目次:
1.腸内細菌叢とお肌の密接な関係
2.肌にも細菌叢がある
3.皮膚免疫の主役 ~ランゲルハンス細胞~
4.皮膚組織で無害な物質に免疫系が反応したのが「アレルギー性皮膚炎」
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1.腸内細菌叢とお肌の密接な関係
女性にとって、皮膚のトラブルや老化の防止は一大関心事です。
「便秘がお肌に悪い」という話はよく聞きますが、本当なのか? 悪いとして、便秘がなぜ肌に悪いのでしょうか?
まず、「皮膚 & 腸内細菌」でググってみて下さい。
沢山ヒットしますよねぇ。
多いのはアトピーですが、一般的な肌荒れや皮膚の老化に関する情報も結構ありますね。
要するに、これまで本ブログで繰り返し申し上げている通り、腸内細菌叢の乱れは、免疫系に不調を来たし、慢性炎症を引き起こすのです。
もちろん皮膚の炎症の原因にもなります。
ですから、便秘もそうですし、下痢症も肌にいい訳がありません。
乱れた腸内細菌が炎症を引き起こす主な原因は、好ましくない細菌が増えて、こいつらが作り出している毒素が血管内に入り込み、ひどくなると、バリア機能の低下した血管に隙間ができ、そこから悪い菌そのものが血管内に侵入します。
腸管からリポ多糖(LPS)や菌が血管内に侵入し、慢性炎症へ!
もちろん、免疫系が悪い菌や毒素を見逃すはずがなく、免疫細胞がそれらに反応した結果が慢性炎症です。
ちなみに、悪い菌が作りだす毒素とは、主に、本ブログ【063】と【064】でお話した、トール様受容体に結合するリポ多糖(LPS)です。
063【自然免疫の概念を変えたトール様受容体の発見】トール様受容体の大切さ(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】
064【病原体をいち早く発見する外部センサー】トール様受容体の大切さ(その3) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】
リポ多糖は、マウスに(多量に)注射するとショック死してしまうほどの強力な毒素なのです。
想像してみて下さい。こんなもんが貴女の血管の中に侵入して、いいことあるはずありませんよね。
バランスの良い腸内細菌は免疫の状態を良好にし、皮膚を含め、体のあらゆる状態を整えます。
すなわち、「恒常性の維持」機能が正しく働いている訳です。
(「恒常性の維持」については過去ブログ【043】をご参照)
もし、腸に細菌が一切いなかったらどうなるのか?
母体から帝王切開で仔(こ)を取り出し、無菌環境下で飼育することで腸内細菌のいない「無菌マウス」を作ることができます。
実は、無菌マウスでは、制御性T細胞(Treg)が十分に育たないのです。
つまり、自己免疫疾患やアレルギー性疾患を引き起こしたり、増悪したりするリスクが高まります。
左は普通のマウスで、Tregは34.2%。右が無菌マウスで、Tregはわずかに9.36%しかない。
とにもかくにも、腸内環境が宜しくないと自覚している貴女。食事内容の改善(特に食物繊維の摂取)と適度な運動が大事です。
運動は自律神経に働きかけて腸のぜん動運動を活発にし、便秘改善に一役買ってくれます。
2.肌にも細菌叢がある
次に、「皮膚 & 細菌叢」でググってみて下さい。
Natureなどの学術的なウェブサイトもヒットしますね。
皮膚にも細菌叢があることがお分かり頂けると思います。
この皮膚細菌叢。腸内細菌叢と同じように免疫、特に皮膚の免疫と密接な関係があります。
腸内細菌と同じように、バランスの良い皮膚細菌叢は、お肌の健康を保つ上で、この上なく大切なのですが、度が過ぎてキレイ好きな人は、この大事な大事な皮膚細菌叢をメチャクチャにしているってことが分かっていません。
次のような人ですね。
- 必ず薬用石鹸か消毒液を使って手洗いする
- 1日に何十回も手を洗う
- 気合を入れて念入りにゴシゴシ洗う
これら全てNGです。
清潔が肌に良いと思ってやっているのでしょうけれども、全くの逆効果!!
バランスの取れた皮膚細菌叢は、お肌の健康のためにとっても大切です。
ですから、この皮膚細菌叢を根こそぎぶち壊すような洗い方は、今すぐやめましょう!!
「ドーン!! あなたの洗い方、免疫的にヤバいですよ!」
正しい手の洗い方
- 普段の手洗いは水だけで10秒で充分
- 使うなら、薬用石鹸や消毒薬ではなく、天然石鹸にする
- 石鹸で洗うのは、油汚れとか、汚れのひどい時だけ
ただし、インフルエンザウイルスやノロウイルスの感染予防、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の蔓延予防などには、薬用石鹸や消毒薬は非常に有効です。
人命のかかっているときには、個人の皮膚細菌叢がどうのとは言ってられないでしょう。
手だけでなく、頭皮も体も同じです。
「えぇ~、不潔っ」と思われるかもしれませんが、実は私、頭と体は毎日洗う訳ではありません。(さすがに夏場は毎日シャワーしますが。。。)
体を洗うのも、タオルやスポンジでゴシゴシするのではなく、手のひらで撫でるように洗います。
キレイにした方がいいと思って、1日に何回も頭や体を洗うとか、しない方がいいです。
フケ症で悩んでる人が、良かれと思って1日に何度も頭を洗ったり、親のカタキみたいに、ゴシゴシと皮脂を根こそぎ除去するような洗い方をしているとすれば、逆効果ですよ。
体の皮膚も頭皮も、良い菌まで除かないように!
そして、皮膚にも頭皮にも適度な脂分が必要です。皮膚細菌叢を保護するにも皮脂は欠かせません。
3.皮膚免疫の主役 ~ランゲルハンス細胞~
最後にお約束の免疫。皮膚の免疫の仕組みについてお話しておきましょう。
皮膚は外界と直接接しているため、自然免疫による重点的な防衛機能が働いています。
皮膚免疫で主役を張るのは、外敵を見つけては食べて、その抗原の情報をヘルパーT細胞に提示する樹状細胞です。
熱心な読者の方には、もうおなじみの樹状細胞ですが、皮膚には、特に皮膚免疫に特化した特別な樹状細胞がおり、「ランゲルハンス細胞」と呼ばれます。
(インスリンを作る、すい臓のランゲルハンス島とは全くの別物ですから、混同しないで下さいね)
普通の樹状細胞は、外敵を食べてテンパると、つまり活性化すると、たくさんの触手を伸ばしてトゲトゲな姿に変身します。
でも、皮膚の樹状細胞であるランゲルハンス細胞は、活性化する前からたくさんの触手を伸ばしており、他の樹状細胞とはちょっと違う姿をしています。
これには、皮膚防衛に当たるランゲル君ならではの訳があります。
表皮のランゲルハンス細胞(黒っぽく染まっている細胞)
皮膚は、外側の「表皮」と内側の「真皮」の2層からなります。
表皮は一番外側の「角層」から一番内側の「基底層」までを言います。(下図)
外側の角層というのは、皆さんご存知の通り、日々、垢となって剥がれ落ちていく部分ですね。
ランゲル君としては、できるだけ外側の最前線まで出張って行って、防衛に当たりたいところですが、だいたいは、下図の「有棘層」のところにいて、それでも外界の様子を探りたいので、そこから角層まで触手を伸ばして警戒に当たっているという訳です。
「仕事熱心」(^^)
表皮のランゲルハンス細胞(角層まで触手を伸ばしている)
ランゲル君は細胞表面や、突起部分にたくさんの受容体を持っており(前回の【064】でお話した「パターン認識受容体」です)、これで外敵を察知すると、最寄りのリンパ節に移動して外敵襲来をヘルパーT細胞に伝えます。
活性化したヘルパーT細胞は獲得免疫を発動し、獲得免疫の細胞たちは、皮膚の戦闘現場に駆け付けます。
当然この戦闘現場では、炎症性物質である各種サイトカインや抗体が飛び交うことになり、炎症が起こります。
4.皮膚組織で無害な物質に免疫系が反応したのが「アレルギー性皮膚炎」
外敵が襲来した皮膚現場に駆け付けた獲得免疫の細胞たち。
敵が病原菌であれば、抗体を浴びせかけて撃退しようとします。(下図の①)
通常、外敵に向けて発射する抗体は「IgG(アイジージー)」というタイプです。
外敵ではなく、無害な花粉やダニの糞に反応してしまったのがアレルギーです。
アレルギー反応では、IgGではなくIgEというタイプの抗体が作られますが、このIgEがアレルゲンに反応すると、肥満細胞から化学物質が多量に放出されて、アレルギーの辛い症状が出ます。
IgE抗体とアレルギーについての詳しくは、過去ブログ【028】をご参照下さい。
また、炎症を起こした皮膚ではバリア機能が低下し、なんと、免疫系が皮膚を通して小麦などの食物成分にまで反応し、その食物に対するIgE抗体を作ってしまいます。(上図の②)
つまり、食べなくっても、皮膚から食物に感作して(免疫が出来て)、食物アレルギーになることもあるのですね。
皮膚を健康に保つことの大切さがよく分かります。
保湿剤を塗ったりのお肌ケアも重要ではありますが、腸内環境が良くないという自覚のある方は、まず「腸活」から始めて下さい。
加えて、くれぐれもお肌を清潔にし過ぎないように。
良い菌まで殺してしまったり、皮脂を根こそぎ取り去ってしまわないように、キレイ好きもほどほどに。
手や体や頭の洗い方にも気を付けて (*^^)v
今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。
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