前回の「関節リウマチ」に続いて、「自己免疫疾患(その2)」をお送りします。
なぜ、この病名に日本人の名が冠せられているのか?
橋本病発見の歴史を紐解きながら、自己免疫疾患であるこの病気の寛解(かんかい)(病気の症状が良くなること)に重要な役割を担っていると考えられる制御性T細胞(Treg)についても考えてみましょう。
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目次:
① 橋本って、誰、それ?(笑)
② あってはならない自己抗体
③ 自己免疫疾患克服の切り札となり得るのか?--現在の研究状況
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① 橋本って、誰、それ?(笑)
慢性甲状腺炎の患者数は正確には把握されていませんが、40歳代以降に限ると人口の約10%程度にも達すると思われます。
意外とありふれた病気なのですねぇ。
慢性甲状腺炎は、「橋本病」という名称で広く知られています。
橋本病の歴史は古く、医師の橋本策(はかる)が1912年に(くしくもヴェーゲナーの「大陸移動説」発表と同じ年です)、ある甲状腺疾患の女性患者の病理組織像を詳細に観察し、「リンパ球性甲状腺腫」として発表しました。
(ヴェーゲナーの「悲劇」については過去ブログをご参照)
041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】
しかし、これも反響がなく、やがて忘れ去られていったのです。
彼の論文が注目されるのには、免疫学が進歩する1940年代まで待たねばなりませんでした。
米英の研究者らが、古い橋本の論文と類似した慢性甲状腺炎患者の血清中に、甲状腺に対する自己抗体が存在することを見出しました。
彼らは、さかのぼること数十年も前に慢性甲状腺炎の病理所見を詳細に記録した橋本の見識に敬意を払い、この疾患をHashimoto's thyroiditis(橋本の甲状腺炎)と名付けたのです。
橋本先生のご存命中に、この栄誉にあずかれればよかったのですが、橋本先生と言い、ヴェーゲナーと言い、ラウスと言い、他人より何十年も先を見通す優れた洞察力を持っている人って、いるものですねぇ。
② あってはならない自己抗体
本ブログを熱心にお読み下さっている方には、もう「自己抗体」の説明は不要だと思いますが、念のために言っておくと、その名の通り自己の細胞や組織の成分に反応する抗体の事です。
抗体とは、自己以外の「異物」に結合して、これを不活化したり、免疫細胞の力を借りて排除し、体を外敵から守っています。
抗体は本来、自己の成分には反応しません。いや、反応してはいけないものです。
しかしながら、ある種の疾患では自己に反応する抗体が多量に存在し、これが自己の細胞や組織を破壊します。
これは「自己免疫疾患」と呼ばれ、橋本病では甲状腺に対する抗体が複数種類確認されています。
橋本病は免疫が自己を攻撃する自己免疫疾患ですので、免疫力が弱まると症状が軽減します。
その証拠の一つとして、妊娠中の女性は一時的に橋本病の症状が緩和することが知られています。
胎児は母体にとっては異物ですから、これを攻撃しないよう、妊娠中は免疫が抑えられているわけです。
③ 自己免疫疾患克服の切り札となり得るのか?--現在の研究状況
近年、この自己免疫疾患の抑制に、制御性T細胞(Treg)が重要な役割を担っていると考えられています。
先日、βグルカンがTregを誘導し、受精卵や胎児に対する免疫系の攻撃を抑えているのかもしれないと言いました。
証拠が乏しく、ハッキリとは断言できないのですが、可能性はあります。
βグルカンは、同じく自己免疫疾患である1型糖尿病のモデルマウスには顕著に効きます。
炎症性大腸疾患モデルマウスにβグルカンを飲ませると、Tregが増えるという論文もあります。
ただ、これらの論文を引用したところで、単に状況証拠を拾い集めたにすぎません。
これらがつながって、一本の線にならないと断定はできないのです。
今後のTreg研究の進展によって明らかになっていくことを期待したいです。
これまで多くのTreg研究は、マウスなどの小動物でなされてきました。
ヒトでの研究を難しくしているのが、抗原特異的なTregというのが、ヒトの血液中にほんのわずかしかないことです。
最近、このごく微少なTregを高感度で解析する手法が開発されました。
Cell 167, 1067-1078, 2016
(かなり煩雑で時間のかかる方法で、慣れが必要ではありますが。。。)
このような技術革新によってTregの謎が解明され、やがては人類が自己免疫疾患を制御できるようになる時代がやってくることでしょう。
今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。
今回も実にまじめにやりました(笑)
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