Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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084【臨床検査について考えてみよう(その2)】次世代のがん検診「リキッド・バイオプシー」

目次:

1.「スクリーニング検査」の具体例

2.どうして、病気の人を正しく「病気」と判定し、異常のない人を正しく「異常なし」と判定できないの?

3.「感度」と「特異度」

4.便潜血検査に代わる大腸がんのスクリーニング検査は現れるのか?

5.「リキッド・バイオプシー」でがんを見つける!

6.「100ドルゲノムシーケンス」と「AI」によるがん検診の実現

 

前回の続き、「臨床検査」の2回目です。

 

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1. 「スクリーニング検査」の具体例

 

疑わしきグレーなヤツらを片っ端から逮捕する「スクリーニング検査」

 

腫瘍マーカー」というのがあります。

正常な細胞では作られないタンパク質が、細胞ががん化することで異常にたくさん作られて、一部は血液中に入るので、血中の濃度を測定することで検査できます。

多くの腫瘍マーカーが、がんの進行に伴って上昇するので、がんの進行の程度や治療効果を知るのに測定されるほか、検診でがんの疑いのある人を見つけるために測定されます。

 

例えば、PSAという腫瘍マーカー

前立腺がんで血中濃度が上昇する、非常によい腫瘍マーカーです。

健常な人では、だいたい2ng/ml以下で、基準値は4ng/ml未満です。

ですので、4ng/ml以上だと、前立腺がんの疑いありとして逮捕されるのです。

でもですね、下の表を見ていただければ分かるとおり、4ng/ml以上の人を精密検査しても、やはり前立腺がんではなかった、という人も結構いるのですね。

 

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4~10ng/ml未満はグレーな人たち。この人たちのうち、前立腺がんが見つかる確立は25~30%。

つまり、70~75%の人が前立腺がんでもないのに、無実の罪を疑われて、精密検査を受ける羽目になるって訳です。

 

PSAが10ng/ml以上の人は「陽性」です。

それでも、前立腺がんが見つかる確率は50~80%ですね。

 

どうしてこういうことになるのかって言うと、PSAは前立腺がん以外にも、前立腺肥大症や前立腺炎でも上がることがあるのです。

体の外から何らかの刺激やストレスを受けても上がります。

運動しても射精しても上がることがあるそう。

 

前立腺がんでない、そういう人たちも嫌疑をかけられて、逮捕されるのです。

疑わしきは捕まえて、詳しく詮議する。

これが検診(健診)におけるスクリーニング検査の基本理念といってもいいでしょう。

 

2.どうして、病気の人を正しく「病気」と判定し、異常のない人を正しく「異常なし」と判定できないの?

 

最近は、あまり車に搭載している人を見ませんね。

オービス(自動速度違反取締装置)の電波を検出する装置。

 

あれって、ホント役に立たないですよね。

電波の検出感度を調節するダイアルがあるのですが、感度を上げすぎると敏感になりすぎて、いろんな電波に反応するのか、始終ピーピー鳴りっぱなし。

うるさいし、だいたいどれがオービスの電波なのか分からないので、感度を落とすと、今度はオービスの間近まで近づいたところでいきなり鳴り出す始末。

ビックリして、慌ててブレーキ踏もうとしたその刹那に「バチッ」! 時すでに遅し!(トホホ)

(夜撮られた人の話によると、本当に「バチッ」と音が聞こえそうなくらいに、目もくらむような発光をするそうですね)

 

感度が高すぎても、低すぎても、具合が良くない。

これと同じことが検診(健診)のスクリーニング検査でも言えるのです。

一人でも多く疑わしい人を捕まえようと、感度を上げる(基準値を下げる)と、異常のない多くの人まで捕まえてしまって、確定診断のための精密検査が大変です。

かといって、感度を下げる(基準値を上げる)と、今度は、病気の人を見落とす確率が高まります。これではスクリーニング検査の意味がありません。

 

3.「感度」と「特異度」

 

病気の人を正しく「病気」と判定する確率「感度」と言います。

一方、異常のない人を正しく「異常なし」と判定する確率「特異度」といいます。

感度、特異度とも100%の検査法が理想ですが、検診や健診で簡易に使える検査法で、そのようなものはなかなかないのが現実で、だからどうしても、疑わしい人を多く拾い上げ、後から精密検査で確定診断をするという手順になるのです。

 

例えば、大腸がん検診で実施される「便潜血検査」。

これは、がんによる出血と痔による出血を全く識別できません。

単に、便に血が混じっていれば「陽性」ですから。。。

私も一昨年、予想通り便潜血陽性となり、大腸内視鏡検査を受けましたよ。

結果は「キレイな大腸してますね」

(苦しかったな~ もうゴメンだよ)

 

便潜血検査の感度と特異度がどのくらいなのか調べてみましたけど、よく分かりませんでした。

随分前、ある大腸専門の外科の先生が、便潜血陽性の人で大腸がんが見つかるのは5割にも満たない、とかおっしゃっていたように記憶しています。

 

検診(健診)で引っかかって、精密検査しても大半が異常なし。

こんなの「大いなる無駄」、それこそ「医療費の無駄使い」じゃないのか?

でも、大腸がん検診では、便潜血検査以外に費用が安く、簡単に検査できる方法がないのですから、使い続けるしかありません。

大腸がんを一人見落とすと、その後にかかる医療費は膨大になり、手遅れで発見されれば、その人と周囲の人に悲劇が訪れるのですから。

 

4.便潜血検査に代わる大腸がんのスクリーニング検査は現れるのか?

 

出血なんて、がんに特異的でも何でもありませんよね。

大腸がんに特異的な腫瘍マーカーで、安く簡単、確実に検査できる方法が切望されてきました。

 

90年代に入って、遺伝子増幅技術PCR法の発展によって、遺伝子レベルでの高感度な検査が可能になりました。

 

takyamamoto.hatenablog.com

PCR法については、上の過去ブログご参照

 

そこで考えられたのが、便中から大腸がん細胞由来の異常なDNAやRNAを検出するという方法です。

がん細胞の変異したDNAや、正常な細胞が発現しないRNAを検出するのです。

 

でもですね。これが想像以上にものすごっく難しくって、20年以上経った現在でも実用化には至っていません。

なぜなら、便というのは大半が腸内細菌や大腸から脱落した死んだ自身の細胞です。

もう、ウンコはというと、細菌や自身の細胞のDNAやRNAでまみれているのです。

その中から、ごく微量のがん細胞由来の異常なDNAやRNAを正しく見つけ出すというのは、これはもう想像以上に修羅の道だったのです。

 

5.「リキッド・バイオプシー」でがんを見つける!

 

検診や、その後の精密検査でがんだと確定診断されたとします。

その次にお医者様がしなければならないのは、どの程度進行したがんなのか? どのような性質のがんなのか? 適した治療法は何か? ということを判断しなければなりません。

でも、そのためには「検体検査」とか「画像診断」では往々にして不十分なことがあります。

では、そのために何をしなければならないか?

それは、直接がん組織を採取して、がん細胞の性質を調べるのです。

「生検」とか「バイオプシー」とか呼ばれますね。

 

でも、このバイオプシー。場合によっては簡単ではないし、患者の心身にとっても大きな負担を負わせます。

例えば、肝臓がんなら肋骨の間から針を刺したり、前立腺がんなら直腸の中からやはり針を刺したり。。。

考えただけでゾッとします。

 

近年、遺伝子検査技術の進歩とともに期待されているのが「リキッド・バイオプシー」

「リキッド」は「液体」、「バイオプシー」は「生検」。

これまでの「生検」とは、個体である臓器組織を採取することでした。

でも、「リキッド・バイオプシー」とは、まさに「液体」。

それは、固体の臓器組織ではなく、液体である「血液」のことを意味しています。

 

先述したように、がん細胞が産生する異常なタンパク質が血中に入るので、血液を採取して、それを測定してがんの診断に応用するのが「腫瘍マーカー」。

実は、タンパク質だけでなく、がん細胞そのものや、がん細胞由来のDNAも血液中に入り、体中を循環していることが、もう随分と前から知られていました。

それぞれ「血中循環腫瘍細胞」「血中循環腫瘍DNA」と呼ばれます。

だとすれば、体に針を刺したりしなくっても、採血するだけで、がん細胞やがん細胞由来のDNAの検査ができるのではないか?

これが「リキッド・バイオプシー」の考え方です。

 

6.「100ドルゲノムシーケンス」と「AI」によるがん検診の実現

 

生検、内視鏡

こういった患者の心身に負担を強いる「侵襲度」の大きい検査ではなく、採血程度で済むような、より低侵襲な検査によって、より情報量の多い検査が可能になるかもしれません。

 

ただ、リキッド・バイオプシーの最大の問題は、がんに関連した異常なDNAを検出すると言っても、がんに関連したDNAの異常と言ったら、それはもう、星の数ほどもあるのかと言うくらい、多種多様なのです。

リキッド・バイオプシーによるがんの検診なり、確定診断なりを実現するためには、これまでに見出された、がん関連の遺伝子異常のパターンを漏れなく検出できる技術が求められます。

がん関連の遺伝子異常のパターンってどのくらいあるのか?

それはもう、何百万、何千万通りの膨大な数に上るでしょう。

そんなことが検診レベルで可能なのか?

 

近年、人一人のゲノム解析を、わずか1万円程度で出来るようにするという、いわゆる「100ドルゲノムシーケンス」の実現が目指されています。

わずか100ドルでゲノムの配列が決定されたからと言って、60億塩基対もある膨大なゲノム情報をどうやって解析し、がん診断に活用するのか?

この大きな問題の解決のために、「ビッグデータ」を超短時間で解析する「AI」の活用に期待がかかっています。

 

そして、AIでは、ビッグデータを扱う能力だけでなく、医者によって見立てが異なると言ったことが無くなることが期待されます。

医療用AIには、過去のあらゆる医学論文が登録されます。

AIは、短時間でこれら膨大な情報を閲覧し、検査結果と照合して正しい診断、正しい治療方針を下すことが可能になると期待されます。

過去全ての論文を読んで憶えている医者なんているわけないですからね。

とてもAIにはかないません。

 

あと何年かかるのか? 私には分かりませんが、実用化に向けた研究が世界中で進められています。

 

そうすると、いずれ医者も弁護士も判事も要らなくなるのでしょうね。

人間にしか出来ない仕事って、一体何が残るのでしょうねー。

やっぱり人の心に寄り添うような仕事?

いやいや、もしかしたら、人生相談もAIにし、AIがセラピストの仕事もしてしまうかもしれませんよ。

もしかしたら政治家だってAIが。。

 

でも、考えてみれば怖い気もします。 

それって、ウルトラセブンの「第四惑星の悪夢」みたいな悲観的な世界ですよ。

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と言っても、ご存じない方も多いと思うので、「第四惑星の悪夢」については、以下をご参照下さい。

50年も前に人類の行き着く先を予言した、子ども向け番組の枠におさまらない、近未来SFの傑作として名高いエピソードです。

 第四惑星の悪夢 (だいよんわくせいのあくむ)とは【ピクシブ百科事典】

 

まあ、こんな風にはならないことを祈るのみです。

(最後で、ちょっと脇道にそれちゃいました)

 

 

今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。

 

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