目次:
1.日本小児アレルギー学会のガイドラインの変遷
2.医学的根拠
3.なかなか改まらない食物アレルギーに対する誤解
4.結論
今回はめずらしく、いつになく真剣にお話します。
これからお母さんになられる方や、すでに乳児をお持ちの方に、是非知って頂きたい大切なことをお伝えします。
お子さんを食物アレルギーにしないためにはどうすればいいのか、についての最新の正しい情報です。
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1.日本小児アレルギー学会のガイドラインの変遷
食物アレルギーを防ぎたかったら食べさせろって?
何言ってんの!? そんなことしてアナフィラキシーになったら、どう責任取ってくれるわけ!?
子供の食物アレルギーに対する予防法と治療法に関する考え方は、この10年ほどで大きく様変わりしました。
日本小児アレルギー学会は、5~6年おきに「食物アレルギー診療ガイドライン」を改訂しており、その変遷を見ると、考え方がガラリと変わっているのが分かります。
ずっと以前は、子供を食物アレルギーにしたくなければ、その食材を「完全に避ける」というのが一般常識だったようです。
例えば、子供で一番多い卵アレルギーにしたくなければ、離乳食の初期から卵を徹底的に排除した食事を与える訳です。
母親の方も、授乳中はもちろん、妊娠中から卵を避ける人もいたようです(今でもいるようですね)。
2005年のガイドラインでは、まだ、「食物を除去する必要はない」という考えと、「厳しく除去すべきだ」という真っ向意見とがあったようです。
しかし、2012年の改訂版では、「正確な原因食品の診断に基づいた必要最小限の除去食」という考え方に変わりました。
つまり、何でもかんでも避ければいい、と言うのではなく、症状が出たときに、原因食材をちゃんと突き止めた上で、除去は最小限に留めましょう、と言うことです。
でも、基本の考え方は「除去」です。
そして、2016年改訂版では、さらに、「原因食品を可能な限り摂取させるにはどのようにすればよいか」に様変わりしています。
つまり、昔は「アレルギーが怖かったら、最初から一切食べさせるな」でした。
それが、「原因食物に限って、最小限の除去をしなさい」に変わって、現在では、「アレルギーの原因食物ほど食べさせなさい」なのです。
大方向転換です!
昔は根拠もなく、原因食材は避けた方が良いと盲信されていたようです。
しかし、現在の「積極的に食べさせるべき」という考え方は、近年の医学的根拠に基づいたものです。
2.医学的根拠
以前から、「食べさせるべき」と考える専門家はいましたが、医学的な根拠はそう多くありませんでした。
転換期となったのは、ごく最近のこと。2015年に発表された英国のグループの研究結果です。
生後4~10カ月の子供に、週3回、ピーナッツのタンパク質2グラム(多くね?)を食べさせたグループと、まったく食べさせなかったグループとで、その後、ピーナッツアレルギーを発症した子供の割合を調べました。
果たして、アレルギーを発症した子供は、食べさせなかったグループでは17.2%であったのに対して、食べさせたグループでは3.2%と、劇的に少なかったのです。
この論文には、多くの小児アレルギーの専門医が注目しました。
2016年、東京の国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長らは、世界的に権威の高い英国の医学雑誌Lancetにおいて、以下のような報告をしています。
生後、アトピー性皮膚炎を起こし、食物アレルギーを起こす可能性の高い生後6ヶ月までの乳児121人を2つのグループに分けました。
ひとつのグループには、加熱した卵の粉末を、もう片方のグループには、見た目にはそっくりなカボチャの粉末を毎日50mg(ごく少量です)、3ヶ月後からは250mgに増やして与えました。
カボチャは偽薬(プラセボ)という訳です。
卵かカボチャか、赤ちゃんの保護者はもちろん、医師にもどっちがどっちか知らせていません。
これは、「二重盲検法」と言って、関係者の思い込みによる判断の偏りを排除するためで、精度の高い評価ができる手法です。
その結果、1歳になった時点で卵アレルギーを発症した割合は、卵を食べなかったグループが38%、一方、食べたグループではわずかに8%でした。
3.なかなか改まらない食物アレルギーに対する誤解
子どもの食物アレルギーを恐れて、離乳食開始時から卵を食べさせなかったり、妊娠時から卵を摂らなかったりする人が、まだいるようです。
赤ちゃんが卵アレルギーになると、「私が卵を食べたからだ」と自分を責めたりするようです。
12年も前、2005年のガイドラインで既に、妊娠中から特定の食物を避けることについて「推奨しない」と書かれているのにも関わらずです。
お母さん方、安心して食べましょう。
近年では、母親のせいどころか、赤ちゃんの食物アレルギーを防ぐためには、むしろ「妊娠時から食べる方がいい」との研究結果もあるくらいです。
もちろん、まだ結論は出ていませんが、根拠のない説を盲信している人が多いことは悲しい限りです。
それから大事なことを一点。
食物アレルギーが心配で血液検査をしてもらったら、「卵にアレルギーがある」と言われて、その後一切、卵を食べさせないとか、ありがちだと思います。
気持ちは分かりますが、症状が出ていないのであれば、様子を見ながら少量を食べさせた方がいいです。
もちろん、症状が出たら、すぐに止めて、受診して下さい。
血液検査では、何の抗体が多いのかを調べるのですが、実際には、その食品を食べさせて体の反応をみる「食物経口負荷試験」の結果で、対応を検討すべきです。
「食べられるのなら、食べさせる」 これが基本です。
ところで話は変わりますが。。。
ビックリしました! 下のようなサイトがあります。
なな、なんと、広島県が運営しているサイトなのですが、子供の食物アレルギーに悩むお母さんに対して、一般の人が、子供のアレルギーを避ける方法や治療法について、自分の経験からアドバイスしているのです。
もちろん、間違いだらけ。。。
正しいのもありますが、一般の人には、どのアドバイスが正しくて、どれが正しくないかなんて分りっこないっしょ!
地方自治体が誤った医学知識を市民に広げてなんとする!!(怒!)
4.結論
子供を卵アレルギーにさせないために、免疫が弱い生後1年までは卵を食べさせず、3歳や5歳になってから食べさせ始めた、なんていう人もいるようですが・・・
断言します。逆です!(チョー久しぶりの「断言」)
卵程度なら、年齢とともに食べられるようになることも多いです。
私も子供のとき卵アレルギーでしたが、ほんの数年のことです。どうってことありません。
(もちろん、卵でも重篤なアナフィラキシーの可能性はあります)
でもピーナッツや蕎麦など、死に至る可能性の高い食べ物で、逆をするのは大変な間違いです。
とにかく、赤ちゃんの免疫系が出来上がってしまう前が勝負です。
免疫系が未熟な間に色々なものを食べさせ、前にも話しましたが、色々な菌や毒素に触れさせることで、赤ちゃんの免疫系は健全に育っていくのです。
そうすることで、過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞も育っていきます。
決して過度に清潔にしてはいけません。子供の免疫系を過保護にしてはいけません。
もう一度、過去ブログ【010】をお読み下さい。損はしませんから(笑)
お分かり頂けると思いますが、極論を言うと、3歳や5歳になってからでは遅いのです。
免疫、特に獲得免疫は「慣れ」の現象です。
小さいうちに色々な食材、様々な異物に触れることで、危険な異物とそうでないものを見分ける能力を獲得します。
卵を避けて育った子供の免疫系は卵を知りません。
そこに突然、卵がやってくると、「なんだ、これは!?」となります。
どう適切に対処していいのか分かりません。
その結果、免疫系が大騒ぎした挙句、過剰に反応した結果がアレルギーです。
そうならないように、小さいうちから色々なものに慣れさせておくことが大切です。
もちろん、私が述べたようにすれば、100%食物アレルギーにならないという保証をするものではありません。
どうしたって食物アレルギーになる子はいます。
遺伝の影響もありますし。
私が申し上げたいのは、食物アレルギーの予防と、食物アレルギーになったときにどう対処するのかについて、昔と今とでは考え方が様変わりしているということです。
そして、大事な点は、その様変わりは、いくつもの医学的根拠に基づいたものであるということです。
このことを、できるだけ多くのお母さん方に知って頂きたいです。
結論:
- 離乳食初期から色々なものをまんべんなく食べさせる
- もし、アレルギーの症状が出た場合は、疑われる食材を一時的にやめる(原因食材を特定する)
- 医師と相談しながら、少量ずつ食べさせ始める(「排除」はしない)
- 場合によっては、専門医のもと、「経口免疫療法」を行う(アナフィラキシーには十分に注意)
う〜ん、今回は人の役に立つ、まともなことが言えたような気がするなぁ。
今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。
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