インフルエンザ感染のおかげで、家でゆっくりWBC感染(違うって「WBC観戦」!)しました。
印象に残ったこと? 千賀、圧巻の4者連続三振と、始球式での野茂さんの見る影もない投球(笑)
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① 20年にわたるサルでの壮大な実験
2009年、あの世界的に権威のある学術誌「サイエンス」から1本の論文が発表され、物議をかもしました。
米国の名門、ウィスコンシン大学(UW)が、1989年から20年の長期にわたり、ヒトに近い霊長類であるアカゲザルを用いて、カロリー制限による寿命への影響を観察した結果です。
用いられたのは8歳から14歳までの成獣70匹以上。
アカゲザルの平均寿命は27歳であり、8歳では十分生殖能力もあり、大人と言えます。
この70余匹を2郡に分け、1群には好きなだけ食べさせ、もう1群にはカロリー換算で30%制限して餌を与えるのです。
つまり、大人になってから30%OFFのカロリー制限を始めた場合の効果の検証です。
また、70匹以上という検体の数の多さは、統計学的に十分意味のある解析ができると考えられ、20年に渡る長期観察と検体数の多さの点で非常に注目されました。
結果は下の写真の通りです。どっちがこっちか、一目瞭然ですか?
左:27歳オス、30%カロリー制限
右:29歳オス、自由摂取
左は目力もあり、毛並みも良く、凛としています。
一方、右は、顔の表情こそ柔和に見えますが、覇気がなく、目立ったしわがあり、毛並みは悪く、胸から腹にかけて脱毛し、皮膚は垂れています。
ちなみに、アカゲザルの寿命が約27歳であることから、この2匹とも、十分に老人であるわけです。
それでもって、この見かけの差です。
この論文の結論を述べます。
「食べ過ぎは寿命を縮めるのか?」というと、答えはなんと、、、掟破りの「No」です。
20年もかけた実験の結果、節制しても寿命が延びなかったなんて、この実験に20年もかけてきた人たちの立場はどうなるのでしょう?
あっ、ちょっと待ってくださいよ。よく見ると、論文には続きがありました。
20年の間に、好きなだけ食べた群とカロリー制限群とも、様々な原因でサルが死んでいきましたが、死因に関係なく、すべてのサルの平均寿命を両群で比較すると、自由摂取群とカロリー制限群との間で有意な差はなかったということでした。
しかしながら、全体の平均寿命には明確な差はないものの、好きなだけ食べていると、様々な病気に罹るリスクが明らかに高まるということが分かりました。
上のグラフは、自由摂取群とカロリー制限群それぞれの、病気になっていないサルの割合を示したものです。
自由摂取群では、実験開始直後からグラフが右肩下がりなのが分かるでしょう。
つまり、自由摂取群では、実験を始めた直後から(まだ若いうちからということです)病気の発生が多く起こり、歳を重ねるごとにカロリー制限群との差は広がっていったのでした。
ですから、「病気になることなく、健康寿命を全うしたいなら、大人になってからでもカロリー制限した方がいいですよ」というのが、この論文の言わんとするところですね。
この結論に達したところで、20年にわたる壮大な実験結果のオチが付きました。
めでたし、めでたし(ふぅ)。
② UW実験の結果を否定する新たな論文
ところが3年後の2012年。
この目出たい雰囲気にケチをつけるかのように、「サイエンス」と並び称される、かの「ネイチャー」から、米国の国立老化研究所(NIA)が、同じアカゲザルを用いた20年以上に渡る観察結果を報告しました。
しかも、「カロリー制限は寿命にも病気の発症リスクにも影響しない(こなクソッ!)」との、UWの報告を完全否定するかのような、ケンカを売るかのような論文であり、多くの研究者やマスコミまでも巻き込んで、大きな論争になりました。
最初は、お互いに「お前んとこの実験はズサンだ。俺っちの方が正しい」のような非難の応酬をしていましたが、そこは真理を追求する学術の徒同志。お互いのデータと実験内容を突き合わせ、実験条件の違いなどによる影響を詳しく検証していったのです。
③ 両研究機関が協力してデータを再検討 最終結論へ
その結果、両者で実験のデザインに様々な違いがあったことが明らかになりました。
その中でも大きいのは、餌の質と内容です。
UWの餌は、かなり栄養価的にもバランス的にも良くないものでした。
一方、NIAの餌は、栄養成分も自然材料由来の豊富なもので、バランスも良いものでした。
また、両者の餌で最も大きく違ったのが、糖質の含有量です。
UWの餌には29%もの糖質が含まれていたのに対して、NIAのそれは、たったの4%です。
つまり、UWの実験では、通常では考えられないような過剰量の糖質を与えておいた上で、一方の群に制限を加えたので、その差が結果に反映されやすかったと言えます。
まるで、「栄養学的に劣悪なアメリカン・ジャンク・フード(アメリカン・ジャンクがお好きな方には、何卒ご容赦を)を長年食べ続けたら、あなたはこうなりますよ」をサルで再現実験したようなものでしょうか?
そして、「アメリカン・ジャンク・フードでも、量を節制して食べれば、病気のリスクは(少しは)減りますよ」とのメッセージを、この実験結果は発信してくれているのです。
一方、NIAの餌は、もとよりバランスがよく、糖質も少ない良質の餌なので、たとえ好きなだけ食べさせたとしても、決して過食状態ではなかったようです。
元からいい食事なんですから、NIAの実験では、制限による差が出なかったのですね。
ともあれその後、両研究機関で、様々な実験条件の差異が検証され、両者のデータを付き合わせて解析をやり直し、ついに昨年、4年もの紆余曲折を経て、この問題に決着がつきました。
④ 最終結論は?
結論は、「食事制限の効果あり」です。(「カロリー制限」ではないことにご注意)
つまり、カロリーの制限だけで効果を論じられるものではなく、食事の制限を始めた年齢や、各栄養素の種類やバランスなど食事の「質」と、カロリーなどの「量」の両方が重要ということです。
怪我の功名かもしれませんが、結果的には、UWとNIAが質的にかなり異なる餌で実験を行ったことが、より多くの知見を私たちに与えてくれることに寄与したのだと思います。
とにかく、紆余曲折ありましたが、悪い食事の食べ過ぎが病気のリスクを高めたり、結果的に寿命を縮めるということは分かりました。
また、過去にマウスなどの小動物の実験で示されていたように、大人になってからでも節制する方がいいということが、霊長類のアカゲザルでも裏付けが取れました。
⑤ では、私たち人間の食事は具体的にどうすればいいの?
私たち人間が老後も健康に生きるためには、食事の質、つまり栄養素の内容やバランスはどうあるべきなのでしょうか?
アメリカン・ジャンク・フード(まだ言ってやがる)がよくないことをヒトでの実験で示した結果など、数々のユニークな論文の紹介を交えて、次回以降、お話を続けてまいります。
次回のお題は、「健康に生きるための正しい食事7ヶ条(その1)」です。
今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。