Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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056【HIVの感染からAIDS発症までのメカニズム(その2)】HIV感染症(その2)

目次:

1.前回の復習:ヘルパーT細胞へのHIVの侵入から、ウイルスRNAの逆転写、ウイルスDNAのゲノムへの組み込みまで

2.「獅子身中の虫」プロウイルス!

3.AIDSの発症に至るまで

次回予告:最新AIDS治療法「HAART(ハート)療法」

 

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1.前回の復習:ヘルパーT細胞へのHIVの侵入から、ウイルスRNAの逆転写、ウイルスDNAのゲノムへの組み込みまで

 

takyamamoto.hatenablog.com

 

 

前回の復習を致しましょう。(必要ない方は飛ばして、2.に進んで下さい)

 

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上の図は、HTLV-1という、ヒト成人T細胞白血病の原因であるレトロウイルスのイラストですが、HIVも全く違いはありませんので、このイラストで説明します。

 

HIV表面の糖タンパク質が、ヘルパーT細胞の受容体CD4と共受容体CCR5に結合して、細胞の中に取り込まれ(図の①)、ウイルスの酵素(タンパク質)とRNAが細胞内に侵入します。

すぐに、取り込まれたウイルスRNAから、ウイルス自身の逆転写酵素によって、DNAに写し取られます(図の②)。

このウイルス由来のDNAは、やはりウイルス自身の酵素インテグラーゼの働きによって、細胞ゲノムの任意の場所に組み込まれます(図の③)。ゲノムのどの場所に組み込まれるのかは、ほとんど偶然です。

ここまでが、前回のお話でした。

 

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走査電子顕微鏡写真「T細胞に感染するHIV(オレンジ色の粒々)」 

 

2.「獅子身中の虫」プロウイルス!

 

この細胞のゲノムに組み込まれ、もはや宿主のDNAと同じ存在になったウイルスDNAのことを「プロウイルス」と呼びます。

プロウイルスは、我が遺伝子と同じです。邪魔な存在ですが、取り除くことは不可能です。

プロウイルスを除去するには、プロウイルスを持つ細胞自体を免疫の力で排除するしかなく、それができないのなら、一生を共に生きていくしかありません。

獅子身中の虫」という訳です。

 

我われの細胞の遺伝子は、我われの意思とは関係なく、勝手に活動しています。

ですから、HIVのプロウイルスも勝手に活動します。

私たちには止められません。

 

プロウイルスからはHIVの遺伝子が起動し、ウイルスのタンパク質が盛んに作られます。

そして、細胞内で増殖し、細胞から芽を吹きだすようにウイルス粒子が放出されて、別の細胞に感染し、さらに拡散していきます。

 

3.AIDSの発症に至るまで

 

HIVに感染した直後には、一見、風邪のような症状が出ることが多いですが、見過ごされがちで、本人もHIV感染とは気付かないことも少なくありません。

 

感染の有無の検査は、普通「抗体検査」で行います。HIVに対する抗体があれば「陽性」、即ち感染の疑いがあり、その後、確定診断のため、さらに確度の高い検査が行われます。

この抗体ができるのに、感染後1ヶ月ほどがかかるため、その約1ヶ月間(ウインドウ・ピリオド)は、感染してても、この抗体検査に引っかからないことがあるので、注意が必要です。

ただ、最近では、抗体検査よりもずっと高感度な遺伝子増幅法「PCR法」による検査が行われることもありますので、その検査であれば、ウインドウ・ピリオドは短縮されます。

 

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HIV感染からAIDS発症までの経過

 

感染初期の急性期には、血中のウイルス量の急増と、HIV感染によるCD4陽性T細胞の減少が認められますが、やがて、ウイルス量、CD4陽性T細胞数ともに落ち着きます(上図)。

でも、無症状に見えて、ウイルスの活動は確実に進行します。

そして、感染から数年、長い人で10数年の無症候期間を経て、急激なウイルス量の増加とCD4陽性T細胞の減少が顕著になります。

 

ヘルパーT細胞の減少によって、免疫系は急激に機能を喪失し、免疫不全による様々な異常が発生します。

AIDSの症状として特徴的なのは、普段ではほとんど見られないような珍しい感染症や腫瘍を発症することです。

普段見られない日和見(ひよりみ)感染としては、ニューモシスチス・カリニ肺炎が代表的です。

珍しい腫瘍としては、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の日和見感染によるカポジ肉腫があります。

HHV-8なんて、ほとんどの人が子供のころに感染しており、一度感染すると、私たちの細胞の中で、ず~っと大人しく潜伏しており、ほとんど悪さをすることはありません。

それが、AIDSで免疫が落ちると、皮膚がんの一種であるカポジ肉腫を起こすのですね。

その他にも様々な症状を呈し、死に至ることになります。

 

次回予告:

HIVが発見された直後から、HIV感染症の治療薬の開発のための研究が世界中で始められました。

当初は、重篤な副作用が出たり、使い続けているとウイルスに耐性が出来て効かなくなるということが多く、研究者たちは苦戦を強いられました。

しかし、現在では、早期に治療を開始すると非常に予後が良く、3050年も延命できるようになっています。

AIDSを発症した後で治療を開始しても、ある程度の延命が期待できます。

この治療法は、ウイルスを根絶するのではなく、ウイルスとうまく付き合いながら、長く生きていこうという考え方に基づきます。

次回は、そんな最新のHIV感染症の治療法、「HAART(ハート)療法」についてお話します。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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