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Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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036【第5のがん療法!? 「ウイルス療法」】がん(その4)

人類がヘルペスウイルスを改良して創り出したスーパーウイルス!

その名をG47Δ(デルタ)!!

 

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以前は、がんの治療法と言えば、外科手術療法、化学療法、放射線療法が3大がん療法と言われていましたが、第4の療法として免疫療法が登場し、そして、近年はウイルス療法という新しい第5番目のがんの治療概念に期待が集まっています。

 

がんに対するウイルス療法の原理はいくつかありますが、そのうちの一つに「腫瘍溶解性ウイルス」というものがあります。

ある種のウイルスには、元から感染した細胞を次々と破壊(溶解)して、他の細胞に感染していく性質があります。

また、以前から、がん細胞はウイルス感染には弱いということが知られていました。

このウイルスとがん細胞の性質を利用して、ウイルスにがん細胞をやっつけさせようというアイデアです。

 

ただし、最大の問題は、正常な細胞まで破壊させてはいけないということであることは言うまでもありません。

では、どうすればそれを可能に出来るのか?

最新の遺伝子工学技術を駆使してウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけを破壊して、正常な細胞には影響しないようなウイルスを作り出す必要があります。

そのようなことが人類にできるのか?

 

1970年代初めに遺伝子組換えの技術が確立してから間もないころ、このような概念は早くも生まれていました。

現在ではウイルスの遺伝子を改変して、新種のウイルスを創り出すくらい造作もありません。

そう、ウイルスの遺伝子改変なんて、ハイテクでもなんでも御座いません。

(プチ自慢:私の元々の専門はウイルス学と遺伝子工学で~す。なので、私もウイルスの遺伝子改変できまぁ~す。凄くないですか~?

という訳で、遺伝子操作での改変ウイルスの作出など屁の河童です。実際に(笑)。

 

話が横道に逸れますが、小説や映画などのフィクションで、人類を絶滅させるような恐怖のウイルス兵器をマッドサイエンティストが創り出すような話、いっぱいありますよねぇ。

古くは、私が敬愛する小松左京大先生の「復活の日」。近年では「20世紀少年」とか、最近では、私もほとんど原作を読んでいるダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ(ダビンチ・コード・シリーズ)の「インフェルノ」。

あんな恐るべきウイルス兵器を、果たして本当に人間が造れるのでしょうか?

それに対する私の答えは、技術的には「Yes」です。あくまでも技術的にはYesです。

つまり、強毒性を持つ別のなんかの遺伝子を既存のウイルスに組み込むとか、感染力を高める別のなんかの遺伝子を組み込むとか、そのようなことは、技術的には本当に造作もないことなのです。

 

しかし、私は断言できます。そのような恐怖のウイルス兵器を作り出すことは、がんを治すウイルスを造ることよりも難しと!

何故なのか?

まずは、ウイルスで人類を絶滅させるにせよ、がん患者を救うにせよ、本質的な課題は同じだということがあります。

そんでもって、本当に難しいのは、創り出したものが、本当に思惑通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価するのが難しいということです。

ポイントは創ったものの評価なのです。

創っては試し、改良してはテストし。

でも、全く期待するような結果が得られない。

何故なのか理由が分からない。

来る日も来る日もその繰り返し。。。

で、やっとこさ、動物実験かなんかで好ましい結果が出たなら、最終的な評価をするためには、実際に人間に感染させなくてはなりませんよねぇ? つまり人体実験です。

動物実験で得られた結果が、ヒトでは全く再現できないということはままありますから。

しかし、「20世紀少年」でも、「インフェルノ」でも、ヒトでの大規模試験をしてませんよね?

 

私が正しい評価方法のやり方をお教えしますので、マッドサイエンティストの皆さま、耳ほってよく聞きくされ!

まず、広告を出します。

「健康に自信のある方急募! 人類を絶滅させる恐怖の殺人ウイルスの試験をします。謝礼弾みます。先着1000名様限定! 只今オペレーター増員中! 今すぐお電話を‼️」

まあ、こんなもんかな?

 

そんなんで、うまいこといくと思ってるんやったら、その能力を病気の治療法開発に使てくれっ!ていうねんっ(笑)

 

いや、長い寄り道になりました。誠に申し訳御座いません。

話を元に戻しましょう(笑)

 

そんなフィクションの話はどうでもええですわい。

がん治療用の改変ウイルスも、思惑通りに創るだけなら簡単です。

でも本当に難しいのは、作製した改変ウイルスが、意図した通りの性能を発揮するのかどうか? それを評価することです。

評価の結果、ほとんどが開発者を落胆させる結果が出るのが常です。

そうして、とめどもない試行錯誤の連続。それも先の見えない単純作業の連続。

このように人間である研究者が己の忍耐力と戦いつ続けた結果、このような先端的テクノロジーに基づいた新しい医療が世に出るのです。

ハイテクとか先端テクノロジーとか言われる華やかさの裏には、このような泥臭い人間の物語が必ずあるのです。

 

さて、様々な理論に基づく様々なタイプのがん治療用のウイルスが開発されていますが、せっかくですので今回は、日本人研究者が世界に先駆けて実用化に向けて研究を進めているがん治療用ウイルスを紹介しましょう。

 

1型の単純ヘルペスウイルス(HSV-1)は、口唇ヘルペスとして知られている、ありふれたウイルスです。

ほとんどの人に感染しており、普段は悪さをしません。

このウイルスを元にして、がん細胞で増殖し、がん細胞のみを破壊する腫瘍溶解性ウイルスの作製に米国の研究グループが成功したのは1991年のことです。

 

その後、このウイルスは東大医科学研究所の藤堂具紀(ともき)教授らのグループによって更に改良が加えられ、現在ではHSV-1の3つの遺伝子に変異を導入して作製されたG47Δ(デルタ)という第3世代の腫瘍溶解性HSVが登場しました。

これら3つの遺伝子の改変により、G47Δは分裂していない細胞ではタンパク質合成ができず、更に正常細胞でのDNA合成がブロックされるため、感染はしても増殖できません。

G47Δは正常細胞で増殖できないため、たとえがん細胞のように増殖が盛んな骨髄細胞(血液の細胞を作っています)でも、影響はないそうです。

 

更にG47Δでは、第二世代のウイルスに比べて、盛んに分裂するがん細胞でのみ増殖する能力が高められました。

益々、正常細胞への影響が減り、安全性が高まったという訳ですね。

 

更に更に(なんか今回は「更に」ばっかですね)、G47Δは、感染によってがん細胞を破壊するだけでなく、免疫細胞の抗原を提示する力を増強することでリンパ球を活性化して、その結果なんと、免疫による抗腫瘍効果を高める働きをもゲットしたのです。

つまり、このウイルス自体のがん細胞を破壊する能力にプラスして、ウイルス感染の刺激によって免疫力を高めるという「ウイルス+免疫ダブル療法」を同時にやってのけるスーパーウイルスなのです。

こいつは驚きだいッ!

 

このウイルスについては、とても分かりやすい動画があります。

藤堂先生ご自身が、ウイルスががん細胞をやっつける動画を見せながら、分かりやすく説明して下さっています。

www.ampo.jp

 

病気の治療にウイルスを利用する際に最も考慮しなければならないことは、正常細胞に対するウイルス自体の病原性を如何に抑えるかです。

G47Δは正常細胞は殺さないとは言っても、元になっているHSV-1は、元々「口唇ヘルペス」といって、病気を起こすウイルスですからね。

でも、安心して下さい! G47Δでは上述の通り、遺伝子操作により正常細胞での増殖を抑えることに、既に成功しています。

 

とは言っても、ウイルスは増殖を重ねるうちに変異する可能性があります。

万が一、変異によって正常細胞での増殖能が回復したり、その他、予測しなかった性質を獲得して、患者に悪影響を及ぼすことがないとは言い切れません。

しかし、安心して下さい! そのような状況に陥った場合でも、HSVには昔からいい薬があるのです。

チミジン・キナーゼ阻害剤という薬ですが、この薬は、ヘルペスウイルスがチミジン・キナーゼという酵素の働きがないと自分のDNAを合成できないことを利用しものです。

ヒトの細胞はチミジン・キナーゼを使いませんので、この薬でチミジン・キナーゼの働きが抑えられても人間はヘッチャラ、ウイルスには災難、という結果になるのです。

安心して下さい! G47Δにもこの薬、ちゃんと効きますよ。

 

このお薬、読者の中にはお世話になったことがある人がいらっしゃるかもしれません。

帯状疱疹(たいじょうほうしん)ご存知ですか? 私は経験ありませんが、痛いそうですね?

あれはHSV-1とは違いますが、ヘルペスウイルスの一種(実は子供のころに感染した水疱瘡のウイルス)が原因なため、この薬がよく効きます。

こんなヘルペスウイルスの特効薬が既にあったおかげで、何かまずいことがあっても、G47Δを除去することが可能なのです。

至れり尽くせりですよ~。

 

このようにG47Δは、従来の腫瘍溶解性ウイルスよりも抗腫瘍効果と安全性が高められており、治療の選択肢の少ない、より進行したがんでの有効性が期待されています。

現在、東京大学医科学研究所附属病院にて、人での効果と安全性を検証する臨床研究が行われています。

進行中の臨床試験|東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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