的な性癖、もっと言うと、攻撃的な性格になるのではないか?

実は、その仮説は正しいようなのです。

 

近年のゲノム研究で、MAOA遺伝子に変異があり、MAOAが十分に働かず、神経伝達物質をうまくシュレッダーできない人たちがかなりいることが分かってきました。

 

4.シュレッダーは「戦士の遺伝子」

 

2004年ころ、かの世界最高峰の科学雑誌のひとつ「サイエンス」誌の記事で、この神経伝達物質をシュレッダーする遺伝子のことが紹介されました。

そして、「サイエンス」誌の記事がこの遺伝子に与えた異名が「戦士の遺伝子」だったのです。

 

2007年、ニュージーランドで小規模な遺伝子の調査が行われました。

ニュージーランド土着のポリネシア人であるマオイ族に、このMAOA遺伝子の変異を持つ人が多いというのです。

古来より、マオイ族の男達は勇猛な戦士として知られていました。

ラグビーニュージーランド代表チーム「オールブラックス」が、試合前に独特のダンスを踊ることをご存知の方も多いでしょう。

あれは「ハカ」といって、マオイ族が他部族との戦闘に臨む前に必勝を祈願して踊った伝統舞踊です。

 

 

オールブラックスのハカ

 

MAOA遺伝子の変異による神経伝達物質量の違いが、マオイ族の勇猛な性格と関係があると言う訳です。

しかし、専門家の中には、対象者の少ない小規模な調査で、マオイ族の戦士としての資質や性格とMAOA遺伝子変異との間に明確な関連性があるとは結論付けられないと指摘する人もいます。

 

5.「戦士の遺伝子」は「犯罪遺伝子」なのか!?

 

暴力や銃器への嗜好性を示す人は確かに少なからずいるようです。

特に男性に圧倒的に多いですよね。

 

人の性格や嗜好性というのは、現在では様々な神経伝達物質や、それらの量を制御する様々な遺伝子の働きの影響を受けることが分かってきました。

喜びや悲しみ、怒りといった感情も、様々な物質や遺伝子の働きによるものです。

ただし、外部環境、例えば幼少期の経験や生活環境なども人格形成に大いに影響を及ぼすので、一概に体内物質や遺伝子の働きだけで、人の性癖や性格を説明できるものではありません。

この外部環境要因の影響については、別々に育てられた一卵性双生児(遺伝要因は同じ)の研究結果がかなりあり、遺伝子の型だけで性格形成を十分には説明出来ないことが示されています。

 

上記のマオイ族についても、MAOA遺伝子の変異だけで結論付けることはできないはずです。

結論を得るには、もっと大規模な調査が必要です。

 

近年のゲノムの網羅的解析技術の目覚しい進歩と低コスト化によって、より多くの人を対象にして、様々な病気と遺伝子の機能との関係を調べることも可能になってきました。

 

2014年、スウェーデンカロリンスカ研究所のチームが、フィンランド800人もの暴力犯罪者(受刑者)の網羅的なゲノム解析を行いました。

その結果、暴力犯罪者に目立って多い遺伝子の変異として、件(くだん)のMAOA遺伝子に加えて、CDH13という遺伝子が浮かび上がってきました。

CDH13遺伝子は、脳の扁桃体の形成に関与しており、扁桃体の不全は、恐怖、攻撃性、アルコール依存と強く関連しており、これらは暴力犯罪を引き起こす要因になり得るというのです。

 

ちょっと寄り道:ダーティ・ハリーは遺伝子変異を持つ暴力嗜好癖者か??

 

中学生のころからの私の憧れのヒーローだったクリント・イーストウッド演じる「ダーティ・ハリー」

全部で5作が作られましたが、私が好きなのは3と4ですね。

 

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 「先に撃てよ。おれも気が楽になる」やて?? いや、この翻訳は違うやろっ!

原文は、あのあまりにも有名な名セリフ「Go ahead, make my day!」

正しい訳は、「撃ってみろや。いてこましたるわいっ!」

(なぜか大阪弁)笑

 

続編を重ねるごとにハリーのバイオレンスはエスカレート!

3や4で、マグナム44(こんなデカイ拳銃持つなんて、完全に犯罪者の生命を軽視しているよな)で悪党どもを躊躇なく撃ち殺す様は、警察官というより、もはや異常者以外の何ものでもない!!

ハリーは絶対にMAOAとCDH13遺伝子の変異保因者だな! 断言するぜ!

(ひさびさ、「今回の断言」!)

 

でも、3と4がやっぱりスカッとして好きなのです。

特に4のクライマックスで、マグナム44をオートマチックに持ち換えて、逆光のなかシルエットで悪党どもの前に現れるハリーのカッコよさにはしびれるぜ!

 

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やっぱり男って、多かれ少なかれ、バイオレンスを嗜好する遺伝子を持っているのでしょうね。

でなけりゃ、北斗の拳なんかがあんなにウケるはずないからね。

 

6.なぜ男に暴力嗜好癖が多いのか?

 

やっぱり、男の子はバイオレンス物が好きですよね。

それは、先のMAOA遺伝子変異で説明できるのかもしれません。

 

MAOA遺伝子は性染色体のX染色体に存在します。

X染色体の遺伝子変異は、「劣性伴性遺伝」するのです。

 

劣勢伴性遺伝については過去ブログ【054】で詳しく説明していますが、もう一度簡単に説明します。

takyamamoto.hatenablog.com

 

男の性染色体の組合せは「XY」です。

X染色体のMAOA遺伝子に変異があって働かないとなると、神経伝達物質のバランスが保てなくなり、攻撃的な性格になるという説明でしたね。

女性はというと、性染色体の組合せは「XX」です。

仮に片方のX染色体のMAOA遺伝子に変異があったとしても、もう片方のX染色体のMAOA遺伝子が正常に働いていれば、神経伝達物質のバランスは保たれるのです。

もちろん、女性でも、両方のX染色体のMAOA遺伝子に変異があれば、やはり攻撃的な性格になるのかもしれませんが、そのような人は稀でしょう。

でも確かに、稀ではありますが、女性でも凶暴・凶悪な犯罪者はいますからね(笑)

 

概して、アルコールに溺れ、毎日のようにDVを繰り返し、器物を破壊するような男性は多くいますよね。

このような人は、MAOA変異を持っている可能性が高いと言えます。

実際、ある国で、暴力志向性の強い男性が多い家系があって、この家系の人たちに対してMAOA遺伝子変異の保有率が調べられたことから、MAOAがX染色体に連鎖した遺伝様式をとることと、暴力嗜好性との関連が強く示唆される結果が導き出されたそうです。

 

7.人を犯罪に走らせる遺伝子以外の要因

 

繰り返しますが、人の暴力嗜好や犯罪に走るリスクは遺伝子の型だけでは説明できません。

MAOAとCDH13の変異を持つ人は、実に5人に1人に上るという調査結果もあります。

つまり、MAOAとCDH13の変異は、非常にありふれたものだと言えるのです。

 

犯罪遺伝子を持っているからといって、全ての人が犯罪を犯すわけではないし、むしろ、犯罪を犯さないのが普通です。

ただ、一般の人に比べると、凶悪犯罪者のグループではMAOAとCDH13の変異を持つ人は顕著に多く、犯罪の誘発要因のひとつになっている確率が高いと言えるだけです。

 

加えて、MAOAとCDH13の変異を持つ犯罪者のプロフィールを調べた調査から、幼少期に親などから暴力的あるいは性的な虐待を受けた人が実に多いことが分かりました。

何十人と殺した殺人者も、MAOAとCDH13の変異を持っていたとしても、もし幼少期に受けた心の傷がなかったら、凶悪な犯行には及ばなかったのかもしれないのです。

 

そして、特にアメリカでは、生活環境の中で身近に銃があります。

子供でさえ親の銃を手にし、暴発事故で誰かが死ぬなんて、日本人には馬鹿げたとしか思えない事件がアメリカでは起きたりもしますよね。

「戦士の遺伝子」だか「犯罪遺伝子」だか知りませんが、そんな遺伝子を持っている人でさえ、銃さえ手にできなかったら、犯行に及ばなかったはずと考える専門家も多くいるのです。

 

なんか、「確率が高い」とか、「かもしれない」だとか、「はず」だとか、実に歯切れの悪い表現が多くなってしまいましたが、しかし、遺伝学は確率の科学なのです。

100%確実などとは、誰も断言できない学問なのですね。

だからこそ、科学的な検証結果はあくまでも「確率論」と受け止めていただいて、その上で、犯罪だとか、法規制だとか、被害者補償だとかの問題は、国民自ら声を上げて頂かないといけないのですね。

 

 

実に皮肉なことですが、一般人による銃乱射事件などが頻発するのは、世界中でもアメリカをおいてはありません

だったら、その原因は何なのか?

是非とも、確率論に基づく科学的な検証をしていただき、その方々には、ずば抜けて頭のいい(はずの)国を動かしている方々にも分かるように説明していただき、ご理解頂きたいものです。

 

8.MAOA遺伝子異常! 遺伝子の病気による犯罪として減刑される国アメリ

 

米国では近年、凶悪犯罪を犯した人のゲノム解析が盛んに行われているとのことです。

そして、その解析結果が裁判で証拠として提出され、量刑に影響を及ぼす例も実際にあるということなのです。

 

MAOA遺伝子やCDH13遺伝子の変異を持つ犯罪者の犯行の多くが計画性に乏しく、衝動的なものだといいます。

米国では、被告人の遺伝子変異の存在が法廷で証拠として提出され、弁護側は「原因が明確な遺伝子の病気なんだから、減刑されるべきだ」と主張し、それに理解を示す陪審員もいたり、本来なら第1級殺人とされるべき凶悪なケースでも、第2級殺人として減刑された判例もあるといいます。

さらに上述したように、幼少のころに親から虐待を受けたなどのトラウマを負っている場合、さらに情状酌量されることもあるようです。

 

しかしですね、しかしですよ。

人間は多様性の生き物なのですよ!

人間に限らず、生物の多様性は、それぞれの生物種が繁栄するために求めてきた結果なのです。

だから私は、遺伝子に関して「異常」という言葉を極力使わないようにしてきたのです。

だって、遺伝子に関して、何が異常で、何が正常だと、だれが明言できるのでしょうか?

それが、凶悪犯罪を引き起こす遺伝子だったとしても、それは、数十億年の生命の進化の過程で、必然か非必然かは分かりませんが、誰の過失でも落ち度でもなく、今日まで受け継がれて、存在し続けている遺伝子なのですから。

 

異常な遺伝子による犯行だから、減刑して然るべき?

異常か正常か?

量刑を計るに当たって、誰がどこで線引きできるというのでしょうか?

 

9.凶悪犯罪は「心の病気」で片付けられないのだよ、トランプ君!

 

日本では、一般人が銃を入手するなんて、まず無理です。

その代わり、遺伝的に犯罪者の素因を持っている人は、繁華街の人の群れに車で突っ込んだり、行きずりの人を次々と刺したり、という犯行に至ったのでしょうか?

もし、日本でも銃が簡単に手に入るようなら、米国と同じように、銃乱射による無差別殺人事件が頻発するのでしょうか?

それは、私なんかには分かりようもありません。

 

国ごとの銃規制等の社会状況と凶悪犯罪の発生率、そして遺伝子変異との因果関係。

これを明確にするような研究なんて、とても難しいのでしょうね。

でも、それが可能になれば、神経伝達物質の調整を行う治療薬による攻撃性の抑制、つまり薬物による予防と治療が可能になったりするかもしれません。

でも、それよりもまずは、容易に銃を入手できないようにする銃規制の議論が進んで欲しいですね。

 

核心である銃規制の問題に触れずに、凶悪犯罪を「心の病気」と言い切った某国の大統領。

犯罪を誘発する外部要因が明らかに存在し、それを多くの科学者、専門化が科学的根拠に基づいて指摘されつつある現状に至っては、もはや、その要因(簡単に銃器を手にできる社会)を取り除かなければ、凶悪犯罪は減らないのだよ、ドナルドくん!

 

今回は私の主義(ネットで政治と宗教の話はしない)に反して、政治的な論点でオチをつけてしまいました。

 

 

ぞうぞ、是非ともご批判・お叱りのコメントをお願い致します。

大変励みになります。

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。