Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

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047【橋本病と制御性T細胞】自己免疫疾患(その2)

 

前回の「関節リウマチ」に続いて、「自己免疫疾患(その2)」をお送りします。

 

なぜ、この病名に日本人の名が冠せられているのか?

橋本病発見の歴史を紐解きながら、自己免疫疾患であるこの病気の寛解(かんかい)(病気の症状が良くなること)に重要な役割を担っていると考えられる制御性T細胞(Treg)についても考えてみましょう。

 

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目次:

① 橋本って、誰、それ?(笑)

② あってはならない自己抗体

③ 自己免疫疾患克服の切り札となり得るのか?--現在の研究状況

 

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① 橋本って、誰、それ?(笑)

 

慢性甲状腺炎の患者数は正確には把握されていませんが、40歳代以降に限ると人口の約10%程度にも達すると思われます。

意外とありふれた病気なのですねぇ。

 

慢性甲状腺炎は、「橋本病」という名称で広く知られています。

橋本病の歴史は古く、医師の橋本策(はかる)が1912年に(くしくもヴェーゲナーの「大陸移動説」発表と同じ年です)、ある甲状腺疾患の女性患者の病理組織像を詳細に観察し、「リンパ球性甲状腺腫」として発表しました。

ヴェーゲナーの「悲劇」については過去ブログをご参照)

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

しかし、これも反響がなく、やがて忘れ去られていったのです。

彼の論文が注目されるのには、免疫学が進歩する1940年代まで待たねばなりませんでした。

 

「橋本策 写真」の画像検索結果

 

米英の研究者らが、古い橋本の論文と類似した慢性甲状腺炎患者の血清中に、甲状腺に対する自己抗体が存在することを見出しました。

彼らは、さかのぼること数十年も前に慢性甲状腺炎の病理所見を詳細に記録した橋本の見識に敬意を払い、この疾患をHashimoto's thyroiditis(橋本の甲状腺炎)と名付けたのです。

 

橋本先生のご存命中に、この栄誉にあずかれればよかったのですが、橋本先生と言い、ヴェーゲナーと言い、ラウスと言い、他人より何十年も先を見通す優れた洞察力を持っている人って、いるものですねぇ。

 

② あってはならない自己抗体

 

本ブログを熱心にお読み下さっている方には、もう「自己抗体」の説明は不要だと思いますが、念のために言っておくと、その名の通り自己の細胞や組織の成分に反応する抗体の事です。

抗体とは、自己以外の「異物」に結合して、これを不活化したり、免疫細胞の力を借りて排除し、体を外敵から守っています。

 

抗体は本来、自己の成分には反応しません。いや、反応してはいけないものです。

しかしながら、ある種の疾患では自己に反応する抗体が多量に存在し、これが自己の細胞や組織を破壊します。

これは「自己免疫疾患」と呼ばれ、橋本病では甲状腺に対する抗体が複数種類確認されています。

 

橋本病は免疫が自己を攻撃する自己免疫疾患ですので、免疫力が弱まると症状が軽減します。

その証拠の一つとして、妊娠中の女性は一時的に橋本病の症状が緩和することが知られています。

胎児は母体にとっては異物ですから、これを攻撃しないよう、妊娠中は免疫が抑えられているわけです。

 

③ 自己免疫疾患克服の切り札となり得るのか?--現在の研究状況

 

近年、この自己免疫疾患の抑制に、制御性T細胞(Treg)が重要な役割を担っていると考えられています。

先日、βグルカンがTregを誘導し、受精卵や胎児に対する免疫系の攻撃を抑えているのかもしれないと言いました。

takyamamoto.hatenablog.com

証拠が乏しく、ハッキリとは断言できないのですが、可能性はあります。

 

βグルカンは、同じく自己免疫疾患である1型糖尿病のモデルマウスには顕著に効きます。

炎症性大腸疾患モデルマウスにβグルカンを飲ませると、Tregが増えるという論文もあります。

ただ、これらの論文を引用したところで、単に状況証拠を拾い集めたにすぎません。

これらがつながって、一本の線にならないと断定はできないのです。

今後のTreg研究の進展によって明らかになっていくことを期待したいです。

 

これまで多くのTreg研究は、マウスなどの小動物でなされてきました。

ヒトでの研究を難しくしているのが、抗原特異的なTregというのが、ヒトの血液中にほんのわずかしかないことです。

最近、このごく微少なTregを高感度で解析する手法が開発されました。

Cell 167, 1067-1078, 2016

(かなり煩雑で時間のかかる方法で、慣れが必要ではありますが。。。)

 

このような技術革新によってTregの謎が解明され、やがては人類が自己免疫疾患を制御できるようになる時代がやってくることでしょう。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

今回も実にまじめにやりました(笑)

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

046【関節リウマチ】自己免疫疾患(その1)

目次:

① 人類最大の自己免疫疾患

② リウマチになる仕組み

③ リウマチの治療薬

④ リウマチへの効果――根拠はまだないが、βグルカンは期待できるはず

 

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① 人類最大の自己免疫疾患

 

関節リウマチ(以下「リウマチ」と言います)は、人類最大の自己免疫疾患です。

平成23年度の報告では、わが国のリウマチ患者は70~80万人と推計されており、毎年1万5千人もの人が新たに発症しています。

 

リウマチは、すぐに生命にかかわるような病気ではありませんので、軽視されがちですが、長年にわたって炎症がくすぶり続け、徐々に関節の痛みと腫れ、変形が強くなり、やがては関節の線維化、癒着が起こって曲がらなくなり、日常生活に大いに支障を来たすようになります。

男性に対して4倍と、なぜか女性に圧倒的に多く(その理由を私は知りません。どなたかご存知の方、是非お教え下さい)、それも仕事・家事・育児に忙しい30~50代で発病することが多いのですから大変です。

 

しかし近年、リウマチは早期発見・早期治療によって予後(病気の経過や結末)が著しく改善することが分かってきました。

いい薬も出て来ていますが、薬に頼りっきりになるのではなく、やはり、リウマチの原因を知ることで、自身で予防や治療の促進に努めるべきです。

 

② リウマチになる仕組み

 

自己免疫疾患であるリウマチ、標的となるのは自己の関節の細胞です。

抗体やT細胞によって関節の細胞が攻撃されると、滑膜(かつまく)細胞と言う細胞が異常増殖を始め、増えた滑膜細胞は大量の炎症性サイトカインを放出するようになり、毎度お馴染み「慢性炎症」が引き起こされます。

 

関節には関節液があり、関節の動きをスムーズにしています。潤滑油のような役割ですね。

滑膜細胞は栄養源を血管からではなく、関節液に頼っていますので、増殖した滑膜細胞が関節液を食い尽くしていきます。

潤滑油が足りなくなった関節が動きづらくなり、痛みが生じるのも無理からぬことです。

 

更に滑膜細胞が産生する炎症性サイトカインは、滑膜細胞自分自身に作用して、軟骨を破壊するMMPというタンパク質を作らせ、軟骨をゆっくりと崩壊させていきます。

炎症性サイトカインの中でも、TNF-α(ティーエヌエフアルファ)IL-6(アイエルシックス)は、「破骨細胞」を活性化し、骨組織の破壊に拍車をかけます。

 

f:id:takyamamoto:20170608212101p:plain

 

このように、ひとつのこと(自己免疫反応)をキッカケに、次から次へと悪いことばかりが連鎖的に起こっていくのです。

炎症が長引くことで骨の破壊も長期に継続し、長い時間を経て痛みや変形が徐々に進行していきます。

 

因みに、破骨細胞とは、その名の通り骨を破壊(骨吸収)する細胞です。

なんで、そんな細胞がいるのかというと、骨も皮膚や小腸粘膜などと同じように、細胞が絶えず入れ替わっています(この現象を「ターンオーバー」と言います)。

つまり、常に細胞の「破壊と再生」が行われている訳ですね。

そのターンオーバーのために、骨細胞を破壊する破骨細胞が必要なのです。

その細胞が、リウマチでは暴走するのですね。

 

③ リウマチの治療薬

 

さて、上記のような骨破壊の進行の仕組みが解っていなかったときには、痛みや腫れを抑えるなどの対症療法しかできず、病気の進行そのものを止めることができませんでした。

しかし、今では、メトトレキサーという薬の登場で、骨破壊に関わっている酵素の産生を阻害することで、病気の進行を抑えることができるようになりました。

また、この薬は、リウマチのごく初期には予防にも有効なことが分ってきています。

現在では、メトトレキサートはリウマチ治療の第一選択薬となっています。

 

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メトトレキサートの構造式

 

リウマチの重症化に関わっているものとして、上述の炎症性サイトカイン、TNF-αとIL-6があります。

近年、この二つのサイトカインに対する生物学的製剤(抗体医薬など)が、かなり良い効果を上げています。

ただ、炎症性サイトカインを抑える薬と言うことは、一種の免疫抑制剤であると言えますので、細菌・真菌・ウイルスの感染症に注意が必要です。

それに、生物学的製剤は高額ですから、医療費削減を声高に唱える私としては、これを使うようになる前に何とかしたいところです。

 

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④ リウマチへの効果――根拠はまだないが、βグルカンは期待できるはず

 

リウマチの根源的な原因は自己免疫反応です。

ですから、生物学的製剤で自己免疫反応の結果として誘導されているサイトカインを抑えたとしても、本当の原因は残ったままです。

元をたたかなければなりません。

とは言っても、元から持っている自己反応性免疫細胞を除くことはできません。

では、どうするか?

 

思い出して下さい。

ひとつの有効な方法は、免疫のバランスを調整することで、制御性T細胞(Treg)を元気にするのです。

免疫のバランス調整と言うとβグルカンでしょう。

 

βグルカンでリウマチが劇的に良くなったという人は結構います。

しかし、しかしです。βグルカンが「リウマチに効く」という論文は、実は非常に少ないので、私もあまり声高には言えないのです。

「治った」、「良くなった」と言う人の「体験談」では、根拠とは言えません。

 

βグルカンは、糖尿病には確かに効きます。

1型糖尿病モデルマウスには顕著に効きます。

理由として、自己免疫疾患が原因で起こるタイプの1型糖尿病で、βグルカンがTregを誘導していることが十分に考えられます。

ただ、まだそのことを証明した論文はありません。

 

ですから、断言はできませんが、リウマチでも1型糖尿病と同様に、βグルカンによってTregを誘導することにより、自己免疫反応を抑えてくれることが期待できます。

 

私たちは、ヒトの自己免疫疾患やアレルギー性疾患において、βグルカンがTregを誘導するのかどうかに非常に高い関心を持っています。

今、大学との共同研究にて、このことを確かめようと、実験を計画中です。

 

βグルカンがTregを誘導、活性化することが証明されれば、自己免疫疾患やアレルギー性疾患に悩む多くの人たちへの福音となるはずです。

 

 

最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

今回は実にまじめにやったぞ!(笑)

 

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

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045【原因不明の不妊はTregの不調が原因か?】驚異のグルカンベイビー!

目次:

① 驚異のグルカンベイビー

② タマタマじゃない!?

③ 本当に不妊に効果があるのか!?

 

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昨晩、健康と病気についての情報交換会と言う名の「飲み会」(笑)に参加したのですが、そこで驚くべき話を聞きました。

 

① 驚異のグルカンベイビー

 

まずは、昨年の秋の話から。

 

写真の母子。我が師匠・飯沼一茂博士と私の講演会に来て下さった方です。

 

この方は長年不妊に悩んでいました。

不妊治療を受けても原因が解らず、効果なく、ダメモトのヤケクソでβグルカンを飲み始めてみたら、しばらくして見事に妊娠したと言うではあ~りませんか!!

こうして生まれて来たのが写真の子。

この方は、このお子さんを「グルカンベイビー」と呼んでいました。

 

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グルカンベイビー(2016年秋、品川にて) 

 

以前から、妊婦では免疫力が落ちていることが知られていました。

母体にとって異物である受精卵や胎児を攻撃しないためと考えられます。

マウスなどの動物では、妊娠動物の子宮で制御性T細胞(Treg)が増えていることも分かっています。

takyamamoto.hatenablog.com

 

このTregの働きによって、母体の免疫系が胎児(胎仔)を攻撃するのを防いでいるのだと考えられます。

 

しかし、βグルカンがTregを誘導すると考えられているとは言え、正直、こんなこと、つまり、βグルカンが不妊に効くなんて。。。

 

タマタマだろうと思っていました。まぁ、そんなこともあるだろうと。

そして、この話は、私の記憶から薄れていきました。

 

② タマタマじゃない!?

 

昨晩聞いた凄い話。

 

不妊に悩むある夫婦。

長年にわたる二人そろっての不妊治療に疲れ果て、夫婦間でいさかいも絶えないようになっていました。

「こんなことなら、子どもなんか諦めてしまった方がいい」

そう思ったそうです。

 

ある時、私にこの話をしてくれたこの人の勧めで、飯沼師匠の講演会に行かれたそうです。

ドクター飯沼の話を聴いて、半信半疑でβグルカンを飲み始めて約1年。

なんと見事に妊娠したというのです。

現在、妊娠3ヶ月。順調だそうです^ ^

 

いや、正直驚きましたよ。

こんな話が2つも3つも出てくるようでは、信じるしかありません。

でもまだ半信半疑です。

 

③ 本当に不妊に効果があるのか??

 

精子にも卵子にも機能的な異常がなく、原因が分からない不妊の原因の一つにTregの不調があるのではないか?

受精はしているのだが、免疫系が受精卵を攻撃し、着床にまで至っていないのでは?

だから本人も知らないうちに流産している?

そして、βグルカンは、この攻撃を抑えるTregを誘導して、見事、妊娠に導き得るのか??

 

しかし、そのことを示す根拠はあまりにも乏しい。

全部、状況証拠に過ぎません。

 

まず、βグルカンがTregを誘導するという論文はあるにはありますが、決して多いとは言えません。

だいたい、妊婦でTregが増えていると言うだけでは、それが本当に胎児への攻撃を抑えていると言う、少なくとも決定的な証拠にはならないのです。

 

さすがに今回は、私も「断言」できません

不妊に効くとは、とても。。。言えない。。。

 

この話をして下さった方は、他の女性にもβグルカンを勧めているそうですので、果たして第3、第4のグルカンベイビーが現れるのか? ウォッチしていきます。

 

これが本当なら、凄いことですよ。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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号外【「がん遺伝子の発見」黒木登志夫著】生命科学に興味のある高校生・大学生に絶対お奨めの良書

1996年初版発行のこの本、当時、ウイルスの研究をしていた私が、発がんメカニズムを分子生物学的に理解することに対して興味を抱くキッカケになった本です。

 

がん遺伝子の発見|新書|中央公論新社

 

がん遺伝子やがん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子の発見の過程には、研究者同士の壮絶な競争と、泥臭い人間物語がありました。

それらを生々しく描写した著者(著名ながん研究者です)の力量に、当時、私は深く感銘を受けました。

本ブログ【041】と【042】の2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」は、この本の影響を色濃く受けています。

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

発刊から20年以上も経ち、この分野の研究も飛躍的な進歩を遂げましたが、それでも、この名著を超えるものは、まだ出てきていないのではないでしょうか?

そのことを確かめるため、もう一度読み返してみようとウチ中を探したのですが、残念ながら、とうとう見つかりませんでした。

 

読み返すことはできませんでしたが、それでもこれだけは確信を持って言えます。

生命科学系の大学生はもちろん、生命科学に興味のある高校生にも断然お薦めです。

これにより、きっと、科学の面白さ、醍醐味、社会的意義などに思いを寄せられることでしょう。

もしかすると、その人の人生に大きな影響を与えることになるかも知れません。私がそうだったように。。。

そのようなお子さんをお持ちの方、是非教えてあげて下さい。

 

また、必ずしも生命科学に関心のある方に限らないかもしれません。

がん研究の分野に関わらず、全てのサイエンスにおいて、共通の命題や使命があるはずですから。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

 

044【「俺は飲まないので大丈夫」な~んて思ってません? ねぇ、そこの貴方!】肥満の人は要注意! 肝炎、肝硬変から肝細胞がんへ!「NASH(ナッシュ)」

目次:

    誰も知らなかった!? 飲まなくっても肝炎になる!

    とっても怖い!「異所性脂肪」

    今回の断言:それはもう「悪」そのものです!!

    デブキャラの芸人さんたちはプロ!

    最後に、肥満の方には厳しいことを言いましたが。。。

 

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私、大好きでした。90年代後半のアメリカの刑事ドラマ「刑事ナッシュ」(NASH BRIDGES)。

今は亡き野沢那智さんと青野武さんの掛け合い、もう最高!(笑)もはや芸術の域です😲

そんでもって、個性的な出演者たちの、とてもデカとは思えないファッション(そんなド派手な服で尾行すんなっ、つうの)と、会話がこれまた最高にオシャレ!!

でも、このシリーズ、日本では受けが悪かったのか、どこのツ○ヤさんにも置いてないんですね~。私やカミさんみたいなヘビーな愛好家がおるっちゅうのに。。。

カミさんは「なんでやッ!?」て怒ってました。

「置いてるとこ探して来い!」って、んな無体な(泣)

でも、最近CSNASH観ることができたので、やっとお怒りを鎮めてくれました(笑)

 

今回はNASHについて語ります。

 

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過去ブログで、具体的な病気としては、ガンと糖尿病を取り上げて来ましたが、別の病気のお話もしましょう。

 

    誰も知らなかった!? 飲まなくっても肝炎になる!

 

1970年代後半に、アルコールの多飲歴が無いにも関わらず、アルコール性肝障害によく似た「非アルコール性脂肪性肝疾患」(non-alcoholic fatty liver disease ; NAFLD)の存在が認められました。

さらにその中から、アルコール性肝炎に似た病態に進展する例のあることも見出されました。

1980年に、アメリカのLudwigらは、これを「非アルコール性脂肪性肝炎」(non-alcoholic steatohepatitis ; NASH)と名付けました。

 

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NASHの肝臓組織の所見 

 

当時、アルコール性肝障害と違って、NAFLDは深刻な病態につながるとは考えられておらず、結構、軽く見られていました。

ところがギッチョン、その後、NAFLDの約2割が10年間のうちにNASHを経て肝硬変になり、更にその一部が肝細胞がんに移行することが分かったじゃあ~りませんか!!(チャーリー浜調)

でも、この重大な事実に気づいていたのはごく一部の人だけで、NAFLDNASHは、「肥満人口の急増」を背景に突如出現した病気であるがために、新しい疾患概念として広く認識されるようになるまでには、なな、なんと20年近くもかかったのです。

 

肝硬変とは。

肝臓組織が肝炎ウイルスや長期の多量飲酒などによってダメージを受けると、これを再生・修復しようと肝細胞が頑張ります。

頑張りすぎて逆効果! コラーゲン繊維を作りすぎた結果、組織が線維化を起こして硬くなります。

線維化した肝組織は機能せず、元には戻りません。

 

わが国のNASHの患者数は、100万~300万人と推定されていますが、この数字にはずい分と幅がありますよねぇ。

つまり、正確には把握できていないということですな。

実は、もっと多いかもしれません。

これはエライこっちゃと、日本肝臓学会は、「NASHNAFLDガイド2010」を発表し、肝がん対策におけるNAFLD及びNASHのケアの重要性を訴えました。

 

    とっても怖い!「異所性脂肪」

 

NASH発症のメカニズムについては、よく解っていませんが、「ツーヒット理論」(two hit theory)ちゅうもんが提唱されています。

 

私、この理論の説明、読んでもよう解らんのですが(何で2つのヒットに明確に分けなあかんのかが解らん!)、一応書いておくと、糖尿病、肥満、高脂血症などのインスリン抵抗性(インスリンは出てはいるのだが、効き目が悪い状態)によって異所性脂肪(皮下脂肪、内臓脂肪とは異なる第3の脂肪)が肝臓に蓄積し、脂肪肝となる(どうやら、これが第一のヒットらしいわ)。

ほんでから、炎症性サイトカイン、脂質過酸化/鉄酸化などの酸化ストレスが加わってNASHを引き起こす(これが第二のヒットやてか?)、というものです。

解ります?

 

脂肪肝から肝炎という「段階」を経るというのは解りますが、多段階的な遺伝子変異が必須なガンなんかと違い、原因となる酸化ストレスやインスリン抵抗性やらを明確に2段階に分けられるとは思えへんのですがねぇ~。

こういった慢性疾患の原因と言うのは、多くの要因が複合的に絡み合っているものですが。。。

まっ、えっか!

 

そんな小難しい説明ではなく、簡単に言えば、NAFLDを引き起こすひとつの重要な原因は「慢性炎症」であり、更には「肥満」が、その「慢性炎症」を引き起こす重要なリスクファクターであるということ。

どうです? 分かりやすいでしょ?

 

脂肪の主な貯蔵場所は脂肪細胞からなる脂肪組織ですが、肥満においては、しばしば脂肪組織以外の組織への脂肪の蓄積が見られます。

これがメチャンコ危険な「異所性脂肪」であり、それが肝臓に蓄積した結果がNAFLDであると言えます。

NAFLDは、肥満の他、2型糖尿病を併発することが多く、とっても危険なのです。

 

    今回の断言:それはもう「悪」そのものです!!

 

脂肪を蓄積させた脂肪細胞はロクなことを致しません。

003【健康に過ごすための”正しい食事7ヶ条”その1 】 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

022【慢性炎症】「ほとんどすべての病気に共通した本当の原因とは?」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインのひとつ「レプチン」は、正常な状態では食欲を抑え、インスリン感受性を高める働きを持つため、肥満や糖尿病の特効薬になるのではないかと期待された時期がありました。(1990年代後半のことだったと思います。記憶が確かなら。。。)

ところがギッチョンチョン、肥満ではこのレプチンの分泌が低下しているだけでなく、何の恨みをかったのか、視床下部におけるレプチンの感受性までが妨げられているようなのです。つまり、レプチンがあっても効かない!と言うことです。

これでは、レプチンを薬として投与する意味がありません。

この「レプチン抵抗性」(レプチンが効かない状態)のために、NASH患者では肝臓の線維化(肝硬変)が促進されるとの論文があります。

そして、肝硬変の行きつく先は? 肝細胞がんです。

 

NASHに対する決定的な治療薬は、残念ながらまだありません。

薬がないから絶望的かと言うとそうではありません。

国と糖尿病学会が「既存の糖尿病治療薬よりも生活習慣の改善の方が有効」と認めたように、まずはNAFLDNASHにならないように、なってからでも、病状の進行を防ぐために、生活習慣を見直すことが重要です。

031【ついに国と糖尿病学会が認めた!「糖尿病治療薬は役に立たない!!」】糖尿病(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

そこで断言します!(今回の断言!)

肥満はあらゆる病気をもたらす病気の中の病気です!

単なる栄養過多の状態では決して御座いません!!

 

何っ!?

肥満で、大飯食らいで、甘いもん好きで、運動嫌いで、大酒飲みやって!?

断言しよう!!(今回の断言2回目!)

それはもう「悪」そのものです!!  暗黒面に堕ちたも同じ!!

アナキンと罵られようが、ダミアン(古っ!)と唾棄されようが、弁解の余地なし!!

(おォッ!奇しくも今日6月6日はダミアンのお誕生日じゃあ~りませんか❤ Happy Birthday, Damian🎶  666 あんなにちっちゃかったけど、いくつになったのかな? キリストはやっつけることができたのかな?(冗談ですよ))

 

    デブキャラの芸人さんたちはプロ!

 

デブキャラの芸人さん達。

彼らは、自らの命を縮めてまでも芸の道を究めんとする求道者です。

でも私たちは、彼らと違って、デブで飯食ってる訳じゃありません。

(実際には、飯食ってデブになっている訳ですが。。。順序逆にすると全然意味違います)(笑)

 

メタボリックシンドロームの予防のためには、過食を控え、適度な運動による肥満防止が何より重要なのです!!

それと、腸内環境を整え、「デブ菌」をのさばらせないことです。それにはやっぱり、食事と運動ですよ~。

 

    最後に

 

今回、肥満の方には厳しい言葉となってしまいましたが、健康寿命の延長と医療費の削減を実現するには、まずは肥満防止からです。

隠れた病気の原因を見つけて予防に努めるのは難しいですが、「万病の元」肥満は誰の目にも見えますから。

隠れ肥満」(痩せの2型糖尿病とか)ってのもあって、これはこれで問題なのですが、まずは見えているところには手を打ちましょう

これが今回、私が申し上げたかったことだとご理解頂ければ幸いです。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

043【そもそも健康とは何か? 病気とは? なぜ病気になるのか?】

今回は、とてつもなくデカい人類永遠のテーマについて、改めて考え直してみましょう。

 

目次:

    「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」

    じゃあ、病気って何?

    ホメオスタシス(恒常性の維持)とは

    3つの系のバランスを保つには?

 

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    「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」

 

単純に考えれば、「病気」とは「健康でない状態」なので、病気の定義について考えるのに、まず健康の定義を調べてみました。

 

「健康」の定義のゴールデン・スタンダードとも言うべき、世界保健機関WHO)の有名な定義によると、「健康とは、完全に、身体的、精神的及び社会的に安寧(あんねい)な状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」です。

「身体的」と「精神的」というのは理解できますよ。

でもね、この「社会的」というのが私には馴染まない。

 

「社会的」というのは、職場や家庭の環境に恵まれて良好な人間関係が築けているとか、経済的にも不安なく、物質的にも満たされている状態なんかを含むのだそうです。

私に言わせれば「えェ~!? そんなんあり得んし、無意味!!」と断言します!(今回は早くも出ました「本日の断言!」(笑))

 

このWHOの定義は、世界中の貧困にあえぐ多くの人たちをも救わんと言う崇高な理念に基づいているのでしょうが、あまりに崇高過ぎて現実味を感じませんし、返って「絵に描いた餅」化しているように思います。

それに、経済的、物質的に満たされていることが健康の必須条件でしょうか?

 

私が子供だった昭和の時代に比べると、現在では、あまりにも物質的に満たされ過ぎているがために、社会構造の変化のみならず、我々の価値観までをも変えてしまったような気がします。

私が子供のころは、食べたいもの、欲しいものが簡単に手に入った訳ではなく、それなので、我慢することを覚えさせられました。

それだけに、たまに食べた御馳走がこの上なく美味しく、欲しかったオモチャを買ってもらったときには、世界一の幸せ者のような幸福感を感じたものです(笑)

 

でも、今の時代は物質的に満たされ過ぎており、欲しいものが簡単に手に入る分、忍耐力を身に付ける必要がなく、幸福感や感激を感じることも少なくなったような気がします。

これが果たして本当の「健康」と言えるのか?

 

WHOの「健康」の定義。もはや無意味なので変えちゃって下さい(笑)

 

財の無い私ですが、「被褐懐玉(ひかつかいぎょく)」でありたい。

「ボロは着てても心の錦」とチーターが唄った様に。。。

 

    じゃあ、病気って何?

 

病気とは「健康でない状態」。なので、「健康」とは何かを調べようとしたのですが、上述の通り、結局よく分かりません。

少なくとも、ネット上に溢れている「健康」についての記述の多くが、私の考えに馴染みません。

そうなると、世間一般の「健康」の定義に頼らずに、「病気とは何か」を考えざるを得ません。

 

またもやネットで「病気」について調べると、「体や心に生理的な不具合が生じた状態」、簡単にまとめると、だいたいこんなとこでしょうか?

まぁ、当たり前ですね。

でも、生理的な不具合ってすごく曖昧です。

具体的にはどういうことか?って問いに明快に答えるとすれば、なんと言えばいいでしょうか?

 

    ホメオスタシス(恒常性の維持)とは

 

私たちの体には、状態を常に一定に保とうとする仕組みが備わっています。

例えば、夏でも冬でも、体温を一定に持とうとします。

正常な状態では、血液検査の数値なんかは大体一定です。

一例としては、食事の後、急激に血糖値が上がると具合が悪い(食後に急激に血糖値が上昇する「血糖値スパイク」というのが今問題になっています)ので、必要に応じてインスリンが働き、血糖値をできるだけ一定に保とうとします。

逆にエネルギーが不足がちになると、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを使います。

 

このような体の働きをホメオスタシス(恒常性の維持)」と言います。

「恒」も「常」も、「つね」ですね。

「つね」に「つね」の状態を保つこと、これがホメオスタシスです。

 

では、このホメオスタシスがどのようにして機能するかと言うと、それは私たちの体に備わった、大切な3つの「系」、即ち、「免疫系」、「神経系」、「内分泌系」の働きによります。

 

免疫系については、このブログで何度もお話してきました。

神経系は、交感神経と副交感神経のバランスとリズムによって、体の状態を維持します。

内分泌系とは、言い換えると「ホルモンの系」です。

インスリンもホルモンの一種であり、ホルモンであるインスリンが血糖値の維持に重要なことは、上述した通りです。

 

何らかの原因で、この3つの系のバランスが崩れた時に、「生理的な不具合」が生じます。

 

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この3つの系のバランスが崩れたことによる「生理的な不具合」。これが病気の状態であると私は定義しています。

(注:あくまでもこれは「私の」病気の定義であって、他の人はまた違う定義を持っていることでしょう)

 

このように定義することにより、病気になる理由や原因を理解することができるようになります。

それらが理解できると、今度は、病気を防ぐ工夫や、健康を維持する心がけをすることに役立ちます。

 

    3つの系のバランスを保つには?

 

この3つの系は互いに影響しあって、恒常性を維持しています。

どれかひとつが不調に陥ることで、他の2つの系にも影響が及び、その結果としてホメオスタシスが崩れて「病気」になると言えます。

私は「神経系」と「内分泌系」については詳しくありませんので、免疫系にフォーカスしてお話します。

 

免疫系に影響を及ぼす重要なものに細菌叢があります。

この細菌叢には、腸内細菌叢はもちろん、口腔内細菌叢や皮膚細菌叢なども含みます。

この細菌叢と免疫系も互いに影響し合ってバランスを保っています。

どちらかが不調になると、もう一方にも影響を与えます。

さらに、免疫系や細菌叢の不調は、様々な病気の原因となる慢性炎症を引き起こし、さらに慢性炎症が免疫系と細菌叢のバランスを崩すという悪循環に陥ります。

 

細菌叢の大切さ、慢性炎症の恐ろしさ、そして免疫系の調子を保つ具体的な方法については、過去ブログで何度も繰り返しお話してきましたので、ここでは控えます。

 

神経系のバランスとリズムを保つには、規則正しい生活、質の高い休息、ストレスマネジメントが重要です。

 

内分泌系については、私はよく分かりません。

成書などをご参照ください。

 

この3つの系のバランスの維持に重要で、効果の高いのが「運動」です。

近年、このことを示す科学的根拠が多く得られています。

 

この3つの系のどこからでも身体の不調を来たし、ホメオスタシスが破たんして、病気になり得るのだということを覚えておいて頂ければ、皆さんの健康維持のお役に立つと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

号外【がん遺伝子発見物語(番外編)】がん原遺伝子くんの言い分「ボクはガンを引き起こす遺伝子じゃない!!」

【041】、【042】と2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」は、大変ご好評を頂き、私も驚いています。

お読み頂いた皆様、本当にありがとう御座います。

 

これに気を良くして、「がん遺伝子発見物語」の「番外編」をお送りします。

今回もよろしくお願いします。

 

目次:

①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

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①    「がん原遺伝子」というネーミングはへんちくりん

 

2回にわたってお送りした「がん遺伝子発見物語」。

041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早く行き過ぎた男」】がん(その7) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

また、それ以前の記事でも、ガンになる仕組みとして、がん原遺伝子とがん抑制遺伝子の変異・異常が大きく関与していることをお話してきました。

034【どのようにして細胞に遺伝子の変異が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

多くのがん細胞で、「がん原遺伝子」、「がん抑制遺伝子」、「DNA修復遺伝子」に変異があります。

これらの遺伝子の機能異常によりガンが引き起こされることに疑いの余地はありません。

 

それにしても「がん原遺伝子」と言うのはおかしなネーミングです。

元々は細胞増殖の制御に関わる「まともな」遺伝子です。

なのに、本来の機能を表現した名前ではなく、ガンとの関連を強く示唆するような名前になっていることに、私は昔から違和感を覚えてきました。

 

②    がん研究に飛躍的な発展をもたらした、がん原遺伝子の発見

 

「がん遺伝子発見物語」をお読み下さった読者の方は、がん遺伝子とがん原遺伝子発見の経緯についてはご存知ですね。

src遺伝子は、まさにガンを引き起こす遺伝子としてラウス肉腫ウイルスから発見されました。

「がん遺伝子」と名付けられて当然です。

 

しかし、がん原遺伝子は、当時はまだどんな働きがあるのかも分からず、ただ単に、がん遺伝子であるsrcに似た遺伝子として発見されただけです。(「だけ」なんて言うと、ビショップ先生とヴァ―マス先生に怒られますが。。。)

で、後になって、やはりビショップとヴァーマスが、これが変異するとがん遺伝子に豹変するのだと解明したのです。

なので、がん遺伝子(oncogene)の原型(プロトタイプ)であるとして、がん原遺伝子(proto-oncogene)と名付けられた、というか、話の流れ的に、発見の経緯的に、そう名付けざるを得なかったのですね。

ちなみに名付け親はビショップです。

 

もっと、遺伝子の機能とかが解ってから名付けていれば、こんなへんちくりんな名前じゃなく、その機能に見合ったふさわしい名前を得たはずです。

可哀そうながん原遺伝子くん。

 

さて、「だけ」なんて無礼なことを言ってしまいましたが、ビショップとヴァーマスの業績は、ガンが遺伝子の異常による病気であることを決定づけ、発がんメカニズムへの深い理解と、それらの知見に基づいた新たな診断方法、新たな治療薬の開発につながりました。

がんの分子標的薬などは、まさにこのような多くの科学的な知見の積み重ねがあってこそ生まれてきたものです。

これらのことは全て、ビショップとヴァーマスの業績があったればこそです。

 

ビショップは、自身の業績についてこう評しています。

「がん解明に向けて、人類はついに確かな手掛かりを得ました。この発見を糸口として、がんという致命的な病気の秘密もいずれ明らかにされるでしょう。(中略)がん征服はもはや夢物語ではありません。生物医学に30年もたずさわって来て、初めてそう信じるに至りました」

 

③    研究者たちは「がん原遺伝子」と名付けてしまったことを後悔している?

 

「名は体を表す」と言いますが、「がん原遺伝子」という呼び名は如何にも誤解を生みます。

全然、体を表していません。

 

おかげで私は、がん原遺伝子の説明をするときに、いちいち、「いや、別にこの遺伝子がガンを引き起こすわけではありませんよ。本来の機能は、、、」と、がん原遺伝子くんの弁護から始めるのが常です。

正直、めんどくさいです。

名付けた研究者たちも、きっと同じ思いをしてきたはずです。

「いちいちめんどくさい。別の名前にすりゃあよかった」と(笑)

 

実際、研究者たちも「がん原遺伝子」と言う言葉を使うことはほとんどありません。(少なくとも私はほとんど聞いたことがありありません)

なんと、日本語版ウィキペディアには「がん原遺伝子」という項目はありません。

生物学史上の重大発見にもかかわらずです!

ウィキでは、「がん遺伝子」の項目の中で、がん遺伝子について説明するために、必要に迫られて「がん原遺伝子」について触れているみたいな体(てい)です。

(しかも間違ってるし。。。)

がん遺伝子 - Wikipedia

何たる不当な扱い!

 

実際には、多くの研究者が「細胞増殖調節遺伝子」とか、その他、より本来の機能を表すような呼称を便宜的に使っていることが多いようです。

それはやはり、「がん原遺伝子」と言う名称を使うことで、ひとに誤解を与えることを恐れてのことではないでしょうか。

 

断言します!

もはや「がん原遺伝子」という名称は無意味です!

 

「がん原遺伝子は、がん遺伝子の元になる遺伝子」ではなく、「細胞増殖を制御するある種の遺伝子が変異を起こすことによって、時にがん化の原因になる」という正しい理解を得られるよう、是非、今からでも名前変えちゃって下さい。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

号外補足【なぜ白血病は「がん」扱いされないのか?】考えると夜も眠れない(笑)

目次:

1.辞典で用語の定義を調べてみたら・・・

2.白血病をガン扱いしない理由とは!?

3.断言:白血病もリンパ腫もガンだよ~ 当たり前だろ~?

 

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若い方はご存じない? 春日三球・照代師匠。

あなた、地下鉄はどこから入れるか分かります?

考えてごらん。夜も眠れないから(笑)

 

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前回の【号外】で、白血病もリンパ腫もガンなのに、あまり「がん」とは呼ばれないようだと言いました。

そして私は、

「癌」+「肉腫」+(血液のがん)=がん(ガン)=悪性腫瘍

と説明しました。

 

いやぁ、「血液のがん」を括弧つきにしておいて正解でしたね。

 

いろいろ調べても、「ガンには癌腫と肉腫の2つに分類される」と書かれていることが多いです(それもお医者さんとかが書いてるんですよ!)。

私は「えッ? 血液ガンはどうしたの!?」って思うのですがねぇ。

なんでシカトすんのか分からん!

 

どう考えても、白血病もリンパ腫も、病理学的にも発症メカニズムの点からも、立派に「がん」です。

中には、白血病・リンパ腫を「液性ガン」という分類にして、ガンとして扱っている人もいますが、「液性ガン」という言葉はあまり一般的ではありませんね。

 

医学会には、昔からの習慣というか、伝統というのか、適切ではないと分かっていながら、皆使い続けてる、みたいなことがよくあります。

白血病も立派なガンでありながら、あまり「がん」という言葉が使われないのは、その辺の習慣的なものによるのではないかと思うのです。

そこで、、、

 

1.辞典で用語の定義を調べてみたら・・・

 

なぜ「がん」は「癌腫」と「肉腫」の二つであって、血液がんはシカトされるのか?

前回の号外の記事を書いた後、ず~っと考えてました。(夜も眠れないほどじゃないですよ)

 

「がん」はすべての悪性腫瘍の総称であって、そのうち、上皮組織にできるものが「癌(腫)」です。

実は昔は、今で言う「がん」、つまり悪性腫瘍全体のことを「癌」と言っていました。

だから、「日本癌学会」なのです。(歴史と伝統ある学会なので、学会名を変えることはないでしょう)

「がん(ガン)」と「癌」の定義が現在のように変わったのは、ごく近年のことです。

このように病気の定義や分類や用語も、必要に応じて見直され、学会などでの議論を経て変更されることがあります。

 

白血病がガンと呼ばれないのには、医学会の歴史的な事情があるように思います。

そこで、埃をかぶった古い医学事典を引っ張り出してきて、調べてみました。

昔の定義はどうだったのかと。。。(ゲホッ、ゲホッ。スゲー埃)

 

南山堂「医学大辞典」(第16版、1978年初発行)によると、「腫瘍」(tumor)とは、「身体の細胞あるいは組織が自律的に過剰増殖したものと定義される」とあります。

「見ろッ! 白血病も細胞の自律的な過剰増殖じゃないかッ! 立派なガンだろッ!」

 

同じく同辞典から、「白血病」とは、「造血組織の原発腫瘍性疾患で、流血中に病的な幼弱血球(白血病細胞)が出現し・・・(後略)」とある。

「見ろ、見ろ!! 『腫瘍性疾患』って書いてあるし!!」

 

このように、昔の定義では白血病腫瘍であり、それが悪性であれば、まぎれもなく「がん」です。

 

じゃぁ、今の定義ではどうなのか? ズバリ最新版だと思われるウェブの「デジタル大辞林」で調べてみました。

「腫瘍」とは、「身体の一部の組織や細胞が、病的に増殖したもの。ほとんどの場合、増殖した細胞が腫れものをつくるが、白血病のように塊をつくらないものもある。筋腫脂肪腫などの良性腫瘍と、癌腫 肉腫などの悪性腫瘍とがある」です。

 

なんと、これによれば、今でも白血病腫瘍であると、明記されているじゃぁあ~りませんか。

 

でも、この短い文章をよく読むと、いろいろと血液がんがガンとは認められない理由がいくつか書き散りばめられていることに気が付きます。

 

まず、「癌腫 肉腫などの悪性腫瘍とがある」とあります。

血液がんは癌腫でも肉腫でもありません。

そのどちらでもない血液がんは、やはりガンではないと示唆するものです。

 

また、腫瘍の重要な特徴として、「ほとんどの場合」と断りながらも、「腫れもの」という言葉があります。

血液がんでは腫れものはできないことが多いですからねぇ。

(リンパ腫では、リンパ節が腫れることがあります)

 

ただし、「癌腫 (がんしゅ) 肉腫など」の「など」を付けているところがミソですねぇ。

癌腫と肉腫以外にも「血液のガンもありますよ」なんて、暗に言ってるつもりかもしれません。

 

つまり、この辞典の文章は、血液がんはガンであるとも捉えられるし、ガンではないようにも、どちらにでも解釈できるような、ダブル・ミーニングな説明です。

 

「こんな曖昧な定義しか示せなくって、『辞典』だとか言ってんじゃねぇ!!」(怒)

 

つまり、どこを見ても、何を調べても、血液のガンは腫瘍と言えるような、言えないような、そんな歯切れの悪い記述しかないのですよねぇ。

なんでこうなの?

 

2.白血病をガン扱いしない理由とは!?

 

その他、ネットで色々と調べました。

その結果、まとめると以下のような背景があって、それがあまり白血病をガン扱いしない事情ではないかとの結論に至ったのです。

 

Tumorは日本語の「腫瘍」に当たる言葉ですが、元々は、ラテン語「腫れたもの」という意味だそうです。

つまり、腫脹した塊ですね。

 

がん遺伝子は英語でoncogene。

Oncoは「がん」。Geneは「遺伝子」。

このonco、ギリシャ語で「塊」を意味するそうです。

 

また、日本では、江戸時代にはガンのことを「いわ」と言いました。

やはり硬いしこりを岩に例えたのでしょう。

 

つまり、昔からガンについては、硬い「塊」を作ることが大きな特徴でした。

このガンに対する「塊」のイメージが、今でも大きな影響を残しているようです。

 

白血病など、血液のガンの多くでは塊を造りません。

この固まらないところに、「がん」と呼ぶのをためらわせるものがあるのではないか?

そういう風に思うに至ったのです。

 

ちなみに、がん細胞が塊を造るかどうかの違いは、「細胞接着因子」という、細胞同士がくっつくために必要なたんぱく質の違いにあります。

固形ガンと血液ガンの最大の違いのひとつはそこです。

 

3.断言:白血病もリンパ腫もガンだよ~ 当たり前だろ~?

 

「がん」にまつわる用語について、いろいろと調べてきましたが、結局のところ、実際かなりテキトーで、ころころ変わりもするものなのですねぇ~。

反対に、医学的におかしいことが分かっていながら、修正せず、昔の定義を踏襲し続けることも多いのですね~。

 

結局、白血病もリンパ腫もガン。断言できます!

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

また、今回の記事は、医師でもない私が素朴に思った疑問について独自に調べた結果です。

お医者様や医療関係者、その他専門家の皆様、もし記述に間違いがありましたら、ご指摘をお願い致します。

また、是非正しい答えをお教え頂きたいと思います。

 

 

 

号外【「がん」と「ガン」と「癌」 違いは??】

プチ知識:

    「がん」と「ガン」と「癌」。違い分かります?

    なんで「蟹」なの?

 

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    「がん」と「ガン」と「癌」。違い分かります?

 

「がん」と「ガン」と「癌」。それから「悪性腫瘍」。

違い分かります?

 

「がん」と「ガン」は同じです。別にどちらを使っても構いません。

私は、ひらがなの方をよく使いますが、「がんががんがん増える」なんて書くと意味分かんないでしょ? そんなときは「ガンがガンガン増える」って書きます。

 

「悪性腫瘍」は? 「がん」と同じと考えて差し支えありません。

「がん(ガン)」は全ての悪性腫瘍の総称です。

なので、良性腫瘍はガンには含まれません。

 

じゃあ「癌」は?

 

「がん」は二つに分けられます。

上皮組織にできる「癌」と骨・神経・筋組織にできる「肉腫」です。

二つ合わせて「がん(ガン)」です。

 

上皮組織にできるガン(癌)とは、内臓にできるガンと考えていいと思います。

肺がん、胃がん、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん、エトセトラ、エトセトラ。みんな「癌」です。

 

サインはV」のジュン・サンダースがかかったことで一躍知名度を上げた「骨肉腫」。

当時、私みたいな小学生でも知らない子はいませんでしたね〜(知らない? それは貴方が若いということです(^^))

肉腫なので、「がん」ではありますが、「癌」ではありませんので、お間違えなきよう。

(ジュンが骨肉腫で死んだ時には泣きましたね〜。范文雀さんだったですよ、多分。違う?)

 

あっ、それから、白血病とかリンパ腫とか、「血液のがん」もありますよね? これはどうなの?

なぜだか知りませんが、血液のがんは、あんまり「がん」とは言わないですね。

でも、ガンですよね。

ガンは全ての悪性腫瘍の総称ですから、血液のガンも「がん」のはずですが。。。

 

こんがらがって来ました?

 

つまり、まとめるとこんな感じかな?

癌+肉腫+(血液のガン)=がん(ガン)=悪性腫瘍

 

あっ、それから「悪性新生物」なんて言葉もありますね。

Malignant neoplasiaまたはMalignant neoplasmの訳語ですが、これもイコールがんです。

生命保険なんかではよく使われますね、この言葉。

それから厚労省の統計データでもこの用語が使われていますが、他ではあんまり見ないですね〜。

実際、言いにくいし、使いにくいですよね。

業界用語のようなものでしょうか?

 

と言うことなので、「国立癌センター」というのはなくって、「国立がんセンター」といいます。

だって、「癌センター」だったら、「ウチは肉腫や白血病はお断り」と門前払いを食わされます(笑)

 

でも、「日本癌学会」は「日本がん学会」ではないのですね。

これには歴史ある当学会の事情があるようです。

あえて変ないことで、歴史の重みと威厳を感じさせます。

「日本がん学会」じゃチャラくないですか?(笑)

 

あと、お医者さんはカルチ(Carcinoma)とかチューモア(Tumor)とか言いますね。

どちらも論文なんかでよく使われます。

どう違うの⁇

ひとつの論文の中で、時にcancerと言ったり、時にtumorと書いたり、Carcinomaを使ったり、一体どう使い分けてるのか分かんないことも多いです。

かく言う私も、「ここはcancerだろ」、「ここは絶対tumorだ」ってな具合に書き分けてましたが、別に確たる根拠も理由も御座いません。

つまり、3つともほとんど同義だと思います。(違う?)

 

まあ、こんな風に、みんな結構テキトーですよ。

 

だいたい、医学用語として、「がん」に関わるこれらの言葉の定義は、そんなに厳密ではありません。

 

とりあえず、「がん(ガン)」と書いておけば、間違いないですね。

 

それから、テレビドラマ「仁」では、乳がんのことを「ちちのいわ」と言ってました。

ネットで調べたら、「乳岩」転じて「乳癌」になったとか。

なるほどねぇ~~。

 

    なんで「蟹」なの?

 

ガンは英語でCancer、ドイツ語でKrebs。どちらもカニです。

なんでカニなのか? 私、知りません。

ネットで調べたら、ガンを最初にカニに例えたのは、古代ギリシャの医学の祖、ヒポクラテスだとか。。。

で、なんでカニなの、ヒポちゃん?

 

以前、日本癌学会のロゴマークには、リアルな蟹の絵があしらわれていました。

たぶん、ワタリガニです。ちがう?

どうも最近、ロゴマーク変わったようです。

新しいロゴマーク、やはりカニのハサミと蟹座をモチーフにしているそうですが、知らなければピンときませんね。

 

日本癌学会 ロゴマーク(サンプル)

日本癌学会のHPから拝借 ニュー・シンボル・ロゴマーク

 

前のロゴマークの方が歴史と伝統と権威が感じられてよかったです(^^)

 

以上、ガンの用語にまつわるプチ知識でした。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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042【がん遺伝子発見物語(後編)「内なる敵か!? がん原遺伝子の発見!!」】がん(その8)

目次:

①    ラウスの本当の偉大さ

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

③    「逆があった!」

④    がん原遺伝子の発見!

⑤    偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

前回【041】は、お陰様で好評です。

この続編で皆様のご期待に応えられるのか、すっごく不安なんですけど。。。(笑)

 

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①    ラウスの本当の偉大さ

 

半世紀もの時を経て、「道化師」から歴史に名を刻む「偉大な科学者」となったフランシス・ペイトン・ラウス。

 

ラウスが「道化」でないことを証明したのは米国のハワード・マーティン・テミンです。

テミンは、これをきっかけにラウス肉腫ウイルスの研究に没頭していきます。

また、このことが、「絶対」だと信じられていた生物学の「中心教義」を覆すような偉大な発見につながっていきます。

 

ラウスの業績は、テミンをはじめ、後に多くのノーベル賞受賞者を芋づる式に輩出することとなります。

つまりラウスは、がん遺伝子研究という大本流の源泉となったのです。彼の方が近代生命科学に与えた影響は計り知れません。

 

②    「セントラル・ドグマ」ってなんですか?

 

20世紀の生物学史上、最大の発見と言われるDNAの二重らせん構造モデル。

1953年に、ワトソンとクリックによってこのモデルが提唱される以前は、まだDNAが遺伝子の本体であるということは明らかではありませんでした。

驚くことに、タンパク質こそが遺伝子だと考える研究者の方が多く、ワトソンとクリックのように、DNAが遺伝子だと見ていた研究者の方がむしろ少数派でした。

 

その後、クリックは、遺伝暗号であるDNAの塩基配列の謎を次々と解明していきました。

それらの研究を重ねる中で、彼にはある確信が芽生えていたのです。

生命現象の中心的な教義とも言える絶対法則です。

 

DNAにはタンパク質のアミノ酸配列の情報が、4種類の塩基の並びの組み合わせで記録されています。

酵素がその配列を読み取り、一旦、DNAの配列をRNA、正確にはメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取ります。

mRNAの配列は、正確にDNAの配列情報を写し取っています。

このmRNAの配列が更に読み取られて、タンパク質が作られます。

 

「DNA ⇒ mRNA ⇒ タンパク質」

1958年、フランシス・クリックは、この流れは絶対的な「中心教義(セントラル・ドグマ)」であると提唱しました。

この逆はあり得ないと!

多くの研究者がこの考えを受け入れました。

まぁ、偉大なクリックの言うことでもあるし。。。彼と面と向かって議論するのはしちめんど臭いし。。。(笑)

 

③    「逆があった!」

 

ラウス肉腫ウイルスはRNAウイルスです。

RNAウイルスが細胞に感染した後、どのように振る舞うのかというと、セントラル・ドグマに従えば、ウイルスのRNAから直接タンパク質が読み取られることになります。

 

RNAはDNAに比べると、細胞内ではずっと不安定です。

そして、がんウイルスが感染したからと言って、細胞がガン化するには、それなりの時間が必要です。

そんな長い間、ウイルスのRNAが細胞内で安定して活動を続けられるというのは、少し不自然なようにも思えます。

 

「ウイルスのRNAからDNAができていると考える方が自然じゃないのか?」

テミンは1964年頃から、そのようなことを考えていたようです。

しかし、そんなこと、うかつに大っぴらには言えません。

今度は自分が「道化師」になってしまいます。

 

1970年、テミンは日本人研究者・水谷哲とともに、ラウス肉腫ウイルスがもつ、常識はずれの酵素を発見します。

DNAからmRNAが写し取られることを「転写」と言いますが、なんと、テミンと水谷はウイルスのRNAから塩基配列を写し取ってDNAに逆に転写する酵素を発見したのです。

 

Dr. Howard Martin Temin(1934年 12月10日 - 1994年 2月9日)

 

テミンの洞察力は正しかったのですね。

賢明にも彼は、道化にならずに済みました。

 

こうして「セントラル・ドグマ」は崩れました!

生物学の教科書を書き換えなければなりません。

しかし、偉大な、あの「フランシス・クリックが間違っていた」と書き直さなければならないのですから、教科書の編集者には気の重かったことでしょう(笑)

 

そんな話はいいとして、この「逆転写酵素を利用することにより、不安定で扱いにくいRNAを安定なDNAに転換できるようになりました。

この逆転写の技術によって、その後のRNA研究は飛躍的に進歩することになったのです。

特に、RNAウイルスであるHIVC型肝炎ウイルスの研究に、この逆転写酵素は多大な貢献をしたのです。

私も逆転写酵素さまには大変お世話になりました(笑)

テミン先生、ありがとうございます😊

 

1975年、テミンは「逆転写酵素発見」の業績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞します。

因みに、ほとんどの実験を行ったのは水谷でしたが、彼は受賞を逃しました。

やはり、大事なのは、固定観念にとらわれない着想なのですね。

 

④     がん原遺伝子の発見

 

史上初めて発見されたがん遺伝子、ラウス肉腫ウイルスのsrc遺伝子。

Srcタンパク質の構造

 

1979年、前編でも触れた米国のジョン・マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスは、ニワトリのゲノム、すなわち、ニワトリ自身の細胞の中に、このsrc遺伝子の配列に非常によく似たものを見つけました。

なんで、細胞のゲノムにウイルスのがん遺伝子が存在するのか?

 

そうなると当然、「じゃあ、ヒトはどうなのか?」となります。

果たして、我々ヒトの細胞にもsrcによく似た配列の遺伝子が見つかったのです。

 

ウイルスのがん遺伝子に酷似した遺伝子!

なんでこんな危険なもんを我々は持ってなあかんのんや!?

当然の疑問です。

 

じゃあ、他の動物ではどうなのか?

調べてみると、出るわ出るわ!

脊椎動物から無脊椎動物に至るまで、ほとんどの動物が、当たり前のように、元からsrcを持っているじゃぁあ~りませんか!!

 

そして、この遺伝子が変異を起こすと、ラウス肉腫ウイルスのsrcのような発がん性を獲得するのだということが分かりました。

元々は細胞の増殖制御に重要な働きをしているのですが、一旦故障するとがん遺伝子となり、暴走を始める。

がん遺伝子の原型遺伝子ということで、我々の細胞が持つがん遺伝子に似たものは「がん原遺伝子」と呼ばれるようになったのです。

命名したのはビショップでした。

 

こういう訳で、src遺伝子は動物界に広く存在するありふれた遺伝子だったのです。

そして、かつてウイルスが宿主細胞からこの遺伝子を獲得して、独自の進化を果たした結果、がんウイルスになったのだということも分かりました。

これを証明したのは日本人研究者の花房秀三郎です。

 

つまり、がんウイルスなるものを生み出したのは、他ならぬ私たち自身だということです。

 

1989年、「ウイルスのがん遺伝子は細胞由来である」ことの発見で、ビショップとヴァーマスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

花房は受賞を逃しましたが、大きな貢献をしました。

 

⑤     偉大な科学の進歩には「源流」がある

 

ラウス肉腫ウイルスにまつわる、これら偉大な業績の数々。

ラウスの人並み外れた洞察力にその源流があります。

 

近年ではiPS細胞。

誰からも「そんなことできる訳がない」と言われ、研究費の獲得に相当の苦労をされたと言いますが、山中先生の執念が実り、現在、医療への実用化に向けた努力が山中先生ご自身をはじめ、世界中の研究者によって進められています。

 

山中先生の着想を源流としたこの偉大な流れが、どういう成果を生み出すのか?

見守っていきたいと思います。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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041【がん遺伝子発見物語(前編)「50年早すぎた男」】がん(その7)

細胞増殖の制御に重要な働きをする「がん原遺伝子」

私たちが生きる上で無くてはならない重要な遺伝子です。

でも、これは変異を起こすことでガンを引き起こす「がん遺伝子」に豹変します。

がん原遺伝子は、私たちの細胞にとって、いわば、両刃の剣と言えます。

 

このがん遺伝子とがん原遺伝子の発見には、非常にドラマチックなストーリーがあり、私は色々と考えさせてくれるこの真実の物語が大好きなのです。

皆さんにも共感して頂けるかどうかは分からないのですが、今回と次回の2回に分けて、がん遺伝子発見物語語り部をさせて頂きます。

 

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天才的な才能よりも、常人にないような鋭い洞察力と直感力を持った人が偉大な発見・発明をすることが多いようです。

中には、あまりにも洞察力に優れ、あまりにも時代を先取りし過ぎていたがために、人から理解されず、評価されないばかりか、世の中の笑いものになった人すらいます。

 

ドイツ人のヴェーゲナーという気象学者。

ある時、世界地図を見ていて、北アメリカ大陸ヨーロッパ大陸南アメリカ大陸とアフリカ大陸とがジグソーパズルのピースのようにピッタリつながることに気が付きました。

1912年、よせばいいのに、彼はドイツの地質学会で「大陸移動説」を発表します。

これが、時代の先を行き過ぎた彼の悲劇の始まりです。

 

彼の優れた洞察力と直感に基づいたこの説には、ほとんど科学的根拠がありませんでした。

陸地の形が合うという状況証拠だけでは、大陸同士がつながっていたという証明にはなりません。

だいたい、これだけ大陸を移動させた、とてつもなく巨大なエネルギーの源について説明できる人なんて、当時は誰もいませんでした。

 

彼は、自分の説の正しさを証明しようと、残りの人生をかけて調査・研究に打ち込みました。

そんな彼を、人は変人扱いし、笑っていました。

 

1930年、ヴェーゲナーは地質調査先のグリーンランドで、50歳の若さで失意のうちに亡くなりました。

恐らく過労による心臓発作であったろうとウィキには書かれています。

 

当時、人類はまだ、彼の説を証明するだけの知識も科学技術も持ち合わせていませんでした。

しかし今では、この「大陸移動説」を疑う人は誰もいません。

 

何の話でしたっけ??

あぁ、がん遺伝子でしたね。

 

20世紀の中頃まで、ほとんどの人がガンと遺伝子との間に関係があるなんて、思いもしていませんでした。

今では、ガンが遺伝子の変異や異常によって引き起こされる病気であることは明白です。

ウイルスによってもガンになります。

このことに初めて気が付いたのは誰で、いつのことなのでしょう?

 

米国の病理学者のフランシス・ペイトン・ラウスという人。

彼はニワトリのガンについて研究していました。

ニワトリのサルコーマ(肉腫;筋肉や骨にできるガンです)の細胞の抽出液を別のニワトリに接種すると、やはりサルコーマになることを見出したのです。

その細胞の抽出液を素焼きの陶器で濾過してもガンになります。

ということは、ガンを引き起こすのは、陶器を通り抜けることのできる、細菌よりも小さなもの、ということになります。

 

1911年、奇しくもヴェーゲナーの「大陸移動説」発表の前年、ラウスは「ウイルス発がん説」を発表します。

ところがギッチョン、彼もまた世界中の研究者のもの笑いになってしまいました。

「ウイルスでガンやて? おまえはアホか!?」

しかし、ラウス先生は、腐ることなく病理学の分野で研究活動を続け、色々と大きな業績を上げられました。

 

「フランシス ラウス 画像」の画像検索結果

Francis Peyton Rous (1879-1970)

 

時は流れて1958年、米国のハワード・マーティン・テミン(1975年ノーベル生理学・医学賞受賞)という遺伝学者が、このウイルスが試験管内でニワトリの胎児の細胞をガン化することを発見しました。

「発見」というより、ラウスの発見の「再発見」というべきですね。

 

しかし、この時点ではウイルスのどういう働きによって宿主の細胞がガン化するのかまでは解明されていません。

そこで、多くの研究者が、このウイルスの遺伝子の機能解析の研究に殺到しました。

そして遂に、ニワトリの細胞をガン化する働きを持つウイルスの遺伝子が特定されたのです。

これが世界初の「がん遺伝子」の発見です。

ちなみに、初のがん遺伝子を発見したのは、後編で詳しく述べる米国のビショップとヴァーマスです。

 

皆から嘲笑を買い、忘れ去られていた「ウイルス発がん説」ですが、50年もの時を経て、こうして正しいことが証明されたのです。

 

このウイルスのがん遺伝子、ニワトリにサルコーマ(sarcoma)を発生させる遺伝子ということで、src(「サーク」と読みます)遺伝子と名付けられました。

 

また、これまで半世紀もの長きにわたって名無しの権兵衛だったこのウイルス。

生命科学に偉大な進歩をもたらしたウイルスが、このまま権兵衛という訳にはいきません。

このウイルス、50年も先を見通していた偉大な科学者に最大の敬意を表し、晴れて「ラウス肉腫ウイルス」命名されたのです。

 

1966年、ラウスはノーベル生理学・医学賞を受賞します。

87歳での受賞は、当時の最高齢記録です。

受賞対象の研究発表から55年というのは、現在でも最長記録です。

 

ラウスは、ノーベル賞受賞の4年後、1970年に亡くなっています。

ヴェーゲナーと違い、存命中にノーベル賞という科学者にとって最高の栄誉をもって賞賛されたラウス。

 

正しい仕事は必ず評価される。

ラウス先生は、なんか失敗したり、落ち込むことがあっても、己を信じることの大切さ教えてくれているように思えるのです。

 

次回予告:

ラウスの偉大な発見は、多くのノーベル賞受賞者を「芋づる式」に生み出しました。

ラウス肉腫ウイルスがニワトリ細胞をガン化させることを再発見したテミン。後年、彼はさらに、このRNAウイルスが、それまでの生物学の常識では考えられないような遺伝子を持っていることを発見します。

そしていよいよ、私たち自身の細胞の中に在る両刃の剣、「がん原遺伝子」の発見に至ります。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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是非、お読みになったご感想やご意見、ご批判をコメントでお寄せ下さい。

大変励みになります。

 

 

039【がん細胞特異的に働く「分子標的薬」とは?】「がん(その5)」

目次:

① 抗がん剤は本来「毒」!

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってあるの?

③ 分子標的薬の具体例

④ 分子標的薬の最大の問題点

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

※ 筆者注:一般的に分子標的薬は、がん治療において、がん細胞の分子を標的にしたものを指すことが多いようです。しかし、がん以外の疾患、がん細胞以外の分子を標的にしたものも、分子標的薬に含めることもあります。本ブログ記事では、後者の立場にて書かせていただきます。

 

 

がんシリーズに戻らせて頂きます。第5弾です。

 

大幅に追記いたしました。オレンジ色の部分がそうです(2017.06.05)

 

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① 抗がん剤は本来「毒」!

 

ほとんどの医薬品には副作用があります。

薬に本来期待する作用を「主作用」、期待しない作用を「副作用」と言います。

 

薬については、主作用が現れる濃度が低くて、副作用が現れる濃度がそれよりもずっと高い場合は都合がいいです。

ところが、主作用と副作用の現れる濃度が近いと、これは問題です。

期待する効果を得るには、ある程度の副作用のリスクも覚悟しないといけないことになります。

そのような代表が抗がん剤でしょう。

 

抗がん剤に期待する主作用としては、当然、がん細胞を殺すことでしょう。

でも、多くの抗がん剤が、正常細胞をも殺す副作用が出て、患者さんはつらい思いをするのです。

 

なぜ抗がん剤には副作用の出るものが多いのか?

それは、抗がん剤が「抗がん」と言いながら、正常細胞をも殺す「毒」からです。

多くの抗がん剤は、増殖の盛んな細胞を殺すものであり、がん細胞だけを選んで殺す薬ではないということです。

つまり、「がん細胞特異的」ではありません

抗がん剤は、正常細胞の中でも増殖の盛んな毛根や小腸の上皮細胞、骨髄細胞なども殺します。

それで、脱毛や吐き気・下痢、骨髄抑制(白血球が減ります)などの副作用が現れるのです。

 

② 「がん細胞特異的」な治療薬ってないの?

 

あります! 「分子標的薬」というのがそれです。

 

がんになる仕組みは、今ではかなり詳しく分かっています。

がん細胞では、色々な遺伝子の変異によって、タンパク質の働きが異常になり、細胞増殖の制御が破たんしています。

ですから、どのような遺伝子、どのようなタンパク質に異常があるのかを調べることによって、そのがん細胞の特徴を見つけ出すことができます

特徴が見つかれば、そこを特異的に攻撃するのです

これが「分子標的薬」の考え方です

 

いわば、従来の抗がん剤が、むやみに爆弾を投下するじゅうたん爆撃であるのに対して、分子標的薬は、ターゲットにロックオンしてピンポイント攻撃する「ミサイル療法」と例えられます。

 

これだと、理論的には正常細胞には影響が出ないはずです。

実際には、まったく副作用がないわけではありませんが、がんの性質や患者の体質によっては、非常に高い効果を上げることができます。

 

「がん 分子標的薬 画像」の画像検索結果

 

③ 分子標的薬の具体例

 

分子標的薬には、特定の分子(ほとんどの場合、タンパク質)に結合することで、その分子の働きを阻害するものが多いです。

分子標的薬には、特定の分子と特異的に結合する能力が必要ですが、「特異的な結合」というと、本ブログを熱心にお読み頂いている読者の方でしたら、何かを思いつくに違いありません。

そう、「抗体」です。

分子標的薬には、抗体を利用した「抗体医薬」が多いですね。

 

我々人類は、遺伝子工学と細胞工学の技術により、望みのタンパク質を大量に作り出す能力を得ました。

抗体というのは、B細胞という免疫細胞が作り出すタンパク質です。

ですから、B細胞から所望の抗体の遺伝子を取り出し、別の細胞に組み込みます。

 

さらに、人為的に遺伝子改変を加えて、自然界には存在しないような、自然の性能をさらに高めたり、性質を修正したタンパク質を作り出すこともできます。

 

でかいタンクで、抗体遺伝子を組み込んだ動物細胞(チャイニーズ・ハムスターというネズミの一種の卵巣細胞が使われることが多いです)を高密度で培養します。

細胞は、培養液中にたくさんの抗体を放出するので、その培養液から抗体を高純度に精製して抗体医薬は作られます。

 

Chinese Hamster.jpg

チャイニーズ・ハムスター 

 

例えば、「上皮成長因子受容体」(EGFR)というタンパク質は、細胞の増殖を盛んにする働きがありますが、大腸がんや非小細胞肺がんなど、様々ながんの細胞で、このタンパク質が過剰に作られています。

これは、本ブログ【034】でお話した、細胞増殖を調節する「アクセル」が目いっぱい踏み込まれた状態ですね。

034【どのようにして細胞に遺伝子の異常が蓄積するのか?】がん(その2) - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

これでは細胞が過剰に増殖するのも頷けますね。

では、この過剰なEGFRの働きを抑えてやれば、がん細胞の増殖を止められるのではないか?

こんな発想から、EGFRに結合して、その働きを阻害する抗体医薬品が開発されました。

(特定の製薬会社の製品を宣伝したくはないのですが)具体的な例を挙げると、アービタックスとかがあります。

 

他には、ある種の白血病でよくみられる染色体の異常により、Bcr-Ablという完全に異常な遺伝子が出現することがあります。

Bcr-Ablは細胞増殖のアクセルを加速させます。

抗体医薬ではありませんが、この遺伝子の働きを阻害することでがん細胞を殺すグリベックというのがあります。

Bcr-Ablは正常細胞には存在しないので、がん細胞特異的な作用が期待できます。

 

他にもたくさんのがんに対する分子標的薬が実用化されていますが、あまりに多すぎて、正直、私も覚えきれません(笑)

 

④ 分子標的薬の最大の問題点

 

分子標的薬の最大の問題点は、一部の特定のガンにしか効果がないということです。

アービタックスは、EGFRが過剰に発現している種類のガンにしか効果が期待できませんし(あらかじめ、がん細胞におけるEGFRの発現量を検査します)、グリベックは、フィラデルフィア染色体をもつ白血病にしか効きません(他の一部のがん種にも適用になっていますが、限定的です)。

 

理想的には、全てのガンに共通した特徴を見つけ出し、そこをピンポイント攻撃するような抗体医薬ができればいいのですが、残念ながら、それは実現されていませんし、今後も、非常にハードルの高い課題であると思われます。

 

やはり抗体医薬品であり、免疫細胞のブレーキペダルである「PD-1」を標的とした「免疫チェックポイント阻害剤」は、人間本来の免疫力を引き出すことでガンをやっつけるものです。(以下の過去ブログご参照)

021【免疫力の本来のパワー(その3)】「免疫力だけで末期ガンから生還できる!!」 - Dr.やまけんの【いつまでも健康に過ごすために大切なこと】

 

免疫力を増強すれば、どんな人にでも、どんな種類のガンにでも効果が期待できそうに思います。

しかし、実際には、同じような病態のがん患者に見えても、効く人と効かない人がいますし、効きやすい癌種(メラノーマ、肺がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫など)もあれば、効きにくい癌種(すい臓がん、前立腺がん、大腸がんなど)もあります。

このような分子標的薬の効きやすさ、効きにくさを事前に見分けることが、今後の重要な課題であり、現在、それに向けた研究が精力的に行われています。

 

⑤ 抗体医薬の未来と国民医療費

 

抗体医薬などの分子標的薬は、がん以外でも、関節リウマチなどの自己免疫疾患で効果を上げています。。

リウマチの強い炎症反応の原因である炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の働きを抑える抗体医薬品が多く実用化されています。

 

分子標的薬は、病気発症の分子レベルでのメカニズムの理解が進んだことから実現した、新しい概念に基づく治療薬であり、今後、より病気に特異的で効果の高いものが次々と開発されるでしょう。

 

画期的ながん免疫療法薬、「免疫チェックポイント阻害剤」も抗体医薬ですが、この薬、な、なんと、一人分で2000万円とも3000万ともかかると言われています。

高額療養費制度(私は法律や制度には詳しくありませんので、詳しくは触れません)が改正されたとは言え、国民医療費高騰への影響はどうなるのでしょうか?

 

今後、抗体医薬をはじめ、タンパク質でできた新規な生物製剤が次々に登場することでしょう。

それによって多くの患者さんが救われるようになるのでしょうけれども、それが本当に良いことなのか?

「高度高齢化による高齢患者の増加⇒高額な先端医療技術の登場⇒国民医療費の継続的な増加⇒医療経済の破たんという悪い流れを加速させるのではないかと懸念されます。

 

そう考えると、ここでやはり同じ結論に立ち返るのです。

出来ることなら、「病気にならずに歳を重ねたい」と。。。

 

 

今回も最後までお読み頂き、ありがとう御座います。

 

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